11 一つの異物
いつも通りの朝。
起きて、顔を洗って、身支度をすませる。
朝食を口に放り込み、忘れ物がないかを軽く確認する。
そうして扉をあけて外に出れば、いつも通りの景色が広がっている。
「……よし、今日も頑張るか!」
ちゃんと周りに人がいない事を確認して、それでも小さな声で気合を入れる。
「えらく気合がはいっておるのう、主様よ」
「うん、まぁね」
くぁ、とあくびをするりょーこさんを横目に見ながら、僕も改めて深呼吸する。
朝の冷たい空気が頭の中に残っていた眠気を、洗い流していった。
「なにかあったかや?」
「…………」
何かあったかと言われれば、もちろん昨日のことだ。
渡会さんの元へ行き、いろいろと教えてもらった。
帰ってくるときも、どこかふわふわした感じで。
寝て起きたら全部夢だった、なんてこともあり得るかと思ったぐらいだ。
けれど、僕の手元には、しっかりと隊証があった。
それは、昨日のことが本当だったという、紛れも無い証拠。
けれど。
「いや、なんとなく……だけど」
「くふふ……」
けれど、正直、それがこの早起きとは特に関係ない。
ただ漫然と、頑張ろうと思った。
それを見透かされていたのだとわかるとなんだか照れくさくなってしまう。
「ま、そう言うことがあってもよかろ」
「ぐ……それじゃまるで僕がいつもは怠け者みたいじゃないか」
「みたいも何も、朝はゆっくり寝てる派じゃろ?……ほれ、喋ってると遅くなるぞ?」
「え?……あ、本当だ」
さっきまでは静かだった道に、ちらほらと早めに家を出る人が見え始める。
もちろん、まだ多くはないけれど、時期にたくさんの人が通っていくだろう。
「やれやれ。面倒じゃな、日直というものも」
「あはは……それは言わない方向で」
別に日直だから早く行かないと、と言うことはない。
けれど、仕事は早めに取り組んでおくべきだろう。
そのために早めに家を出たのだから。
「じゃあ、行きますか」
「うむ」
◇◆◇◆◇◆
いつもより早い時間の電車の中。
それほど多くはない人の間を縫って進むと、いつもの場所が見えてきた。
「おっす、ユート」
「あ、おはよう、綴」
広くはない電車の中で、挨拶を交わす。
……ん?
「て、綴!?」
「おわ、なんだよ急に。どうした?」
じろり、と周りの人に睨まれてしまったので謝ってから、その大声を出してしまった原因、綴に向き合う。
「なんで、ここにいるの?」
「なんで、ってそりゃお前、学校に行くからじゃねーか」
「いや、そうじゃなくて」
綴も僕と同じで、朝に強くない。
だからこそ、いつも僕が行く時間ぐらいに電車で鉢合わせすることが多い。
けれど、今日はいつもより早い電車に乗っている。
まさかそこで綴と会うとは思っていなかった。
「あー、そういうことな。いや、なんか目が覚めちまってな。二度寝するのもアレだし、早めに出たわけよ」
「……あ、そうか」
なるほど。
考えてみれば単純なことだ。
「で、お前は日直だったよな」
「そ。それで早く出たのに、綴がいたからびっくりしちゃったよ」
「はは、悪い悪い」
そんないつも通りの会話。
いつも通りの朝。
それは一つの、たった一つの物で壊されてしまった。
カツンーーー
その音に振り返ってみれば。
「あ!」
「?」
見覚えのある、見覚えのありすぎるそれが、白く光りを放ち始めた。
僕に続いてそっちを振り向いた綴を、巻き込む形で。