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64話

 アガレシア皇国は大陸の中心に位置した国土面積が小さな国である。他の五カ国と比べ面積は異常なほどであり五カ国の王都ほどしかないのだ。だが、アガレシア皇国は一国と数えられる。


 

 小国に似つかわしくない中央に聳え立つ巨大な建造物。そして常時アガレシア王国に派遣される滅竜騎士達。扱いはとても小国と呼べるようなものではなかった。


 一般的には英雄サラダールと深く密接した関係の由緒ある国である。だが、各国の王族や滅竜騎士の認識は違った。この国の存在が何よりも大事なものだと。アガレシア皇国の中心に建つ巨大な宮殿にその者達が集っていた。


「それでは始めよう」


 アガレシア皇国の皇帝、ロイド・ミラルディ・アガレシアが会議の開幕を告げる。六人が座る円卓において、この会議を招集したエックハルトが最初に口を開くのは当然の成り行きであった。


「さて何から話そうか……。まずは儂が知っている情報を共有しよう」


 滅竜騎士ジークハルト、滅竜騎士ミハエル。そして、英雄ベルンバッハを要するセレニア王国は他国と比べて戦力的にも突出している。また、レグルスが属す今、最も情報を握っているのもまたセレニア王国である。。


 ミハエルから報告された竜王テンペストの件、封印の件、そして鍵となるレグルスの存在を包み隠さず伝えたエックハルト。彼から伝えられた情報は驚愕に値するものであり現に4人の王達は何れも浮かない表情を浮かべている。


 しかしその中でもロイドだけは泰然とした態度を崩していなかった。


「既に3人の竜姫と契約しておる……」


 そう締めくくったエックハルト。


「セレニア王よ。ちと気付くのが遅かったんじゃないかえ?」


 都市の集合体であるリシュア都市連合の連合長メリダ・メリスティンがエックハルトを睨みつけていた。それは暗にレグルスの存在に気付くのが遅すぎたのでは無いかという非難が多分に含まれていた。


「そもそも契約さえしなければこうは無らなかったのじゃないかえ?」

「よせ、メリダ連合長。エックハルトに非はない。村人が誰になっているのだと誰が予想できる? 今の話を聞いていただろう、本来なら交わる筈のない竜姫達が交わるなどと」


 メリダを窘めたのは着物を着流した老人。その眼光は鋭く、片目には縦に伸びる傷がある。歴戦の風格を漂わせる彼はメシア王国の国王ゲンロウである。


「確かに封印から数百年の間、このような事は起きなかった……それがこうも重なると言うことは影響が強まっていると考えた方が良いということかえ」

 

 彼らは秘密を共有し同じく世界を守る者達ではあるが、各国の力関係を含め、強大なセレニアを牽制するという意味でもというう思いがあったのだろうが、その言い分もゲンロウによって切り捨てられた。


 だが、メリダと考えを同じくする者はいる。


「メシア王国に既に出発しているという事は存じていなかったですね。何故このタイミングで?」


 この中において未だ若い男性がチクリとエッグハルトを言葉で刺す。知的な印象を受ける彼はルーガス王国国王アルノー・バーデン・ルーガスである。


 本来ならばここから王達の戦い。武力ではなく舌戦が繰り広げられていくのだが、今日はエックハルトにその様な考えは僅かばかりも無い。


「それは申し訳なかった。此度、我が国の学園で何者かの手により邪竜を取り込んだ者がいた。騒動は件のレグルスの手により解決したがその力は凄まじかったと聞く。猶予は余り無いと判断したのだ」

「「「「……」」」」


 その発言に全ての者が押し黙った。


「その何者かは不明。だが、恐らくではあるが我が国に裏切り者がいるのだろう。その為に早急に手を打たなければという上申もあったのだ。裏切り者については早々に手は打つつもりだが……」

「そのような発言をここでしてよろいしのかえ?」


 そして、セレニア王国の防諜力を貶める発言でもある。学園には将来の卵が集まる場所である。そこを簡単に襲われるなどという不手際をここで発言したエックハルとにメリダは笑みを浮かべる。


 国を運営していく上で、すべてが対等に平等にという訳にはいかない。攻撃の的にしてくれとも取れる発言にはメリダ以外の者も意外感を表していた。


「今までであれば黙していただろうが。儂は事態を深刻に捉えておる」


 事ここに至ってはそれどころでは無いと言うエックハルトの態度。そこまで言い切られてメリダも渋々と口をつぐまざる負えない。


「さて、では続きをお願いしよう」


 沈黙が支配していた会議の中で円滑に進めるためにもロイドが助け舟を出した。


「セレニア王国だけの問題では無くなったのだ。人類が生きるか、死ぬかの問題である」


 一国の王として言い切ったエックハルト。


「確かにそのとおりです。どのみちサラダールを永遠に封印出来る訳では無かったと言うこと。今回の動きはまさにそうだ」


 その言葉に誰もが首肯する。

 

「そのレグルスとやらに賭けるしかないのも不安ではあるな。それに、封印が緩んでいる今暗殺されでもすれば全てが終わりだ……」

「その辺りは分かっておる。今はベルンバッハが目を光らせておるし、メシア王国に行けばヤマトがいるだろう」


 その言葉にこの中の者たちは納得した。


「残す竜姫は雷竜王の子のみとなると今回で確定かえ?」

「ヤマトの妹であるな」


 各国の優秀な若者はそれだけで有名である。その中でも突出した実力を持つ者たちの名前をこの場にいる者たちは把握していた。

 

「そういう事だ」


 エックハルトの視線を受けゲンロウが頷いた。


「カエデもまた類稀なる才を持っておる」

「もし違うなら次はうちに来い。レベルの高さにレグルスとやらも驚愕するだろう」


 ロウダン王国はセレニアと隣にあるせいか、張り合うように軍事力には相当力を入れていた。言い切った彼の顔は自信にあふれている。


「それにルーガスやリシュアよりは可能性も高いだろう」


 棘が多分に含まれた言葉に反応する二人の王。


「よせ。大陸の命運がかっているのだぞ?」


 ロイドの言葉で緊張した空気が霧散した。先程から何度も繰り返される言葉ではあるが、そういった感情を中々捨てきれないのも仕方がない。


「認めるのは癪ではありんすが、確かにリシュア連合国は三国と比べて劣っている」

「ルーガス王国も聖騎士を除けば弱体化が顕著ではある」


 武のメシア王国、総合力でのセレニア王国、そして軍事に国力を大きく割いているロウダン王国とでは少しばかり分が悪い。


「そして、防衛戦の件であるが」


 今回の件は一国が勝利を納めれば良いというものではない。


「それならばアガレシアには6人の滅竜騎士を集める他ないだろう。ここが最後の鍵だ」

「迷惑を掛ける」


 エックハルトの言葉に軽くロイドが頭を下げた。小国であるアガレシア皇国になぜ皇帝がいるのか? その理由がエックハルトが告げた鍵である。サラダールと密接な関係にあったアガレシア家。その血を媒介にする事で竜王達の封印が増幅されていると言うことであった。


「いや、これは最優先事項だ」

「自国の防衛は自国とするしかない。万が一の場合にはここから滅竜騎士を派遣するとする方針でどうだ? 他国に戦力を回して自国が滅べば笑い話にもならん」


 ゲンロウの言葉通り、現状戦力でさえ過剰な余力が有り余っているわけではない。


「そもそも敵の戦力すら把握できていまい」

「最悪の可能性として、混乱に乗じて五大組織が関わってくる可能性を考えるべきでありんすね」

「恐らく、竜王テンペストが仰られていたという敵は六王姫の可能性が高いかと。最悪の状況を鑑みて民はすぐに各都市に避難させ最低限の防備を回すとしましょう。封印のある首都に主力を集めるのが得策、それであれは我が国でも撃退は出来そうです」


 アルノーは自国の戦力と今まで争ってきた天地破軍との状況を考えてそう結論を出した。いま上げられた五大組織。何れも巨大な力を持つが、王達の中で一国を相手に出来るほどとは考えてはいなかった。


「後はサラダールはかつて竜を従えたという。封印があれば可能性は低いが、もしそうなれば困難になるかもしれん」


 この中でサラダールに最も精通しているのはロイドだ。重々しく紡がれた言葉にはどの王も力強く頷いた。彼らもまた人の子である。全知全能からは程遠く、知り得る知識からでしか未来を測ることは出来ない。


 今打てる最善手を打ったのだった。


◆◇◆◇◆



 六王会議が開かれる中、他の地でもまた重大な会議が開かれていた。


「イグニアスを討ちこれで残すは雷竜王ボルテクスのみとなりました」

「ご苦労」


報告を受けていた5人の少女達のうちテルフィナが素っ気ない態度で返答する。それは彼女達、六王姫がこの中で格上だという事を如実に表していた。


「竜玉が馴染んだみたいだねぇー」

「アリエス、耳元でうるさいわよ」

「ほいほーい」


 アリエスと呼ばれた青髪の少女はケラケラと笑いながらテルフィナの周りをくるくると回っている。


「その為の貴方たち。しっかり役割は果たして貰うわよ」

「はっ」


男は仮面をした者であった。声質から彼が男である事がうかがえる。そして、なにより目を引くものは彼の仮面にAの文字が刻まれている事だろう。即ち、名無し(ネームレス)のトップであるという事だ。


 その場には五人が跪いていた。


「封印の在り処が判明しました。また、前回の竜核の検証で我々冥府は完成しました」


 その中で見覚えのある顔。セレニア王国 水晶騎士団団長のシェイギスが朗々とエックハルトから得た情報を話し始めた。


「貴方達を選んだ事は正解だったみたいね」


 彼にとって忠誠を誓うべきは目の前の六王姫のみ。その言葉を受けてシェイギスの体が喜びに僅かに揺れた。騎士団長というものに何ら誇りも執着もない。あるのは主である六王姫達の願いを叶えることのみ。


「良くやったわねシェイギス」

「有難きお言葉」


再度伝えられる感謝の意。頭を下げるシェイギスにはいつもの飄々とした態度は無かった。ただただ、喜びを噛みしめるように肩を震わせる彼に対抗するように4人の男達もまた前へと進み出た。


「名無しはすぐにでも動けます」

「天地破軍も同じですぜ」

「同じく」

「どこから攻めますか?」


そう、ここに居るのは裏組織の中でも最強の集団、名無し、天地破軍のトップが二人。そして同様の実力を持つ二人がいる。


「いえ、まだ冥府は待機よ。侵攻作戦は雷竜王を討った時に始めるわ。その後、英雄サラダール様をお迎えに上がりましょう」

「その為にわざわざ私達が出張るんだからね」


 テルフィナの横にいた赤毛の少女が口を開く。


「ですが、セレニア王国の動きは厄介では無いでしょうか? 姿の見えない死神もまた同様に消した方が……いえ、出過ぎた発言、申し訳ありません」


テルフィナから浴びせられる零度の視線に違う意味で肩を震わせたシェイギスは顔面蒼白になり頭を垂れる。これがセレニア王国の騎士団長の姿と聞けば誰もが驚きに包まれるだろう。


「まあ貴方の言いたいことも分かるわ。特に竜王と会話をしたミハエルという滅竜騎士は先に退場してもらいましょう。それと死神は面倒ね……探っているのかしら? 居場所がつかめないけど……」

「ミハエルの件はお任せください」

「相手は滅竜騎士。勝てるの?」

「ええ、この力があれば勝てるでしょう。ですが、万全を期すならばあと二人ほど冥府が居れば確実に……」


そう言ったシェイギスはニヤリと笑う。ようやく自分の新たな実力を示せる時が来たのだと。


「そうですね……計画はほぼ完了していますし三人で取り掛かりなさい」

「「「はっ」」」


襲撃に備えるセレニア王国にもまたテルフィナ達の手が伸びていたのだった。

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