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62話

長い間お待たせしました。。

一先ず二日に一話ペースで更新します!!

 謁見の次の日の今日は、レグルスがメシア王国へ赴く出発の日であった。


メシア王国へと繋がる街道の門にてレグルス達を囲むようにクラスメイトやローズといった交流のある者たちが集まっていた。過ごした期間はそう長くはないが、レグルスと共に濃厚な時間を過ごした者達である。。


 突然の報せではあったが、こうして集まってきたのだからモルネ村の旅立ちとはまた違った風景である。モルネ村では馬鹿にされながら出発した当のレグルスの前にはケインとコリンの姿があった。


「レグルス、しっかりやれよ!! お前ならメシア王国でも余裕だろう」


 いつもと同じ調子のケインがレグルスの肩を軽く叩く。ニカっと笑うケインの笑みに釣られてレグルスもまた笑みを浮かべていた。


「やるだけの事はやってくる。元気でなケイン」


 レグルスの前向きな返事にケインとコリンは顔を見合わせると含み笑いを浮かべた。入学してから同じクラスで過ごしてきた彼らもレグルスの性格は知り尽くしている。


「なんか、レグルスから溜息と面倒が出ないとは驚きだなぁ。最初の頃と比べて何か変わったな」

「確かに。もちろん良い方向に」


 その発言の意図を理解したレグルスは軽く頷いた。

 

「確かに変わってるかもしれないな」

「詳しくは知らねえけど、あの国は面倒そうだぞ?」

「強さこそ正義みたいな国って聞くし」

「まじで?」


 キョトンとするレグルス。その仕草を見た二人は安心したように頷いた。今から向かう国の事に関して何も知らないという間抜けっぷりは健在であった。


「はは、やっぱりレグルスはレグルスだな」


 そして、彼らが持ちうる知識を共有していく。


「レグルスなら尊敬されまくりそうだな」

「やる時はやるさ」


 世界の命運とやらがかかってしまったレグルスが面倒だと逃げる訳にはいかない。


(俺の力でみんなを守れるならやるさ)


 ましてや守るべき中にはモルネ村や幼馴染達、そして目の前に立つ彼らも含まれている。そういった事情も合わさり、レグルスの内面もまた変化していた。


 彼の持つ力は自ずと災厄を呼び寄せるものなのだ。


「レグルスならとっとと竜騎士になって団長になるのだろ? その時に一緒に戦えるように俺らも頑張るからよ」


 ケインもコリンも優秀な生徒ではあるが、気が早すぎる言葉に笑みが溢れる。


「早すぎだぞ。だけどその時はよろしくな」

「「おう!」」


 二人は満足した様子で下がっていく。その様子を見ていた者たちが次はと代わる代わるレグルス達に言葉を交わしていく。


 入学当初のクラスメイト達の反応を考えると異常な光景であった。だが、レグルスがカインツ達から生徒を守ったのは有名な話である。


 その輪の中から離れた位置にいた二人組。その片方の少女が主人の腕をつつく。


「ロイス様? いいのですか?」

「ふん、言葉は不要だ」


レグルスを取り巻く彼らを遠くから見つめるロイスは腕を組んだまま呟いた。壁に持たれかかる彼はどうやら言葉をかけないつもりでいたらしい。


 主人の性格など熟知しているマリー。


ジーー


「な、なんだ?」


 マリーから浴びせられる視線。彼女から返答はなく、帰ってくるのは視線のみ。


ジーー


「ふ、ふん」


 無言の視線に耐えかねたのかポソリと言い訳がましく呟く。


「レグルスとは言葉を交わさなくても通じている……筈だ」

「ふーん。そうなのですか?」


 マリーの言葉に肩をビクッと震わせたロイスは視線から逃げようと目を逸らすとそこには皆に囲まれるレグルス。


「いや……恥ず……かしいからな」


覗き込むマリーはひたすら視線を送り続ける。本当にいいのか? という思念がひしひしと伝わっていた。


「さよならも告げないとなると本当に親友と呼べますかね、ロイス様?」


その発言がまるでボディブロウのように効いてきたのかロイスの表情は見る見る間に変化していった。囲まれるレグルスは時折笑みを浮かべている。


 足が僅かに動く。


 一歩、また一歩と動いていくロイスの先にはレグルスがいる。


「もういい! 行くぞマリー」

「はい!」


ずんずんと進み出したロイスの進行方向は当然ながらレグルスの方向である。相変わらずなロイスにマリーは優しげな視線を浮かべていた。



 バーミリオン家の家系であり、成績も突出している彼の登場で生徒達の波が開ける。その動きにレグルスが視線を向けるとズンズンと歩いてくるロイスの姿。


「お! ロイスじゃねぇか」


 軽く手を上げるレグルスにロイスもまた手を上げようとするが、サッと下ろしていた。



「行くんだな、レグルス」


 誤魔化すように早口になる言葉。


「まあな」

「そうか……早く竜騎士になれるように精々頑張るんだな」


 斜めに構えたロイスの発言にすかさずフォローが入る。阿吽の呼吸は変わらずである。


「ロイス様は竜騎士になってセレニアに早く戻ってこいと仰っています」


 ヒョコッと顔を出したマリーの言葉にレグルスは苦笑する。ロイス語にもだいぶ慣れてきたレグルスはマリーの答えが自分の予想と当たっていたと判断した。



「だろうな」

「ちょっ! いや、その通りだ。何かあったら……そう、僕を頼るといい。これでもバーミリオン家だからな」


 マリーに脇腹を突かれ、軌道修正するロイス。


「その時はよろしくな」

「ああ」


レグルスの言葉を最後にロイスは踵を返していった。彼の性格を考えるにこれが精一杯なのだろう。颯爽と去っていく姿は初めて会った時を思い出すものだ。


「ん? ははっ」


 だが、その背中を見つめていると何度かロイスが此方を振り向き、目があっては慌てて前を向く姿に再び笑みが溢れるのであった。


 ロイスと入れ替わるように来た人物にクラスメイトの輪が更に広がった。ローズが進み出てきたのだ。


 悪戯好きそうな笑みを浮かべるローズ。


「レグルスさんに捨てられるのですね……寂しくなりますわ」


 目元に手をやり悲しいです、というような仕草を見せるローズにどよめきが起こる。


 彼女のこういった姿もまたいつも通りであった。こういった場合は相手をすればする程に傷を深めるというのが相場である。


「今までありがとうございます。ローズさん」


 サラリと流したレグルス。


「いえいえ、楽しかったですわ。それで……ふむふむ」


 ローズはふとレグルスの周りを見渡して得心がいったように頷いた。


「なるほど」


 一人で納得するローズ。


「ん?」

「いえ、此方の話ですわ。それよりもレグルスさんが部隊を率いる事になったら私もお願いしますね?」


 その発言にはレグルスも首を傾げてしまう。例えレグルスが部隊を率いる事になったとしても、ローズが竜姫となっていたらそう簡単にはいかないだろう。


「でも相棒パートナー――」


 レグルスの言葉を遮り、トンっとレグルスの耳元に顔を寄せるローズ。その際にフワリと花の良い匂いが鼻孔をくすぐる。


「レグルスさんの聖域なら私自身でも戦えますわ。なのでその時はよろしくお願いしますね」


レグルスの耳元で囁かれた言葉に返答しようとした時、素早く離れたローズはくるりと振り返る。


「では、またお会いしましょう」


 最後にイタズラっぽく笑うローズは人混みから少女を押し出した。


「ロ、ローズ先輩……」

「ほら、行ってきなさい」

「は、はい」


 集まる視線にビクリと震える少女。ミーシャはてくてくとレグルスの前まで歩いてくる。下を向いていたミーシャであったが、息を吐きだすとサッと顔を上げた。


「あ、あのレグルスさん! 本当にあ、ありがとうございました」


 言えた、とパアッと顔が華やぐミーシャであったが、レグルスと視線から合わさると素早く下を向いてしまう。


「頑張ってくるからミーシャも頑張って」


 そう言いながら、つい小動物のようなミーシャの頭を撫でてしまう。


「はうぅぅ」


 羞恥の限界を超えたのかサッと身を翻した彼女はペコリと頭を下げるとトタタタとこの場を去っていた。その先では親指を立てるローズの姿。


 そうこうしていると


「そろそろ出発しますよ!」


馬車から顔を出した男が声をかけた。メシア王国まではそれなりに距離がある。時間を押せば到着までの予定が崩れてしまうのだ。


 別れの挨拶を目一杯とったがそろそろ時間である。


 時間が来たようだとレグルスはラフィリア達の方へと顔を向けるが彼女達はローズとの談笑に花を咲かせていた。キッチリとしている筈のラフィリアが御者の言葉を聞き逃すとは考えづらい。


 その行動には理由があるのは明白だ。何より出発の時間を前もって遅らせているのだから理由は簡単である。未だに姿を見せない幼馴染の一人。


「すみません、やっぱり当初の時間になりそうです」

「分かりました。もう暫くお待ちしています」

「ありがとうございます」


 軽く頭を下げたレグルスは街の方へと歩き出した。それを見てラフィリアとサーシャもまた頷きあう。


「全く……お転婆娘」


レグルスは街へと繋がる街道の先を見つめて呟くのだった。


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