迷子らの盗賊捻り⑤
「……」
その様子を無言で眺める。
彼の動きにも慣れたから喧嘩も減ったな。と自分を褒めながら、あたしは盗賊が埋まった場所へ駆け寄り耳を澄ませる。何も聞こえない。
「なんか気の毒だな」
「あんな奴ら、生きててもしょうがないだろ? 死ねばいい」
リヒトから冷たい声色がきた。
「いや、それは。うーん……」
攻撃を仕掛けられただけで実害はまだなかったし、ちょっとやりすぎって思うから、助けるか。
「しょうがない」
あたしは立ち上がり、威力を抑えるために右手の小手を外して足を肩幅に開いた。膝を軽く曲げて腕を引き締める。手加減のレベルをどのくらいにするか、勘に頼ろう。
「雷神の咆哮!」
右手を地面に振り降ろす。
ドォン!
地響きをならせて地面がうず高く盛り上がる。
直径二メートル、高さ一メートルほど盛り上がったところで止まった。地面がもこもこと浮き上がってきた中に、盗賊の手足が見えた。運が悪かったら今の衝撃に巻き込まれて死んでるが、そんなことは知らない。
一応、地面から体を出してやろう。
「よいしょっと!」
土を取り除いて引っこ抜いたら盗賊二人を回収できた。目を回して気絶しているが、呼吸をしているので生きている。
運がよかったみたいだな。
リヒトは冷ややかにあたしの行動を眺めている。盗賊を寝かせたところで、背後から盛大なため息が聞こえた。
「常々思うが。お前、化け物だろ」
小手を装着してから振り返ると、リヒトが呆れかえった様に腕を組んでいた。
あたしは苦笑いを浮かべながら言い返す。
「んなわけあるか。この程度の威力で化け物なんて呼べるわけがない」
「まじかよ」
「親父殿と母殿はもっとすごい」
きっぱり言った後、一呼吸おいてから言葉を続ける。
「実は、あたしはまだ闘気術を極めていない。里では親父殿をどつく時に必要なので、常に練ってたけど。外に出てからは妖獣や魔王戦以外は止めている。正直なところ、修行不足で基礎からもう一度やりたいくらいだ」
リヒトは苦笑いを浮かべた。
「ルゥファスさん達。二つ名が沢山ありそうだ」
「そうだね。歩く破壊神とか呼ばれたこともあるそうだし、母殿も殺戮の母神とか呼ばれていたらしい」
「嫌な夫婦だな」
「同意見だ」
「だから子供はこんな化け物になったか」
「失敬な、あたしは普通だ」
「どうだか」
軽口を叩いていると、ケホ、ケホ。と土から掘り起こした盗賊が咳き込んだ。
どうやら意識が回復したらしい。
気を失っている間に去ろうと思ったのに、雑談する前に去ればよかった。
盗賊はだるそうに起き上がり頭をあげると、あたし達と目が合い、怯えて後ずさった。
「ヒッ! 俺が悪かった! 勘弁してくれ!」
すっかり牙を抜かれている。
まぁ生埋めにされて、それでも戦闘意欲が続行する強者はなかなかいない。
盗賊が土下座するように丸まったので、折角助けた命だし、放っておくことにした。
「襲わないなら何もしない」
「ほんとうか?」
頷くと、盗賊はホッとした様に表情を緩ませたが、あたしが「あ、そうだ」と声を発すると、悲しみの表情に一変した。全く、何を勘違いしているのやら。
「ヂヒギ村って知ってる?」
「ヂヒギ村!?」
「道を探しているが、中々見当たらなくて」
男性が恐怖で顔が青ざめていき、顔面筋が引きつった。
「あそこは止めた方がいい! 行ったら死ぬ!」
「何故だ?」
無関心だったリヒトが会話に参加した。
盗賊はリヒトを一瞥してすぐにブルブルと震え視線をそらす。土に埋まった原因が彼だと理解しているようだ。
問いかけないと命はないと思ったのか、すぐに言葉を続ける。
「正直、どうして仲間が死んだのか分からない。村に行く途中の道で、先に行った仲間を見つけた時にはすでに事切れていた。外傷はなくて、窒息死のような感じだった」
「それで?」
「また一人、様子を見に行かせた。遅いから迎えに行ったら、やはり途中の道で死んでて。それが立て続けに二回」
盗賊はぐっと拳を握りしめる。
「あの道、いや森には何かがある。きっと災いが起こっている。そうに違いないと思って、引き返していた際に……」
「あたし達を見つけたと」
あたしが声をかけると、盗賊は小さく「はい」と返事をした。
「そっか。でもまぁ、用があるから道を教えてほしい」
「嘘じゃない本当に」
「分かってる」
あたしがキッパリ言うと、盗賊は少し迷った素振りを見せるも道を教えてくれた。
やっぱり妖獣に惑わされただけで、地図は正しかったみたいだ。
「そうか。ありがとう」
あたしが礼を言うと盗賊は勢いよく土下座をした。
「俺達の方こそすまなかった!」
「お互い運がよかったな。命は大事にしろよ」
あたしは淡白な反応を返して、既に歩いているリヒトの後を追うためその場を後にする。
盗賊は土下座をしたままあたし達を見送っていたが、動く気配を感じたので念のために振り返ると。
「ああ。あっちも目覚めたか」
倒れていたもう一人の盗賊が目を覚まして、二人の盗賊はお互い抱き合って喜んでいた。
これ以上は、木々に遮られてわからなかった。
あたしはもう一度空を見る。妖獣もいないようだ。風に乗って遠くへ行ってあたし達を見失ったか。盗賊にターゲットを変えたか、だろうな。
「盗賊の情報。嘘かホントか、どっちだろうな」
「嘘は言っていなかった。正しい道も死人の話も本当だろう」
リヒトが断言したので納得する。
「そっか。あんたが言うのなら、あいつの証言は正しいんだろうな」
するとリヒトはピタリと足を止めて振り返る。気に入らなさそうに顰め面をしていた。
「やけに俺を信用してるじゃないか」
「当然だろう。期間は短いが四六時中共に行動している。あんたに対して、それなりに信用出来るようになるさ」
リヒトは半眼であたしを眺めて、嫌そうに顔をしかめた。
「気持ち悪い」
「ここであんたが笑顔でも浮かべたら、背筋が凍る」
お互い本気で嫌悪感を出して距離を取る。
そのまま無言で歩き始めた。
こうやって悪態をついていても、リヒトも心のどこかであたしの事を信用している。
と、うっすら感じてしまうのは何故だろうか。
些細な理由をつけて文句を言いながらも、お互いを尊重できる部分はあって。彼と一緒に旅が出来るのは、何故かちょっとだけ嬉しいと思ってしまう。
絶対に口に出して言わないけどさ。
次回は新しい村へ行くために奮闘します。
木曜日更新です。
面白かったらまた読みに来て下さい。




