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25話


「さて、お主達はレグルスの幼馴染だったのぉ」


学園長室に戻って来ていたベルンバッハは、目の前の椅子に腰掛ける3人を見ていた。何も10人がすれ違えば10人が振り返るような少女達だ。


だが、今はベルンバッハを前にしているためか緊張している様子であった。


「一応モルネ村の頃からの付き合いです」


この中で代表して応えたのはラフィリアであった。この場でサーシャやアリスが話すよりは、ラフィリアが話した方が良いというのが3人の共通認識であった。


「そうか……」


ラフィリアの答えを受けたベルンバッハは、顎に手をやると思案気に天井を見つめている。中々話さないベルンバッハに室内の空気が更に張り詰めていく。



すると、奥からトレイにコップを乗せた初老の女性が現れた。


優し気な表情で、3人を優しく見つめている。


「はいどうぞ」

「「「ありがとうございます」」」

「ええ、余り緊張しないで下さいな」


彼女は先程まで炎獅子となりて、ベルンバッハと供に戦っていたレイチェルであった。上品な佇まいでそう言うとベルンバッハに目配せする。その視線はこの状況を作り出しているベルンバッハを責めるようであった。


「分かっておる。別に問い詰める訳では無い」

「ならば良いのです。では、私は席を外しましょう」

「ああ、すまないな」


そう言うとレイチェルはその場を去っていった。まさしく、気遣いの出来る女性である。カチコチに固まる3人を見かねて来たようであった。


「すまない、何時もの癖でのぉ。さて、儂からレグルスについてとやかく聞くつもりはない。じゃが、これだけは聞いておきたい」


ベルンバッハはそう言うと、真剣な表情でアリス達を見つめる。その顔は嘘をつかせないといったものであった。


そして、年のせいか皺が深く刻まれたベルンバッハは話し始めた。


「レグルスはどうやら並外れた実力を持っているようじゃ。じゃが、それを隠しておる。リンガスは信頼した様子じゃったが儂はあやつをそれほど知らん」


ベルンバッハはそこで一度区切ると、目の前に置かれたお茶を手に取り飲む。


「お主らも飲むといい」

「「はい」」

「では、失礼します」


勧められたアリス達もレイチェルが淹れてくれたお茶を飲んでいく。緊張していたせいか気がつかなかったのだが、乾いた喉を潤し幾分か気持ちが和らいだ。


「それでじゃ。長い付き合いのお主達に儂が聞きたい事は1つ。レグルスがその隠した力を何に使うのかじゃ。して、奴が善性のたぐいならそれでよし」


そして、ベルンバッハはアリス達を鋭く睨みつける。その姿は式典で見た威圧感漂うものであった。3人は思わず圧倒されたようで息を呑む。


突き刺すような威圧感の中


「もしも、違うのならば……。儂が無用な力を持ったあやつを始末する。実力を隠すと言う事はそう言う事じゃて。そのような輩を放置して置くわけにはいかんでな」


その言葉と供に、圧倒的な殺気が3人を襲いかかった。それは、ベルンバッハがレグルスを今からでも殺そうとしていると錯覚してしまう程の殺気だったのだが、ベルンバッハの言葉に反応した3人はそれぞれが勢いよく立ち上がった。


先程の怯えは消えたのかサーシャは勢いよく言い放つ。


「お兄ちゃんはそんなんじゃない!」

「ほぉ」


ベルンバッハの目が細まる。だが、サーシャは負けじと睨み返していた。


「レグルスはバカで怠け者でアホだけど、何時も私達や村のみんなを守ってくれてたわ! 絶対にそんな事はさせない!」


顔を赤く染め上げたアリスは何があってもレグルスに手は出させないと決意の表情をしていた。それは、ベルンバッハの殺気を受けてなお動じない様子で理解できた。


「ふむ、ならばお主は?」


最後に尋ねられたラフィリアは、静かに言い放つ。だが、ラフィリアもまた憤慨しているのか目は鋭くベルンバッハを射抜いていた。


「私達はレグルスさんをよく知っています。ベルンバッハ様の想像している事はないとだけ言っておきます」


3人はそれぞれがレグルスの事を信頼している様子であった。


「ハッハッハッハ。殺気に反応したか。甘いのぉ、お主達は」


突然笑い始めたベルンバッハに3人はキョトンとした様子で見ている。


「甘い、が嫌いではない。まだまだ経験不足であるな。して、お主達が儂の殺気を物ともせずにこたえたとなると、レグルスはその通りなのじゃろう」


その発言にようやく試されたと分かった3人は違う意味で顔を赤く染め、居心地悪そうに椅子に座りなおす。


「リンガス、そしてお主らが言うのじゃから儂も安心できるわい」


そう言ったベルンバッハは大きく頷くと、椅子に深く座りなおす。そして、次は楽しそうに3人に尋ねた。


「奴は強いのか?」

「お兄ちゃんはめちゃくちゃ強いです!」

「レグルスが負ける所なんて想像できないわ!」


その言葉にアリスとサーシャが反応する。彼女達はレグルスが本気を出した時に負ける事など想像出来なかったのだ。


「そうかそうか。お主らはレグルスの事を好いておるようだのぉ」

「そうです!」

「はい」


流れるように返事をしたサーシャとラフィリアは、さも当然の事をといった様子であった。


「え? サーシャ、ラフィリア? そ、そんな……うぅぅ、私も……」


勢いよく宣言した2人を交互に見やるアリスは髪と同じく顔を真っ赤に染めてキョロキョロと忙しげに頭を動かしている。そして、最後の言葉尻は虚しく消えていった。


「良い良い、人それぞれじゃ。もう話しは済んだのぉ。ならば行くとしよう」


アリスは頭から湯気が出そうな程に縮こまっているため、ベルンバッハもこれ以上は聞く事はせず立ち上がった。


「何処にですか?」


平然としているラフィリアが問いかけた。


「王都の防衛はセレニア王国の五大騎士団で事足りる。この期に乗じて他の組織が動くかもしれんが、其方も問題ないじゃろうな。滅龍騎士の2人が動いている筈じゃて。ならば、儂らはレグルスの応援に向かうとしよう」

「滅竜騎士も動いているのですか?」

「そうじゃ。騎士団長もそうじゃが、奴らは儂と同じく強い。そして、滅竜騎士は単独で戦況をひっくり返す事が出来る一騎当千の者じゃ。群れず単独でそれぞれが動いておる」


滅竜騎士、それは滅竜師達の本当の頂点である。セレニア王国に組織されている五大騎士団、そして、他国の組織。その中で最も強いとされる者達だけが名を連ねている。


だが、シュナイデルを含めて滅竜騎士を除いても、その地位に届きそうな者も多いのも確かである。


なればこそ、滅竜騎士は脅威に迅速に対応するべく騎士団に入らず単独で行動するのだ。その守る範囲は広く、五カ国を含めて人類の脅威に目を光らせているのだった。


「現役の滅竜騎士はベルンバッハ様より強いんですか?」


その言葉にサーシャは単純な疑問を持ったようだった。ベルンバッハは自分と比べているのか暫く考え込むと


「儂が現役の時と比べても遜色ないのぉ。若しくは上をいっておるかもしれん。儂が現役の時と比べて今は世界も変わっておる。技術も更に体系化され、進んでいるからのぉ。レイチェル、すまんがもう一度頼む」

「分かりました」


そう言うとベルンバッハとレイチェルは、学園長室を出ていった。アリス達は直接ベルンバッハの強さを目の当たりにしており、その上を行くかとしれない滅竜騎士達に驚いていた。


だが、アリスは途方も無い力の差に表情を曇らせていた。


「レグルスは強い。遥か先にいる……でも私は……」


そう小さく呟いたアリスの言葉はラフィリアとサーシャには聞こえていなかった。


「ほれ、ぐずくずしておるとレグルスが怠けておるかもしれんぞ」


動かない3人を呼び寄せると、彼等はレグルス達を探しに行くのだった。



◇◇◇


「くしゅん」


現れた名無し(ネームレス)達を悉く倒して行く2人は既にかなり奥に進んでいた。前を歩くレグルスがくしゃみをした事でローズが問いかけた。


「どうかしました?」

「いや、噂でもされていたな。これは」

「レグルスさんは何時もマイペースですわね」


こんな時でも飄々としているレグルスにローズは笑っていた。圧倒的な実力を持っているが、それを鼻にかけたりはせず、怠け者の彼は果たしてその調子を崩される事があるのか? といった疑問がローズの頭をぐるぐると回っていた。


「それにしてもこの洞窟は長いな」

「そうですわね。かなり進んでいると思うのですが」

「まだまだかかるか?」


そんな会話をしながら進んで行くと、目の前に開けた空間が見えた。細かった洞窟の道はそこで大きく広がり、ポッカリと口を開けたような形状をしている。


「終点か?」

「気を引き締めましょう」


既に名無し(ネームレス)達の襲撃は途切れて久しい。ならば、ここが目指す先であると考えた2人はしっかりとした足取りでその空間へと入っていった。


「ようこそ、名無し(ネームレス)へ」


突然に響き渡る楽しげな声。この瞬間を待ち望んでいたかのような声音であった。


「ん? 君達はレグルスとローズですか……何故? いや……ふむふむ、これはこれで楽しそうですねぇ」


目の前に立つ男性は2人を知っているのか、そんな言葉を放つ。その声に聞き覚えがある2人は目の前の人物を見て驚愕の声を上げた。


「ハーフナー?」

「ハーフナー……先生?」

「そうです、私がハーフナーです。驚きました?」


何が楽しいのか、愉快そうに両手を大きく広げてレグルス達を見る男性は、学園の教師の筈のハーフナーであった。


レグルスはハーフナーが今回の事件の内通者だと瞬時に察する。


「お前が内通者か」

「ええ、ええ。話しはまた後にしましょう」


ザッ


ハーフナーの言葉と共に、広場に姿を現わす名無し(ネームレス)達。そして、その傍に立つ者達にローズは押し殺した声を上げた。


「う……そ。そんな、嘘よね?」


ローズは予想していた最悪の事態が既に起きていたことにふらふらと体を震わせた。彼女の目の前には名無し(ネームレス)の側に立つ見知った女生徒達がいた。


その顔は虚で、目は焦点があっていないのかローズを見ても何の反応もない。ただ、そこに意思なく立っているだけのように見えた。


「紹介しましょう。熱い要望の元、名無し(ネームレス)に新しく加わってくれた竜姫の皆様です」


ローズの苦しそうな顔が楽しいのか、更に口元を歪めたハーフナーは仰々しく体を動かすと、ニヤリと笑う。


「何をしたの!」

「あー煩い。煩いですよ、ローズ。彼女達は進んで仲間になってくれたのですから、歓迎する所です」

「嘘よっ!」

「はぁー、はいはい。煩くて敵わない。簡単ですよ、契約する為に必要な事は竜姫と滅竜師の意思。ならば心を折り、人形にしてしまえば簡単です。これでいいですか?」


心底面倒そうにハーフナーは説明する。本当にローズの騒ぐ声がうざいとばかりに話していた。


「ひ……どすぎる」


だが、絶望に染まるローズの顔を見たハーフナーは考えを改めたのか話し始めた。


「ふむ。その顔は実にそそりますねぇ。教えて上げましょう。名無し(ネームレス)の十八番の一つに、一人一人を呼び出して、誰もが恐れる事を一つ一つ試すのです。その悲鳴を残った者にずぅっと聞かせてあげればーー」

「その話は長いのか?」


話し始めようとしたハーフナーの言葉を遮るようにレグルスは話す。その声音に感情の色は見えない。


「君は多少は出来るレグルス君ではないですか? 居たのなら元気よく教えて欲しいものです。弱いのにそんな態度でいいんですか?」


ハーフナーは苛立たしげにレグルスを見る。自分の言葉が遮られた事に我慢ならない様子であった。


「話が長そうならーー」

「な!?」

「寝てろ」


レグルスは話しの途中で瞬時に詰め寄ると、身を低くして跳ね上がる力を利用して蹴りを放つ。


「甘いですよぉ」


だが、ハーフナーは頭を反らせて鋭い蹴りを交わすと動けない筈のレグルスの顔面めがけて拳を振り下ろした。すると、レグルスは体を駒のように回して避ける。


「同じですか! 芸がない」


またしても避けたハーフナーは、学園での戦闘を思い出したのかその時よりも力強く蹴りを放つ。その顔は愉悦に染まっている。


「な!?」


ドガァ


だが、学園のワンシーンは別の形で再現されていた。瞬時に回り込んだレグルスの回し蹴りがハーフナーの顔面を捉え、地面を転がっていく。


大の大人が吹き飛ぶ姿にレグルスの蹴りの威力が伺えた。


「かなり手加減はしたんだが。すまんな、痛かったか?」


驚いた様子のハーフナーが立ち上がると、レグルスは挑発するように手を前に出し、クイっと曲げるのであった。


「ほら、指導してやるよ先生」

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