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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――不運というお遊び――
102/279

迷子らの盗賊捻り⑤


「……」


 その様子を無言で眺める。


 彼の動きにも慣れたから喧嘩も減ったな。と自分を褒めながら、あたしは盗賊が埋まった場所へ駆け寄り耳を澄ませる。何も聞こえない。


「なんか気の毒だな」


「あんな奴ら、生きててもしょうがないだろ? 死ねばいい」


 リヒトから冷たい声色がきた。


「いや、それは。うーん……」


 攻撃を仕掛けられただけで実害はまだなかったし、ちょっとやりすぎって思うから、助けるか。


「しょうがない」


 あたしは立ち上がり、威力を抑えるために右手の小手を外して足を肩幅に開いた。膝を軽く曲げて腕を引き締める。手加減のレベルをどのくらいにするか、勘に頼ろう。


「雷神の咆哮!」


 右手を地面に振り降ろす。


 ドォン!


 地響きをならせて地面がうず高く盛り上がる。

 直径二メートル、高さ一メートルほど盛り上がったところで止まった。地面がもこもこと浮き上がってきた中に、盗賊の手足が見えた。運が悪かったら今の衝撃に巻き込まれて死んでるが、そんなことは知らない。

 一応、地面から体を出してやろう。


「よいしょっと!」


 土を取り除いて引っこ抜いたら盗賊二人を回収できた。目を回して気絶しているが、呼吸をしているので生きている。


 運がよかったみたいだな。


 リヒトは冷ややかにあたしの行動を眺めている。盗賊を寝かせたところで、背後から盛大なため息が聞こえた。


「常々思うが。お前、化け物だろ」


 小手を装着してから振り返ると、リヒトが呆れかえった様に腕を組んでいた。

 あたしは苦笑いを浮かべながら言い返す。


「んなわけあるか。この程度の威力で化け物なんて呼べるわけがない」


「まじかよ」


「親父殿と母殿はもっとすごい」


 きっぱり言った後、一呼吸おいてから言葉を続ける。


「実は、あたしはまだ闘気術を極めていない。里では親父殿をどつく時に必要なので、常に練ってたけど。外に出てからは妖獣や魔王戦以外は止めている。正直なところ、修行不足で基礎からもう一度やりたいくらいだ」


 リヒトは苦笑いを浮かべた。


「ルゥファスさん達。二つ名が沢山ありそうだ」


「そうだね。歩く破壊神とか呼ばれたこともあるそうだし、母殿も殺戮の母神とか呼ばれていたらしい」


「嫌な夫婦だな」


「同意見だ」


「だから子供はこんな化け物になったか」


「失敬な、あたしは普通だ」


「どうだか」


 軽口を叩いていると、ケホ、ケホ。と土から掘り起こした盗賊が咳き込んだ。

 どうやら意識が回復したらしい。

 気を失っている間に去ろうと思ったのに、雑談する前に去ればよかった。


 盗賊はだるそうに起き上がり頭をあげると、あたし達と目が合い、怯えて後ずさった。


「ヒッ! 俺が悪かった! 勘弁してくれ!」


 すっかり牙を抜かれている。

 まぁ生埋めにされて、それでも戦闘意欲が続行する強者はなかなかいない。


 盗賊が土下座するように丸まったので、折角助けた命だし、放っておくことにした。


「襲わないなら何もしない」


「ほんとうか?」


 頷くと、盗賊はホッとした様に表情を緩ませたが、あたしが「あ、そうだ」と声を発すると、悲しみの表情に一変した。全く、何を勘違いしているのやら。


「ヂヒギ村って知ってる?」


「ヂヒギ村!?」


「道を探しているが、中々見当たらなくて」


 男性が恐怖で顔が青ざめていき、顔面筋が引きつった。


「あそこは止めた方がいい! 行ったら死ぬ!」


「何故だ?」


 無関心だったリヒトが会話に参加した。

 盗賊はリヒトを一瞥してすぐにブルブルと震え視線をそらす。土に埋まった原因が彼だと理解しているようだ。

 問いかけないと命はないと思ったのか、すぐに言葉を続ける。


「正直、どうして仲間が死んだのか分からない。村に行く途中の道で、先に行った仲間を見つけた時にはすでに事切れていた。外傷はなくて、窒息死のような感じだった」


「それで?」


「また一人、様子を見に行かせた。遅いから迎えに行ったら、やはり途中の道で死んでて。それが立て続けに二回」


 盗賊はぐっと拳を握りしめる。


「あの道、いや森には何かがある。きっと災いが起こっている。そうに違いないと思って、引き返していた際に……」


「あたし達を見つけたと」


 あたしが声をかけると、盗賊は小さく「はい」と返事をした。


「そっか。でもまぁ、用があるから道を教えてほしい」


「嘘じゃない本当に」


「分かってる」


 あたしがキッパリ言うと、盗賊は少し迷った素振りを見せるも道を教えてくれた。

 やっぱり妖獣に惑わされただけで、地図は正しかったみたいだ。


「そうか。ありがとう」


 あたしが礼を言うと盗賊は勢いよく土下座をした。


「俺達の方こそすまなかった!」


「お互い運がよかったな。命は大事にしろよ」


 あたしは淡白な反応を返して、既に歩いているリヒトの後を追うためその場を後にする。

 盗賊は土下座をしたままあたし達を見送っていたが、動く気配を感じたので念のために振り返ると。


「ああ。あっちも目覚めたか」


 倒れていたもう一人の盗賊が目を覚まして、二人の盗賊はお互い抱き合って喜んでいた。

 これ以上は、木々に遮られてわからなかった。


 あたしはもう一度空を見る。妖獣もいないようだ。風に乗って遠くへ行ってあたし達を見失ったか。盗賊にターゲットを変えたか、だろうな。


「盗賊の情報。嘘かホントか、どっちだろうな」


「嘘は言っていなかった。正しい道も死人の話も本当だろう」


 リヒトが断言したので納得する。


「そっか。あんたが言うのなら、あいつの証言は正しいんだろうな」


 するとリヒトはピタリと足を止めて振り返る。気に入らなさそうに顰め(しかめ)面をしていた。


「やけに俺を信用してるじゃないか」


「当然だろう。期間は短いが四六時中共に行動している。あんたに対して、それなりに信用出来るようになるさ」


 リヒトは半眼であたしを眺めて、嫌そうに顔をしかめた。


「気持ち悪い」


「ここであんたが笑顔でも浮かべたら、背筋が凍る」


 お互い本気で嫌悪感を出して距離を取る。

 そのまま無言で歩き始めた。


 こうやって悪態をついていても、リヒトも心のどこかであたしの事を信用している。

 と、うっすら感じてしまうのは何故だろうか。

 些細な理由をつけて文句を言いながらも、お互いを尊重できる部分はあって。彼と一緒に旅が出来るのは、何故かちょっとだけ嬉しいと思ってしまう。


 絶対に口に出して言わないけどさ。


次回は新しい村へ行くために奮闘します。

木曜日更新です。

面白かったらまた読みに来て下さい。


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