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45話


闘技場は熱気に包まれていた。これでもかと言うほどに人で賑わっている。


ここは普段であれば学生同士の模擬試合や訓練などで使われておりどちらかと言えば人は少なかった。だが、今日は中々のビッグイベントがあってかほぼ満席状態である。


誰もが今か今かと両クラスの登場を待っていた。娯楽の少ない学生たちにとっては熱中できるイベントなのだ。


 ただの物見雄山の者もいれば真剣な顔つきで場内を見つめている者など様々である。ロイスとマリーは少し高い位置に陣取っており緊張した様子である。傷はもう癒えたのかそんあ様子は見受けられなかった。


 そして、もう一組見知った顔ぶれが揃っていた。


「会長、それで……何故そんなにも自信満々何ですか?」

「あら? そんな顔をしていたかしら?」

(ふふん、レグルスさんが居れば一人でも勝てるでしょうし)


 隣の少女が鼻唄を奏でながら足をぶらぶらしている様子を見たシアンは尋ねたのだった。それに対して鼻唄交じりにそう返した少女はローズであった。彼女は訝しがるシアンを横目にご機嫌の様子で足を未だにぶらぶらさせている。


(レグルスさんの凄さが皆さんに伝わる日が来ましたわ)


 そんな事を思いながら周囲を見渡しているとちらりと見えた人影達。その顔ぶれに先ほどまで考えていたふわふわした思考は消え去った。


「学園のスーパースターが勢ぞろいですね」


 そう言った視線の先にはローズにも肉薄するほどの実力を持った数人の生徒たちの姿が映っていた。


「それはそうでしょう。カインツは腐っても上位陣に食い込んでいますし……何より会長が一年生にかなり肩入れしてますからね」

「あら? そうでしたか?」

(レグルスさんの事だから手を抜きそうね。はぁ、いったいどうしてこんなに集まったのかしら?)

「はぁ、まったく」


 そもそもこれ程に見物客が増えたこと事態がローズの影響がかなりあると言えた。学年トップの実力を持ち、淑女然とした立ち振る舞いにその美貌、そして団長の娘と来れば生徒たちの関心が向くことは分かり切っている。


 そんな彼女が肩入れする一年生のクラスの事が気になるのは仕方がない事である。恐らく気づいているのではあろうがとぼけた様子のローズにシアンは呆れ声を漏らした。そうこうしている間にも周囲の視線は自然とローズに集まっている。


「うぅぅ」

「どうしたの? ミーシャさん」

「うぅ、視線がいっぱいですぅ」

「シアンさん、視線を遮って、ね?」


 羞恥のあまりか頭を抱えるようにして隠れるミーシャにローズは悪戯っぽくシアンに言い放つのであった。


「はいはい、分かりましたよ」


◇◇◇


「いよいよですね、閣下」


執務室の中で聞こえてきた声。それはベルンバッハに向けられた言葉だった。


「そうか、今日だったか」

「お忘れだったので?」

「いや、勝敗に関しては興味がなくてのぉ」


そう呟いたベルンバッハは勝敗において確信した様子であった。それもそうである、レグルスの実力を知るかれにとっては些細な決闘であった。


「しかしですね……」


だが、釈然としない様子のランクルは未だに心配そうな面持ちで目の前に座るベルンバッハを見つめている。ベルンバッハはそんな事は気にせずに徐に机の引き出しを開けた。


「さて、書くとしようかのぉ」

「何をですか?」

「交換留学をするという話は聞いておろう?」


笑みを浮かべて疑問に疑問を返すといったものであったが、ランクルとて教師になってからそれなりに経っている。この生ける伝説と呼ばれるベルンバッハの性格は知っていた。


「ええ、聞いております。国の上層部で決まった事だとか」

「そうじゃ、それで誰を留学に出すか考えておったのじゃが……」


そう言いながらもベルンバッハは軽快にペンを滑らせて行く。気になったのかランクルは覗き込むように尋ねた。


「誰にしたのですか?」

「まぁ、おいおい分かるでのぉ」


焦らすような勿体ぶるような口調でベルンバッハは呟いた。ランクルはその際にちらりと見た用紙には2名の名前らしきものが書かれている事を確認していた。


ランクルは名前を聞き出せないまでもどの国に行くかと興味が湧いていた。


「ちなみにどこの学園ですか?」

「メシア王国じゃな。あそこは強い奴が多いからのぉ」

「滅刃衆ですか……、なぜ?」


メシア王国の滅刃衆と言えば有名である。セレニア王国の五大騎士団もまたかなり有名ではあったが、また違うベクトルで有名なのだ。


セレニア王国の騎士団と言えば五人の団長に率いられ強固な組織力を持ち、人数も多い。そして団長含めた幹部クラスは誰もが一流である。


そして、メシア王国の滅刃衆は僅か12名で構成されている。刀術を扱い対人戦闘に長けた彼らは闘争のスペシャリストである。数で戦う他の国とは違い続く者達の個の力が突出していることが特徴であった。


ランクルはメシア王国について一通りの考えを終えると部屋を退出して行った。間も無く自分が受け持つクラスの決闘が始まるのだ。


「それでは私はこれで失礼いたします」


急ぎ足で廊下を進む靴音が聞こえてきた。


「行ったか……」


ベルンバッハはそう呟くと執務机の引き出しを開けて中から書類を取り出した。そこには報告書と書かれた題名と共に彼が知りたかった情報が連ねられている。


嘆きの谷(グリーフバレー)の活性化は治った……か。死神達の言葉を鵜呑みにする訳にもいかんが、はてどうしたものかのぉ」


呟きながらも老練のベルンバッハは数々の憶測を思い浮かべては額に皺を寄せている。ハーローが話していたレグルスの事とラフィリア達の関係性。蓄えた知識を元に考えを張り巡らせるが何一つ確定的な要素は見えてこない。


もう一度手元の書類に目を通せばそこには溢れ出ていた竜達の姿が契約した時点と同じ日時で止まっているという事が記載されていた。


「じゃが、契約すれば治るというのも事実としてある……か。まったく彼奴が来てから何かと事が起こりよるわい。ほっほ、老いてなお儂を楽しませてくれるわい」


手がかかる少年の顔を思い浮かべて笑うベルンバッハは王宮に申請する為の用紙にさらりと筆を走らせた。そこにはレグルスとラフィリアの名前がしっかりと書かれていたのだった。


◇◇◇


「おいレグルス! 最終確認をしようぜ!!」

「何回すんだよ、ケイン」

「はぁ!? 相手は貴族だぞ!! 準備は周到にだ」

「僕はもう聞き飽きたね」


ケインの発言にそわそわしていた生徒達が思い思いに呟く。ここに来て心配になったのか先程から何度も同じやりとりが繰り返されていた。


「なぁ、レグルス? 必要だよな?」

「……」

「おい、レグルス」


何度か呼びかけたが背中を向けて座るレグルスは何の反応も見せない。精神統一でもしているのかと頭を傾げるケイン達だったが、スタスタと歩み寄って来たアリスがレグルスの顔を覗き込む。


スパンッ


「何寝てんのよ、まったく」

「んがっ!?」

「はぁ、しっなりしなさいよね!!」

「んあ? アリスか……」


頭を叩かれたレグルスは寝ぼけた様子で頭をガシガシと掻く。何が起こっているのかまだ理解していない様子であった。


「なんだ?」


そして周りを見渡すとクラスの生徒達が苦笑いや笑みを浮かべてこちらを見ている事に気がついた。そこでようやく決闘の為に控え室に居たことを理解したのか手をポンと鳴らす。


「レグルスさん、ほら顔を拭いて」

「おお」

「お兄ちゃん、頭ボサボサ〜」


すかさずラフィリアとサーシャがレグルスにあれやこれやと世話を焼きはじめた。見る見るうちにレグルスの崩れた服装や寝ぼけた顔がしっかりとしたものに変わっていく。


「くうぅぅ」


そんな遣り取りが続いているとふと腹から絞り出したような声が聞こえて来た。感じ取ったレグルスが音の発生源の方へと視線を向けるとハンカチを手に取りワナワナと震えるアリスの姿があった。


どうやら彼女がやろうとした事を二人に取られた形になっていたようである。わなわなと悔しそうに口をへの字に曲げているアリスを見て他の生徒達も表情を和らげた。


力み過ぎていた緊張感がマイペースな彼らによってほぐされたのだ。


「ちょっと二人とも。私が起こしたんだからっ」

「そんなルールはありましたか?」

「そうそう、早いもん勝ちだよぉ」


二人と一人の静かな戦いが始まった。三人ともが隙を見せまいとハンカチを手に取り出方を伺っている。誰かが動けばすぐにでもレグルスの世話が始まる。そんな予感と共に当の本人はうつらうつらと舟を漕ぎ始めていた。


コンコン


「シアンです。そろそろ時間ですので行きましょう」


そうこうしているうちに今回の決闘を取り仕切る生徒会のシアンが部屋へと入ってきた。彼を先導にぞろぞろと一年生達が闘技場の入口へと歩みを進めていく。


「ねぇレグルス。私達も戦えるとこ見ててね」

「そうだよお兄ちゃん。あんなカインツなんかポンだよ、ポン」


アリスは真剣な顔でレグルスへと、サーシャは左右の腕をまるで何かを殴るようにシュッシュッと動かしている。


「私もレグルスさんとの固い絆で結ばれた力を使いますね」

「はぁ!? 今だけよそんな事言えるのも。ふん」

「涼しい顔して……ふんだよ」


言い合う三人だったが険悪な雰囲気は無くお互いに笑みを浮かべるとレグルスの方へと振り返った。


「ま、頑張れよな」


レグルスの言葉に頷いた三人は胸に手を抱いて深呼吸をしていた。


「はは、相変わらずだねレグルス」

「シアン先輩」


先導していたシアンが後ろで面白いやり取りをしていたレグルスの元へと歩み寄って来ていた。


「レグルス君、立場ゆえに応援は出来ないが楽しみにしているよ」

「はぁ、面倒なんですけど」


心底面倒そうな顔をするレグルスだった。普通であればこれから戦いがあるとあうのに上級生に対しての態度では無かったが、以前のローズとの遣り取りやローズからレグルスの話をよく聞かされていた為にシアンは笑みを浮かべる。


「学生達はみなもっぱらカインツ達が勝つという流れになっているが、会長が一目置いている君なら勝てるだろう。予想をひっくり返す事を楽しみにしているよ」

「まったくあの会長は……」

「生徒会の仕事そっちのけで会長は席に陣取ってしっかりと見ているよ」

「ま、できるだけの事はしますよ」

(見られているとやりにくいよなぁ。シアン先輩を含めて気をつけないとな)


やれやれと言った様子で話すシアンに対してレグルスは自分の実力が学生レベルで収まらない事など百も承知だ。


どうすればバレないかと冷や汗を垂らしながら考えていた。


「君はまったく緊張していないな。それじゃあ頑張ってな」


動じていないレグルスに驚きを見せつつも先頭に戻っていくシアン。


確かに他の生徒達は期待、そして不安を胸に言葉を発さない彼らは先導されるがままに闘技場のゲートを潜り抜けた。


そこには差し込む太陽の光と割れんばかりの歓声が鳴り響くどこか不思議な雰囲気が広がっていた。

期間が空いたせいか中々筆が進まず、毎度毎度で本当にすみません。今後とも更新は続けていくのでよろしくお願い出来たらと。。

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