ダチュラ
自分にはない他人の魅力を欲しがることきっと誰にでもあることだと私は想う、そしてそれを欲しがることや羨ましく思うことは醜いことではない。
私は今日も浅野楓を遠目で眺めている。彼女の白く透き通った肌、はっきりとした二重の目、輝く少し茶色がかった瞳の色、ほんのりと桜色をした唇、無邪気な子供のような屈託のない笑顔、鈴のなるように綺麗な笑い声、誰にでも平等なその美しい心
何もかもが完璧な彼女が羨ましい。私は彼女のような人間になりたかった、ずっとずっとーー
なりたいならなればいい、だがその時期は今ではないと思った。私が彼女の真似をした所で彼女になれる訳では無いし真似をしても周りの目にはさぞかし滑稽に映るだろう。今はただ浅野楓がどのような人物かただ観察するのみだ。
浅野楓とは1度だけ会話をしたことがある。ほんの数分言葉を交わしただけだった。
私が放課後帰宅するために学校の廊下を歩いているとパタパタと足音が聞こえてきたのだ。振り返ると浅野楓がこちらに駆け寄ってきていた。走る姿も絵になるなと私はその時思った。
「佐々木さん!」
まさか話しかけられるとは思っていなかったので返事ができなかった。私と彼女では住む世界が違っていたから話すこともなかったし話せるとも思っていたかったからだ。
「良かった、間に合って…」
「…何か用事?」
「うん、委員会のことで。二学期は佐々木さんが学級委員なんだよね?それの引き継ぎをしなきゃならなくて、いつなら大丈夫か聞かなきゃならなかったから」
「そっか」
私は学校生活を基本真面目におくっている生徒だったので担任の教師に今学期の学級委員に指名されてしまったのだった。もちろん嫌だったが断りづらくて渋々引き受けることになってしまった。
「何時にする?」
「今からでも大丈夫だけど…浅野さんは?」
「あたしも今からでも平気だよ!じゃあ教室に戻ろうか」
彼女が歩く度にひとつに結んでいる髪が揺れている。髪の毛も艶やかな黒髪で本当にこの浅野楓という人物は完璧なのだと思い知らされる。
引き継ぎは滞りなく行われた。簡単に簡潔に説明をしてくれたお陰で時間はそうかからなかった。彼女は頭も良い。
「そうだ、一緒に帰ろうよ」
「えっ」
「あたし佐々木さんと話したことがなかったよね?」
「そうだね」
「でしょ?帰ろうよー家どのへんなの?」
浅野楓はコミュニケーション能力も高かった。会話を繋げてくれる、話しやすく冗談も言えて会話をしていてとても楽しかった。
「浅野さんってどこの高校行くの?」
「うーん…確定ではないけど○○高校かな!」
この辺りでは有名な進学校だった。
「佐々木さんは?」
「私は…△△学園」
「私立だよね?それに少し遠いね、寮生活?」
「うん、そうなるね」
私が少し遠くの学校を選んだ理由はもちろん浅野楓のような人間になるためだった。同じ学校は以ての外、もし違う学校だとしても同じ学校の出身の人がいたら真似をしていることを知られるのが嫌だからだ。だから、わざわざ遠くの誰も行かないような私立の学校を選択した。
そこで私は生まれ変わるのだ。浅野楓のような人間に。
「それじゃあまたね!」
「うん」
彼女の背中が遠くなっていく。その背中に私は手を振る。
「バイバイ」
それっきり浅野楓と話すことはなかった。
時は過ぎ、私は卒業し無事に△△学園に入学することができた。
「美里、おはよー」
「おはよう」
たくさんの友達に囲まれた学園生活をおくっている。
憧れの浅野楓のように。