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57話


目の前に立つレグルスを見てカインツは静かに復讐の炎を燃やしていた。普段から付き従っていた2人の自我が消滅するのにそう時間はかからなかった。


だが、カインツには自我が残っていた。古竜と呼ばれた竜の力が体に順応していくのが分かる。レグルスを前にしてなおそのエネルギーは増大しているのだから。


◇◆◇◆◇


(まさか人と竜の争いにそんな過去があったとはな……だが、アイツを殺すのは決定事項だがな)


古竜を取り込んだ時点で聞こえたシェイギスの声『オーフェン家』という単語。その意味は古竜を取り込んだ事で断片的に理解できたのだが、情報は乏しい。


(詳しく教えてくれ)

『よかろう』


復讐の炎と共に古竜の意識もまた同一化していたのだ。竜もまた自らと融合したカインツに話し始めた。


(まさか竜王が人間を助けていたとはな)

『左様、そして我ら竜を裏切ったのもまた竜王であったのだーー』


そこから語られた内容は驚くべきものであった。


竜とは自然に存在する莫大なエネルギーによって構成された存在である。生まれた竜は自我を持たず備えたエネルギーによって全てを破壊する権化と化す。


だが、自然エネルギーによって生まれた竜には一つの行動理念があった。それは、更なるエネルギーを求めるというものだ。


意思なき竜は悠久の時を得て同族を喰らい自我を持つようになる。ある種の進化であった。


そうして生まれた中で最も強力な竜たち五大竜王を頂点とし古竜と呼ばれる意思ある竜たちが生まれる事となった。


『我らが生まれて数千年の時を得て貴様ら人間という種が現れた。そこから全ての歯車が狂い出したのだ』


人間が生まれた事により、高度な知性と豊かな感情を持つ生物が竜を除いて始めて現れたのだ。


繁栄していく人間は瞬く間に寄り集まり集落を作りやがては国家を作るまでに至った。だが、それは血みどろな争いと引き換えにだ。


自然エネルギーによって生まれる竜は人間の負の感情や人を人足らしめる数々の残虐な行いによって負のエネルギーが淀みを作り出しやがてはそこから竜生まれるようになった。


『意思なき竜は負のエネルギーによって暴走する事となる。愚かな人間が人間を殺す竜を作り出すとは何とも罪深い生き物だ』

(それで人間と竜との戦いが始まったのか?)

『何も持たぬ人間がエネルギーの塊でもある竜に対抗する術はなかった。我々、古竜はその過程を見て傍観する事に決めたのだ。愚かな人間はこの世界に必要ないとな』


戦闘とも呼べぬ人間と竜との戦い。鉄の剣では鱗に傷をつける事すら叶わず、強靭な肉体から繰り出される技に人間は争うことも出来ない。


蹂躙されていく国家は数を減らしていき隠れ潜むようになった。そして、人間という種が滅亡のカウントダウンが始まろうとした時


『貴様らが呼ぶ五大竜王と天竜王サラダールが人間に味方したのだ。竜王は6人の有力な人物に力を与えた。そして、奴らに従った古竜もまた主だった者たちに力を与えたのだ。そして、奴ら六竜王は世界の理すらも捻じ曲げた』

(それが竜姫と滅竜騎士と言うことか?)

『竜を倒すには竜の力でしか出来ん。人の身で竜へと対抗するべく編み出された滅竜技が男へと。分け与えられた竜の力を具現化する御技は女へと。たが、人の身で竜の力は使いこなせん』

(それで、聖域というわけか……)

『そう、そして貴様が正常でいられる竜へと回帰する。奴らの配下であった古竜の因子を色濃く受け継いでいたという訳だ』


ここまで聞けば何という事はない。貴族、それも名家と呼ばれる者達の竜具が相対的に見てなぜ強いのか?


それは、かつて竜王と古竜に力を与えられた者の血脈であるからだ。だが、全てが優秀という訳ではない事は分かっている。


平民から突如として強大な力を持った者が現れる事もあるのだから。現代の人間は誰もが、かつての僅かな生き残り達。すなわち竜の因子を受け継いだ者達の祖先を持つ。


先祖返りとでも言うべき事も起こるのだ。だが、血が濃い貴族に現れやすいというのも納得できた。


『我らは反対した。人間は愚かで残酷な生き物だ。竜を倒せる力を与えればその災いはやがて我らに返ってくると。だが、サラダールや五大竜王は耳を貸さなかった。何やり暴走していようが同族である竜を殺す人間が許せなかった。そうして、裏切られた我らと竜王と人間を合わせた争いが始まったのだ』

(ふん、結局貴様らが負けたんだろうな)

『ああ、忌々しい竜王の子らにな。そして、目の前にいる彼奴らもまた何故か竜王の力を持っておる』


古竜はそこまで言うと黙り込んだ。


それは目の前のレグルスの手に握られた純白の剣を見たからだ。


カインツはニヤリと笑う。全力を出したレグルスを正面からねじ伏せる為に彼は待っていたのだ。先ほど聞いた過去の話など時間つぶしに過ぎない。


そしてまた、古竜の力を得た今だからこそ理解できるレグルス達の異常性。レグルス達は以前のカインツであれば桁が違いすぎる力を持っているのだ。


『我が黒炎竜グラウィスが捻り潰してやろう』

「おい、レグルス。お前はここで死ね」


グラウィスの声が脳に響き渡るのと同時に、剣は黒く変色していく。消えることの無い黒炎をユラユラと上げながらレグルスとカインツは静かに激突した。


◇◆◇◆◇


踏み込んだ地面が陥没したと同時にカインツが片手で振るった剣はレグルスの二本の剣により受け止められていた。


だが、その拮抗もジリジリとカインツの優勢へと傾いていた。原初強化と呼ばれる滅竜技を用いたレグルスの力は原初ともあるように竜の力と遜色のない身体能力を得ていた。


「さっきの奴らより数倍は強いぞ」

『それに、あの黒炎は危険だよ!』


レグルスが振るう竜具に纏わりつく黒炎。その特性をいち早く見極めたサーシャが警笛を鳴らす。


『あの腕力もかなり異常です』


ラフィリアが巻き起こす風が作用してギリギリの所で力は拮抗している。剣身から吹き出る黒炎はサーシャが生み出す冷気によって相殺されていた。


さらに加速する剣舞。


「その程度かぁっ!? レグルス!」


だが、やはりというべきか竜を宿したカインツの身体能力はレグルスよりも高いということだ。剣を合わせれば押し負けるレグルスは瞬時に戦い方をシフトする。


受け流すように剣を反らせて力を分散させるのだが、一手でも間違えればダメージを負う綱渡りの戦いが続いていた。


剣戟の合間にレグルスは滅竜技を発動させる。


「雷咆」


バリバリと音を放つ雷を見たカインツは避けようともせずに片手の一振りで消しとばした。だが、それは分かっていたとばかりに深く踏み込むレグルスはサーシャの力を解放した。


空気中の水分を瞬間的に凍結させていくと同時に氷の剣を視界を埋め尽くすほどに精製していく。氷柱のように空中を漂う氷剣。


「燃やし尽くせ」


それを危険と判断したカインツは黒炎を周囲一帯へ撒き散らす。触れるたびに氷剣は蒸発し白い湯気を立ち上らせていく。


(アイツは竜の力を用いた力押しだ。今のうちに……ラフィー、頼む)

『分かりました』


だが、レグルスの方が早かった。


淡く輝く嵐王翡翠剣がレグルスに応えるようにエネルギーを放出する。そして、剣先から風が渦巻く球体を黒炎の渦の中心にいるカインツの元へと飛ばす。


全てを吸引する力を備えた風は瞬く間に氷剣を吸引し目にも留まらぬスピードで白刃がカインツへと殺到していく。


「鬱陶しい」


瞬く間に蒸発する剣と精製され続ける剣とのせめぎ合い。徐々にだが零王白華剣が生み出す氷剣が上回り始めた。


四方八方から生み出された剣は地面へと刺さりその場を白く凍らせていく。


「うそ!? あれがレグルスなの?」


自分ではその強さを図ることすら出来ない強敵であったカインツを圧倒するレグルスにシャリアから驚愕の声が漏れる。


「まさかこれ程の力を隠していたとは……あの時みた力はカケラだったというわけか」

「流石はロイス様の親友です……と言いたいのですがこれは信じられません」


ロイスが感じたレグルスの力、それでさえ遥か高みにあると感じていたのだがこれを見ればマリーの言葉に頷くしか無い。


それはこの場にいる生徒たち全てに共通する事であった。白く凍りつく世界の中でカインツが生み出す黒炎もまた白く侵食されていく。


誰もがレグルスの勝利を疑わなかった。


だが、カインツの竜の因子と結合した古竜のエネルギーは想像を絶するものがあった。爆炎が衝撃波となって辺りを吹き飛ばす。


風も氷もまた吹き飛ばされていく。


「まだ上がるのか!! グハッ」

『お兄ちゃん!』


レグルスは至近距離でその波動を喰らい後ろへと大きく吹き飛ばされる。追随するように白い雪がレグルスを覆い衝撃を吸収した。


『間に合わせます!』


後ろで倒れるアリス達の元へもその熱波は押し寄せる。 咄嗟にラフィリアが生み出した風の結界により防がれたのだが彼らの心を覆うのは絶望である。


勝てると思われた彼らにはその衝撃は大きかった。盤上を圧倒的な力で覆されたのだ。


「覚醒ってやつか? 勘弁して欲しいぜ」


立ち上がるレグルスが見たものは、完全に古竜の力を掌握したカインツの姿であった。いや、掌握したのは語弊である。


「なるほど、これが古竜の力か……この莫大な炎のエネルギー。クフッ、クハハハハッ。これなら勝てる、勝てるぞおぉぉ、レグルス」


黒炎と化したカインツは狂ったように笑う。既にカインツの冷静な意識はない。カインツがレグルスに感じていた負のエネルギーが古竜の憎悪と莫大なエネルギーと混ざり合い暴竜と化したのだから。


この場に破壊の限りを尽くす暴力の権化が姿を現した。


「手始めにお前で試してやるぞ! レグルスゥッ」


炎と化したカインツは熱線と共にレグルスへと向かいくる。触れるだけでも蒸発してしまう温度と共に消えた、と思えば既に前にて剣が振るわれていた。


『お兄ちゃんは私が守るんだもん!』


鋭敏化されたサーシャの知覚を持ってしても出遅れてしまう。何重にも作られた氷壁を突き破りながらスピードは衰えない。


「チッ」


避けきれないと判断したレグルスはカインツとの間に風を暴発させると意図的に爆風によって後ろへと吹き飛ばされる。


ギリギリであったが、何とか目の前でカインツの剣が空を切った。だが、吹き飛んだレグルスを追うように炎の線が走る。


レグルスに避けるすべはない。先ほどと同じように吹き飛ぶレグルスはカインツの攻撃を受けはしなかったのだが、爆風によるダメージは確かに蓄積されている。


紙一重で躱すレグルスに反撃する余裕はない。サーシャの防御とラフィリアの紙一重の風の操作。もちろんそんな戦い方は長く続かない。


膝をつくレグルスに向けてカインツはニヤリと笑う。勝利を確信したカインツの笑みにシャリアは青ざめ、ロイスとマリーはレグルスを助ける為に立ち上がった。


「マリー、付き合う必要はないぞ」

「いえ、せっかくロイス様に初めて出来た親友を見捨てるわけにはいきませんので」


彼らとてこの次元の戦いに何かできるとは思っていない。だが、どちらにせよレグルスが負ければこの場にいる者達は死ぬのだ。


ならば、レグルスの盾になる事は出来る考えていた。


そして、カインツは両手で円を作ると


「これが竜だあぁぁ! 黒炎吐息ブレス


放たれた黒炎は大地を誘拐させ、空気すらも燃やし尽くす。荒れ狂うブレスは膝をつくレグルスへと向かっていった。


レグルスの目の前に迫る黒炎。


『お兄ちゃん! 私をあの黒炎に投げて!! せめて2人だけでも……』


叫ぶサーシャにいつものような快活な様子はない。だが、対してレグルスとラフィリアは落ち着いていた。


先ほど悲しいと感じた違和感がとつぜん増大したのだ。


同時にラフィリアを介して流れ込んでくる力の奔流。それを理解した2人だからこそこの場において勝利を確信した余裕があったのだ。


五大竜王とも呼ばれる竜の力。それは竜王を竜王たらしめる圧倒的なまでの真なる竜の力である。


レグルスはその言葉を呟く。


嵐王憑依テンペストモード


古よりこの世界を支配していた竜王の一角、風竜王の力が現代に舞い戻る。

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