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気が付いたら木でした。……きっと木のせいに違いない。

作者: ぐう鱈

復帰に向けた練習作です。

プロット通りに書こうとしたら1割書く前にここまで文字数が…。

勢い前提の中身空っぽな作品です。気にしないで下さい。


Warning:本文に駄洒落が含まれています。誤字ではありません。

 死んだ。きっとこれは死んだ。

 乾いた破裂音。

 大都市。

 人通りの多い道で安心しきった俺。

 今全世界で大流行のテロリストだ。

 狂った表情の犯人といつまで続くのかわからない痛みと死への恐怖。

 痛み・悲しみ・憤り・後悔。

 瞬時に頭を駆け巡る色々な情報。それが、おれの、のうないで、いっぱいの……。


 ということで、俺、死んだのだった。

 でも今現在、意識はある。

 周りを見回すと真っ黒な空間である。

 生前の俺は平凡なサラリーマンであった。ただ、次の取引先へと向かう途中、テロに遭遇して死んでしまった。ただの真面目な一般人。きっと将来性もあった青年であった。……ただちょっと趣味が2次元。いやさ! 嫁は3次元がいい!(おい、そこの『2次元・3次元って言ってる時点でお察しだよ!』って言ってるやつ! ……ご同輩か?)

 コホン。話を戻そう。

 俺は冷静になって現状を整理し、そして察した。

 これは……、最近の流行りの!?

 いや、長年この業界で流行っている『転生』というやつではないだろうか。

(やったぜ! 平成の転生系は『チートでニート!』が保証されてるからな。え?昭和?いうな。『努力・根性・友情』の苦労メインの3段論法を押し付けてくるハードモードじゃん。それは、いやだっ。苦労するのはもう嫌。せっかく転生したら中世ヨーロッパの中で、うはうはと生きていきたい!! ……まって、リアルヨーロッパは簡便な。あくまで『風』な。約束だぞ『ヨーロッパ風』の豊かな綺麗な世界で『チートDeニート!』な転生をよろしく! 神様!!)


 さて、もう少し現状を精査しよう。

 現在俺がいるのは暗闇の空間。

 転生……だとすると、ここは母親の腹の中と見た!

 生まれる前から意識がありか!

 前世の記憶が生まれる前から標準装備とは……?これは知識ニートってやつだな!

 ……おっと、違った知識チートだぜ!w

 自分言っててなんだが違和感なさ過ぎ、ビックリだ……。

 なんにしても『幼少時代に生死をさまよって~』系の前世記憶取得じゃなくてよかった。

 苦しいのはごめんだからな!


 さぁ、そうと分かれば早く出産してくだされママン!

 そして俺に希望の光を!

 我が手に栄光を!

 昭和モードだけは回避を!

 綺麗な幼馴染とウハウハライフを!

 さよならモテなかった俺!

 こんにちはハーレムな俺!

 そんな浮かれた気持ちを抱きながら俺は……。

 長い暗闇を経て……。

 光差す世界へ生まれ出た。


 ……目が見えない。

 ……おけ~おけ~! 赤ちゃんは視力が弱いからな!


 ……体が動かない。

 ……え、なんか足元押さえつけられてるような……。

 てか直立状態じゃね? 幼児虐待?

 いや! 生まれた直後に立ち上がる! おお! 神の子!! 天上天下唯我独尊!


 …………。

 ……。

 ああ。知ってるよ。

 俺、人間に生まれなかった……。


 ……え?なんでわかったかって?

 ・体が動かない

 ・口がない

 ・呼吸が口ではない

 ・いつまで待っても目が空かない

 ・そもそも目がない

 ・足元から栄養分が行き渡る感覚がいい感じ

 ・たまに感じる光が栄養を生んでる感がある

 ここまで状況証拠がそろったら人間と違うって嫌でも……。


 ……おうけい。

 クールになれ俺。

 とりあえず現状を整理するんだ俺。


 現状1:根を張って地中から養分を吸い上げる。

 現状2:直立不動で光からも栄養分を作れる。


 …………………木じゃね?


 そんなことはない。

 きっと違う。

 異世界と言えば人間。

 いやエルフ。

 魔族でもいい。

 もういっその事ゴブリンで成り上がりでもいい!

 知的生命体であってk……おお、光で満たされる――――。夜は寝る時間じゃ! 二酸化炭素排出じゃ!


 …………………やっぱ……木じゃね?


 落ち着け俺。

 木だと仮定しよう。

 木で何ができる?

 木って何が楽しくて生きてるの?

 俺、元人間だけどどうやって生きる楽しみを見出せばいいのだ!!


 …………。

 ……。


 待てよ……。

 その前に……木の生存競争って大変そうじゃね……。

 木の実とかめっちゃ実るし、各地に巻いてるやんオトン。

 木の実食べて、周辺に相当数ばらまいてるやオカン。

 俺は脳内(?)で想像する。

 ビックダディーのような大木オトンと、赤い小鳥のオカン。

 ……兄弟の数……半端なさそう……。

 そしてそれだけ兄弟が必要なぐらいに、生存競争激しいのではないか?

 というか、若木のうちに草食獣とかにボリボリとやられてしまうのではないか?

 ならば、生存競争を勝ち抜くために……俺は何をすればよいのか?


 …………。

 ……。

 そうだ、特徴だ。

 一芸だ。

 厳しい競争社会を生き抜くには特徴が必要だ。

 俺にしかできない特徴……。

 転生者でしかできない特徴をださねば……。

 きっとすぐに枯れるか、食われてしまう。

 成長しても樵が来て「ええ感じの木や(満面の笑み)」とか言って伐られる。

 ……想像してみた。斧で胴体斬られるとか……どんな拷問!?

 ……人間コワイ……。

 考えねば。

 俺は元人間、対策は考えられるはずだ!

 斧で叩き斬られないように対策を……。

 ……ここは異世界、そして俺は転生者……。

 それを生かして対策を……。


 …………。

 ……。

 ぐぅ……。


【3日後】

 そうだ、魔力を使おう!

 異世界! と言えば魔力じゃね?

 炎とか出せば木こりも怯むのではないだろうか!

 それだ!!!


【更に3日後】

 で、……魔力ってなんだ?

 どうやって把握して、どうやって物理現象に変換するんだ?

 わっかーんねー!

 でも諦めたら試合終了だって、フライドチキンのフランチャイズ創始者が人生欠けて語ってた!


 …………。

 ……。

 よし! 分かった。

 昔の人は偉かった。

 こういった時の言葉を俺に残してくれてたよ。


『馬鹿の考え休むに似たり』

 よーし、昔の奴等。その喧嘩買った!!

 …………。

 ……。

 冗談はさておいて、小難しく考えるのはやめよう。

 とりあえずやってみてから考えよう。

 ……どうせやることないしな!

 しかし、実験するにも実行する最低限の指針は必要だ。

 目的になしに進んでも結果を得られはしない。

 まず考えろ。

 魔力。

 それはなんだ?

 よくあるパターンだと『血流みたな!』とか『紋章を通じて!』とか『意味の分からない呪文唱えて』とか、割と簡単に把握できる力の流れだった気が……。映画とかだと理論より結果重視だったし……。

 弱気になるな俺!

 俺はチート転生者!(きっと)

 為せば成る!

 まずはやってみようじゃないか!

 と、いうことで、一番やってみたかったことから挑戦だ!!


(皆! オラに元気を分けてくれ!!!)

 叫んでみた。

 ……いや声が出てるわけじゃないんだ。気分だ。気分的に叫んでみた!

 そして手(枝)を伸ばす。そして気を感じる。


【30分後】

 なんとなく……。

 なんとなく周りの植物からの視線を感じる。

 待て。

 異世界に来て。

 植物になって。

 色々状況が変わっているのに。

 痛い子を見る目で俺を見るな!!!


(……血液理論でやり直そう……)

 目を閉じ(イメージです)。

 体を意識する。

 力の脈動を感じ。

 それを動かすように意識する。

 そう……昔中二の時にやったイメージだ!

 地球じゃ妄想のお楽しみタイムだったが! 異世界なら違うはず!! ……きっと。


【1週間後】

(……お。おお。おおおお!)

 変なものを知覚した。

 感じるというか、感覚が鋭くなったような気がする。

 鋭くなった感覚を頼りに『光を感じて色が見たい!』と懸命に考える。

 人間の目に映る色素を考え、波長を考え、そして体全体で感じる様に意識する。


【凡そ1年後】

(異世界ヒャッハー!)

 言ってみた。

 毎日毎日努力した甲斐あってか、俺の体の謎器官が光を受信し、視覚情報に変換し、俺に景色を提供してくれた。


 想像した通り、俺は木だった。


(マヂか……テンション上げないと萎える……木だけに萎えたら枯れる!)

 因みに俺の周りの木は巨木だらけだった。

 樹海の一部なのだろう、昼間なのに暗さが目立つ。

 きっと大森林の奥っぽい所な感じがする。

 空は暗く。光はあまり差し込まない。

 ……魔の森かな?

 ……生き残れる自信がないっす!!!!

 ちくしょーーーーーーーーー!!!!!!


 それから俺は自らを成長させることと、魔力を操作することに注力した。

 数年の時を経て、魔力の流れが分かるようになり、体とは違うけど、魔力体?なのかな?

 そのどこかにある別の、だけど自分の体へと魔力を物理現象に転換する法則を書き込んだ……様な気になっているとそして魔法が行使できた……気がした。

 先だって俺が視覚を得たのも、俺が無意識のうちに法則を書き込んでそれを叶える形で魔法が作用したのだろう。俺はそう結論付けた。

 そう結論付けてしまえば、後は比較的に簡単だった。

 聞きかじった物理法則なんかを俺理論で体系化、実際に検証して納得する。

 そうすると、その後は物理法則や何やらを意識しないでも魔法が使えるようになった。

 例えばだ。雨が少ない季節。のどが渇いたので雨を降らせる。

 はるか上空の空気や気流だなんだと操ってみ見せたら、どうやろ俺自身発光していたらしく周りの奴らにも俺が魔法が使えることを気付かれた。


 周りの奴らから鳴りやまぬ称賛の声!(が上がっているような気がする)


(っちょ、根を成長させてこっちに寄ってくんのやめない?)


 周りの奴らから鳴りやまぬ称賛の声!(が上がっているような気がする)


(その好意が怖いよ。こっちに寄ってくる意味が分からん!)


 そんなこんなで、周りの奴らとも仲良くなって俺も成長を続ける。

 10年もたてば、貧弱な僕でも! ちょっとは見られるくらいの木に成長した!


(まだまだ大人ではない。)

 周りの大人(巨木)たちは俺に敬意を表し、少ない光が当たれるように枝の成長を制御している。


(うむ。良きに計らえ! ……ん?雨か?任せとけ!!)

 そんなこんなでなんとなくだが、不思議な現象と仲間に囲まれて木の生活をエンジョイしていた俺。

 その間、幸運にも兎とか鼠にボリボリされて、儚い一生を終えることもなく、ほのぼのライフで俺の警戒心は溶けていた。


 ……その時であった。


 俺は奴に遭遇した。


(吹き荒れろ風!! ……なんつって~)

 その日は何時ものように周りの奴らの要望に応えて風を吹かせていた。


(さぁ、巻き起これ、嵐! そして種子たちよ。遠くまでいってらっさ~い。ついでに花粉症も、巻き起こしてこいよ~!! ……くくくく、もはや花粉症とは無縁の身。他人事とは斯くも素晴らしいことだったとは……。さよなら……、花粉症対策グッズ!)

 楽しかった。

 木になって些細な出来事が楽しい。

 木として感じる新鮮な感覚がまた素晴らしい。

 しかし、手足が動かない……。

 いや嘘を言った。手足ではないが枝と根っこが少し動く! ここ数年の努力の成果である。

 あと、魔法が楽しい。

 先日風を起こそうと気圧を操ってみた。

 ……熱エネルギーって純粋に魔力消費激しかったの。

 結果、俺は謎の全身激痛に見舞われた。

 いわゆる魔力痛というやつだ(誰が言った?だと?分からんが一般用語っぽくいってみた! 寂しいんだよ……)。それだけ頑張ったのだ嵐の一つでも巻き起こるかと思ったが、大自然は甘くはなかった。地球(?)は偉大なり! そよ風も起こらんかったわ(笑)。

 そんなことで今日は影響力を限定させて空気を圧縮して目指す方向へ、花粉放射なぅ! である。


(一仕事完了! またレジェンド材木に一歩前進だぜ!)

 満足感に満たされる若木な俺。

 今日はあと仕事しないで栄養チューチューして寝てしまおう、と、まったりしていた昼下がりであった。


 奴と目が合った。

 白い流線形ボディーの奴だ。


 息を飲む。

 本能的な恐怖に震える。


(しっ、シロアリ先輩!!)

 木が主食♪シロアリ先輩である。

 やばい奴と目があった。

 ……だが奴のターゲットはもっと老齢の樹木のはず!

 若くて青々している俺には興味がないはず!

 そもそも、自然の中では調整者としての役割も……。


『おう、お前。うまそーな匂いだしとるやんけ。ちいとかじらせてくれや?』

 ヤンキーⅰsカミング!!!!!


(や、僕、おいしくないんで。水分過多だからお口に合わないと思いますよ~)

『あ゛?じゃあ、ちょっと確認したる。揺れてみろや?』

 おお、これはあれだな。伝統的な【KA☆TSU☆A☆GE】手法の一つ、『飛んでみろ』だ!!

 って、アリが何でそんなこと知ってんだ!! 


(すみません。僕、木なんで動けないです)

『やっぱ、齧るしかなさそうだな』

 近寄るヤンキー(シロアリ先輩)。

 やばいこれ「やっぱ、うめーじゃねーか!」って、思い切りキレられるパターンだ!

 何とかせねば!

 ここ10年以上草食獣や小型の動物にボリボリされなかったから油断していた。

 このままではシロアリ先輩が後で呼ぶであろう舎弟軍団withシロアリ先輩に美味しく頂かれてしまう!

 いやだ!!!!!!!

 もっと生きて、大樹になって、人々(若いお姉さま)の生活を覗くまで死ねない!


(そうだ。魔法で攻撃しよう! てことで、ウィンドウカッター!)

『……おう、今攻撃とかぬかしやがったか?いい度胸してるじゃねーか』

 ウィンドウカッター(そよ風)が巻き起こりシロアリ先輩はキレた。

 近寄る速度1.5倍です。

 ピ――――――ンチ!

 マジ、齧られるよ!

 痛いのやだ!

 せめてエルフ(胸の豊かな平成版)の水浴びを覗くまでは、死んでも死にきれない!

 ……そうだ俺。

 何のために異世界転生を果たしたんだ?

 少なくともシロアリ先輩のご飯になる為じゃないだろ?

 やるしかねぇ!

 ここが根性の見せ所だ!!


(冴えわたれ俺の想像力! きっと英語だったから駄目だったんだ! 今度は日本語! それも強めのイメージで行ってやる!!!)

『てか、てめー魔法使えんのか?』

(ぎくー――――)

『おけ~おけ~。美味いの確定な、笑笑』

 魔力あり=栄養豊富♪

 なんだよ、そのファンタジー理論!

 ももももも、もう失敗できない。唸れ俺の灰色の脳細胞!!


(……必殺! カマイタチ!!)

『……なっ!』

 キターーーーーー! 主人公の技を喰らっての驚愕の『なっ!』。

 ……ふぅ。さすが俺、略してサス俺! またも、勝利してしまったかな?


「キィー(ちっす、今誕生しました『カマイタチ』って言います。以後よろしく~)」

 ……あれ?カマイタチってあれじゃん?

 真空のせいで刃物に切り裂かれたように傷つく現象でしょ?

 なんでイタチがいるの?

 そしてなんで両手がカマなの?

 馬鹿なの?


(……ちょ!カマイタチ君、足元! 足元! 君のターゲットが通り過ぎてる)

「キィー(お、あれターゲットだったん?もっと強敵相手かと思て、スルーしちゃったよ。まってって! いま駆除しちゃうよー!)」

 頼もしい。惚れてまうやろ~~~~!


「……」

(……)

『……』

 ワクワク、ドキドキ、はよはよ!


『……』

(……)

「キィー(ごめーん。近すぎて今攻撃したら主ごとポッキっといっちゃいそう♪)」

(「♪」じゃねーよ! ポッキっといったら、逝っちゃうじゃん!)

「キィー(上手いこと言った! パチパチパチ)」

『お前の体も中々美味いぞ! パチパチパチ』

 ぐああああああ。下の方もぐもぐされてる! もぐもぐタイム(邪悪)だよ!!


「キィー(がんばー、あるじー。よっと)」

(「よっと」って、てめーお隣さんに登って他人事か! こら果物貰ってシャクシャクしてるんじゃない! ご主人様ピンチよ~~~~~)

『モグモグ』

 やばい冗談抜きでモグモグされてる。

 対抗せねばやられる!

 そっそうだ!

 水だ!

 最近得意の水魔法で溺死させてやる!!

 溺死はえぐいが、俺が死ぬよりましだ。


(水魔法!)

『モグモグ。お、雨か。気持ちいいな』

 俺、無力!

 雨魔法が体に染み付いてた……てか、そもそも水を攻撃魔法にするとかどんだけの威力だよ。

 ふむ。そろそろやばいな。


『いくらでもいける。いい味してんなお前』

 てへ、褒められちゃった♪

 ……ぐはっ。

 体が削れる!

 じわじわ痛いわ。これゆっくり死ぬ。きっと死んでしまう……。


『げぷっ、そろそろこれぐらいにして……』

(炎よ……)

『ぐはっ! お前!!』

 俺が放った青白い炎は、術者である俺ごとシロアリ先輩を焼く。

 シロアリ先輩は想像以上の熱さでとっさに俺から飛び退る。しかし、それは悪手だよ……。


(土よ……)

『がはっ!!』

 焼け焦げたシロアリ先輩を、下からは鋭利で固い岩が貫く。


「キィー(お~、離れましたね~)」

 体を焼かれ、胴体を貫かれても動こうとするシロアリ先輩の首をカマイタチ君の鎌が斬り落とす。

 グロイ。


「キィー(ふう、一仕事した後の果物はおいしいな~)」

 シロアリ先輩を切り離した鎌を一振りして体液を落とすと、使っていなかったもう一方の手?……おや?普通の手になってる……を使いお隣さんが育てた果物を頬張るカマイタチ君。……カマイタチ君、お隣さんが『もっと遠くへ、種ごと運べ』って言いたげな空気出してるよ?


『……くくく、俺が死のうとも、第二第三の……』

「キィー(えい)」

 シロアリ先輩が何か言おうとしたが、無情にもカマイタチ君が踏みつぶしてしまった。

 第二第三……百・二百の増援……。思わずつばを飲む俺。いや、木だから喉は無いんだけどね!

 

「キィー(あるじー、結構かじられたね。痛くないの?僕、あるじと繋がってるからあるじ折れちゃうと消滅しちゃうからさ、頑張って回復しよう♪)」

 そういうとカマイタチ君は鎌を手に変えるとかわいらしく小首をかしげる。

 何だろう、あざとい。

 会社の同期にいたボディータッチ多めの女並みに、あざとい。


「キィー(がーんば♪)」

(回復って、やり方知らんがな。自然治癒に任せたら……)

「キィー(枯れるね♪)」

 『♪』つければすべて許されると思ってんの?


(やーべーよ。どーすんだよ。ここで終わるのやだよー)

「キィー(あるじー、魔法使えばよくない?ほら?あるじー、元中二病じゃん。妄想力の活かしどころじゃない?)」

(おいいいいいいいいいいいい、お前なんで俺のこと知ってんだよ! 何者だよ!!)

「キィー(あるじの魔法で生み出されたんだから知ってるよ?じゃなきゃ、会話成立しないじゃん♪それより、僕眠くなっちゃった。あとはほら、あるじの好きな『努力・根性・友情』でがんば!)」

 カマイタチ君はかわいらしく鳴き声を上げるとお隣さんを上り、しっかりとした枝の上で横になる。マイペース。てか、サラッと重要なこと言ったよね?


「キィー(あるじの魔法で生み出されたんだから知ってるよ?じゃなきゃ、動物と会話なんて成立しないじゃん♪それより、僕眠くなっちゃった~。あとはほら、あるじの好きな『努力・根性・痴情のもつれ』でがんば!)」

(ちょっ、まてよ! 根性はやめて、せめて勝利にして!! てか、『痴情のもつれ』ってなんだよ『友情』だろ?……あれ?あんまり変わらない気が……)

「キィー(がんば~。あるじ、良く叫んでたじゃない。『俺は今猛烈に!』って~)」

(すとーっぷ! 俺が昭和アニメ好きだってばらすな!!)

「キィー(じゃ、頑張って。……むにゃむにゃむにゃ)」

(ねるんかーい! あら、かわいらしい寝顔)

 あ、やば。命の危機感じてきた。


(死んでたまるか! ヒール!)

 叫んでみた。

 結果、何も起きなかった。

 おい、お隣さん。ため息はよくない。

 だって、しゃーねじゃん!

 木の構造なんか知らねーよ。

 どうやって回復するんだよ。どうやって治っていくんだよ。わかんねーし、知らねーよ!

 でも、やばい。

 このままだと折れてしまう。萎れてしまう。栄養の吸収が足りなくなる。何より一番痛いのが自分で放った火がまだ鎮火していない。ピンチ!

 再生過程が分からないのに治療なんてできるか!

 助けて! 樹のお医者さん!!

 ……。

 あ……。

 再生って言ったか俺?

 自分で言ってて思ったよ。

 構造しらないし、現象もわからない。でも昨日の俺ならわかる。

 どんな体してたか知ってる。

 それに戻すイメージすればいいんでない?

 俺、天才!


(しゃー! 再生魔法!!!!)

 …………。

 ……。

 結果、俺の意識は一瞬で吹っ飛び、気付いたら夜だった。



「キィー(あるじー、太った?)」

(気のせいです)


「キィー(あるじー、光ってる?まぶしい)」

(木のせいです)


 意識が戻ると一回り大きくなり、感じる魔力も増大していた。

 あれだ『激戦を潜り抜けると戦力インフレ』の法則だ。


「キィー(あるじー、もうただの木じゃない気がするけど?)」

(……木のせいです! もう、そういうこと言うとフラグ立つから! 気のせいってことにして! おねがい!!!)


 その後、シロアリ先輩が所属する団体がお礼参りに来たり、なんか黒いオーラの人が来たり、昭和エルフ(胸が大平原)が来たり、色々あった。



(……もしかして俺、死ぬまで木?)

「キィー(あるじー、それ木のせいじゃないよ)」

 …………。

 ……。

 やめろよー! そこはせめて『きっと、木のせいだよ』って言おうよ。そういう振りだよ……。ネタだよ?せめてネタに消化しないと君の主、泣いちゃうよ?いい大人ががち泣き披露するよ?


「キィー(僕、下手な慰めはしない主義なの♪)」


 …………。

 ……。

 こうして、カマイタチ君と俺と周りの奴らの変な生活は、不本意ながらこれからも続きそうである。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


「木になったのは、気(木)のせいです。え、気(木)になる?」というダジャレ的発想から描いた作品です。書いてて楽しかったのですが、着地できなくて4000文字ぐらいから『おわらない(あわあわあわ)』しておりました。そんな作品にお付き合いいただき誠にありがとうございます。


尚別作品で恐縮ですが、拙作『ダンジョン農家』につきましては今週末より1週に1回の頻度で再開します。お待たせし、申し訳ございません。m(__)m


最後に、主人公より。

『気(木)になったら、評価してくれていいんだよ(ツンデレ風)』

言いたかっただけです。

では('◇')ゞ


おまけ

主人公:享年25歳。大学デビューを果たした男。移動中にテロに遭遇し死亡。手違いで木になる。生き残れているのは幸運。魔法適性もほぼない。昭和アニメ大好き。逆境も大好き。ファッション転生も好きだけど壁にはあえてぶつかっていく男。ちょっとうざい。


かまいたち君:主人公が生み出した魔法生命体。強い。色々裏設定があるのだけど、知ったこっちゃない。打算で動くオス。嫁を主人公に想像させてまったり暮らしたい。


お隣さん:魔樹。当初主人公を取り込もうとしたが、逆に聖転させられる。

シロアリ先輩:もっと長く出番があったり、本名がスチュアートだったり、恋人が居たり、意外と硬派だったりした。子犬は拾わないがギャップ萌え要因、だったはず。木に負けて養分になったのはきっと気(木)のせいである

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