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33話


「おっす! 大丈夫だったんだな」


レグルスの後ろからそんな声が上がった。実戦訓練の為に校舎から移動していたレグルスにかけられた言葉であった。


既に以前の授業で顔合わせを済ませているクラスの中でもレグルスに話しかける生徒はいなかったのだが、振り返ると人好きのする顔でレグルスを見ている少年がいた。


「ああ。何とかな」

「あの時は居なかったから心配してたんだぜ」

「寮に戻ってたら学園が襲撃されているって聞いてビックリしたな」


隣を歩くケインに向けてレグルスはそう話した。彼は全てを語るつもりは無いらしい。


「そりゃビックリするな。俺らもいきなりで驚いたからな」

「まあみんなが無事みたいで良かった」

「かなり激しい戦いになってたからギリギリだったぜ。お前が居たらもう少し楽になってたかもな」

「ん?」


ケインの言葉にレグルスは首を傾げる。だが、ケインは大きく頷くと語り出した。


「ハーフナー先生との組手を見たからな。あれはかなり出来る奴だって思ってたんだよ」

「あー、あれか。無様に蹴り飛ばされたけどな」


レグルスはその光景を思い出したのか軽く笑いながら話す。確かに周りを囲んで居た生徒達の大半がレグルスの吹き飛ぶ様を見て笑っていたのだが、ケインを含めた僅かな生徒達はそのやり取りを理解していたのだ。


「つってもアレは先生が大人気ないだろ。いきなり本気を出してたからな」

「そうそう、いきなりスピードを上げられたから焦ったな」

「ケイン君も分かったんだね!」


そんな会話の中に突如として入ってきたサーシャは目を輝かせてケインを見つめている。あの時は周りの反応に悔しさを覚えていたのだが、こうして兄が褒められている所を見て思わずといった様子である。


「あ、ああ。他にも気づいている奴はいたからな」

「うんうん。お兄ちゃんは凄いからね」


サーシャはそう言うと自分の事でも無いのに嬉しそうにしている。すると、その輪の中にアリスとラフィリアも混じってきた。


「ケインもよく見てるじゃない!」

「流石です」


アリスはともかく、美人で物静かな印象を受けるラフィリアに何処と無く近づき難い印象を覚えていたケインだったが、そんな合いの手を受けてポカンとする。


「あ、ありがとう」


美少女3人に囲まれた形のケインをそれぞれが納得した様子でうんうんと頷いている光景は何とも言えない様子であった。


ケインは暫く圧倒されていたのだが、会話を続けていくうちにこの3人はレグルスの事となればかなり砕けた様子になるようだと理解した。


そして、隣を歩くレグルスの耳元へと顔を寄せた。


「なあなあレグルス。サーシャって妹なんだよな?」

「ん? そうだぞ」


特に隠す理由も見当たらないレグルスは何となしにそう答えたのだが、ケインはさらにずいっと近寄る。


「な、何だよ?」

「アリスさんとラフィリアさんは幼馴染?」

「まあそんな所だな」


そう答えたレグルスにケインは何を思ったのかガバッと肩を掴むと真剣な眼差しで問いかける。


「あの3人の中の誰かと恋人同士なのか?」

「誰とも違うぞ」

「本当なんだな? ここで嘘を吐く意味もないからな?」

「ああ」


ケインの剣幕に少し気後れした様子のレグルスは後ずさりながらも答える。すると、ケインは周りを歩くアリス達の方へと顔を向けた。


「私はお兄ちゃんの将来のお嫁さんだよ!」

「ちょっ、サーシャ……」

「私は既に恋人のようなものですね」


聞き耳を立てていた3人の中で、サーシャはあっけらかんとした様子で宣言し、ラフィリアもサラリと事実を捏造した答えを返す。


この2人は特に気にした様子も見せない。ケインへと自信満々な姿を見せていた。


だが、アリスだけは顔を真っ赤にして俯いているのだが、そんな様子を見たケインはグリンと頭をレグルスの方へと向けると、何故かキラキラとした尊敬の眼差しをレグルスへと向けていた。


「師匠!」

「はぁっ!?」


いきなり出てきたワードにレグルスは素っ頓狂な声をあげた。あの流れでどうやってこんな答えが返ってくるのかなと信じられない様子だ。


何時もならこんな3人の反応を見た者はレグルスに突っかかってくるか、羨ましそうな顔をするかなどで、こんな返答は無かった。


「こんなに可愛い女の子を3人も惚れさせるなんて、師匠と呼ばせて下さい」

「何を言ってーー」

「弟子に……俺を弟子にして下さい!」


ガバッと頭を下げるケインに周りを歩いていた生徒達も何事かと視線が集まる。そんな中でもケインはふざけている訳ではないのかその姿勢を辞める様子は見えない。


「分かった、分かったから取り敢えず落ち着け、な?」

「はい!」


その言葉に続けてガバッと頭を上げるケインは相変わらず眼差しを向けている。そんなまさかの展開にアリス達も苦笑いを浮かべていた。


レグルスはケインが落ち着くのを待ってから、師匠と呼ばれる原因を尋ねた。


「で、なんの師匠なんだ?」

「恋愛の師匠です!」

「いやいや、とにかく口調を元に戻せ。周りの視線がやばいぞ」

「はい! あっ、分かった」


ケインも周りを見て注目が集まっていることが分かり、何度かの深呼吸の後にようやく元に戻った。


「恋愛の師匠って俺は別にそんなんじゃないぞ」

「3人の美少女を惚れさせる手腕を近くで見たくて……俺はこの通りのお調子者だから、女の子からウザがられて、今まで誰とーー」

「分かった分かった。なら、もうそれでいい」


語っていくうちにどんどん遠い目をしながら落ち込んでいくケインを見たレグルスは、何故だか無性に居心地が悪く感じて口早に遮った。


「おお! レグルスは神だ! 宜しくお願いします!!」


ケインはそう言うと様子を見守っていたアリス達の方へと体を向けて続けて話す。


「3人とも頑張って下さい! 応援してます!」


今までの流れから少女達がレグルスにアタックしている事を察したケインはグッと拳を作るとそう宣言した。


「ありがと〜」

「ありがとうございます」

「応援って……そんな」


華やかに笑うラフィリア達と戸惑うアリス、そしてケインを見やったレグルスはケインがこんなキャラだったのかとただただ困惑の表情で4人を見つめていた。


「何してんだよ」


思わずと言った風に呟いたレグルスの言葉は静かに消えていった。その後もケインとアリス達はレグルスの後ろでわいわいと話しがつづく。


主にレグルスとのモルネ村での事である。流石にアリス達の話しに気恥ずかしさを覚えたレグルスが止めようとした時、ようやく目的の場所へと辿り着いていた。


校舎から少し離れた位置にあるこの大きな建物は二階建てになっており、吹き抜けのような形になっている。


二階は観戦用の作りになっており、一階は大きな広間である。ようするに、講堂のようか作りになっていた。


既に先に歩いていたランクルは刃が潰された訓練用の武器を並べており、続く生徒達もその周りに集まっている。


剣や槍などの様々な種類を見て目を輝かせる生徒達。レグルス達も遅れてその場に着くとランクルは全員が揃った事を確認したのか広げた武器を指差して指示を出した。


「それぞれ好きな武器を取っていけ」


そう言われた生徒達は各々が手に馴染む武器は無いかと物色しはじめる。既に自分が得手とする武器が分かっているのか迷いなく取るものもいれば、幅広の剣や細長い剣などを手に持ち唸る生徒もいる。


そういった生徒にはランクルがアドバイスをしつつ受け取りが行われていた。


「おお〜。カッコいい」

「だがな……こっちの方が良いだろう」

「あ、はい」


ある少年は大剣を持ち目を輝かせていたのだが、体格との釣り合いが取れていない為にランクルに細身の剣へと交換されて落ち込む姿も見えた。


「私は短剣を二本かな〜」

「私は普通の剣ね」

「そうですね。竜具から言うと私は槍です」


アリス達は自分が生み出す竜具に沿って武器を決めていた。だが、此方もやはりと言うべきか武具の種類などはサッパリだった為にランクルによって助言を貰っている。


「レグルスはどれにするんだ?」

「適当な剣だな」

「俺も剣だな。手に馴染むし剣はやっぱりカッコいいしな!」


レグルスとケインもそんな言葉を交わしながらその輪へと向かっていった。



ようやく武器が生徒達の手に行き渡るとランクルは広げた武具を片付けて、集まった生徒達の前へと進み出た。


「まずは基本的な型の練習だな。人類が竜との戦いで築き上げてきたセレニア流剣術を体に叩き込む」

「型を覚えても竜具を使えば意味がないんじゃ……?」


生徒の1人がランクルへと疑問を投げかけた。別に型を覚える事に抵抗を感じているのではなく、純粋な疑問であるようだ


「確かに最終的にはそうだな。だが、剣術に限らず何事にも基礎は必要不可欠だ。それが無ければ根幹を持たない乱雑な剣技になるからな。滅竜師にも得意な滅竜技もあるだようし、まあお前らがこの先相棒パートナーと共に行動出来るようになったのなら、そこから自分達の戦闘方法に合った剣術に変えていけばいい。その為の基礎だ」


そう言うランクルの言葉に質問した生徒も納得いったのか例を言うと一歩下がった。剣術などは習ったことも無い者が多いこのクラスでは、こういった基本的な事から入る決まりである。


こうして固めた剣術を元に自分に合ったモノへと最適化していくのがベストであるからだ。ランクルは腰に刺した剣を引き抜くと正眼に構えた。


その一挙手一投足に注目が集まる。


「まずは俺の動きをよく見ておいてくれ」


ブォン


そう言って縦に一閃された剣は風を切る音ともにブレのない軌道を沿っていた。そこから地へと向いた剣が生き物のように跳ね上がると更に上へと一閃。


足は素早く最適化された動きを見せ、確実に全身の力が剣へと伝わりやすいような位置どりが為されていた。


こうして薙ぎ払いや突きなどが流れるように繰り出されていく。そんな光景に見惚れている生徒達。


「まあこんなもんだな。取り敢えずは一通りの歩法と素振りからだな」


パチパチパチ


最後にブレもなくピタリと止まった剣に拍手が巻き起こった。それ程に綺麗な型は生徒達の心を打っていたのだ。


「よし。まずは何人でもいいからグループを作れ」


拍手が巻き起こった為か、何処と無く嬉しそうな表情をしながらランクルは指示を出す。それに合わせて生徒達も既に打ち解けていた生徒達とグループを作っていく。


中にはアリス達と組みたいのかチラチラと伺う様子も多数見られたが、既にアリス達はレグルスと組む事を決定しているのかその場から動かない。


そうこうしている間にもアリスやサーシャ、ラフィリアといった女性陣とレグルスとケインは5人でグループを組んでいた。


それぞれがグループを組んだ事が分かると周りを見渡したランクルは1つ頷いた。


こうして始めの第一歩である基礎について、ランクルの授業が始まるのだった。

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