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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――ヂヒギ村の惨劇(閉鎖された村)――
103/279

霧立つ森に閉ざされた村①

<初見殺しかよ!>


 盗賊に教えられてリアの森を北に進んでいた。村へ続く山道を見つけて、それを辿って森の奥へ進む。

 途中まで順調だった。



「はぁ……困ったな」


 あたしは困惑して立ち止まった。

 正確に言えば、立ち止まった頃には、時すでに遅かった。


「こんな展開、予想も出来ない」


 周囲を見渡すが、どす黒い赤紫の霧が視界を遮り、全く確認できない。


 数秒前は真っ青な青空が広がって、森林浴を楽しめるほど穏やかな気候だったのに、あっという間に環境が激変(げきへん)した。

 足元には真緑の棘が地面を覆い、美しい鮮血色の花束が木々を浸食(しんしょく)して咲き乱れ、赤紫色の霧を放出している。


 額に熱を感じる。


 「ケフン」と咳をして周囲を警戒するが、強い気配はないから魔王はいないようだ。

 幸運なような、不幸のような。

 額の熱は霧に反応しているから、これは災いだ。

 ってことは。魔王を倒さない限り、この霧はどうにもできないってことだ。


 敵がいない事を確認し終わると、あたしはすぐにリヒトへ駆けよった。彼は数メートル後ろを歩いていたが。


「やっぱり」


 予想通り、彼は倒れている。


「ますますマズイ」


 さて、どうしたものかと思いつつ、状況を整理するため少し記憶を遡る。






 時刻は夕暮れ前、異変は突然現れた。


 何の変哲(へんてつ)もなかった森に、刺々(とげとげ)しい蔓がビックウェーブのように前方から伸びて地面と木々を覆った。伸び終わり停止した蔓に(ふく)れたこぶし大の(つぼみ)(すず)なりに顔を出すと、パッと鮮血色の花を咲かせる。

 

 マーガレットに似ている花が咲いた途端、自分の体が鮮血に染まったような錯覚に陥った。

 吃驚する間もなく、赤紫の霧が吹きだされ視界が染まった。

 それと同時に、後ろでドサリと誰かが倒れる音がした。


 あたし達に落ち度はない。

 避けられないタイプの初見殺し。そう、これは罠だ。

 この霧に強力な毒が含まれている。

 リヒトのように一呼吸で意識混濁(いしきこんだく)(おちい)るほど。

 霧に迷い込んだ生き物は自らの状態を把握することなく、あの世へ旅立つだろう。





 はあ。とため息が出る。

 あたしは毒に耐性を持っているので、この環境下でも生命活動に支障はでないが、リヒトはそうはいかない。

 彼の状態を確認するため、うつ伏せから仰向けにする。


「ぜえ。はぁ、はぁ」


 彼は必死で呼吸をしながら呻いていた。

 呼吸器系が麻痺(まひ)し始めているのか、胸を()きむしるように手が服を握り締め、握りすぎて硬直している。

 顔色も徐々に悪くなってきて……あと数分で息が止まりそうだ。


「非常にマズイ。解毒剤を吟味(ぎんみ)する時間もないぞ」


 数秒観察していただけで、(またたく)()に容体が悪化した。

 もう呼吸が浅く細かくなっており、手と足、体が痙攣(けいれん)を起こし始めていた。

 顔は血の気を失い始め脂汗をかいている。目は虚ろで半分閉じられ、打ち上げられた深海魚ように空虚(くうきょ)に口をぱくつかせていた。


「神経毒かな?」


 神経系の毒素が霧となって鼻腔(びくう)口腔(こうくう)から入る。すぐに脳へと到達し、呼吸器系の運動機能を全て麻痺させて死に至る。


 という推測(すいそく)をたててみたものの、手持ちの解毒剤で丁度いい物はない。

 作ればあるのだが、悠長(ゆうちょう)に解毒剤を作っている暇はない。


「そもそもこれ、ただの毒じゃない」


 一度魚でくらったので感覚で理解できる。

 この毒は魔王の呪詛だ。通常の毒消しが効くような気がしない。

 解毒剤がない、また、それを作る時間がない。

 呪詛を解除しようにも周囲に魔王がいない。

 もう手立てがない。

 

 通常ならば、だけど。


「うーん」


 首を唸る事、二秒。


「よし。やるか」


 こうなれば奥の手だ。


 あたしは新品のナイフと血止めを取り出して、自分の手の平を切った。傷口からじわじわと血が出てくる。

 次にリヒトの腕の一番太い血管を薄く切った。彼の腕から血が滴り落ちる。


「あ。ちょっと切りすぎたかも? ま、いっか」


 緊急時だから細かいことを気にしない。

 リヒトの腕の傷に合わせるように手の平の傷を押しあて、あたしの血液を彼の血に混ぜるようにする。この手法、前に親父殿にやったことあるので効果は立証済みだ。


 注射針ないしなー。

 専用の機械もないしなー。

 これしかやり様がないんだよなー。


「まぁ、いーや。きっと命が助かるほうがマシ」


 しばしそのままじっとする。


 霧を吸った時点であたしの体内で解毒剤が作られる。

 本来ならば血を抜いて血清(けっせい)を作ってもらうんだけど、こうやって血液を混ぜることでも無毒化できる。

 唯一の心配事は、毒の中でも無毒化できるのか? ってことだ。


 解毒が追いつかず毒のダメージが蓄積(ちくせき)されれば、重要臓器(じゅうようぞうき)に致命的なダメージを負ってしまい結局、多臓器不全(たぞうきふぜん)を起こして助からない。


 この方法は毒を負ってすぐに処置するか。臓器にまだ致命的ダメージを負う前なら、解毒の効果がある。

 呼吸が止まる前に処置したから、多分、大丈夫だと思うけど。

 少しドキドキしながらリヒトの容体(ようだい)を伺う。


「スー、はー」


 数分後、リヒトが大きく深呼吸をした。顔色がよくなり呼吸も整っている。

 脈を確認すると正常の範囲内に収まっているので、ほっと胸をなでおろした。


「ふう。なんとか危機は脱したな」


 今、リヒトは意識を失っている。脳や内臓にダメージが及んでないことを祈ろう。


 あたしは止血剤を彼の腕に塗って包帯で固定すると、自分の手にも塗っておく。


「それにしても、効くのが早い。数分で死の危機を脱したぞ」


 半日は生死の境を彷徨うと思っていたからちょっと吃驚だ。

 案外、彼は回復力が高いらしい。


評価とブクマ有難うございました!これからも頑張ります!!

次回更新は木曜日です。

面白かったらまた読みに来て下さい。


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