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俺が死ぬかは君次第  作者: 司馬えい
6/6

第6話 親子に押されて

書いていただいた感想の方はしっかりと目を通しました。ご指摘いただいたところも修正致しました。どんどんご指摘ください。

【山崎結衣 視点】


 私が美梨にメールを送ってすぐ、おじさんが集中治療室に駆け込んで来た。

 そして、おばさんに今の翔の様子の詳細を聞いた。

 そのまま翔の方を向き、そうか、と一言だけ呟いた。この一言にどれほどの気持ちが込められているのかは分からない。

 しかし、顔を見れば彼もおばさんと同様、1人の父の顔をしていた。


 そのまましばらく翔を見守る。すると徐に私の方を向き、声を掛けた。


 つらそうな笑みだ。


「結衣ちゃん、わざわざ翔のために来てくれてありがとな。翔もきっと喜んでる…」



「おじさん、当たり前でしょ。何より大切な幼馴染だから。お礼なんか言わないで…」



「……ほんと翔にはもったいないくらいできた幼馴染みだよ」



「ううん。そんなことない」



「ふふっ、相変わらず謙虚だな、結衣ちゃんは……ほんとありがとな」


 おじさんは、相変わらずつらそうに笑った。しかし、確かにその笑みに優しさを感じた。


ーーおじさん、謙虚でもなんでもない。翔が大切なのは本当。私、翔のことが好きだからーー


 翔そっくりの優しい笑み。翔はおじさんの優しさをしっかりと受け継いでいる。



***



 私が翔に好意抱いたのは、その優しさからだった。

 彼は私がつらい時はいつもそばにいて寄り添ってくれた。くだらない愚痴だって、彼は受け止めてくれる。

 

 私が私に絶望した"あの日"だって彼はずっとそばにいてくれた。

 もちろんおじさん、おばさんも。


 いつからかは分からない。もしかしたら初めて出会った時からかもしれない。

 でも明確に彼のことが好きだと自覚したのは、中学生の時だ。反抗期か何か分からないが、あの時は頑なに翔のことが好きだと認めようとしなかった。

 いつも弟のように接していた彼に好意を抱くことを恥ずかしいことだと思っていた。


 そのせいで告白も尻込みしてしまい、結果彼の隣にいるのは美梨。


____私って、本当にバカっ!!____


 何度自分に言い浴びせたか。



 でも私も性格が悪いのかもしれない。

 美梨の浮気の疑惑が出た時、心の中ではもしかしたらの文字が思い浮かんだ。

 

 今、翔がこんなことになっているのに美梨は浮気をしている。彼女は翔が事故に遭ったことを知らないとは思うが、それでも私は美梨を許せそうにない。

 

 だから、メールを送った。明日彼女と会い、自白させるつもり。

 そして、翔が目を覚ましたら"全て"を伝えよう。


____やっぱり私は性格が悪いのかもしれない____



***

 


 集中治療室は重い沈黙に包まれていた。その沈黙を切り裂くようにおばさんが口を開く。


「結衣ちゃん、もう遅いし翔のことは私たちに任せて」


 3人しばらく思い詰めている時間を過ごしているうちにいつの間にか、日付が回りそうな時間になっていた。


「でも…」



「翔を信じて」


 私にここでやれることはもうない。後は翔を信じて、いつでも目が覚めてもいいようにしておくことだけだ。


「…うん」



「翔なら大丈夫だ。俺が車出すよ」



「結衣ちゃん、帰り大丈夫だと思うけど、気をつけてね」



「うん、ありがとう」


 こんな時間に女の子1人で帰らせるわけにはいかないと、おじさんが家まで車を出してくれる。


 おばさんも翔に何かあったらすぐに連絡してくれると言って、私たちを見送ってくれた。


 その時におばさんから、ポケットに入る大きさの小包をもらった。


 翔のポケットに入っていたらしい。


 大分ボロボロだが、何かのプレゼントなのか丁寧にラッピングまでされている。


____多分これは美梨へのプレゼント____




 車内も相変わらず沈黙が続いていた。

 美梨からの返事は一向に帰ってこない。普通のことだが、今はそれがどうしようもなく腹が立つ。


ーーはぁ、美梨ーー



「…ん」


 ため息と名前が思わずポロッと出てしまったようだ。

 するとおじさんが美梨という名前に反応した。


「結衣ちゃん、その美梨ちゃんって、翔の彼女だろ。翔のこともう伝わってんのか?」


 おじさんが前を向いたまま私に声をかけた。美梨の話題をいきなり話すものだから


「えっ、あっ、ううん…まだ」



「そうか。早く伝えないとな」



「……そのことなんだけど、美梨には私が伝えるっておばさんに言っといて欲しいんだけど」



「あの子と……いや、分かった」


 おじさんは、何か心当たりがあるのかそれ以上聞いては来なかった。

 この時、私の心が少し騒ぎ出したのを感じた。何故かは分からない。

 でもここでおじさんに反応に引っかかっていたのは事実。


ーー美梨のこと、話した方がいいのかなーー


 私が言おうか言わまいかに迷っているのに気付いたのか、頭をポリポリと掻き、徐に口を開いた。



「あいつ。美梨ちゃんのことこう言ってたんだ」



「えっ」


 私の心の騒ぎが大きくなっているのが分かった。


ーーあまり聞きたくないかも…ーー



「あいつ、前は本当に嬉しそうな顔をして美梨ちゃんのこと話してたんだ」



 どうやら翔は、家で彼女の自慢話をしていたらしい。

 私の気も知らないで!!


『ヘタレな俺に文句1つ言ってこない』


だとか


『俺は美梨が彼女であることを誇りに思っている』


と自慢げに語っていたらしい。


 前までの私なら静かに嫉妬に燃えていただろうが、今はただ憤るだけだ。


____翔、目を覚ませ!!____


と。


「翔があまりにも嬉しそうな顔するもんだから、俺まで嬉しくなって…」



「っ!」


 私はおじさんの柔らかい口調についに耐えきれなくなった。理不尽だが、美梨を褒めるおじさんに腹が立った。

 しかし、柔らかかった口調が厳しいものへと変わった。


「でも、最近は美梨ちゃんのミの字も言わない」



「……」



「あいつ、美梨ちゃんとなんかあったんだろ」



「……うん」


 どうやらおじさんは、翔の美梨自慢の話がしたいわけではなかった。


「結衣ちゃんがこれから何をするのか分からない」



「……」



「でもそれは、翔のためだろ。任せたぞ」


 美梨の話をしない翔と私の反応。

 おそらくおじさんは気付いている。

 でも私の覚悟を見て、あえて私に任せてくれた。


「……ふふっ」



「な、何だよ。くさいこと言ってんのは自覚してんだ」



「任された!」



「お、おう」


 おじさんは私の大声に驚いてきょとんとしていた。

 でも、おじさんと話して大分気持ちが楽になった。翔と同じ、不器用な優しさ。


ーーやっぱりおじさんは翔のお父さんなんだなぁーー


「私、明日、蹴りつけてくる!」



「あぁ、頑張れ」


 そして、車は私の自宅に到着した。


「結衣ちゃん、"お母さん“によろしくな」



「うん。おじさんこそ翔のこと任せた」



「おう。任された」


 軽い会話のやりとりだが、その言葉に重い決意のようなものが宿っていた。

 1人の“父"としての返事。


 そしておじさんは再び病院へと向かった。車が見えなくなると、すぐに家に入った。

 リビングの一角へ。敷いてあった座布団に座り、手を合わせる。目を瞑り、そして一言。



「ただいま、"お母さん"」


うちの業界も、コロナで大変です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 近づいては来てますがもどかしいですね。どうなるか楽しみ。
[一言] おじさんの、「結衣」と「結衣ちゃん」で呼び方が混在していたので、意図したものでなければ統一してもらえたら嬉しいです。 身内では無い人を呼び捨てだと、優しい父というより、オラオラ系の印象を受…
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