第5話 嵐の前の静けさ
再開したはいいものの、承転が難しい…
【鷺ノ宮美梨 視点】
わたしは、悠ちゃんとの行為で流した汗をシャワーで洗い流していた。
彼に貪られた体を、じっくり、丁寧に、行為の余韻に浸りながら。
「悠ちゃんったら、こんな跡つけて…」
わたしは、首につけられた"キスマーク"を優しく撫でた。
「もう、翔ちゃんに見られたらどうすんのっ?」
翔ちゃんは、手を出してこないので見られることはほぼないのだが、万が一の時を考え、悠ちゃんに苦情の一つでも言いたくなった。
ーー翔ちゃんには悪いと思ってる。だけど、手を出してこない翔ちゃんも悪いんだよっ?ーー
わたしは悠ちゃんに抱かれたことに少し罪悪感を抱いたが、それを掻き消すように自分を正当化した。
彼に嘘をつく時もそうだ。
もちろん最初は、かなりの罪悪感がのし掛かってきたが、今やもう嘘をつくことに慣れてしまった。
「ふぅっ、スッキリしたっ!」
わたしはシャワーを終えた。汗も匂いもそして罪悪感も流れた。
パジャマに着替え、そのままベッドにダイブ。
する前に、洗濯カゴの中の汗に濡れてびちょびちょになった服を、洗濯機の中に入れた。
そして、浮気を無かったかにするように、洗濯開始のスイッチを押した。
わたしは、行為による疲労で激しい眠気に襲われ、そのまま寝室へ向かった。
ーーうわぁ、匂うなぁ。ってあーぁ、ベットがびちょびちょ…シーツも洗うかぁーー
わたしは部屋に残る匂いを換気するために窓を開け、シーツを回っている洗濯機にぶち込み、彼の痕跡を取っ払った。
ベットは使えないのでリビングのソファに換えの布団をセット。その横で腰を下ろし、携帯電話の電源をつける。
翔ちゃんに"嘘"を送ろうとした。
何回目かもわからない。しかし送るたびに、大なり小なり罪悪感はある。
この罪悪感をせめてもの償いとして扱っている時点でわたしは救いようもなかった。
もちろんこんなことしても許されないだろう。
この時、快感の余韻と眠気には耐えられそうになかった
「ふぁーあ…眠いし明日でいいかぁ」
わたしは気の抜けたあくびを一つして、布団に潜り込んだ。
そして、手に埋もれている携帯電話の電源が付くのを待たずして、眠りについた。
美梨眠ったのと入れ替わりに携帯電話が目を覚ました。
するとすぐに一件の着信が。
“結衣"
『明日会えない?』
***
夜が空けて、どんよりとした朝日が顔を出す。
心をボロボロにされた者、呑気に寝ている者、そして覚悟を決めた者。
しかし、朝日はそんなこと関係ないと、見事に違う3人の1日の始まりを告げた。
朝日の眩しい光が、カーテンの隙間をすり抜け、美梨の顔に当たる。
そのうち光が徐々に顔を登り、彼女の目を覚まさせた。
ーーふぁーあ。うっ、頭痛いーー
起床と同時に軽い頭痛がする。身体も心なしかダル重いような。微熱もあるようだ。
どうやら昨夜、換気した際に窓を開けっ放しにしてしまったことが祟ったらしい。
ーーうぅ、翔ちゃんついてる嘘が実現しちゃったぁ…あ、返信しないとーー
昨夜つきわすれた嘘を彼に返信するために、手元にあった携帯電話を手に取った。
「えっ、結衣ちゃん?」
昨日の夜10時過ぎに、結衣からメールが届いていた。
『明日会えない?』
わたしは、特に疑問に感じずに、返信した。
『うんいいよっ!どこにする?』
すると、すぐに既読が付いた。馴染みのお店の名前が送られてきた。
_____この街の総合病院のすぐ近くにある喫茶店の名前が_____
『おっけー!じゃあ12時にそこ集合っ!』
『わかった。』
いつもなら返信まで少し時間が空くはずの結衣。本来ならここで気付けたかもしれない。
このメールがただ事ではないことに。そして、軽く返信してしまったわたしの結末に。
ゆっくりとしたひと時、この歯車は簡単に噛み合わなくなる。
まさに嵐の前の静けさ。
お目を汚してしまうかもしれませんが、読んでくださって感謝しかありません。