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7話

ちょっと長いですが、キリの良い所まで。。

広い草原の中、2人の少年を取り囲む人影があった。


困惑したようなリンガスの視線の先には、サーシャの膝で寝ているレグルスとそれを囲むラフィリア。ピクニックに来ているお父さんとそれを囲む子供達のようにも見える。


「うぅっ」


横を見れば、今にも飛びかかりそうな形相で歯をギリギリと鳴らすアリス。悪鬼も逃げ出すような顔は乙女には似つかわしくなかった。


「ふむ」


一つ頷いたリンガスは目の前で座っている2人を見やった。捜索した結果、何故か頭から下を埋められていた少年達だ。


「「ひっ!」」

「何だ、随分と怯えられているな。何かした記憶はないんだが」

「リンガス、とにかく事情を聞きましょう」


顎をさすりながら首を傾げるリンガスにメリーが話しかける。それもそうだな、と言った具合にリンガスは当事者であるサーシャの方へと向いた。


「で、何があったんだサーシャ?」

「うーんとね、そこの2人に攫われたの。それで、契約しろって言われたんだ」

「「「な!?」」」


思わず口に出して驚く3人。サラリと告げられた内容が内容だけに何度か脳内で繰り返す。


「本当か!?」

「そうだよ」

「っ! そうか……。」


ガタガタと怯える2人をチラリと見たリンガスは理解した。これが本当の話だと。


何の反論も見せずに怯える姿が物語っていた。


「ダメよ、リンガス」

「ああ、すまない」


余りにも幼稚、そして、人の事など考えていない自分勝手な行動に今すぐ斬り殺したい感情が湧き上がるリンガス。


腰に下げた騎士剣に手が伸びた所で、気付いたメリーに諭される形になった。


「最低ね!」

「そうね、余りにも酷い」


そんな辛辣な言葉が聞こえて来た。同じ女性として思うところがあるのか、アリスもメリーも顔を顰めて件のエリク達を睨みつけていた。


「それで、契約したのか?」

「してないよ! おにーー。あっ、双頭竜ツインヘッドドラゴンが現れて何とか助かったの」

双頭竜ツインヘッドドラゴンか。よく中位竜相手に勝てたものだ」


頷くリンガスの視線はレグルスに固定されていた。だが、ピクリとも動かないレグルス。


肩を上下させ、気持ちよさそうに目を瞑る様子にリンガスは呆れていた。


(一体。それよりもよく正竜騎士相手に、いや、そもそもこんな状況で寝られるものだ。まったく面白い奴だ)


「何とかなっちゃった。こうみずちでズバズバっとね」


膝にレグルスを乗せたまま、身振り手振りで剣を持っているように振り回すサーシャ。


ゴトッ


「あ!」

「いてぇ〜」

「ごめんね! お兄ちゃん」


当然という所か頭が地面と激突するレグルス。少し涙目になりながら頭をさする。


そんかコントじみた遣り取りを流してリンガスは呟いた。その顔は面白いものが見れたというように。


「そうか、ならそういう事にしておこう。それよりも、コイツらの処遇だ」

「普通なら死刑ね」


とんでもなく物騒な言葉がサラリと吐かれる。ゴミを見るような視線で射抜くメリーはかなり頭に来ていた。


それを表すかのように、殺気を纏っている。


「そ、それだけは」

「だから言っただろ! 全部エリクのせいだ!! 俺は関係ないっ」


ついに怯えを通り越したのか、決壊したようにみっともなく喚く2人。顔面を蒼白にして言い募るエリクと激昂したフィット。


対照的な態度は如実に性格を表していた。


「だが、学園に通っていない貴様らはまだ竜騎士ではない。滅竜師でもない唯の見習いだ。それに未遂でもある。残念だが死刑にはできん」

「もしも貴方達が学園に通っていたらと思うと残念だわ」


彼らの言葉の意味はその通りだ。竜式を終えたとはいえ学生になった訳でもなく、ましてや契約が許される竜騎士として叙任された訳でもない。


そもそも、正式に滅竜師となる者には厳しい制約が交わされる。力ある者にはそれ相応の義務があるからだ。


その中でも罪が重いとされる事に、一般人への暴行、及び殺害といった当たり前の事。


そして、滅竜師の中でもっとも忌避される事に強引な契約があった。契約とは男性と女性が一生を共に戦い続ける事を誓い交わすものだ。


竜騎士の中には結婚している者も多くそれほどに重要な事であり、契約を許される竜騎士とは鍛錬の果てに辿り着ける誇りでもあった。


それを穢す行為は当然に極刑に値する。だが、裏を返せば滅竜師ではないものは? ともとれる。


「助かるのか!?」


喜びをあらわに叫んだエリク。だが、現実はそう甘くはない。


「命は助かるな。だが、もしかするお死ぬよりも辛い人生が待っているかもしれん」

「ど、どういう意味」

「奴隷落ちね。それも、過酷な犯罪奴隷として扱われるわ」


そう告げられた言葉。その意味を脳内で理解した2人は再び絶望した。犯罪奴隷の烙印を押されたものは生涯、過酷な環境で労働させられるのは有名な事だ。


例えば、新規開拓地において、危険なドラゴンが溢れ返る地での開墾。人が簡単に死ぬ過酷な地。


戦争になった際に、救援もなく物資もない、そんな状況で放り出される者。


いわば人権などなく、変えのきく物として扱われるのだった。強制的に契約させる事は気の迷いで許される罪とはかけ離れた重罪だ。


人の、竜姫の一生すらけがし奪ってしまう禁忌。


昔は滅竜師の道を剥奪するといった対応が取られていた。だが、聖域は男性なら誰でも使えるものであり、それを使えなくするようなシステムなどない。


未遂として滅竜師の道を剥奪された者達が強引に契約するといった例が多々あった。それを受けてこういう厳しい処置に変わったのだ。


見せしめの部分も大いに含まれているのだが。



滅竜師が禁忌を犯せば死をもって償う。禁忌を犯した一般人には過酷な環境をプレゼントされる。重たくも感じてしまうが


どちらがいいかはなってみないと分からないものだ。


「いやだ! いやだ! いやだあぁぁぁ!」

「僕は悪くない! こんなの横暴だぁ!!」


嘆く2人に憐憫の情を向ける者はこの場にはいない。例えここが王都であっても庇うものはいないだろう。


もしかすると石すら投げられる事態も起こりかねない事だった。


「メリー、信号を出してくれ」

「はい」


メリーが取り出した物は円筒の物体だった。それを空へと掲げると勢いよく投げた。


パシュッ


そんな乾いた音を残し、空には赤色の煙が広がっていった。そんな流れを見ていた一向。


そして、突然の行動にアリスは疑問を口にする。


「これは?」

「ああこれか。これは、信号弾と呼ばれる物だよ。意味はもう少し待てば分かる」


曖昧な返答に首を傾げるアリス。ラフィリアやサーシャも赤く染まる空を眺めていた。


ユラユラと揺れる煙を暫く見ていると、風に流され霧散していく。


そんな光景を見つめていると


バサッバサッバサッ


「あっ!!」

「飛竜!?」

「お兄ちゃん! 見て見て! すごいよぉ」


そんな声が上がり、サーシャがはしゃいだ様子で指を指す場所。そこには、空から舞い降りてくるドラゴンの姿があった。


5体のドラゴンが旋回しながら降下してくる。その圧巻の姿にアリス達は見惚れていた。


「驚いたか?」

「ふふ、リンガスったら」


お茶目な表情を作り笑いかけるリンガスとメリー。度肝を抜かれる形になった形のアリス達を見ていた。


ようやく地に降り立ったドラゴンの背中から人影が華麗に飛び降りる。少しばかり高さがあったが、ふわりと着地するとリンガスへと問いかけた。


「リンガスさんですか!」

「お! フルートか。早かったな」

「ええ、この近くを飛んでいたので」


フルートと呼ばれた男性は信号弾を打ったのがリンガスだと分かり、驚いた表情をしていた。


彼らは旧知の仲だった。


「メリーさんもお久しぶりです」

「久しぶりね、フルート。あなたが飛竜隊に入ってからだから2年くらいかしら?」

「そうですね、私が翡翠騎士団にいた時以来でしたっけ」


久々の再会に両者は親しげに話す。リンガスも目を細めてフルートを見つめていた。


「相変わらず飛竜隊は忙しそうだな。国を飛び回るのには慣れたか?」

「いやぁ、中々キツイです。ですが、リンガス隊長に扱かれていた時を思い出すと」

「そうかそうか、ならいつでも帰れるように団長に話を通しておこう」


そう言ってバシバシと背中を叩くリンガスは悪い笑みを浮かべていた。少し顔を引きつらせたフルートも懐かしさから来るのか楽しそうにしている。


このセレニア王国には騎士団と呼ばれる集団が存在している。


紅蓮騎士団

翡翠騎士団

天雷騎士団

水晶騎士団

砂牙騎士団である。


リンガスはこの翡翠騎士団で1番隊の隊長を務めていた。その縁もありフルートとは知り合いなのだ。


この国では五つの騎士団に殆どの騎士達が所属している。そんな中で飛竜隊と呼ばれる集団は何処にも属さない隊であった。


下位竜を捕獲し調教したドラゴンで編成される部隊である。流石に中位竜を調教する事は出来なかったのだが。


だが、彼らは空をドラゴンと共に飛び回り、様々な任務を遂行する。巡回であったり、偵察などが含まれていた。


彼ら飛竜隊に入るには騎士以上の者で無ければならない、エリートである。


「フルート、本題を」


会話に花を咲かせていたフルートの元に1人の女性が近付いた。彼女がフルートの相棒である竜姫であった。


真面目そうな雰囲気を受ける女性だ。


「ん? ああそうだったな」


その言葉で本来の職務を思い出したフルート。彼はリンガスに向き直ると問いかける。


「それで、信号弾の理由はなんですか?」

「お前も竜姫と契約したんだな、感慨深い……。ああ、そうだったな。コイツらを連行して欲しくてな」

「え!? 何があったんですか?」


そう指を指す先には、エリク達がいた。突然の事に驚くフルートだったが、内容を聞いていく内に表情は変わり厳しい視線を送るようになった。


アリスやサーシャ達はその光景を静かに見守っている。


「そういう事なら分かりました。責任を持って連行します」

「すまんな、こっちは少人数での旅なもので目を離した隙になんて事になったら困るからな」

「いえ、それよりもリンガスさんは大丈夫なんですか?」


そう心配そうに尋ねるフルート。彼はリンガスが今回の事件の責任を取らされるのではないかと不安になる。


「団長には絞られるだろうな。ま、俺の責任だし仕方がない」

「何かあったら言ってください。これでも飛竜隊では顔も聞くので」

「その時が来たら頼らせて貰うよ。それよりも、随分と早かったな」


リンガスは気になっていた事を口に出した。信号弾を出してから飛竜隊が来るのが早かったからだ。


幾ら空を飛んでいるとはいえ、こんな辺境に来るには少しばかり早すぎた。


「ええ、この近くの場所に異変があったので探索していたんですよ。そしたら、信号弾が上がったので駆けつけて来た次第です」

「異変?」

「はい、ドラゴン達が騒がしいと言いますか、何かから逃げるように移動していたもので」


そう話すフルート自身も何が原因なのかは分からなかった。ただ、上から見た際にドラゴン達が大移動していた様子が見えていた。


リンガスとメリーも興味を持った様子でフルートの方を見ている。


「それで何が?」

「理由はわからなかったんですが、見回った所、ドラゴンの死体が無数に転がっていました」


フルートは思い出すように言葉を紡ぎ出していく。草原に近い位置にある林の中。


そこには、転々と続くようにドラゴンの死体が無造作に転がっていたのだ。


まるで、上位種のドラゴンが通ったのか、それとも何かとてつもない強さを持った者が単純に通り過ぎていったかのような光景。


「死体か、もしかしたら属性竜クラスのドラゴンがいたのかもしれないな。危ない所だった」

「そうなんです、それに迅竜の死体もあったので属性竜以上は確実かと」


神妙な様子で語るフルート。迅竜は四足歩行の竜であり、発達した4足の足で地を駆ける厄介な竜であり、上位竜に分類されている。


それを倒せるとなると、それ以上の竜という事になる。そこで上がった属性竜とはその名の通り、属性を司るドラゴンであった。


その力は強大でひとたび目撃されれば騎士団が動員される程の脅威なのだ。


そんな話が聞こえていたサーシャを含めた面々は眠るレグルスに静かに視線をやる。同じタイミングだった。


すると、レグルスの耳がピクピクと動いているのが分かった。


「「「はぁ〜」」」

「ん、どうしたんだ?」


一斉に後ろから聞こえて来た溜息。呆れたような、疲れたような声にリンガスは振り返った。


「いえ、少々気が抜けてしまって」


何のことは無いような、さり気なく話すラフィリア。表情は変わらず普段どおりだ。


「そ、そうーー」


ドスッ


アリスが話そうとした時、瞬時にサーシャが見えないように脇腹を肘で打った。


「なにするのよ!?」

「ごめん、アリスちゃん。当たっちゃった」

「そ、そう。ならいいわ」


振り返ったアリスが見た者は微笑むラフィリアと無表情のサーシャ。何かを察したアリスはおし黙る。


2人の心中は共通していた。


(アリスに話させたらダメ!)


ここに集約されるのだ。


「ならいいんだが」

「そこの子達は?」


フルートはようやくといった具合でアリス達に気付いた。懐かしさの余りようやく気付いたのだった。


「竜式の合格者達だ」

「そういえばそんな事もあったか。へぇ、リンガスさんの試験を受かったのか、凄いな。期待してるよ!」

「「「はい」」」


得心がいった様子のフルートの言葉に3人は気持ちのいい返事を返した。


尊敬する竜騎士に褒められるとなるとやはり嬉しいものだ。


「それでは私はこれで」

「ああ、面倒をかけたな」

「いえいえ、謎の原因についても報告がてら王都に戻るつもりだったので」

「そう言ってくれると助かる」


名残惜しそうに別れを告げる2人。次に会えるのはいつになるか分からない。飛竜隊とはそういうものだからだ。


「メリーさんもまたお会いしましょう。それでは!」

「またお会いしましょう」


みんなに見送られて飛竜隊達は飛び去っていく。大地から飛び立つ竜達は壮観な光景だった。


そんな中、終始一言も話さなかったエリク達は既に気力が尽きており、竜によって運ばれていくのだった。


読んで頂きありがとうございます。

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