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9話


ズカズカとレグルスに歩み寄るアリス。その側では頬を膨らませたサーシャの姿があった。


「何してたのよ!?」


レグルスの前に立つと腕を組む。どうやらかなりご立腹らしい事が伺える。綺麗な赤い髪がいつにも増して目についてしまう。


「ん? ちょっと迷ってた所をこの人に助けられたんだ」

「ふん! また何処かほっつき歩いてたんでしょ!」


プリプリと怒るアリス。モルネ村にいた時からサボるレグルスを見つけ出し引き摺る事が多かった彼女。今日はいつにも増した様子だ。


「気がつくと1人だったもんで」

「ふん! そのまま何処かに行ったら良かったのに」


頬をポリポリとかくレグルス。

(どうしたもんかな? こうなったアリスは長引くからなぁ)


これまでの実績に裏打ちされたレグルスの予想は的確に当たっている。そこには、エントランスの中央で腕を組む少女に見つめられる少年の光景があった。


すると、アリスの後ろからヒョコっと顔を出したサーシャ。


「そうだっんだぁ。てっきり、また昼寝でもしているのかと思ってた」

「サーシャもこのバカに何か言って!」


仲間を見つけたとばかりに頭を向けるアリスは、義妹サーシャに期待した表情を向けていた。レグルスの弱点であるサーシャならと言った具合だ。


当のサーシャはそんな様子に苦笑いを浮かべるが、ふと思いついたかのように、いたずら好きのする顔で爆弾発言を放った。


「まぁサボってた訳じゃないし。でもでも、アリスちゃんってレグルスがもし村に帰ってたらどうしよう? 大丈夫かなぁ? とか焦ってたよね」


その言葉に周囲は凍りつく。


「うっ、そ、そんな」


言葉を詰まらせたアリスはギギギとロボットのように頭を動かすとレグルスを見やる。言葉に詰まった時点で反論は虚しくなるだけだ。


「という事だ。アリス、今回は何も無かったことにしよう」

「そ、そうね。そうしましょう」


どうやらレグルスの馬鹿らしい交渉は上手くいったみたいだった。これ以上は墓穴を掘りたくないアリスと、これ以上は面倒なレグルスとの利害が一致した瞬間だった。


キリッとサーシャを睨むアリスの表情からは、この裏切り者! といった感情がふつふつと伝わってくる。


「私はレグルスさんは大丈夫だって信じてましたから」


事態が収束したかに見えた時、優しげな笑みを浮かべたラフィリアがやってきた。あたかも自分だけはそんな事を思っていなかった、というような発言に


「ちょっ! ラフィリア!」

「やっぱりラフィリアちゃんって腹黒いよね」


自分だけが貧乏くじを引かされたアリスはツインテールを振り乱して地団駄を踏んでいる。先程から顔の赤さが止まる事をしらない様子だ。


王都、それも学園に来てまでもいつも通り4人だった。


「もう終わったか?」

「はは、相変わらず面白いわね」


旅の最中に、もう何度も見た光景に呆れ顔のリンガスと微笑を浮かべるメリー。この場にようやく全員が揃った形になった。


リンガスはローズの方へと向くと、流麗な動作で騎士の礼をとった。その姿はまさしく騎士と呼べるような姿だ。


「ローズ様お久しぶりです。団長には何時もお世話になっています」

「いえいえ。それよりもリンガス様、いつも通りで構いませんわ」


そんなやり取りをする2人。可憐な笑みを浮かべるローズと凛としたリンガス。誰が見ても騎士とお姫様のように見えてしまう。


そんな光景に呆気にとられるレグルス達は事態を見守っていた。


「ふぅ、やっぱこういうのは似合わないな。それでは何時も通りにさせてもらうわ」

「そうですね、リンガスさんには似合わないかと、ふふ」


清々しく元に戻ったリンガス。上司であるシュバルツの娘ローズ。リンガスは彼女が小さい時から知っているのだった。


「メリーさんもお久しぶりです」

「お久しぶりね、こんな所で会えるとはびっくりよ」

「所でローズは何年生になったんだ?」

「三年生ですよ、もう今年で卒業です」


この滅竜師を育てる学園は三年制であった。15才になった時に竜式を合格したもの達が通う場所だ。国に仕えるために、教養から始まり、滅竜師としての訓練など、様々な事を学べる。


だが、ここは毎年かなりの数が放校される厳しい環境だ。涙を流して故郷へと帰っていく者が後を絶たない。


そんな学園で三年生になれたとあれば、かなり優秀だとされていたのだが、リンガスもメリーも特に驚いた様子はない。意味するところは、彼らが知るローズがそれ程に優秀だったからだ。


「やっぱり子供の成長は早いなぁ」

(リンガスおじちゃんって後ろを着いてきていたローズの面影はなしか)


そうしみじみと呟くリンガスは肩が落ち何処か遠い目をしていた。彼が隊長という事もあり、よくシュバルツの自宅に招かれる事が多かったのだ。


「リンガスさんもまだまだ若いですよ。所でこちらの方達は?」


そんなリンガスを華麗にスルーしたローズは本題である少女達に目を向けた。鮮烈な登場だった彼女達が気になるようだ。


「そうだった。今回の竜式の合格者達だ。彼女達は全員がとてつもなく優秀だぞ」

「まぁ! リンガスさんが言うならそうなんでしょうね」


そんな会話が聞こえてきた3人。面と向かって竜騎士に褒められた彼女達は照れ臭そうにする。そわそわと髪を弄るアリスににへらぁ、と笑うサーシャ。


ラフィリアも顔を赤らめているのは何とも新鮮だ。


「あれ? レグルスさんも合格者ですよね?」


リンガスの言葉にはレグルスが含まれていなかった事に気が付いたローズは不思議そうに尋ねた。


彼女の視線の先には大きな欠伸をしているレグルスの姿。彼は視線を感じたのか半目で口を開いた。


「俺は連行されてきた」

「ふぇ? っ! 失礼しました。それはどういう事でしょうか?」


可愛らしい声がこの場に響き渡る。


ローズはあまりにもな返答についといった感じだ。だが、すぐさま取り繕っている。何もなかったかのように振る舞う姿に誰もこの件には触れない事にした。


ドスッ


「こらっ! 相手は騎士団長の娘なのよ」

「痛い! 分かった、やめろって」


レグルスにだけ聞こえるように話すアリスは脇腹にドスドスと肘打ちを喰らわせていた。たまらずといった具合に顔を歪めるレグルス。


「コイツは見ての通りの奴でな。竜式にも不合格だったんだが、聞くところによると面白そうな奴だったんで連れてきたんだ」

「え!? 不合格ですか、リンガスさんが特別扱いする少年とは中々に面白そうですね」

(これは面白そうな事を聞きました。そんな事を聞けばワクワクしてきます、一体どういう事なのかしら)


曲がった事が嫌いな筈のリンガスが、不合格にもかかわらず連れてきた少年。ローズは心の中で今後が楽しくて仕方がないとばかりに心が弾んでいた。


「リンガス、そろそろ時間がないわ」

「っとそうだな、早く行かないと間に合わないな」


時間を気にするメリーの言葉にリンガスも今気がついたように返事をした。ここに到着してからかなりの時間がたっている。急がないと式典に間に合いそうにない。


モルネ村が辺境という事もあり、王都には最後の到着組であった。そろそろ合格者達が集められて行われる式典の時間が迫っていたのだ。


「そろそろ時間も無いし行ってくる。ローズもまた今度な」

「あら、本当ですわね。またお会いしましょう」


急ぐリンガスは会話を切ると歩き始めた。アリス達もローズに別れを告げて続いて行く。今度はしっかりとレグルスの姿もあった。


「レグルスさん! またお会いしましょう」

「ほいほーい」


その背中に声をかけたローズは、手をゆらゆらと降るレグルスを見つめていた。それは、何か面白いものでも見つけたかのような無邪気な顔だった。



廊下を歩く一行はかなりのスピードで進んで行く。


「相変わらず大きいんだよ、ここは」

「文句を言っても仕方がないわ」


建物が大きすぎるせいで、式典の会場までの距離が遠い。苛立たしげに呟くリンガスを嗜める。


「歩くのしんどい」

「はい! お兄ちゃん、もうすぐですよー」

「こう、扉を開けたら会場に着くみたいな道具ってないのかな。そもそも俺って必要?」

「ケツを蹴るわよ」


グダグダと言いながらもしっかりと歩くレグルス。その後ろにはいつでも蹴れるようにと構えるアリスの姿があった。


アリスのお陰で何とかなっているレグルス。もしもアリスがいなければコイツはどうなっていたのかと心配になってきそうだ。


長い廊下を抜けた先に、ようやく見えた大きな扉。この先が式典が行われる会場だ。


「ようやく着いたか。お前ら準備はいいな?」


そう呟いたリンガスの視線の先には3人の姿。誰にも詳細な内容は伝えられていなかったが、迷いのない顔で頷く。


尋ねた相手にレグルスが含まれていないのは今までの経緯のせいであった。何を聞いても面倒そうな言葉が返ってくるのはリンガスも承知だ。


3人の表情を確認したリンガスはその大きな扉に向かって名乗りをあげる。


「翡翠騎士団所属、竜騎士リンガス。そして、その推薦者の者達を連れてきた」

「同じく、竜姫メリー」


堂々とした名乗りに答え、大きな扉が開いて行く。すると、隙間から漏れる眩い光に思わず目を瞑ってしまう4人。



「さて、ここからが本当の竜式典だ」


その言葉と同時に光は止み、彼らの目に移ったものは大勢の少年や少女達のこちらを品定めするかのような視線だった。

















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