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86話


 あの戦争が一先ずの決着を見た事で学園寮に戻ってきていたレグルス達であったが、この場にいる4人の表情はずっと暗かった。それは肝心なレグルスの意識が戻らないという状況から来ている。


「お兄ちゃん、まだ起きないね……」


 心配そうに眉根を寄せるサーシャ。


「グレイスさんはサラダールが復活した事でレグルスさんに生じた莫大なエネルギーを体に順応させる期間と仰っていましたが……。アリスさん、ちょっと落ち着いてください」

「わ、分かってるわよ」


 レグルスの部屋の前でソワソワと歩き回るアリスにラフィリアが注意する。レグルスが倒れてから既に4日ほどの時間が経過していた。


「ここは私が寄り添った方が――」

「カエデは変な方向になってるわよ!」

「そうですか?」

「あーもおっ」


 コテンと小首を傾げるカエデと頭を掻きむしるアリス。どうやら彼女達に限っては何があろうといつも騒がしいのであった。





「相変わらず騒がしいな。この騒がしさは中々に頭にくる」

「ロイス様は懐かしいと仰っています」

「マリー……もういい」


 やれやれと頭を降るマリーについにロイスは諦めた。久し振りのロイスの登場にアリス達もまた目を大きくさせていた。この4日間の間にロイスが来なかった理由は明白だ。


 シェイギスによって死んだ兄の葬式を行っていたという事を知っていたアリスは探るように問いかけた。


「ロイス……もういいの?」

「いいと言えば嘘になるが、竜騎士という身分になった以上、仕方がない部分もある。ただ、僕はシェイギスを倒せるくらい頑張ろうと決心したよ」


 そう言い切ったロイスの目は揺るぎなかった。


「ところでそちらの方は?」


 いつもの知るメンバーの他に知らない人物を見つけたロイスは問いかけた。


「新しくレグルスの竜姫になりましたメシア王国のカエデと申します」


 さっと頭を下げるカエデ。サラサラの黒髪が舞うように零れ落ちていく。


「セレニア王国のロイス・バーミリオンだ。こうも綺麗どころとばかり契約するとは……どうやらレグルスはとんだ女たらしのようだ」

「あれれー? もしかしてカエデちゃんに一目惚れぇー??」


 ワクワクと会話に割り込んだサーシャの口元はピクピクと揺れている。


「そ、そんな事はない!! 僕はマリーと――。いや何もない」

「ロイス様……」


 その瞬間、アリス達の黄色い声が屋敷内に響き渡った。思わぬ方向に転んだ事態にあたふたとするロイスと顔を赤らめるマリー。そして、騒ぐ4人が落ち着くのに相応の時間を要していた。


 彼らの騒ぎを止めたのは再度のノックであった。


「あっ!! ローズ先輩!」

「ロイス君も行くって行ってたから都合が良いと思って来たの。昨日ぶりね」

「何か分かったんですか!?」

「お父様に色々と聞いてきたわ。一先ず中に上がっていい?」


 リビングに集まった7人。ローズはシュナイデルという騎士団長の父からあの手この手で引き出してきた情報を共有する。


「どうやらかなり面倒な事になっているみたいなの。被害の少なかったセレニアとメシアに対して他国の民達が悪感情を抱いているというものよ」

「何それ!?」


 まさかそのような事になっているとは思いもしなかったアリスがガタリと立ち上がる。


「その反応は当然よ。セレニアにはベルンバッハ様と騎士団長がいて、メシアにはレグルスさんと八刃がいた事以外は他国と同じ状況だった」 

「じゃあどうしてですか?」

「こんな状況で人は誰かのせいにしなければ生きられない。ってお父様が言っていたわ」


 聞き返したアリスはローズの言葉が進んでいくうちに顔が怒りで真赤に染まり始めていた。


「ルーガス王国は―」


 ルーガス王国はブレスにより一つの都市が消失した。そして、聖騎士も過半数以上を失い王都も半壊している。そうなれば民の暮らしは酷いものとなるのは当然であった。


 突如として困窮した人の精神は酷く脆い。同じ五王国の中で二つの国の被害が余りにも違い過ぎる事に民達は嫉妬していた。


「それに、ここ最近になって流れ始めた噂が決定打になった」


 今回の襲撃を予知していたセレニアとメシアは意図的にその情報を伏せて他国の国力を削いだ。というものだった。セレニアもメシアもベルンバッハや八刃を失っているが民達はそこにフォーカスを当てない。


 彼らが見るのは自分達の生活する都市である。そうなれば結果的だけを見ればあながち間違いでもない、と客観的に見えてしまうその噂は民達の自制心を取り払うのにそう時間はいらなかった。


「今は国王のアルノー様が対処しているけど今後どうなるかは分からない」

「それはまた……愚かな」


 天を仰ぐロイス。彼の言葉には誰もが同意するものであった。


「そして、ロウダン王国はもっと危険な状態になっている」


 ロウダン王国とセレニア王国の軍事的な競争は誰もが知るものであった。いつの時代も傑物が多く揃っていたセレニア王国に対抗するようにロウダン王国は軍事に傾倒していた。


 特にここ最近では滅竜騎士二人、そして英雄ベルンバッハと騎士団長達。それらはまさしくセレニア黄金時代と呼んでいいほどに傑出した時代だった。


 その他めにロウダン王国は軍事力に注力し、民の生活水準はセレニアと比べて劣るものだ。だが、ロウダン王が喧伝する英雄ガイネクスを筆頭に滅竜騎士、そして5人の将軍の武勇伝はセレニアに負けず劣らずであり、誇りを胸に民達は協力していた。


 しかし、今回の戦争によって民達は結果を突き付けられた。セレニアとロウダンの現状を知る。


「英雄ガイネクス……確か元滅竜騎士ですよね?」


 記憶の片隅から名前を呼び起こしたラフィリアが問いかけた。


「ベルンバッハ様と同じく属性竜を倒したとされています。しかし、ロウダン王国以外では余り有名でないのも事実ですね。お父様いわくガイネクスはベルンバッハ様よりも数段落ちると言っていました」

「それは私もお兄さんから聞きました。小さい頃にロウダン王国の英雄について尋ねるとあの国はセレニアに対抗する為に英雄を作り出したと……」


 二人の発言に大凡の事を察した皆。今までならそれでもどうにかなっていたのだ。軍事力に注力するという事は通常の竜相手にそう遅れをとる事もなく、相対的に見ればロウダンはセレニア、メシアに次ぐ三番手だったのだから。


 しかし、相手が冥府や六王姫では話が違う。


「ロウダン王の誇張に気付いた民は連日王宮に詰め掛けているようで、収集がつかない状態です」

「それは自業自得だねぇ〜」

「でも民が暴動を起こしても竜騎士がいれば抑えられるんじゃあ……」


 一般人と竜騎士とではその強さは次元が違う。鎮圧する事はそう難しいものでは無いように思えたアリスは単純な疑問を呈した。


「それが一番の問題です。滅竜騎士ルーフェルトが爆発で死に、ガイネクスと将軍の半数は抵抗を許されずに六王姫に殺されました。トップの簡単な死と圧倒的なサラダールの姿を見たロウダンの騎士達は戦意を保てず瓦解です」

「え!? 瓦解?」


 耳を疑うサーシャ。


「ええ、瓦解です。実際に調査に行った飛竜隊の情報なので確実かと」

「そんな……」

「そして、リシュア都市連合、ロウダン王国にも同じ噂が流れ始めています」


 一気に暗くなる室内。


 リシュア都市連合は謀略による内部分裂から始まった内線が収束していない。ルーガス王国の民はセレニアとメシアに対して敵対心を顕らにしている。そして、ロウダン王国では民の暴動と軍そのものが機能していないというもの。


「あのサラダールという化物相手に対抗できるのは二国だけ……人類側は足並み揃わず」


 ロイスの呟きが重くのしかかった。


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