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48話

「アリスさん達の勝ちで勝負ありかしら?」


カインツが一撃をもらってからそう時間は経っていない。だが、ローズの目から見てこの勝負の決着は近いように思えた。


今更になってと言えば聞こえが悪いがカインツは持てる力全てを使って猛攻に出ている。


名家として長年にわたり培ってきた技術を駆使してアリス達と戦っていた。


強化された力はカインツ達によってアリス達にかけられた強化の遥か上をいっている。


「え!? で、でもカインツさんが押しているように思えますよ?」


手を握りしめて必死に見つめるミーシャはそんなローズの発言にあわあわとミーシャは疑問の声を上げる。


「ふふ」


たが、ローズは返事の代わりに薄く微笑んだだけであった。


ミーシャは更に首をかしげるとローズとアリス達の方向と視線を彷徨わせている。


「一見すると猛攻を仕掛けているのはカインツですが、決定打は与えられていないという事ですか」


そんなミーシャに助け舟を出したのはシアンであった。彼もまたローズと同じ意見だろう発言だ。


「ふえ? た、確かにそうです……」

「ミーシャさん、落ち着いてみて下さい」

「は、はい! すーはー、すーはー」


何度か深呼吸をして落ち着いたミーシャは今度は冷静に注意深く戦いを分析する。


「あ、あの三人の連携のお陰でカインツさんの攻撃は逸らされています。そのせいでカインツさんもスピードを上げていますが体力的に……」

「そういう事ですよ、ミーシャさん。貴方は落ち着けばしっかり見れるのだから要練習ね」

「は、はい」


ローズに指摘された通り、ミーシャは優秀なのだが、見知ったアリス達が押されているように見え、あがり症なせいもあり見抜けていなかったようだ。


ローズの言葉通り、一見するとカインツが押しているようにも見えるが息がぴったり合った三人の連携によって上手く事を運べていない。


長年一緒に過ごしてきた少女達三人の連携は見事としか言いようがない程に素晴らしいのだ。


カインツは只でさえ体力を消耗しているのに更に強化によって限界を超えた動きを見せている。


「長くは体力がもたない、という事ですよ」


シアンはそう締めくくった。


会場のボルテージは上がりに上がっている。カインツの動き、そして可憐な少女達が舞うように踊る戦いはどこか華がある。


小柄な体を活かして襲い掛かってくるサーシャを吹き飛ばす勢いで薙ぎ払う。


そして、追撃を加えようとすれば横合いからアリスの剣が伸びてくる。


剣から迸る炎を避けるように体を滑らせて避けたカインツはそのままの勢いで目の前に立つラフィリアに剣を振り下ろす。


「クソッ」


だが、またしてもサーシャによって防がれてしまう。そんな先程から続く光景の巻き戻しを見ているような事実に思わず悪態をついてしまう。


一人ずつであればカインツにとって脅威たりえない三人だったが、何故か三人揃えば途轍もなく手強く感じる。


そんな苛立ちを感じている間にも入れ替わり立ち替わりに三人は攻撃の手を緩めない。


自分の体力はカインツ自身が一番分かっている。纏わりつくようにして動く三人を中々捉える事が出来ない。


(クソがっ、平民風情の癖に! 弱いくせに群れやがって)


そんな想いが行動に出たのか、目の前にいたラフィリアを標的に捉えた。


「チッ、うぜぇ!」


1人でも先に倒したいという思いを抑えきれなかったのか、大振りに振るわれた剣。


その行動がこの戦いの終末であった。


「やっとね!」

「これで最後だよ!!」

「行きましょう」


三人はここが勝敗の決め手になると瞬時に動き出した。まさに完璧とも取れる行動であった。


「なっ!」


カインツの剣はラフィリアによってガッチリと受け止められる。


驚きの声を上げたカインツはすぐに剣を引き戻そうと動くが大振りになった為か態勢が崩れワンテンポ遅れていた。


「これで終わりよ!」

「負けなんだよ!!」


左右を駆ける二つの影。カインツはその光景を見ていることしか出来なかった。


既に剣を引き戻す事は不可能。引き戻せたとしても同時に斬りかかってきている2人の対応は出来ない。


チラリと見やれば他の貴族クラスの者で立っているものはいない。


チェックメイトであった。


「クソがっ! 1人だけでも!!」


負けが確定したカインツは右腕に渾身の力を込めると強引に剣を振るおうとサーシャに背を向けるとアリス目掛けて横薙ぎを繰り出した。


もはやカインツは目の前にいるアリスを潰すことしか頭にない。それは、繰り出す剣の速さからも察しがつく。


「ふふ、私もいるんですよ?」


だが、戦っているのは2人ではなく三人であった。


「風よ!」


ラフィリアの竜具から生み出された突風はカインツの剣の軌道を逸らせた。


沈み込んだアリスの髪が遅れて動き出す。カインツの剣はアリスの髪の先を僅かに切り裂くだけでとどまった。


はらりと落ちる赤い髪。


そして


「うっ……」


呻く声と共にカインツは崩れ落ちた。両方から突き出された竜具はわき腹を打ち据えていた。


「試合終了でーー」


ワアァァァァ


審判の声を遮るように歓声が鳴り響いた。その賞賛の叫びは闘技場に立つ三人の乙女達に向けられたものだ。


腕を組み仏頂面を浮かべたアリスだったが、よく見れば嬉しいのか頬がひくひくと動いている事がわかる。


そして、太陽に照らされる青い髪を振り乱しながら笑顔を振りまくサーシャ。


その横ではレグルスに微笑みを向けるラフィリアの姿があった。


「やったぜ!」

「よしっ!!」

「勝ったよ! 勝ったんだよ!!」

「よっしゃーー!」


三人を取り囲むようにケインたちが走り寄って行く。喜びを爆発させた彼らは手を取り合い雄叫びを上げていた。



全てを見終わったローズは胸を撫で下ろした。勝敗は決したと言ってはいたが、やはり現実として目の前で見れば安堵の息も出るというものだ。


その空気がシアン達にも伝播したのか嬉しそうにはみかむミーシャは控えめに手を叩いていた。


「しかし現実にこうして見ると本当に勝てるとは思いませんでしたよ」

「確かにそうですね。カインツさんの慢心から招いた采配が物の見事にマイナスに働いたという事ですからね……ですが、負けは負けです」


ローズは話すが視線はカインツに向けられている。どこか憂いを帯びた視線であった。勝ち負けは簡単ではっきりとしていて分かりやすいが、人の感情はそう簡単ではない。


「これでカインツ達の評価は途轍もない速さで下降していきます。ここ最近の態度に加えて自業自得とはいえ心配ではあります」


シアンも同じことを考えていたのかそう漏らす。ようするにカインツ達に向けられる周りの今後の対応とそうなった時の彼らの行動に対する憂いであるのだ。


「はぁ、問題ごとは山積みね……レグルスさんはこれからも大変よ」

「確かに彼も見事な立ち回りでしたね」

「そ、そうなんです! レグルス君はーー」

「ゴホンッ」

「た、確かに凄かったです」


興奮した様子のミーシャが過去に見た名無しとの戦いを思い出したのか思わずと言った具合き話し始めたが、ローズの咳払いによって口を閉ざした。


「いつまでも誤魔化せないわね」


今回のレグルスの立ち回りは目立つものでは無かった。誰もがアリス達とカインツの戦いに目を奪われ生徒達の中で注目しているものなどほとんどいなかった。


確かにレグルスは目立たぬようにはしていたが、的確にそして危うげなく近く二年生を倒していた事は、シアンを含めて何人かの生徒達には見られているだろう事はローズにも分かる。


居ないとは言い切れないという事だ。


「ふぅ」


ローズは一つ溜息を吐くと膝立ちになったカインツへと視線を戻した。


「なんでだ……俺はオーフェンだぞ」


膝立ちになったカインツはただ呆然と目の前で手を取り合うアリスたちを見つめていた。


出てくる言葉は自分の身分を保証する家名だけ。


カインツは今日この場で地位を失ったように感じた。オーフェン家という誇りは自分より強く優秀な他の生徒達。


それは、ローズを筆頭に何人かはいた。だが、ローズならば団長の娘だと自分を誤魔化す事は出来た。


今は一年生に負けた。


「ふんっ、アンタは強いわ! でも、1人だけじゃ勝てないわよ。最初からみんなで来られたら危なかったんだから」

「クソッ」


アリスの言う事はもっともであった。余裕で勝てると踏んだカインツ達とその取り巻き達が初めから参加し、チームで連携を取っていれば逆の展開になっていたはずなのだから。


地力では二年生が上である。ようするに、リーダーであったカインツの慢心、傲慢、指揮が出来なかった。


それは、竜騎士を目指す者にとって致命的なミスだった。


「お前のせいだ……全部」


ふと目に付いた少年。眠たそうに欠伸を噛み殺し空を見上げていた。


日光が気持ちいいのか目を細めて雲を目で追っているレグルス。


そんな態度に今のカインツはまるで自分には興味が無いと言われているかのように感じた。


どろどろとした濁った目をしたカインツはただただレグルスを睨みつけていた。


◇◆◇◆◇


闘技場の最上段から愉快そうに笑う男がいた。年齢的に見ても場違いな彼だったがどの生徒も気にした様子はない。


「オーフェンの息子か……これはいいな」


本当に楽しそうに笑う彼はまるで今回の健闘を称えているようにも見えた。


「いやぁ、いいものを見させて貰った。本当の竜のお目覚めだ」


そう言うと右手に握った光の届かない深海のように暗い青玉を弄ぶようにクルクルと指と指で回す。


感情が昂ぶってきたのか、一瞬だが男がいる空間がゆらりと歪む。


「おっと、ここには爺がいるんだった……抑えなきゃな。さてさて、俺には聞こえる、近いってな」


楽しそうに笑う男はそう言い残すとその場から姿を消した。


「ん?」

「何か寒くないか?」

「あー確かに。いや、気のせいだろ」


消えた後には僅かに冷気が漂い周囲の生徒達はぶるりと体を震わせていた。


「ふむ、気のせいかのぉ」


闘技場の一点を見つめたベルンバッハだったが特に変わった点も見られない事に呟くと、闘技場に立つ一年生達に賞賛を送るのであった。


お待たせしました!

アース・スターノベル様から9月15日発売、今作のアリスが載った表紙イラスト含めた詳細が公式サイトにてアップされています。


各サイト等でも予約が開始されているのでよろしければ見て下さい!

詳細は後ほど活動報告にて。。

ここまでお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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