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68話


 滅刃衆の1人が走り出すと同時に全員がレグルスへと向かってくる。誰もがセレニア王国では目にすることの出来ない技術を用いた歩法であった。


 みるみる間に詰め寄ってきていたが、レグルスはいつものペースのまますうっと、ゆっくりと手を虚空へ向けるのみ。その傲慢な動きに僅かに警戒する滅刃衆達であったが、数の利を活かすために全方向から迫ってくる。


「サーシャ! 零王装衣フロンスティアモード

「合点承知だよー!」


レグルスの掛け声とともに腕を取り囲むように現れたキラキラと輝く冷気が渦を巻きながら全身を包み込んで行く。そして、冷気が辺りに立ち込めレグルスが立つ地面は白銀の世界へと変じていた。


『任せてよぉ〜!!お兄ちゃんは触れさせないもんね』


サーシャの楽しそうな声音と共に真っ白な氷の結晶が衣のようにレグルスへと纏っていく。そして、一筋となった衣は何重にもレグルスを包み込み幻想的な羽衣が姿を現した。


「ふんっ、次は私よ、サーシャ!!」

「あら? 私もですよ?」


レグルスの両隣へと進み出たアリスとラフィリアへレグルスは再び手を突き出す。アリスとラフィリアの手がレグルスと触れる。


「さて、どんなもんかな。緋王紅蓮剣! 嵐王翡翠剣!」


レグルスを中心として超常の力が吹き荒れた。眩い閃光はレグルスの両隣から発せられている。




「綺麗……それに、この感覚」


観客席から眺めていたカエデは肌にひしひしと伝わってくる力にうっとりとした様子で呟いた。


「噂通り既に3人と契約しているなんて……負けていられません」


 ふんすっと鼻息を吐き出す勢いのカエデはレグルスを見つめ続けたままだ。


「でも、やっぱりあの竜具は凄まじい」


強者達に囲まれて育ったカエデはヤマトを含めて様々な竜具を見てきた。滅竜騎士候補とも呼ばれるヤマトの竜具もまた凄まじいが、目の前で吹き荒れる力は文字通りに桁が違う。


それはこの場にいる誰もが感じ取った事だろう。ひときわ光が増した後、暴風によって業火は遥か高くへと舞い昇り一本の荒々しい灼光となった。


 人が決して勝てない自然の猛威が人の制御を受けてこの世に顕現した。緋王紅蓮剣は目を焼くほどの威圧感を、そして嵐王翡翠剣は見るものに雄大さを感じさせた。


「サーシャ、防御は任せる。 アリスとラフィリアは俺の援護だ」

『はーい!』

『私は右でラフィリアは左ね!』

『分かりました』


レグルス脳内で会話をすませると近くまで来ていた滅刃衆もまた呆然とした表情から一転して突撃してくる。


「荒れ狂え」


既に三人と契約したレグルスはその力を本能で理解していた。そして、彼が放つのは不可視の攻撃。


「と言っても早く終わらせるに限るがな」

「させるな!」

「おうよ!」


メシア王国に伝わる独特の歩法。縮地を用いた彼らは一足で距離を縮めてきていた。


だが、彼らが出来たのはそれまで。


「止まりましょうか」

「な、なぜですか!? ヤマト様!!」


何故ならその場に天下八刃の各々が竜具を片手にレグルスと滅刃衆との間に立っていたからだ。


「お前らの負けだ。そうだろ? 雪月姫」


ゲンジはそう言いながら自身が持つ竜具を一閃する。すると、冷気が空気を凍らせながらレグルスへと向かっていく。


 だが、レグルスはなんの反応も見せずに立っているだけだ。不意を打たれたというのにその態度は不自然ではあった。


「こういう事です」


ヤマトの言葉と同時にゲンジが放った白い冷気は何もない空間で煙を上げた。


続けて沸騰したような音が辺りに響きわる。


「レグルスは熱風っていたらいいのか? とにかく高温の空気を放出していた。体が火傷して呼吸困難で終わりだ。もちろん手加減してはいるがな。だろ?」


笑みを浮かべながらレグルスの方へと視線をやるが、すぐに呆れたように頭を掻いたゲンジは雪月姫を鞘へとしまう。


チラリとゲンジは竜具へと視線を向けた。高位の竜具である雪月姫の刀身からも水蒸気が立ち上っていたのだ。


「それにしてもとんでもねぇな。竜具がそもそも反則級だろ。俺の姫が悲鳴を上げてやがる」


鞘から漏れ出る煙の量がそれを物語っていた。絶対的な力の差だと理解できる。 


「まあそういう事だからレグルス達の勝ちだ」


 その勝利宣言に一つだけの拍手が送られてくる。誰であろうカエデだったがレグルスは一先ずスルーする。


「はぁ、もう終わりでいいですか?」


 今日は只でさえ移動で疲れたとでも言いたそうな顔であったが、彼は寝ていただけだ。

 

「そもそも天下八刃が指示した事じゃねえし、コイツらが勝手に盛り上がってただけだ」


ゲンジはその場に揃った八人を代表して答えた。彼らとてレグルスの規格外さは聞いており、実際に目にした事でその強さの桁が桁外れだという事は分かっていた。


「中々に面白いもんを見れたしな」


だが強さこそが全ての彼らは脳筋である。ようするにお祭り騒ぎを見物して楽しもうという魂胆だったという事だ。


「なら止めてくださいよ」


疲れ切った様子のレグルスは再度ため息を吐く。


「なに、その方が面白いですからね。さて、では私とやりましょうか」


ポンと手を叩いたヤマトが朗らかな笑みと共に聞き捨てならない発言をした。


「えっ!? ヤマトさんが?」

「もちろん。君には教えておくことがあるからね」


ヤマトはそう言うとレグルスから少し距離をとり、首をポキポキと鳴らす姿からどうやら本気らしい事が伺える。


「うしっ、お前らは撤収〜。これは滅多に見れねぇ見世物だかんな!」

「「うすっ!」」


項垂れる滅刃衆を引き連れてゲンジ達もまたこの場から去っていく姿を呆然と見送るレグルスに逃げ場はない。


「はぁ〜」


ならば初手から大技でさっさと終わらせようというのが彼の魂胆だった。


「では、行きます」

「はい」


そして、ヤマトが前から消えた。否、レグルスはヤマトを見失っていた。


強化されたレグルスの視力で追えないものは少ない。ならば、意識外での行動という事だ。


『レグルス! 後ろよ!』


だが、レグルスは実質4人で戦っているようなものだ。


「早すぎだろうが」

『任せて!!』


後ろに回り込んでいたヤマトは既に白鞘から刀を抜き放ちレグルス目掛けて振るっていた。


サーシャもまた空気中の水分を瞬間的に凍らせて刀の軌道を妨害する。


だが、パリパリと氷を割いていく音と迫りくる刃が見えた。


『止まらない!!』


 瞬時にサーシャが軌道上に氷壁を作り出す。


「確かに強い。でも、まだまだ経験不足です」

「アリス! ラフィリア!」


ヤマトの剣筋が氷の壁を避けるように跳ね上がるとサーシャの防御をするりと抜ける。


だが、レグルスもまた超反応で返していた。


両手の竜具を最速で動かして受け止めようと構える。迫るヤマトの斬撃に対してクロスした2つの竜具が間に合った。


 その反応速度は凄まじくカエデは目で追うことする出来ていなかった。それはヤマトも同じである。


だが、スローモーションの中でヤマトの竜具は止まらない。


「なっ!?」


クロスした竜具をまさしくすり抜けた刀はレグルスの首元でピタリと止められていたのだった。


「初手で油断をついてこそですね。もう見られたのでこの手は使えませんが……それに、ね」


 ヤマトの首筋にピタリと止められた二本の竜具。そして、氷柱が背から僅かな距離に出現していた。


「いや、ヤマトさんの勝ちですよ」


 レグルスは確かに見ていた。ほんの一瞬ではあるがヤマトの方が早かった事をだ。


 そのやり取りに場内は爆発的な歓声に包まれた。


ヤマトは肩をすくめると刀を白鞘へと戻す。これが対人においては最強と目されるヤマトの力であった。


 完璧に間にあったはずの剣がすり抜けたという現象をレグルスは確かに見ていたのだ。


「何事も初見には気を付けるべきですね」

「あのすり抜けたのは……」

「本来なら敵に能力は教えませんが……弟子になるレグルス君にならいいでしょう」

「弟子?」


 首を傾げるレグルス達に構わずヤマトは口を開いた。


「ええ。では、竜具の能力は幻影刀認識を外し惑わし捉える竜具です。電磁波を放出し生物の意思に干渉する雷系統の中でも特殊な部類に入るものです。近接特化といえば分かりやすかな?」

「凄いですね……」

「ですが、流石に全方位に技を放たれていれば近づけませんが……」

「それでも、まさかこうもあっさり負けるなんて」


レグルスは竜王の力を持ってから始めて正面から負けた。それは、アリス達にとっても初めての事である。


結果はレグルスの負け。だが、ヤマトの言うように試合形式の中で更に初見のみ有効な戦い方ではあったが。


だがそれを言い訳には出来ない。もしヤマトのような能力を持った敵と初見で戦った時、レグルスは死んでいるだろうからだ。


「君は世界の命運を担っています。経験という部分でこれから私が貴方に戦いを教えるとしましょう」


 不敵に笑うヤマトはスラリと刀を引き抜くと再び構えた。どうやら今日だけはレグルスの負けが増えそうな1日であった。


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