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46話

お久しぶりですみません。

「ふん、逃げずにのこのこやって来たか」


先頭に立つ少年は笑みを浮かべてレグルス達の方へと歩み寄ってきた。周りの取り巻き達も同様の表情をしていた。


貴族クラスは既に闘技場に出揃っていた。相対する一年生クラスと二年生クラス。自然と目が合う形になった為かケインやコリン達は思わず息を呑む。


「やっぱりこうして見ると……な」

「確かにそうですね」


この年齢の一歳の差というものは体格にも精神的にもかなりの差がある事は間違いなかった。


「はぁ、早く終わらせて飯でも食おうぜ」

「ま、そうだな。師匠、はは」

「ふぅ、レグルス君は流石ですね」


そう話す先頭に立っていたレグルスの目の前にカインツは近づいていく。


その光景を近くで見ていたケインを含めた一年生は、学園でも上位の位置にいるカインツを目の前に呑まれそうになっていた。


だが、見られているカインツの眉がピクリと動いた。


「おい、聞いているのか?」


 眉尻を上げたカインツはぼけーと立っているレグルスを射殺さんばかりに睨みつけていた。


「おい!?」


返答を待っていたがいつまでたってもレグルスからの返答はない。カインツからしてみれば一人で話しているようなものだ。


「ちょっとレグルス……返事くらいしてあげなさいよ」


 カインツが動きかけた時、声と共に不意にレグルスの後方からアリスがやってきた。どこかカインツを気遣うような声音である。


「あげなさいだと?」


 アリスの物言いに怒りが沸点を越えようとしていた。まるで、こちらが各下であるかのような物言いである。


「んあ? 何か言いましたか?」


 寝ぼけたような、とぼけたような返事と共にレグルスは小首を傾げながら尋ねた。


「もういい、お前と話すと我を忘れてしまいそうだ。さっさと始めるぞ」


 カインツはこれ以上レグルスを挑発しても自分自身の怒りが増すだけだと考えたのか、踵を返すと元の位置に戻っていった。


そもそも観客も既に集まっているのにいつまでも長話をするなと言いたげな視線と空気を感じ取った事が大きい。


「了解です」

「はぁ、あんたはボケーっとしすぎなのよ」

「こんな天気のいい日に何をしているんだろうと感傷に浸ってた」


 憂鬱そうに呟いたレグルスの表情を見れば心の底からそう思っているのだろう事はすぐにわかる。アリスは可哀そうな子を見るような視線をレグルスに向けると頭を左右に振った。


「仕方がないよ、アリスちゃん」

「うーん、難しいですね」


 タイミングよくやって来た二人も同様の反応であった。そんな微妙な空気が4人の周囲に漂っていた。


「なんだよ、まったく……」


耐えかねたレグルスはちらりと視線を観客席の方へと向けた。人、人、人で埋め尽くされた観客席を見てさらにうんざりした気分になってきた。


「ん? はあぁ」


 ふと視線を止めた先にはこちらの状況が大体つかめていたのかローズが口を押さえて必死に笑いを堪えるのに苦慮している様子が見えた。


「なんだかなぁ」

(モルネ村で生活してた時は大した事件も無かったんだがなぁ)


トボトボと後方へと歩いて行くレグルス。彼の苦悩など知るよしもない審判役の生徒はお互いが位置についた事を確認し、開始を知らせる言葉を吐いた。


「それでは、始めてください!」


アリス達はその言葉と同時に前方へと駆け出したと同時に一年生、二年生陣営の方向から聖域が展開された。


双方の聖域はお互いを侵食しあい、やがて定位置に収まるかのように留まった。


「レグルスは下がって見てて」

「今回はお兄ちゃん抜きだからね! しっかり見ててよ」

「うふふ、任せて下さい」


トボトボと歩くレグルスにそう声を掛けるとそれぞれが竜具を顕現させる。


「さあ、煉獄の大剣(イフリート)

みずち、いっくよー」


力ある言葉により二人の手に具現化した竜具はその威力を物語るような威圧感を周囲に放っていた。


「風精のシルフィード

「んあ? 覚醒した方の竜具じゃないんだな」


ラフィリアもまた竜具を権限させたのだが、レグルスが疑問の声を上げた。


何故ならレグルスの言葉通りにラフィリアが手に持つ竜具は翡翠に輝く神々しい剣では無かったからだ。


「二人と同じ土俵で戦おうかと思いまして」

「そっかそっか。じゃ、俺は下がるよ」


なるほど、と納得し歩き出したレグルスとすれ違うように他の女生徒達も竜具を携えて走り出した。


作戦通りにレグルスは後方へと下がって行く。これはクラスでも話し合われた通り、レグルスの戦闘能力の高さから押され始めたポイントに向かうという遊撃を担っていた。


「レグルス! 行ってくるわ!!」

「アリスさん達や他の女の子達の強化は任せてください」


ケインやコリンが後方から強化魔法をかけて支援を始めた。その陣形は貴族クラスともに変わらない。


竜具を持つ女性は強力無比な力を持つ。そして、滅竜魔法を扱える男性が支援を掛けるというのが契約していない者たちの戦い方だ。


「カインツ達と愉快な仲間達は動かないか」


後方にいる事で全体を見渡せるレグルスはそう呟いた。四人ほどが固まってレグルスと同じように見守っている集団がカインツ達であった。


すると、ようやくアリス達と二年生が相対する。飛び出していたアリスに向かって二人の生徒が左右から挟み込もうと竜具を振るった。


流石は二年生というべきなのか、強化された身体能力で確実に当てられる軌道で迫り来る。


だが、アリスはその場で勢いよく体を一回転させた。


「はあぁっ! 燃やしなさい!!」


アリスを軸にして全方向に走る炎が辺りを侵食していく。


「くっ、一年の癖になんて火力……カンナ、ごめん」


右から迫っていた生徒はそのスピードと威力に防御が間に合わずにもろに受けてしまう。


「ハンナ! こっちだって……火猫」


動揺した生徒は倒れる生徒の名前を叫んだ。だが、自分にも迫る炎の波に咄嗟に炎を生み出しぶつけた。


ぶつかり合った二つの炎。まじかに聞こえてくるその音は鼓膜を激しく振動させた。


カンナが放った炎は轟音と共にアリスの炎を塗りつぶす勢いで広がっていく。


一人が早くも敗退したが、所詮しっかりと対応すればこの程度だと表情を緩めるカンナ。


だが、すぐに驚きに表情を染め上げた。


「え、うそっ!」

「こんな炎なんて燃やしてやるわ」

「炎を燃やし……てる?」


言葉通りにカンナの炎を塗りつぶす様にアリスの炎が上から下からと食らっていく。さらには食らうごとにその威力を上げてる。


「こ、この! 火猫、耐えて」

「はあぁぁ!」


アリスの声と共にどんどん大きくなる炎はやがて色を蒼炎に染め上げていく。そんな幻想的な光景を前にカンナは顔を痙攣らせる事しか出来なかった。


「はは、火力。それに竜具の力が違いすぎる」


そうして、二人は炎に呑まれた。


「あ、やりすぎちゃった」


炎に呑まれる二人を見たアリスはそんな言葉を漏らした。いくら決闘とはいえ殺してしまってはやはりダメだ。


だが、その心配は杞憂に終わった。いつのまに現れたのか教師達が二人を外に回収していたのだった。


致死性の高い攻撃が放たれた場合のみこうして教師達が出張るのだ。


「流石は教師ね」


流石はというべきか、対応の早さに舌を巻くアリスだった。ふと視線を他の生徒達へと向ける。


そこでは、死神との戦いを得た為にか余裕を持って対処するラフィリアの姿が見られた。


元から冷静に行動できる彼女だったが、死を体験した事で更なる高みに上っていた。


風を操り襲いかかる生徒達をまるで転がす様にあしらっている。アリスと違いやり過ぎることもなく的確にだ。


「ラフィリアにまた先を越されたわ」


悔しげな発言をしたアリスだったが、その表情はどこか誇らしげでもあった。


「サーシャはどうなってるの?」

「あ、アリスちゃん!! そっちも順調?」


ほぼ同時に話しかけてきた人物は両手に短剣を携えたサーシャだ。快活な笑みを浮かべて薄っすらと額に汗を浮かべている。


アリスはそんなサーシャに話しかけようとするが、ふと後ろから迫ってきている生徒を見つけた。


「サーシャ! 後ろ」


咄嗟に叫ぶアリスだったが、既にその生徒はサーシャに肉薄している。


「よそ見して、舐めないで!!」

「よっと、はっ!」


だが、突き出された剣を宙返りの要領で躱すと相手の頭上あたりから蹴りを見舞い昏倒させた。


「動きが凄いわね」


サーシャの軽快な動きを成せているのは足元に見える水の奔流である。


水流の微調整を行いサーシャはあり得ないほどの動きを見せていたのだ。


「えへへ、ぶい!!」

「はあ、まったく危なっかしいわ!」

「てへ。でもでも、ローズさん達のお陰で強くなったね」

「そうね、何だかこんな簡単に強くなるものなの? って思わなくもないけど」

「確かにそうだけど、悪い事じゃないからいーんだよ」


そう言う二人は不思議そうにはしていたが、強くなれる分には特に問題ない。


会話が途切れた事であたりの喧騒が耳に入ってきた。それは、アリスやサーシャ、ラフィリアに向けられた歓声もあれば、他にも熱狂した声援が聞こえてきていた。


その中でもやはりと言うべきか、アリスに向けられた声援が大きい。あれだけ派手に炎を扱えば目立つのだ。それも、相手の炎を燃やすという芸当である。


そんな声を流しつつ辺りを見渡した。


「戦況は微妙ね」


アリス達が勝っているとはいえ、退場している生徒の数は一年生の方が多い。自力の差というべきか、前評判通りの展開である。


ローズ達の特訓のお陰で何とか戦えてはいるが、所詮は付け焼き刃だ。一つのミスが大きなミスへと変化していく戦いの中で経験の差は如何ともしがたい。


そんな中でもケインやコリンといった元々そこそこの実力があるもの達はそもそも基礎ができている。見る限りでは何とか二人は戦えていた。


「うーん、私達は何とかなってるけど他のみんなは苦しそう。私達だって竜具の性能ありきだもんね」

「そうね、私達も加勢するわ」

「じゃあ、私は右! アリスちゃんは左で行ってみよー」


二手に別れたアリス達は苦戦するクラスメイト達の元へと駆けていく。


「燃やせ!」

「ありがとう、アリスちゃん」


加勢に駆けつけた二人はすぐさま目の前の相手を押し始める。


「蛟、高速で行くよ」

「ふふ、次は誰でしょうか?」


落ち着いた様子のラフィリアもまた的確に現場の状況を読み取り確実に敵を仕留めていった。


「いい感じに押し始めたな」


嬉しそうに呟いたレグルスは安堵の息を吐いた。押され始めていた時はどうしようかと、頭を抱えそうになったがアリス達のお陰で戦況はひっくり返った。


「さてさて、カインツ先輩達はどうするのかな?」


作戦通りに事が運んでいるお陰でレグルスの出番はまだ無い。たまに後方へと流れてきた生徒がいるが、レグルスによって昏倒させられていた。


「おらぁ!」

「ほいっと」

「ぐふっ」


また突っ込んできた男子生徒の顎を蹴り上げて昏倒させる。


「ふぅ」

助かったとばかりに息を吐き額を拭うレグルス。スマートにではなく頑張った結果という演出は忘れない。


(多少は体術が出来るって感じを見せておけばいいや)


そんな思いが届いているのか観客席にいる生徒達もレグルスに視線を向けているものはいない。


いや、多少はいる。それは、学園のスーパースターと呼ばれる人物達である。蹴る際に分かる軸が安定したレグルスの動きに興味を持った様子であった。


「ま、多少は仕方ない。お? カインツ先輩が動くな。顔が真っ赤だし」


視線の先では負けていく貴族クラスの生徒達に向けて怒号を飛ばすカインツの姿であった。


情けないと言わんばかりに叫ぶカインツだったが、残る生徒が少なくなった頃に重い腰を上げたようだ。


彼からしてみれば、勝てて当たり前。自分が出る幕など無いとばかりに思っていた為か余計に怒りが大きいみたいだった。


「使えん奴らだな」


取り巻きを引き連れて歩き始めたカインツは目の前に躍り出たコリンに目を向けた。


「まずはお前からだな」

「行きます!」


宣言通りにコリンが得意の足技を見せつけた。うねる蹴りは変化してカインツの顔面へと吸い込まれていく。


「遅いぞ、お前」


避ける動作も見せないカインツは蹴りを受け止めた。衝撃は強いはずであったがその足は大地に根を張ったように動かない。


「こうか?」

「ガハッ」


そして、コリンの蹴りを真似たように放った蹴りはコリンを打ち抜き昏倒させた。


その鮮やかな手際に観客席も沸き立つ。そもそも、見にきた大半の者がカインツという学園トップクラスの実力を見にきたのだ。湧くなという方が難しい。


「おい! そこで見ているレグルス。今から格の違いを見せてやる」

随分と空いてしまい申し訳ないです。。暖かい感想やコメントありがとうございます! 待って頂けて嬉しいです。


さて、9月15日にアース・スターノベル様から今作の書籍版が発売予定です。特典SSも何本か書いているのでよろしくです。詳しくは後ほど活動報告にて書きます!

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