第2話 心は信用とともに
お久しぶりです。再投稿です。
出てきた美梨に続く人物に、視線を向けると、車に轢かれたかのような衝撃が走った。
想像通りだったのかもしれない。
そこにいたのだ。
「えーっ悠ちゃん、もう帰っちゃうの?もっとしようよ!」
ーーおい…ゆ、悠ちゃんって。嘘だろ?ーー
「流石にもう帰んねぇと親に怒られるから。だから、悪いけどまた今度な」
ーー美梨、お前はほんとに宮田とーー
「えー、じゃあ、来週の土日お父さんが出張でいないから……ね?」
「しょうがねぇな。そんな美梨のために、泊まれるよう親を説得するわ。そんじゃあ土日は一晩中だな」
ーー美梨…これ、現実なのか?ーー
あぁ俺の中で、何かにヒビが入っていく。
「うんっ!いっぱいしよっ!あっ避妊はしてね」
「おいおい美梨、そんなノリノリでいいんか?滝島は大丈夫か?」
ーー仲良さげに名前まで呼んで…ーー
俺の中で、何かが壊れ始める。
「もうっ!心配しないで。翔ちゃんは、鈍いから大丈夫っ!それに、最近はちゃんと誤魔化せてるはず!」
ーーや、やめろぉっーー
俺の中で、何かが崩れていく。
「そうだな。あいつほんとチョロいな」
「翔ちゃんのこと、そんなふうに言わないでよ。一応私の彼氏なんだから…もうっ!」
「そんなに怒んなって。でもさぁ、あいつ彼氏なのに全然美梨に手出してこないじゃん」
ーーえ、なんだよ…手出して良かったのかよーー
「う、うん…翔ちゃんは優しくて、ほんとに大好きだけど。でも、優しいだけじゃあ」
美梨は、濡れて艶やかになった唇を開いた。そしてとどめを刺すように一言。
「全然足りないのっ」
その瞬間、俺の中で、何もかも崩れ去っていった。
『うわぁあああああああぁああああぁああああああぁあ!!!宮田ぁああぁああぁああぁあぁああっっっ!!!』
俺は宮田を殺す気で殴りかかる。
…宮田の体をすり抜けた。
ーーえっ、あれっ?なんで?す、すり抜けた?ーー
「んっ?」
「悠ちゃんどうしたの?」
「いや。なんか今滝島の声しなかったか?」
「え、嘘?翔ちゃんの?私たちの声しか聞こえないけど…な、何?」
ーーなんで、これじゃあ宮田をーー
ふと、俺は自分の手をみると、
「悪い。気のせいだったわ」
「もうっ!びっくりさせないでよっ!」
ーーはっ?何これ…ーー
俺は恐る恐るその手を街灯にかざしてみる。
すると、街灯の光は手に遮られずに透過して目に入って来た。
ーーど、どういうことだ?ーー
俺は自分の体を確認し、最後に足元を見ると…
ーーえっ、ない…ーー
俺を照らすその光は、俺の影を映してしなかった。
俺の体は透けていたのだ。
俺は思わず顔を俯けて両手で頭を掻きむしり、心当たりを探った。
「あぁ悪いって。そういやぁ、さっき携帯で見たんだけどさぁ。ちょっと前にここらへんで交通事故が起きたってよ」
「や、やめてよ。怖いって。」
俺は顔をあげ、全てを思い出した。
ーーあぁ、そうだったーー
「びびることないだろ。なんでも、高校生くらいのやつが子供を庇って車に轢かれたらしいぜ。」
「へー。そうなんだ。すごいねその人っ!」
その瞬間俺の頭の中に、ある記憶が流れ込んで来た。
そして何度も、何度も、何度も、何度も繰り返された。
怯える子供を押しのける。
目が痛くなるほどの眩しい光が視界を覆い尽くす。
そして、全てが終わったかのように、
激しい衝撃と共に視界が暗転した。
そんな記憶が繰り返される。
ーーそうだ。俺、飛び出してきた子供庇って車に轢かれたんだったーー
頭の中で繰り返される記憶に耐えきれず、俺はその場に座り込んでしまった。
ーーうぐぅっ!くそっ!2人が目の前にいるのに何にもできじゃねぇかっ!ーー
俺は悔しさのあまり、手の爪が皮を剥がしてしまいそうなくらい強く、血がでるくらい強く、拳を握りしめた。
「まぁいいや。とりあえず俺と美梨の関係は内緒な」
「うんっ!翔ちゃんだけには知られないようにしないとっ。あっ!翔ちゃんのメール返さないと」
ーーもう知っちゃったよ。くそがっ!……見損なったよ美梨…ーー
雪が再び酷くなった。雪がどんどん積もっていく。
ーーこれから俺は、どうなるんだーー
俺は、終わりそうに無い混乱へと落ちていき…
『あああぁああぁああぁあああぁああっっっ!!!』
2人は最後にキスを交わし、俺の心はズタズタに崩れ去った。
こうして2人は俺にとって最悪な逢瀬を終えた。