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入り口は→電子レンジ  作者: 桐生 甲斐
第一章
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まだ見ぬ不安と、春の色

原因を突き止めようにもこの電子レンジも一見普通の電子レンジなだけにタチが悪い。変なつまみや暗号なんてものが書いてあれば手掛かりになるのだが、書いてあるものと言えばW数と時間のダイヤル、パナ〇ニックのメーカー名、温めか解凍を選ぶボタン。

つまるところ普通の電子レンジだ。中を覗いてみても回転式の円盤があるだけで何の変哲もない。


「電子レンジが異世界とつながることなんてあんのか・・・?」

「あるもなにも現に私がこうして現れちゃいましたし。」


 『あはは』と苦笑いしながら頭をポリポリとする仕草は可愛い。

 だが原因もハッキリしないまま新生活を迎えるわけにもいかない。俺は彼女に『このままここでじっとしていてくれ』と一人部屋に残し先日の電気屋に足を運ぶ。するとどうだろう。またしても悪い夢なんじゃないかと俺は一体どうすれば良いのかと、頭を抱えることになる。


『長らくのご愛顧、誠にありがとうございました。 店主』


 安く売られていた電子レンジの正体は閉店セールに出された売れ残り商品だったのである。店の前で立ち呆けていると近くを通った主婦の人に、「もうそこの人引っ越しちゃってるから誰もいないよ。」と言われ、またしても俺は困惑に支配されることになったのだ。


 落とした両の肩が戻らないまま俺は家に帰る。玄関を開けると視界には、ベランダから顔を出し物憂げに外を見つめる件のエルフが居た。


 俺の帰宅に気づいたのか彼女はゆっくりと振り返る。目元が赤い。夕焼けのせいか、それとも零れ出る不安のせいか。理由を聞くことを赦さない、いや聞いてはいけない。そんな気がした。


「何か原因はわかりましたか?」彼女の問いに俺は首を横に振る。「そうですか」と弱々しくつぶやいた彼女に俺は―


「もしよかったら帰れる目処が立つまでここにいるのはどうだ?」


 刹那、俺は自分が口にした言葉に驚く。眼前の彼女もまた目を見開いた。


「今回の件は俺にも原因があるわけだし!いや、直接的な原因はわからないままなんだけど・・・、でもその何て言うか」


 こういう時にカッコよく言葉を決めることができていたら、これまでの俺の人生も少しは色鮮やかに映える日々だったのではないかという後悔と恥ずかしさが頭をよぎる。

 しどろもどろに言葉を吐き出す俺を見て彼女は小さく笑った。


「あなたは不思議な方ですね。」

「え?」

「私の涙の訳を聞かないんですもの。人の機微に敏感なのですね。」


 俺は口を噤む。ここで何か口にしてしまってはいけない。


「・・・。わかりました。短い間になるよう祈っておりますが、ここで少しお世話になろうと思います。」


 開け放たれたベランダの窓からフワリと風が入ってくる。

柔らかな金色の髪が優しく揺れたかと思うと、それを耳元で抑え恥ずかし気に彼女が微笑む。名残惜しく通り抜ける肌寒い風と、季節の変わり目を告げるような暖かな夕焼けが、春の訪れを感じさせた。

 彼女の頬も同じ、春の色をしていた。


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