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53話


アリスとシャリアが戦った日から数週間がたった。結果は同じ最高位の火系統を持つ同士の戦いにおいて竜具の性能差ではアリスが僅かに買ってはいたのだが、長年の修練の賜物か技量が勝るシャリアの辛勝であった。


悔しさに顔を歪めたアリスはそれ程までにこの戦いに入れ込んでいたのだが、真っ向からの勝負ともあり自力の差とも言うべきか力推しのアリスとエルレイン家で文字通りに血の滲む鍛錬の末に身につけたシャリアの技量はそれを上回ったのだった。



見ていたレグルスはそのアリスの雰囲気に一悶着ありそうだと身構えたものだがすぐに持ち直すと、現在は何故かシャリアと親密な関係を築いていた。


同じ火系統同士で気が合うのか最近はよく2人で出かけている事が多いのだ。


そして、その後にも行われたシャリアとアリス達の勝負だが奇妙な力関係に落ち着いていた。高速起動を武器とするサーシャと流麗な剣技を駆使するシャリアはほとんど互角であり、ラフィリアは相性もあってかシャリアに勝利するのだ。


そこからと言うもの竜具で勝るシャリアに対して圧倒できない技術の未熟さを思い知ったのか今までに増して修練に精を出していた。


そんな中、何故かレグルスに対してはシャリアの態度が軟化しているというよりは、酷くなっているのだがそれはレグルスの実力に対してではないようだ。


敵視するような視線に疲れながらもケインを含めたクラスメイト達、そしてロイスやアリス達に囲まれて学園生活を過ごしていた。


違う点と言えばシェイギスを含めた3人の竜騎士が学園の常勤の護衛になったという事だろう。元滅竜騎士と現騎士団長と精鋭の部下が守る学園に襲撃するものはいないのか何も起きてはいない。


そして、ベルンバッハ達の動きもあり外の世界の情報も逐一報告されている。嘆きの大渓谷に調査に向かったユリウスの報によれば本当に竜達の姿は見えず正常であるという事。


他にも憤怒の大山脈とし沈黙の大湖に現れた死神の姿。あの2人もまた竜王の復活を阻止する為に色々と裏で動いているらしい。


何も起きない日常。


それは、嵐の前の静けさのような時間に感じられた。


その日、レグルスはアリスはシャリアと、そしてラフィリア達も用事があった為に一人で帰路へとついていた。


時間が経ち、人の興味は移ろい少しは収まったのだがカインツ達を倒した事で未だに注目を浴びるレグルスは視線を集めていた。


すると、前方の生徒達が左右に寄っていく光景が見えた。そこから歩いてきたのは当の本人であるカインツとその取り巻き達であった。


今の彼らの扱いは力はあるが非道で無能というものだった。だが、オーフェン家という事もあり直接的に何か言うものはなくどちらかといえば関わりたくないというのが生徒達の心情だった。それは、道を開けたことでもわかる。


「よお、レグルス」


自然と向き合う形になったレグルスに向けてカインツは当然のように声をかけた。だが、今まで見せていたような卑劣な笑みではなく何処か穏やかな笑みであった。


レグルスは不思議に思いつつも返答する。


「久しぶりです。カインツ先輩」

「そうだな。それよりも、あの時は悪かったな」


その発言に周囲で聞き耳を立てていた者たちが騒ついた。以前のカインツからは考えられないような発言に目を擦る者までいる。


「いえ、気にしないでください」


無難に返答するレグルスだったが、何故か無性に胸騒ぎがする。カインツの態度にいつもなら何か言いそうな取り巻き達も何も言ってこない事にその胸騒ぎは大きくなっていく。


だが、あれからカインツ達はレグルスに対して何をするでもなく普通に過ごしているのはローズによって聞かされていた。


考えすぎだらうとレグルスはその胸騒ぎを切って捨てた。


「じゃあまたな」

「はい」


本当に挨拶だけだとばかりに横を通り過ぎていくカインツに軽く頭を下げたレグルスは面倒ごとにならなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした時


「ああ、それと。来週の実践訓練は頑張れよ」


そう言って再び歩みを始めたカインツは誰も見えなくなった所で口を吊り上げた。それは、歓喜に包まれてなお憎悪に染まった歪な表情だ。


決闘の後に見せた表情よりも深く、何故か途轍もなく恨んでいた宿敵を前にするような笑みであった。ふと立ち止まるカインツ。


懐から取り出した球体を数度と触るとしまい込み歩き始めた。


「なんだ?」


通り過ぎていったカインツの方向から先ほどまでより遥かに増した胸騒ぎ、それも悪寒に近いようなものを感じたレグルスは振り返る。


何かを感じたレグルスはしばらくの間その方向を見つめ続けていた。


「何かあったか?」


ふと現れたシェイギスはいつも通りの表情でレグルスに問いかけていた。飄々としておりどこか掴めない印象を覚える。


「いえ、所でどうしたんですか?」


シェイギスの護衛担当は学園である。だが、担当している地区は主に学生達が住む寮が集まる場所なのだ。


「いやぁ、実践訓練に向けての準備で呼ばれてな」

「はぁ」

「そう面倒そうにすんなよ。ま、頑張れよ」


実践訓練という言葉を脳裏で反芻した彼はまた何か厄介な事が襲いかかってくるかもと溜息と共に警戒を最大限に上げたのだった。


肩をポンと叩いたシェイギスはそのまま視界から消えていく。そうして、寮に帰ったレグルスを出迎えたのは


「ねぇお兄ちゃん!!」

「ん〜?」

「シャリアちゃんにやっと勝てたよ!」

「へぇ〜、良くやったな」


レグルスに褒められてふにゃ〜と顔を緩めるサーシャだったが、はっとした表情を作るとレグルスの背中を押してグイグイとリビングの方へと押しやっていく。


「じゃ〜ん!」


ひょっこりと前方に飛び出したサーシャは両手を広げてある位置を指し示した。そこには何故かケーキと共にまるでお祝いするかのような食べ物達が並べられている。


「なんだこれ?」

「ふふーん。シャリアに勝ったお祝いだよ」

「自分で自分のお祝いしてどーすんだよ……」


今更ながらサーシャのこういった行動に慣れているはずのレグルスであったが、思わず溜息を吐いてしまう。


「だって〜、シャリアに勝つってすごい事なんだよ!! それに、サーシャが強くなって嫌なわけないよね!?」

「いや、そんな事ないぞ」

「ふーん。じゃあそろそろ契約だね」

「まあ、そのうちな」


頬を膨らませて拗ねた真似をするサーシャ。もちろんレグルスも本気で引いているわけではなく、義妹でもあるサーシャに対しては甘いと自他共に認めているのだ。


誤魔化すようにサーシャの頭を撫でるとレグルスは席に着いた。まるで小動物のようにひょこひょことサーシャもまた対面に座るとちょうどアリスとラフィリアも顔を出す。


そして、その光景を見て2人は違った反応を見せた。


ラフィリアは難しい顔つきでサーシャを見やり、アリスは大きく目を見開き愕然とした表情でサーシャとレグルスを交互に見やった。


普段の勝気な彼女を知っていれば今見せた表情は焦りや後悔といった様々な感情が見え隠れしていた。


「アリスも早くしろよ。全部食べちまうぞ」

「う、うん。って私にもちゃんと残しなさいよ!!このバカレグルス!!」


だがそれも一瞬であり、すぐにいつも通りの勝気な表情を作ると会話の輪に入るのであった。


以前にも僅かに見せたアリスの中に燻る気持ちは一番知ってほしい人には未だ届かなかった。


(シャリアにも協力して貰ってるんだから頑張らなくちゃ)


何故か気が合ったシャリアに対してアリスは色々な話をしていた。幼馴染という近すぎる関係の為かラフィリアやサーシャとは恥ずかしくて出来ない内容。


それが、村から過ごしてきてから始めて出来た新たな友達と呼べる彼女にはすんなりと話すことが出来た。


それは、知られてはいけない為にボカしてはいるのだがレグルスとの契約のことである。


(私はサーシャみたいには出来ない。だから、必要とされる程に強くならなくちゃいけないわ!)


目の前でモシャモシャとケーキを平らげていくレグルスを見て決意を新たにするのであった。


◇◆◇◆◇


試験当日



王都から少しばかり離れた位置。徒歩で1日といった距離にある小さな森である。小さいと言っても王都がすっぽりと収まってなお有り余る程には大きいのだが。


辺りに生活圏は無く王都からの距離的にもこの森は学生達の修練にうってつけの場所でもあり、また新人騎士団の修練の場にもよく用いられていた。


そういった経緯もあり始まりの森とも呼ばれるここに4人の人影が見えた。早朝であり学園や騎士団といった組織の姿も見えずこの場にいるのはこの4人のみだ。


薄暗い森の中央付近で集う彼らはどう見ても怪しいことこの上ない。そして、それはその通りであった。


「情報通りに騎士団も学園もここはノーマークだ。さて、前に渡した竜玉を出せ」


徐に話し始めた彼はシェイギスであった。漆黒のローブを身に纏った姿はどこか朧気であった。それは、彼の相棒パートナーの竜姫ルシア・ホルンが司る竜具〝水幻鏡ミストルティンの力であった。


騎士団長にまで上り詰めた彼は水を支配し彼とって水を操り己の分身を創り出すことなど容易い。本人は学園内で準備を行っていた。


「竜玉? あ、これのことですね」


カインツ返答に頷くと3人は各々が竜玉を取り出した。彼らは怪しく光る球体に魅せられたように視線を奪われていた。


「それには前にも言ったが竜の力が込められている。それも今のような意思なき竜もどきと違い原初の古竜だ」

「原初の古竜?」


聞き慣れない単語に疑問の声を上げた。そして、何故かその事実が何か重大な秘密を語られているような気がしてくる。


「そう、かつて大地を支配していた竜達の三体だ。言わば五大竜王の系譜を継ぐ本物の竜。かつての大戦で人類の敵に回った竜達」

「な、なにを言って……」


シェイギスが語る内容にはどれも聞き覚えがない。それに、意思なき竜や五大竜王の系譜を継ぐといった言葉に混乱が大きくなる。


そして、シェイギスが語った人類の敵に回ったという言葉にも可笑しさが出てくる。そもそも竜とは人間の敵でありそれは不変の事実であるからだ。


これを聞いた後に見れば暗い光を放つ竜玉が不気味なものに見えてくる。


「早くしろ。それでレグルスを殺すんだろ?」

「こ、殺す……?」

「そうだ、お前達の未来を奪った奴を殺すのには必要な力だ」


物騒な言葉にカインツの握る手が力を増す。沸沸と湧き上がる不安感に思わず躊躇いを見せる3人だったが、突如として空間がピリついた。


それは、いつのまにか形成されていた水の槍が喉元に突き立てられていたからだ。


「ここで死ぬか、偉大な力を持ち名誉を得るか好きにしろ」


震える体でシェイギスを見ればカインツ達を殺すことに対してその目には迷いがなかった。


「わ、分かりました」


3人は慌てたままに竜玉に力を込めていく。もう後戻りは出来ないし、一瞬だが躊躇ってしまったがレグルスを倒す事に関してはもはや執念とも呼べる域まで達していた。


一度始めれば迷いはない。どんどんと注ぎ込まれる力に呼応するかのように竜玉の怪しい光も増していく。


「凄い、こんな力が俺のものに……」

「勝てますよ」

「凄まじい」


カインツ達を中心に莫大な力の波紋が広がり暴風によって木々が騒めく。途轍もない力を与えられているように全能感を覚えていった。


「どうせお前らの自我はここで死ぬんだから色々と話してやったんだよ」


そして、彼らは気が付かなかった。風に揺れてフードが捲れ上がった際にシェイギスの眼に浮かぶ紋章。それは、四大組織の一つとして、そして一人一人が途轍もない力を持ち全ての者達に恐れられる冥府のタルタロスを表すものだと。


突如として倒れこむ3人。


「ぐぅっ、くあぁぁぁっ!」

「な、なにが!!」

「いたい、いたいいたいぃぃ」


シェイギスは三日月のように頬を釣り上げて笑う。


「やはり滅竜師の適性があるものには適応が速いな。連綿と紡がれる竜の系譜……特にオーフェン家のコイツはやはり良い」


絶叫が森に響き渡った。


余りの痛みに白目を剥き涎を垂らして地面を這う彼らには最早なにも見えないのかその場で叫ぶのみ。


目の前で変質していくカインツ達は既に取り込まれているようだった。彼らの瞳は蛇のように瞳孔が変化し、それぞれが属性を表す色へと変質していた。


続けて背中から血が吹き出し大きく、そして皮膜のような翼が突き出た。その姿はもはや人ではなく竜と呼べる見た目であった。


人の身に原初の竜の力は大きすぎる。自我をなくした彼らは叫ぶことさえなくただ体を変質させていた。


その身から吹き出る力は圧倒的。


双頭竜ツインヘッドドラゴンなど比べるべきもなく、属性竜といった強大な竜すらも霞む異常な威圧感。


竜気とも呼ぶべきなのか属性の色に変したした気は渦を巻くようにひろがっていく。


「ククク、古竜……いや、邪竜というべきか。さぁ、テルフィナ様。ここから全てが始まりますよ」

すみません。。遅くなりました。

今後の展開を練り直していたらあっという間にこんなに時間が経ってしまいました。


書籍版、web版ともども今後ともよろしくお願いします!!

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