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36話

食堂でカインツとの一件があってから一週間ほどが過ぎ去った。その間、カインツを含めた貴族達が高圧的な態度を取り出していた。


そんな中でも、レグルスのクラスメイト達はかなり打ち解けあったのかアリス達は他の女子生徒達と教室内で楽しく会話する様子が伺えた。


「アイツらも楽しそうだな」


そう呟いたレグルスも何かと話しかけてくるケインや他の生徒達と談笑をしつつ窓から外を眺めていると、ふいに教室の入り口から大声が聞こえて来た。


「おい、ここにレグルスはいるか!?」


そんな高圧的な声に一斉にその発生元へと視線を向けた。そこには見るからに高価そうな服に身を包み、クラス内を見下ろす少年がいた。


その他にも取り巻きなのか複数の少年や少女の姿も見える。何れも身なりも良く見下した様子を見せていた。


襟にはこの学園の二年生を表す縦筋のラインが引かれており、戸惑いを隠せない様子の生徒達。


静まり返る教室の中でレグルスは先程感じていた感情に水を差された形になった為か面倒そうに立ち上がると歩いて行く。


「俺がレグルスだが」

「ふん、礼儀も知らんらしいな。以前にも言ったが、俺はカインツ・オーフェンだ」


そう自信満々に放たれた言葉に周囲がにわかに騒がしくなる。誰もが知っているオーフェン家の名前を強調するカインツ。


「オーフェン家って言えば、3人の隊長格を輩出してる家だよな?」

「ああ、何でそんな家の先輩が?」


彼らは四大名家に名を連ねる者がこんなクラスに何をしに来たのかと困惑気味である。普通にしていれば学園においては接点など出来るはずもない者である。


カインツはレグルスから返ってくる反応を楽しみにしているのかニヤニヤしながら見ていたのだが、当のレグルスは知らないとばかりに答えた。


「いや、知らんな。有名人なのか?」


食堂で会った筈であったが、そんなレグルスの言葉に取り巻き達が騒めく。


「き、貴様! 何たる侮辱ーー」

「止せ、この場所で手を出せば面倒になる。そんな事も分からないのか?」


取り巻きの1人が思わずといった様子でレグルスに飛び掛かろうとしたのだが、カインツはそれを制止した。そして、冷ややかな目でその生徒を見つめる、


「い、いえ……申し訳ありません」


震える声でそう返事をする生徒を見下ろすカインツはわざとらしく溜息を吐いた。


「先の事を考える力は貴族にとって必要だぞ。俺に迷惑をかけるつもりか?」

「も、申し訳ありません」

「ふんっ。まあいい、それよりもお前」


カインツは鷹揚に顎をしゃくってレグルスを呼びかける。だが、レグルスは後ろを振り返って首をかしげる。誰に合図をしたのかといった様子である。


「面倒な奴だな。名無しから尻尾を巻いて逃げるは礼儀作法も知らない。さらには頭まで悪いらしいな」

「はいはい。で? 何の用だ?」

「まあ田舎者のお前には難しいか……こう言えば簡単だな。お前に決闘を申し込もうと思ってな」


レグルスの態度を特に気にした様子もなくカインツは話し出す。その決闘という言葉に周囲は騒めく。すると、アリス達もこの場に集まって来た。


「さっきから聞いてたけどアンタ煩いわね」

「取り巻きを引き連れてまるで小物みたいですよ」

「お兄ちゃんと戦うなんて100年は早いよ!」


それぞれがレグルスの前へと出ると口々にカインツに言葉を放つ。取り巻き達は色めき立つがカインツによって再び制止させられる。


「女に守られるとはさぞかしいい気分だろうな。優秀な幼馴染を持つのはいい事だ」

「なっ、アンタ本当に何様よ!」

「カインツ・オーフェンだ。さっきも言っただろ?」

「そんな事を言ってるんじゃないわよ!」


そんなアリスの反応に何が面白いのかくつくつと笑うカインツは彼女達を相手にする気は無いのかレグルスにだけ視線を向けている。


「俺がお前と戦う意味はあるのか? お前もあれか、コイツらが欲しいとかそんな理由か?」


レグルスは心底面倒そうにそう話す。この手の輩は腐る程に相手にして来たのだ。どこに行っても現れるとばかりに溜息を吐いた。


「違うな。別にこの女達はどうでもいい。ただ、優秀だと聞いたんでお前もそうなのかと疑問に思っただけだ」

「なら俺は弱いからこの話は終わりだ。帰れ帰れ」

「いいのか?」


レグルスの言葉に目を細めるカインツはそんな言葉を漏らした。


「学園では決闘が奨励されているのは知っているな?」

「そうなのか?」

「は?」


カインツの言葉に疑問を疑問で返したレグルスに思わずポカーンとするカインツだったが、気を取り直した様子で表情を戻す。


「この学園は実力主義だ。座学の成績もあるが実技の成績が最も重要視される。その中でも手っ取り早いのが決闘だ。まあ一年のうちから決闘をするのは少ないんだがな」

「そうなのか? ケイン」


レグルスは初耳とばかりに隣に立っていたケインへと問いかけた。すると、ケインはそんな事も知らないのかといった具合で頷く。


「ああ、てか聞いてなかったのか?」

「んあ? いや聞いてたぞ」

「レグルス! また寝てたの?」

「ア、アリス。落ち着け、な?」


グルンと振り返ったアリスはレグルスを睨みつける。すると、レグルスはしまったという表情で言い訳を連ねるが後の祭りである。


「今はそんな場合じゃないだろ? なっ!」

「ふぅ〜。分かったわ。でも、帰ったら覚えてなさい!」


アリスはビシッと指を突きつけるとそう宣言した。ようやくの決着を見せた一連の流れを見ていたケインはレグルスに説明を始める。


「決闘を申し込まれれば辞退もできるがその場合は評価に傷がつくらしいぞ」

「何だそれ? 脳筋の集まりかよ」

「まあ学園の目的が優秀な者の輩出だから仕方がないさ。前に言ってた演武祭もそういった評価で決まるらしいし」

「ふーん。でも俺としては評価が下がろうがいいんだよな」


レグルスは平然とした様子で答えた。別に彼にとっては学園の評価などどうでもいいのだ。そんなに滅竜師の道に憧れているわけでもない彼にとっては当然の結論だった。


「評価が下がりきった場合は退学だぞ?」

「マジで?」

「マジで。だから卒業できる者は少ないんだよ。本当に何も聞いてなかったんだな、レグルス」


呆れた様子のケインの言葉にようやくカインツが言っていることを理解したレグルス。すると、様子を見守っていたカインツが話しかける。


「そういうことだ。まあ、一度くらい辞退しても問題はないだろうが、その時はそこの女共に申し込むとしよう。何ならそこのケインとやらやクラス共達全員にだ」

「何言ってんだ?」

「どうやらお前は成績などどうでもいいみたいだが。そこの幼馴染達はどうなんだ? そんな雑魚と違って上に行きたいんだろ?」


そう問いかけられたアリス達は言葉に詰まる。彼女達は竜姫として活躍したいと思っているのだ。


「全くこんな情けない男を持って大変だな」

「なら私と戦いますか? 私はレグルスさんの一番の彼女ですよ?」


その言葉にアリス達は表情を変えると高らかに宣言した。


「ちょ! なら私も受けてたとうじゃない!」

「ギッタンギッタンのボッコボコにしてやる! ラフィリアちゃんもついでにだよ!」

「っておい、何言ってんだお前ら」


何故か3人は闘志を燃やしてカインツを睨みつけている。思わずレグルスは止めに入ろうと動く。


「任せてお兄ちゃん。アイツをボコボコにしてあげるから」

「いや落ち着けサーシャ。それよりもそんな言葉遣いはやめておけって」

「ふん。黙って聞いていたら好き勝手に……オーエンだかオーエスだか知らないけど余裕よ」

「いやアリス。オーフェンだぞ?」

「どっちでもいいわよ!」

「うふふ。レグルスさんの一番として久しぶりに本気を出します」

「ラフィリアもどこの戦闘狂だよ! てか煽るな」


何故か途轍もないやる気を見せる彼女達にレグルスはこの先の流れを予想して憂鬱な気分に変わっていく。止めても既に彼女達は止まらないだろう。言葉通りに決闘する筈である。


「決まりだな。何だったら大人数でやるか? 俺達は10人ほどでやるとしよう。お前らは人数を集められるか?」

「ふん。私達だけで余裕よ」

「こうズバンって感じで終わるからね」


サーシャは両手に短剣を持ったふりをして挟み込むように動かす。


「バカかアリス。聖域が無かったら戦えないだろう?」

「あっ! そうだった」


そのレグルスの言葉に瞬時に上っていた血が収まっていく。レグルスに対しての暴言でついといった様子のアリスとサーシャは頭を抱える。


「ふふ、レグルスさん。こうなったらお願いできますよね?」

「はぁ。まったく……俺も出る」


ラフィリアはこうなる事を見越していたのか微笑を浮かべながら頷いた。彼女だけは分かっていた様子である。


「これで4人だな。他は? 貧相な田舎者にはキツイか。別に強制ではないから逃げてもいいんだぞ?」


カインツは思い通りに事が進んで行く事に優越感に浸る様子でクラスの中を見渡して行く。


「やってやろうじゃねぇか!」

「貴族だか知らないけど、サーシャちゃんを1人で戦わせる訳にはいかないわ」

「アリスちゃん、健気で可愛い」

「ラフィリアお姉さんは黒い。真っ黒です!」


口々にそう言うクラスのみんなに驚きを隠せない様子のレグルスだったが、ケインがニカッと笑いながら肩に手を置いた。


「一番弟子である俺が出なきゃな。それに、あの3人が居れば勝てそうな気もするし、評価アップだぜ」

「最後が本音か」

「ははは。任せとけって。中には良い人もいるんだろうが、こうも貴族に言われるとカチンってくるしな」


そう笑うケインにレグルスも笑みを浮かべる。クラスの生徒達も負けても流石に一発退学などはあり得る筈もなくお祭り感覚の様子である。


「ははは、愉快な奴らだ」


彼としても幼い頃から鍛えてきている貴族と田舎者が戦えば勝てる事は確定しているようなものだ。オーフェン家という彼は家の者から一心に期待を寄せられている。


ここで評価も大量に稼げて、優秀なアリス達が慕うレグルスを叩きのめせればそれで良い。あわよくば、自分達と並ぶ程の力を以前に見せつけた彼女達が無様なレグルスを見て離れればそれでいいという具合である。


「なら、クラス同士で戦うのが良いな」

「えらい大事だな」

「詳細はまた伝える。今日はこれで失礼する」


問題なく進んだ事に満足したのかカインツは踵を返して教室から出ていった。事前通りに調べていたように、レグルスを煽れば彼女達が出てくる予想は的中していたのだ。


「といっても勝てるか?」

「相手は貴族だしな……」

「だよな? それに、学園に四大名家のうちの三家が揃ってるなんて今年はとんでもないな……アイツらも強かったし、先輩のカインツはそれ以上かな?」

「よし、今日から猛特訓だ! 最近の貴族共の態度はいい加減に苛ついていたしな!」


カインツ達を見送った生徒達は口々に話し合う。先程はアリス達の勢いに巻き込まれる形で参戦したが、よく考えれば勝てるのかどうかかなり怪しい。


「私達って最近習い始めたばかりだしね」

「ま、何とかなるだろ」

「ケインは本当に何も考えてないよね?」

「はっ!? 俺は考えてるぞ! 俺達が周りを抑えてアリス達が強い奴を倒せば問題ない」


そんな会話が至る所でされている。まだ入学したばかりの彼らにとっては貴族とは途轍もなく偉い人という認識はあり気後れはするのだが、戦えば何とかなる程度の相手という認識だ。


以前の襲撃の際もロイスやシャリアは目立ってはいたが、それ以外の貴族はその時に戦っていたケイン達とも変わりない様子であったからだ。


「ごめん、お兄ちゃん。大事になっちゃった」


サーシャは申し訳なさそうな表情でレグルスの元へと歩いてくる。レグルスにとってはかなり面倒な事だと反省している様子だ。


ぽんっ


「別に問題ない。お前らの好きなようにしたらいい」

「ふっふっふ。お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだね」

「頑張るわ!」

「流石はレグルスさんです」


そう口々にいう3人だったが、レグルスはラフィリアの方へと顔を向ける。


「はぁ、ラフィリア。あんまり俺を困らせるなよ」

「すみません。つい言ってしまいました」


アリス達を焚きつけた張本人であるラフィリアだったが、申し訳なさそうにしているのだが長年の付き合いであるレグルスには見破れる。口が僅かにピクピクと動いているのをだ。


「もうラフィリアのご飯も昨日でおしまいだなぁ〜。今日からアリスかサーシャに作ってもらうか」

「そ、そんな……レグルスさん!?」


そんなレグルスの言葉に一転して絶望を叩きつけられたラフィリアはその場に崩れ落ちる。まさにこの世の終わりといった様子だ。


「冗談だ! な、冗談」


余りの落ち込み具合にレグルスは慌てた様子でラフィリアの元へと駆け寄ると声をあげた。すると、ラフィリアは恨みがましい目でレグルスを見上げる。


「私の気持ちを知っていてそんな事を……心を弄ぶなんて最低です。もうお嫁に行けません」

「何を言ってんだよ」


よよよと泣く仕草を見せるラフィリア。


「分かった分かった。今のは取り消すから、な?」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ」

「結婚してくれるのは本当なんですね?」

「んなわけあるか! 全く、油断も隙もないな」


何時もの様子のラフィリアにレグルスは呆れた様子である。


「うふふ。でも、さっきのカインツの言葉には我慢ができなかったのは本当ですよ?」


そう言って微笑むラフィリアはとても綺麗であった。


「あ、ああ。ありがとな」


ずいっ


「な、何だよ?」


ラフィリアがレグルスの元へと頭を傾けて近づいていく。レグルスは驚いた様子で一歩下がった。


「私にもサーシャさんにしたアレを」

「子供か!?」

「早く、今日は唐揚げですよ?」

「お!? マジか!」


ラフィリアの言葉に嬉々とした様子でレグルスは頭を撫でるのであった。

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