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8話

「うわぁぁ、おっきいね!」


そんな感嘆の声を上げたのは、王都を見つめるサーシャ。目を輝かせて手を叩く姿があった。


「初めて来たけど、やっぱりデカイわね」

「そうですね、何かこう圧倒されます」


アリス、ラフィリアも王都の威容に息を呑んでいた。周囲に柵だけしかないモルネ村しか知らない彼女達にとって、目の前にそびえる外壁は衝撃だった。


この王都が存在するセレニア王国とは、数ある国家の中でも経済的に見ても、人口的に見ても上位に位置する大国だった。


そんな国の王都はやはりというべきか、壮大な作りになるのは当たり前である。


この大陸は円状であり、大まかには5つの国が存在している。中心にはアガレシア皇国と呼ばれる国が位置している。


ここが、サラダールが生まれた国だ。人類の英雄を生み出したこの国が中心になるのは必然だった。


後はアガレシアを取り囲むようにセレニア王国を含めた5カ国があり、後は国と呼ぶには小さいような、小国や都市群などがポツポツと存在している。


そんな大きな王都を見て、ワイワイと楽しそうに騒ぐ3人は年相応の姿だった。


「俺が言うのも何だがこの王都はかなり大きい方だぞ」

「へぇ、ここで暮らすのか」


アリスの言葉に期待を募らせる3人。やはり、いつの時代も都会暮らしには憧れるのかもしれない。


「さて、そろそろ入るぞ」


その言葉通り、馬車は入り口の側まで来ていた。


「あれ? 人がいないですね」


ふと、入り口を見たラフィリアが疑問を口にする。人が溢れ返っていると聞いていたのだが、人だかりは見えない事が原因だ。


「それはね、この王都は馬車と人との入り口が分けられているからなの」

「その通りだ。一緒にすると一日中かけて並ぶ事になる。普段から馬車を使うのは商人や国の関係者が多いからな」

「なるほど、ご説明ありがとうございます」


疑問が解けたラフィリアは礼儀正しく挨拶する。王都は村では考えられないような贅沢な作りであった。


「ほら! レグルス、起きなさい!!」

「んん。 あれ? もう着いたのか?」

「寝過ぎよ。全く、ほら顔を拭いて」


会話に加わっていなかった彼は、馬車酔いのせいもあり、道中はずっと寝ていたのだった。


寝ぼけた目を擦り起き上がった彼に、アリスはハンカチを差し出した。


「ありがとう。ほほぉ、これが王都か」


受け取ったハンカチで顔を拭いつつ、見た王都に感嘆の表情を浮かべた。


尚も進む馬車は門に辿り着く。衛兵が詰めており、先頭を行くリンガスに気が付いた1人の青年が、走り寄って来た。


「リンガス様、ご苦労様です!」


ピシッと敬礼をする青年はまだ若く、20代半ば程である。憧れの眼差しでリンガスを見つめていた。


「ありがとう。そちらもご苦労さん。で、通して欲しいのだが」

「はっ! 直ちに」


青年はキビキビとした動きで走り去っていく。その時に、開門!開門!と叫び声が聞こえて来た。


「はは、そんなに急がなくても構わないのに」

「仕方ないわ」


そんな青年の行動を見て苦笑いを浮かべるリンガスとメリー。そんな青年の行動は仕方がないのかもしれない。


「凄い人気っすね、リンガスさん」

「まぁそうみたいだな。竜騎士ってだけで周りはいつもこんな感じだよ。滅竜師達の規範になるってのは大変だよ」


レグルスの言葉に返すリンガスは、驕るでもなくどことなく疲れた様な顔で答えたのだった。彼ら竜騎士には彼らなりの苦労が垣間見える一幕だった。


「さてと、取り敢えず学園に向かおう」


開け放たれた門を通り、一向を乗せガタゴトと進む馬車。ようやく王都の中へと入っていった。


「こんなに建物があるのは初めてだ」

「お兄ちゃん! こんな建物しかない場所だったらいい昼寝スポットは確保できないね!?」


王都の道には左右に連なる色とりどりの建物。見渡す限り途切れる事はなく続いていた。人も多く、目を向ければ必ずといって良いほどに賑わっている。


サーシャの言葉にレグルスは顔を顰めた。モルネ村とは違い長閑な平原が広がってもいなければ、静かな場所を探す方が大変そうに見えたからだ。


「ま、今はそれはいいの! それよりも学園よ、学園!!」

「楽しみですね」

「お兄ちゃんは何処でも寝られるし確かにどうでもいっか。学園ってどんな所なんだろ」


レグルスの話題はそうそうに終わり、学園について盛り上がる3人。特に昼寝に関しては、何処でも寝れるレグルスが困るといった事は想像がつかないのだ。


「「竜騎士様〜!」」


子供が馬車を見て声を上げる。中には馬車の後ろを追いかけてくる様子まで見える。


「あれって翡翠騎士団のリンガス様じゃない!? 相変わらず凛々しいわ」


他にはリンガスを見てヒソヒソと話す奥方の姿。


「竜姫のメリー様だ! 相変わらず綺麗だなぁ」

「お前なんか相手されねぇよ」

「違いねぇ」

「「ガハハハっ」」


昼間から飲んでいたのか、メリーを見て顔を赤らめるおじさん連中達。誰も彼もが親しみと憧れをもっていた。


上機嫌に奥様方に手を振り返すリンガス。まるで、パレードのような光景だった。リンガスは満足そうに頷くと、レグルスの方へと向き直りニヤッと笑う。


「俺って結構人気だろ? グヘッ」

「リンガス、後で話があるわ」

「いや、悪かった。つい、な」

「あれだけ人の前では騎士らしくって言っていたのに」


怒るメリーに謝るリンガスという構図が出来上がっていた。どことなく誰かさん達のような関係にも見える。


メリーもリンガスも王都に帰って来た事で安堵したのだろう、普段通りに戻っていた。


「ねぇねぇ、やっぱりあの2人ってデキテルのかな?」

「こら! サーシャ、声が大きいわ」


ヒソヒソと話すアリスとサーシャ。竜騎士として契約しているのだから、そうなのかもしれないと考えた2人。


「ま、そんな感じだな」

「やっぱりそうだったんですか!?」

「詳しく!」


耳ざとく聞いていたリンガスの言葉にアリスとサーシャは食いついた。こういった話は女子が好むものだった。


「俺もお前達と同じで幼馴染だったんだよ」

「へぇ! 凄いですね!!」

「リンガスと王都に来てそのままって感じだったわ」


どことなく照れ臭そうに話すメリー。それにズイっと身を乗り出してアリスは聞き入る。ラフィリアも耳がピクピクと動いている事から気になっているようだ。


「どっちからですか?」

「私からね。リンガスってかなりの鈍感だったから」


ジト目で見るメリーにリンガスは情けない顔をする。一方では、ボーっと外を眺める1人の少年に3人分の視線が集まっていたのだが。


その後も、このメンバーは話が合うのか色々と話していたがリンガスが話した。


「さてと、これが学園だ」


視線が集まる。そこには大きな時計台が目につく建物があった。真っ白な壁に所々に細工が施され、綺麗な印象を受ける出で立ち。


高さも4階程と周りの建物よりも高い。そんな立派な建物が彼らが通う学園だった。


「ひとまず着いてきてくれ」

「みんな、はぐれないでね。建物が大きいから迷子になるわ」


手慣れた様子で中へと入っていく2人。素晴らしい建物を見たばかりの3人は期待に目を輝かせていた。伝統ある滅竜師を育てる学園。


今までもこの学園を卒業した数々の偉人達がいた。この国で活躍する竜騎士達など誰もが通る道。


「よし、行くわよ!」

「頑張らなきゃね」

「どんな所なのかしら」


そんな学園を見つめる3人は決意を新たに踏み出した。


馬車の中でゴソゴソと蠢く影があった。地面を這うように動くその正体は


「あれ、いつの間にみんなどこ行った?」


キョトンとした様子のレグルスは周りに誰もいない事に気が付き声を上げた。度重なる興奮のせいで、置いていかれる形になった彼。


「うーん、どうすっかな」


おそらくすぐに気がつくだろうからこの場で待つか、それとも少し出てみるか。そんな事を考えるレグルスだが、どうやら決まったみたいだ。


「行くか」


怠け者らしくない動きで馬車から飛び降りると、彼もまた学園へと入って行った。


「おおぉ、この絵って売ったら幾らすんのかな?」


エントランスから廊下にかけて数々の絵画が飾られていた。レグルスはそれを見て不謹慎な言葉を吐く。


「あれ? これってリンガスのおっさんじゃん」


ふと目についた絵には今よりも若いのだが、どことなくリンガスに似たような男の姿があった。首を傾げて考え込むレグルス。


少し下を見ると、竜騎士と書かれた札と日付が書かれていた。


「竜騎士になった時に書かれるのか」


絵の正体が分かりふむふむと頷いていると


「竜騎士はどうした!? 引率者も無しにそこで何をしている! 今は関係者以外立ち入り禁止の筈だぞ」


後ろから神経質そうな男が問いかけてきた。会うと面倒そうな雰囲気にげんなりとするレグルス。


「いやぁ、はぐれてしまいまして」

「そんな事はどうとでも言える。身元が分かるまでこちらに来てもらおう。私は準竜騎士レイズだ、お前の名は?」


準竜騎士の部分を強調するように話すレイズ。どことなく高圧的な印象を受け、リンガスと同じ竜騎士でもこうも違うものなのかと思うレグルス。


「レグルスです」

(あぁ、これは面倒そうな奴だ。どっかに……)

「レグルス、なら付いて来い」

「お! おーす、シェリアじゃねぇか! 探したぞ」


周囲を見渡したレグルスは、近くを通りかかった少女にさも知り合いかのように話しかけた。


「え、あの、え!?」

「シェリア、何処いってたんだよ」


おどおどした様子のシェリア。事態について行けず困惑しているのだが、レグルスは止まらない。


「その子は?」

「学園の先輩シェリアですよ、いやぁこんな所で会えるなんて」

「あの、えと、ちが、うぅぅ」


頭がパンクしそうな程に顔を赤らめるシェリアと呼ばれる少女は恥ずかしげに俯く。


「お前は在校生だったのか? 先にそれを言え。だが、何で制服を着ていないんだ?」

「忘れました、あははは」

(ピーンチ、制服って何だよ)


シェリアを見れば、スカートと紺色のブレザーをきている。レイズは怪しそうにレグルスを見つめていた。俯くシェリアと笑うレグルス。


そんな混沌とした場にさらに1人の人物が現れた。


「あら、シェリアじゃないの。どうしたのかしら?」


どこか大人びたお姉さん、金髪をカールさせた少女が親しげにレグルス達の元へと歩み寄って行く。


「これは、シュナイデル団長の娘さんではないですか。ローズ様、お久しぶりです」


レイズは突如として慇懃な例をとる。言葉から彼女は5つあるうちの騎士団団長の娘という事だ。


「あら、レイズ様お久しぶりですね。それで、どうしたんですの?」


おっとりとした様子のローズマリーが問いかけた。


「いえ、そこにいる者が怪しかったので」


ローズは指を指された方向を向くと、何故かアイコンタクトをかわそうとするレグルスがいた。暫く考え込むローズ。


「彼は学園の者ですよ、身元は私が保証します」

「ほ、本当ですか? それならいいのですが」

「ええ、お仕事お疲れ様です。父もレイズ様の事は褒めていましたよ」

「あ、ありがとうございます。では、私はこれで」


そう告げられたレイズの顔は晴れそそくさとこの場を去っていった。


「さて、もうミーシャを離しても大丈夫よ?」

「ローズ会長、ありがとうございます」


ようやく茶番から解放されたミーシャは何度も頭を下げるとこの場を小走りで去っていく。出来ればレグルスと関わりたく無かったのだろう。


「すいません。助けて頂いて」

「全部見てたけど君は面白いわね。竜式の関係者かしら?」

「ええ、リンガスさんっていう竜騎士とハグれてしまって」


レグルスは一連の流れをローズに説明していく。


「リンガス様の竜式合格者なんですの。それは凄いわ。あら、申し遅れました私はローズよ。よろしくね」

「レグルスです。こちらこそ宜しくお願いします」


なんとか切り抜ける事が出来たレグルスは上機嫌な様子だ。


すると、


「ああぁっ! ここにいた!!」

「むぅぅ、何か綺麗な人といる」

「ふぅ、随分と探したのに。ふふふ」




ドタバタと駆けてくるアリスとサーシャ。その後ろからはラフィリアとリンガス達の姿があった。

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