迷子らの盗賊捻り④
鬱蒼と茂る森をまた延々と歩いていると、誰かが茂みから飛び出てきたり、木の上から飛び降りてきた。
「見つけたぞおおお!」
「よくもやってくれたなぁぁぁ!」
「しねええええ!」
「くそがきどもしねええええ!」
盗賊が四人。五十代のおっさん達だ。
彼らの姿はよく似ている。胴の鎧装備で、頭部に包帯を巻いて無精ひげを生やしている。
盗賊達は出現した瞬間に間合いを詰め、刀や斧を振り上げた。今までの盗賊と違って熟練度が高く、技のキレも良さそうだ。
横と頭上から同時攻撃だから、これリヒトにも刃が届く。現に、ちょっと吃驚した表情で盗賊を見て、すぐに小さく口を動かしていた。
リヒトから『接近戦が苦手で咄嗟に動けない』と聞いていたので、とりあえず攻撃の軌道から外れてもらおう。
「危ないし邪魔」
ドン!
あたしはリヒトに素早く近寄り、軽~~く蹴飛ばして攻撃の軌道から外した。
「どあ!?」
衝撃でリヒトが一メートル先の草むらに、真横から突っ込んだ。
あーあ、これはあとで文句をネチネチ言われる。
まあ緊急だから仕方ない。
ギィン!
リヒトの居た場所にあたしが立ち替わり、鞘で男の斧を受け止める。
「くそ!」
受け止めた瞬間にあたしは鞘から刀身を出す。刀を見た男が一瞬怯んで力が緩み、斧が鞘から浮いた。
あたしは柄を振り上げ、倍近く身長差のある男の顎に鞘の切っ先を埋め込んだ。
コォン!
骨が鳴る小気味いい音がして、男が大きくのけ反る。
「こいつ!」
男がのけ反った瞬間にもう一人の盗賊があたしの腹部を狙って切りかかってくる。
あたしは盗賊の剣を難なく刀で受け止めた。
「威力が足りない!」
「なんだこいつ!」
盗賊が驚いたように目を見開く。幼く、か弱く見えた少女が一撃を受け止めたから、困惑したようだ。
あたしはその隙を逃さず刀で剣を弾き、そのまま懐に入り鞘を振り上げ盗賊の喉仏を強打した。
「ひが! ご!」
一瞬呼吸を奪ったのちに、回し蹴りで地面に沈めてから、残り二名の盗賊の動きに注目した。
盗賊たちの武器が虚空を切り、勢いのまま地面を少し抉っている。彼らは仲間がやられた瞬間を目撃したようで、目を丸くし動揺していた。
「な、なんだこいつ。やけに戦い慣れてやがる」
「世間知らずそうなガキのくせに、傭兵か何かの出かよ」
「いや、それは偏見だ」
思わず言い返す。
ガキだから世間知らずではなく、別に傭兵だから強いわけでもない。
「そもそも。身なりを見ればある程度分かるとは思うぞ」
あたしは腰に立派な刀を携えているし、額に金属のガード、手に小手、足に金属のロングブーツ。だぼっとした上着にゆとりのあるズボンを穿いている。
更に、森に入っているので余計な獣が近寄らないように、覇気を隠していない。
見る人が見れば、それなりに実力がある者と認識できるはずだ。
つまり彼らはそこまで実力がないと、自分で言っているようなもんだ。
あたしは肩をすくめて真顔になる。
「年齢に惑わされて実力を見抜けないようじゃ、底が知れる」
「なんだと!? もう一度言ってみろ!」
「聞き捨てならない!」
彼等の自尊心を傷つけたみたいだ、と呆れる。
「この程度で怒るなんて心が狭いな」
「なんだと!」
「メスガキが!」
盗賊二名が殺気に満ちた眼差しで睨んでくる。
最初からそのくらいの気迫でやってこいよ。と、辛うじて言わなかった。
あ。背後の草むらから圧を感じる。
盗賊二名の殺気よりも、リヒトの怒気の方が強い。
「はあ。面倒なのが起きた」
思わず愚痴をこぼす。
あたしは前方の二人よりも、後方から滲み出してきた怒気に意識を向ける。
「このクソ女」
肩越しに後方を確認すると、リヒトが仁王立ちしてあたしを睨みつけていた。
髪はぼさぼさで、枝と葉っぱが服の隙間やマフラーに着いている。整えずにそのまま立ち上がったらしい。
我慢しきれず吹き出し、腹を抱えて笑った。
「アハハハハハ! 傑作だ! みすぼらしい!」
「てめぇのせいだろ!」
血走った目がこちらを向く。
この程度で怒髪天とか、どんだけ心が狭いんだ。
ははは! 腹がよじれる。
あたしは目じりに出た涙を指先で弾いて、笑いを堪えつつ弁解する。
「いやいや。あたしは初手を庇っただけだしー。地面に体つけちゃ悪いかなー? って配慮して、草むらに投げ込んだだけだしー。落ち度はないぞー?」
「蹴っただろ! 落ち度ありまくりだ!」
「咄嗟に長いほうを使っただけだよ。手より足の方が長いんでね!」
「どこがだ! この短足め!」
「失敬な! 本気で蹴ったら草突き抜けてもっと飛んで木に激突するか、地面に強打して失神レベルだからね! 手加減してるからそうやってぴんぴんしてんだよ! あたしに感謝すべきだろ!」
「蹴られて感謝できるか! 筋肉バカめ! そもそも受け身すら取れない場所に投げ込むんじゃねぇよ! 細かい枝がびっしりあって抜けねぇし、地味に食いこんで痛いし、マジふざけんな! 普通に地面に投げろよ! この脳内筋肉!」
「はぁーーー!? 咄嗟にそこまで考えられないだろ! ふざけんな!」
「それはこっちのセリフだ!」
「「無視すんじゃねええええ!」」
盗賊を無視して罵倒しあっていたら、盗賊二人があたしに攻撃を仕掛けてきた。
口喧嘩しているが盗賊に全く注意を払っていないわけではない。
すぐに応戦しようと思ったが、リヒトが射殺すような視線をあたしと盗賊に向けた。
「全員沈め! <ゲノーモスよ、自らの口を開き、飲みこめ!>」
「マズイ!」
怒髪天のリヒトがアニマドゥクスを発動させた瞬間、危機感を覚えその場を退避した。
「ん!?」
退避した場所に盗賊が立った瞬間、固い土が泥水のようにズブズブに緩み、地面が勝手に左右に割れると、直径五メートルほどの巨大な深い穴が出現した。
「おおおお!?」
「うおおおおおおおおお!?」
足元が突然消えてしまい盗賊は成す術もなく、悲鳴をあげながら落下すると、地面の穴が口を閉じるように塞がった。
あ、これ、生き埋めだ。
えぐいなーと眺めていると、リヒトはあたしに鋭い視線を向ける。ギラギラした目のまま苦々しい表情を浮かべた。
「くそ。お前は無事か。癪に触る」
「あたしも生き埋めにしようとしてたのか! 下衆め」
「黙れ! ああくそ、チクチクする」
まだ怒ってはいたが、元凶が消えたので多少の気が済んだらしい。
すぐに視線を外すと、リヒトは体についた葉や棘を取るために、服を脱いで軽く払っていた。
次回更新は木曜日です。
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