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65話

 六王会議が開かれた後、多少の混乱は見られたが迅速な対応が行われていた。王都には運営に関わる最低限の人数のみが残り、大多数の民の姿が消えていた。そうして避難受け入れ先の各都市には最低限の防衛力を残し、続々と王都に集結してくる竜騎士達。


 かつて類を見ないほどに集まる戦力に宮殿内部もまたにわかに騒がしくなっていた。整然と居並ぶ屈強な五大騎士団が集まる光景は頼もしく、各国の選び抜かれた精鋭中の精鋭で構成された騎士団である。


「団長、王都の配置は済みましたよ」


 城壁から外を眺めながらリンガスは隣に立つシュナイデルに報告した。高い位置から眺めるセレニア王都の近辺は平穏そのものであり異常は見られない。


 城壁にはリンガスが所属する翡翠騎士団の面々が連なっている。


「ご苦労リンガス。しかしこれで足りるか?」

「それを言っちゃあ万全なんてものはないですよ」

「そうだな」


 地平線を見つめるシュナイデルは戦場特有の肌がひりつく感覚がこの王都で感じ取れる事にその異常性を強く認識していた。その為に出た言葉であった。


「今回ばかりはメリー……頑張ろうや」

「勿論ね。頼むわよリンガス」

「おうよ」


 リンガスの言葉に深く頷いたメリーは悪戯っぽくリンガスの肩を小突く。


「相変わらず仲がいいな。お前たちは」

「腐れ縁ですからね」

「あら? 腐った縁だものね?」

「ち、ちげぇって! 今のは言葉のあやでな……」

「尻に敷かれるのもまた当然だぞ、リンガス。何より私がそうだからな……」


 どこか遠い目をして呟いたシュナイデルに二人もそのやり取りを見て訳知り顔をしている。


「ふぅ。何よりローズちゃんが心配だ……あの子が王都に残ると聞かなくてな……全く誰に似たのか」

「それはだれかしらね?」

「ジェシカ!?」

「さーて、お仕事に戻りますわよ!」


 そのシュナイデルを眺めていたリンガスは戦々恐々とメリーを見つめ、メリーはジェシカを見て何度も頷いていた。

 




 そんな彼らを見下ろす位置にある宮殿の一室。


「これ程の戦力が一堂に介するのは初めてになるの」


 そう呟いたのはベルンバッハである。体面に座る者に問いかけたベルンバッハは親しげに笑いかけた。


「それほど厄介な敵だと言う事よ」


 窓からは大勢の竜騎士達が城壁、外門で警戒している姿が見える。それは王都、そして近辺もまた同様であった。その事態に否応なく民達の緊張感が高まり、ピリピリとした空気が国を包み込んでいた。


「民達が心配しておる。早期に決着をつけたいものだ」

「襲う側というのは有利というのが相場じゃ。ここが踏ん張りどころよ」


 そう呟いたベルンバッハは深く息を吐き出した。このような緊張感が長く続くはずもない。今は未曾有の危機だと発表し、民達も協力してくれてはいる。


 しかし、大多数の民達がいなくなった事で王都の経済は機能しない。各都市から定期的に物資が送られてくる手筈にはなっているが、望んで長く続けたいものではない。


 竜という驚異に常日頃から晒されている各国では同様に王都が陥落した際の対策も講じていた。物流網や受け入れ先など多岐に渡る都市計画が幸いして現状の構図へとなっていた。


「堪らんのお。居場所さえ掴めれば儂がいくというものお」

「そうじゃな」


 テーブルに置かれたカップを手に取り飲み干した二人。


「ミハエル、お主とこうして二人で話すのも久しいのぉ」

「確かに、久しぶりじゃ」


 壁を隔てた先にはレイチェルとエリザベートの話し声が僅かに聞こえてきていた。彼女達もまた積もる話をしているのであろう。


「さてと、以前起きたカインツの件は知っておろう」

「オーフェン家の倅が竜となった事件であるな」


 本題に入ったベルンバッハ。生徒が竜へと成り同じ生徒達を襲ったという大事件は当然ながらミハエルの耳にも入っていた。


「何者かが齎したとしか考えられんのじゃ。それも、カインツ達を唆す事ができる立場の相手じゃ」


 その言葉にベルンバッハが何を言いたいのかを理解したミハエルの眉間に皺がよる。カインツ達な突然に竜へと変わる訳がない。ならば外的要因によりそくなったと推測するのは難しくない。


 そして、カインツ達とて怪しげなものに手を出すには何らかの材料があったということ。ようするにこの国にそれなりの立場に就いている裏切り者がいるという大きな可能性であった。


「ベルンバッハ……お主」

「そうじゃ」


 長年この国に仕えた身として誰かわからないという状況に不甲斐なさを感じてしまう。


「恐らくその者はこの一連の流れにおいてサラダールを復活させようと目論む者と関係している筈じゃ。そうでなくても炙り出さねばならん。そして、王は此度の会議で布石を打たれた」

「内部から第二陣の封印を狙いに来るという事か……」

「うむ」


 その言葉にベルンバッハが首肯する。


「場合によってはお主が標的になるやもしれん。人を増やそうと思うてな」


 第二陣の守護を任せられたミハエルを狙う者が現れるかもしれないという事である。ミハエルの強さは理解しているが、相手はカインツをあの様に変えた得体のしれない者である。


「若い頃なら、任せておけと大見得もきれたものだがな」

「儂もよ」

「年をとったなぁ。二人とも……」


 ベルンバッハが言わんとしている事を理解したミハエルは穏やかな表情のまま笑みを浮かべた。


「戦いの場を整える手筈になっておる。そこで、お主には迎え撃って欲しいんじゃ。頼めるか?」

「任されよう」

「して、誰をミハエルと共に配置するかじゃが」


 滅竜騎士相手に慎重すぎる発言ではあるが、ミハエルもその事に何か言うつもりはない。想像出来ないからこそ手は打たねばならぬ、という事は長く生きてきた彼らは身に染みている。


 最善を尽くしてなお足りぬ事もあるのだと。


「敵は強い……」


 ミハエルは竜王の棲家で、テンペストの元に迫っていた者が異常な事くらいは理解しているのだ。あのレベルが来れば只では済まない。


 誰が裏切り者かが未だ判明していない現状でミハエルの脳裏に浮かぶ信頼できる人物が思い浮かぶ。


 時を同じくしてベルンバッハもまた呟いた。


「ならば、うってつけの者がいるな」


 二人の脳裏に浮かぶ人物に相違は無かった。そうして真剣な話し合いが終わり彼らは再びお茶を口に含んだ。


 緩やかな時が流れる中、何度目となる言葉を呟いた。老人が集まれば上がる話題など昔話が多くなるのは当たり前だ。伝説を背負うベルンバッハ、そして滅竜騎士ミハエルも相違ない。


「儂もお主も年老いたの」

「時は早いなあ」

「儂が今や学園長という立場じゃからな」


 ベルンバッハが学園長についた行動理由を知っているミハエルは頷いた。彼が後進をどれだけ大切にしているか、過去に幾度も語った事があった。それだけにここ最近、連続して続いていた学園の騒動に胸を痛める。


「お主は上手くやっておる、伝説とはいえ人間じゃ。儂らは子を守り、次代に繋ぐのが我々に残された使命よ」

「すまぬな……。儂の手が届く範囲は守りきるとしよう」


 ベルンバッハとて永きに渡り竜や裏組織と戦いを繰り広げてきた英傑である。全てを守るという言葉は出なかった。人一人が守れる範囲はどれだけ強くとも限られる。


「そうじゃな」


 ベルンバッハの脳裏に浮かんだのは数奇な、そして厄介な運命に囚われた少年であった。そのような若い少年に背負わせる酷な運命、年老いたベルンバッハが最後に気がかりな少年はヤマトの元に向かった筈。


「打てる手は打った」

「久しぶりに良い酒が飲めそうじゃ」

「付き合うとしよう」


 長年を生き抜き蓄えられた直感か、彼らにはこれから起こる激動を予感していた。


「ふふ、ではお主がレイチェルと出会った頃の話をしようかの」

「よせ、ミハエル……」


 突然の言葉に狼狽えるベルンバッハ。


「あらあら、楽しそうなお話をしているのね?」

「私にも聞かせてくださいな」


 そこにタイミング良く入室してきた二人が加わり彼らの語らいは夜遅くまで続くのであった。


ちょっばかし別視点が続いてしまいました。。

次話から新章です!!

ついにメシア王国へ


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