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入り口は→電子レンジ  作者: 桐生 甲斐
第一章
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現実世界で男女にとっての異世界

コリンが来た翌日、生活品の買い出しをするべく渋谷へと繰り出した。衣服やそれ以外にも女性の必需品に疎い俺はスマートフォンと睨み合う。ひとまず尖った耳を隠せるように俺はパーカーを貸す。


目に映るものすべてが自身の知識の埒外であることを噛みしめつつも好奇心だけは一入なのか目を輝かせながらあたりをキョロキョロと見渡すさまは微笑ましかった。


「今日はお祭りの日なのですか?」

「どうして?」

「こんなにたくさん人間がいるなんておかしいです!」

「この風景は割と日常だぞ。」

「なんと!?」


 街行く人々を見つめながら、好奇心以外に芽生えたものがあるのだろう。コリンは顔を伏せると俺の服の裾を小さくつまんだ。

 俺はそのことに驚きはしたが言葉はかけない。信号を待ちながら喧噪と非日常を隣り合わせに感じながらふと空を見上げた。


 だが、そこからが地獄だった。女性専用のお店に入ることに男は抵抗というのが勿論あって、ただ前を通りかかるだけでも何かやましい気持ちに陥ってしまう。人の付き添いであってもおいそれと“入る”ことに気が引けるものだ。


 そしてなにより・・・。


「お客様のサイズに合うものが当店にあるか探してまいりますね!」


 こういう状況に限って時間とは長く感じてしまうのである。


「あの、この“ぶらじゃー”と“ぱんつ”というのは一体何なのですか?」

「へぇっ!?それは・・・その、女性専用の下着だよ。」


 裏返った声が恥ずかしい。この店に入るのも恥ずかしい。羞恥心のダブルパンチに眩暈が起きそうなほどだ。


「人間はどうしてこのようなものを身に着けるのですか?」

「それが世間一般のマナーなの。」

「“まなー”というのは何なのですか?」

「え?マナーっていうのは・・・その、決まりみたいなもんかな。」


 「そうなんですか、不便ですね・・・」と漏らす彼女に俺は、普段の日常生活で横文字を多く使っていたんだなと痛感する。いざというときにそれをわかりやすく説明できない自身の語彙力の無さが疎ましい。


 下着を買い終えほっと胸を撫でおろす。その安堵感と同時に空腹感も顔を見せた。何か食べたいものはあるかと尋ねるも、勿論俺の知っている料理は出てこない。が、ふとコリンが目を向けて立ち止まる。


「どうした?」

「いえ、あの“らあめん”というものなんですか?」

「あー、あれは小麦を細い麺状にして・・・」


 ラーメンって言葉で説明するの難しいんだな。言い淀む俺を覗き込むコリン。俺は痺れを切らし強硬手段に出る。


「あーもう!百聞は一見にしかず!食えばわかる!」

「はっ、はい!」


 扉を勢いよく開け「らっしゃい!」というおなじみの挨拶が聞こえる。そしてここに新たな伝説が誕生する。

『異世界エルフ、家系ラーメンを食す。』


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