第4話 夜明けと幕開け
ご精読ありがとうございます。
波乱の夜が明け、心なしか昇ったばかりの朝日の輝きがいつもより沈んで見える。
しかし、そんなこと関係ないと言わんばかりに街は喧騒に包まれ始めた。
そんな街の一角に、1人の男が座り込んでいた。誰も気にも止めていないように男の脇を通り過ぎて行く。
ーー最悪だぁーー
俺が一晩中思い詰めた末に結局出てきた言葉だ。
『はぁ』
俺は目を閉じて、思い出す。
昨夜、俺は美梨の宮田との浮気の現場を目の当たりにしてしまった。
ーー最悪の予感が適中してしまったぁーー
怒りで宮田を殴ろうにもすり抜けてしまい、何もできずにいた俺の目の前で、残酷な現実が繰り広げられた。
心をズタボロにされた俺は、夜が明けるまでその場でずっと悩み続けた。
寒さも忘れて
俺は一体、何が足りなかったのか。何が悪かったのか。宮田に比べて何が劣っていたのか。
ーー美梨を責めるべきなのに、自分ばかり責めちゃうあたり、やっぱり俺も甘いなーー
俺は、自分のヘタレにも責任を感じていたためか、美梨を強く罵ることを躊躇っていた。
ーーこういう俺の甘っちょろいところもだよな……美梨に優しくしすぎたなーー
俺は自分の悪いところを心に留め、何気なく俺は、朝日に手をかざした。
しかし、相変わらず半透明のまま。しかも心なしか前より薄くなっている気がする。
『俺って、幽霊になったのか?』
誰かに投げかけるように呟いた。
当然誰も応えるわけもなく、無常に現実だけが目の前に拡がっている。
ーーでも、まだ俺死んでない……?ーー
はっきりではないが、直感で己の身体がまだ死んでいないを感じる。
____不思議だが事実、彼の身体はボロボロだがまだ生きている____
そして他の疑問も。
ーー本当に誰も俺のこと見えてないのか?ーー
昨夜のあいつらの逢瀬に鉢合わせた時、宮田が俺の声が微かに聞こえた反応をしていた。
ひょっとしたら俺のことが見える人もいるのかもしれない。
『試してみるか』
***
俺のことが見える人を探しに、最寄りの駅までやって来た。相変わらず誰も見えていないようで、例えば
忙しそうに携帯電話片手に歩いているサラリーマンの進路に立ち塞がるも、何もないかのようにスルッと自分の体を通り過ぎていく。
ーーはは、スルッてなんだよ。本当に見えてないのかーー
他の人で試してみるも、みな同じく通り過ぎていく。あまりにも無反応で途中から、全裸かましてもいい気がして来た。
もちろんしないけど
ーーはぁ、どうすりゃあいんだろうなぁ…これからーー
ぼけーっとしていると、プレゼントとは逆のポケットに入っている携帯電話に着信が入った。
その送り主の名前を見ると、
"美梨"
『一晩寝たら風邪治っちゃった!今回のデートは行けなかったけど、また今度一緒に行こっ!』
ーーよかったな。宮田に"最高の看病"をしてもらえて!ーー
美梨の名前を見ると、いやでも昨夜を思い出してしまう。
ーーやめい!思い出してもしょうがないだろ。浮気は事実…こんなもん捨てちまえーー
俺はポケットに入っているプレゼントを思い出し、投げ捨てようとした。
しかし、その手を止め不意にある"言葉"を思い出した。
大切な幼馴染みが俺に言ってくれた"言葉"を
"結衣"
『ほんとに美梨がそうなら、遠慮なく私に相談していいから』
俺はすぐさま携帯電話を開き、美梨の返信に既読をつけないように、結衣とのトーク画面を開いた。
『結衣、俺を助けてくれ!』
俺は送信ボタンを押そうとしたが、手を止め、ふと結衣とのトークを遡った。
そこには
_____こんなことあったなぁ。結衣こんなこと言ってたんだっけ_____
今まで結衣が乗ってくれた相談の数々が残っていた。
もちろん美梨の件も…
ーー俺って、こんなに結衣に世話になってたんだなぁーー
ボロボロになっていた心がほんの少しだけに良くなった気がした。
俺は微笑みながら、メールを送信した。
2文字だけ加えて
『結衣、"また"俺を助けてくれ!』
そして、携帯電話の逆の手に握ったプレゼントを暫く眺め、再び元あったポケットにしまった。
ーーもう少し持っとくかーー
俺は呑気にそんな事を考えていた。
その甘っちょろい考えが後々自分の首を絞めることになるのを知らずに
時間は有限。このご時世、外で運動するのもいいと思います。