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1話

「ねぇレグルス! いつまで寝てんのよ!!」

「ぐえっ」


勝気な声に続き、無防備に寝ていた少年の、間抜けな声が草原に響き渡った。何が起こったのか分からない少年はキョロキョロと見回し目的の人物を見つけ出す。


「なんだよ。アリスか」

「なんだって何よ! 今日は竜式の日なのよ。こんな所で寝てる場合じゃないの!!」


まったく!といった風に腰に手を当て怒る赤髪ツインテールの少女、アリス。怠け者と呼び声高いレグルスの幼馴染だ。


セレニア王国の遥か南端。放牧と僅かな農作物しか見所がないこんな場所では珍しい程の美少女だった。


「あぁ、そうだっけ? はぁ面倒だな」

「もうサーシャもラフィリアも準備は万端なの。後はレグルスだけ!!」

「はいよ。もう少し寝たら行くよ。今日は天気が良いんだ」


風に吹かれて揺れる草原はまさに昼寝に最適であった。モゾモゾと寝返りを打とうとしたレグルスだが


「もうっ! 行くわよ!!」

「イテテッ」


どことなく嬉しそうなアリスによって耳を掴まれ引きずられていく。このモルネ村での日常であった。


「あら、アリスちゃん。今日もレグルスの面倒を見ているのね」

「メリルおばさん!? そ、そんな事ないわ。そう、コイツが目を離すとすぐ怠けるからよ!」

「ぐあっ」


顔を赤らめさせて立ち止まったせいで、レグルスの頭が地面と激突した。だが、そんな事はお構いなしに何とか言葉を発する。


「あらあら。さ、急がないと」


訳知り顔のメリルを見て、茹でた顔をさらに赤らめさせる。誤魔化すためかレグルスの首襟を引っ張って行く。


「レグルスももっとしゃんとしなさいよ」

「ほーい」


引き摺られながら手を振るレグルスを見てメリルは今日も平和と感じるのであった。



「なによレグルス」

「いやぁ、この移動も楽チンだなって。明日からもよろしくな」

「ふん、やってあげなくもないけど……。って自分で歩け!」


頭にチョップを入れられたレグルスはその場に蹲る。


「隙ありだ」


ふにゅ


「な、な、な」

「ふむ、まだまだだな。アリス」


慎ましく未だに未発達の膨らみを躊躇いなく揉むレグルス。あまりの事に声も出せないアリス。その間にも手は止まらない。


「サーシャの方が大きいな」

「死ねっ」


ドガっ


「いてぇ」

「何すんのよ! それに、サーシャより小さいって、妹に何してんのよ! このバカレグルス!」


こうして2人は村への道中を歩いて行くのだった。



村に戻ると広場には、この村の子供たちが集められていた。精緻に作られた鎧を着た男と並び立つ女性を真ん中にして広がっている。


「竜騎士がもう来てたのか」

「お兄ちゃん! 遅いよぉ。それにあの人は正竜騎士だよ」

「そうですよ、レグルス。私が迎えに行きたかったのに……」

「サーシャ、悪いな。それにラフィリアは何か言ったか?」


アリスに引き摺られるレグルスを見て、集まって来た少女たち。空色の髪をショートにしている、サーシャは未だ幼さを残すが可愛らしい少女。


彼女はレグルスの義妹にあたるのだが、年は同じであった。


そして、ラフィリアは黒髪を腰の辺りまで伸ばし、風に揺られている。


最後の言葉は尻すぼみになったせいかレグルスには聞こえていなかったみたいだ。


「それで、もう始まってるのか?」

「あなたを待ってたの! 早くいくわよ。正竜騎士を待たすなんて前代未聞よ!!」

「ほぉ〜。凄い偉い人なんだな」

「あんた、そんなーー」

「そうですよ。近衛、宮廷竜騎士を除けばセレニア王国の1番上の階級なんですよ」


アリスの声に被せるようにラフィリアは説明しだしたのだが、当のアリスはギリギリと聞こえて来そうな顔で睨めつけている。


それを涼しく受け流すラフィリアは大人びた雰囲気を纏っている。隙を狙って今か今かと構えるサーシャによって独特な世界が生み出されていた。


「こら! レグルス!! 早うせんかい」

「クルトの親父が怒ってやがる。お前ら早く行くぞ!」


この村の村長。筋骨隆々としたクルトの怒声を聞きレグルスは先ほどとは一転して走り始めた。


その後を3人は微笑を浮かべながらついて行く。


「ようやく揃ったか。それでは竜式を始める。進行は正竜騎士であるリンガスと竜姫りゅうきメリーによって進める」


広場に集まったこども達は皆が尊敬の視線を送っている。それは、アリス達も例外ではなかった。


「優秀な竜姫になりたいわ!」

「そうですわね。竜具が優秀な事を祈るしかないですね」

「お兄ちゃんも滅竜師になれるといいなぁ。そうなったら私と契約してね!」

「「な!」」


サーシャの発言で2人はその場で思わず立ちそうになる。何とか留まったが2人は険しい視線をサーシャに送っていた。


当のレグルスはというと、いつも通りなのだが座りながら舟を漕いでいた。


「知っているとは思うが、15才になった君達には竜式が行われる。男は滅竜師として、女は竜姫として活躍して貰うことになる。育成する為のセレニア学園においての試験の兼ね合いもあるのだがな。君達が活躍し、竜騎士になれる事を祈るとしよう」


リンガスが話す内容。それは、災厄を今もなお振りまく生物。強大な力を持つドラゴンを唯一、倒す事が出来る滅竜師になるための事だった。


「竜騎士としての力を今から見てもらう」


リンガスの言葉により、村に駐屯している兵達が大きな檻を運び込んで来た。


そして、その中を知った子供達は慌てた様子だ。


「キャーーー」

「うわっ! ドラゴンだ」


ある女の子はその威容を見たせいか、目を塞ぎ叫び声を上げる。男の子はその強大さに思わず後ずさってしまう。


「これがドラゴンだ。だが、コイツは竜の中でも弱い下位竜。名はワイバーンと呼ばれている」


リンガスが目をやる先には体から翼にかけて広がる羽毛に覆われた巨体があった。その大きさは成人男性2人分程の大きさだが、強靭な筋肉が伺える体。


人を容易に切り裂く事が可能なように思える鎌のような爪。そして、もっとも恐ろしいのは蛇のような瞳孔に、不気味に生えそろった牙であった。


子供達からすれば、何気ない日常において、会ってしまえば死が確定してしまう相手だ。現に何人もの子供が犠牲になっていた。


見守る大人達も育てた家畜を襲うワイバーンに固唾を飲む。駐屯する兵が間に合わなければ大人でさえも容易く死ぬからだ。


だが、ここ何年かは竜の被害がでていない事は村人たちの不思議であった。


リンガスは子供達の反応を見届け、言葉を発した。


「いま叫び声をあげた者、怯えた者は竜式の失格を言い渡す」

「このワイバーンに恐れる者は、この先、竜騎士として生き残る事ができません」


メリーの補足によって、広場から半分以上の子供達が離れて行く。不満を口にする者はいない。これが、竜式であるからだ。


「うわー、怖いぞー。死んでしーー」


そんな中、1人だけ棒読みのせいか間抜けな声を上げた少年がいた。


「ちょっ! レグルス」

「お兄ちゃん!!」


そう、レグルスであった。咄嗟にラフィリアが口を抑え込んだお陰かリンガスは気付いていなかった。


アリスとサーシャも思わずといった風に驚いている。まさか、こんな場所でさえも怠けるのかと。


「他の奴が帰れるなら俺も帰りたいしな」


帰って行く子供達を羨ましそうに見つめるレグルス。


「いい? とにかく黙ってて!!」

「わかった」


アリスが拳を握り締めた事で、レグルスはキリッとした表情を作る。ラフィリアもサーシャも天を仰いでしまう。


「ふむ、残ったのは8人か。それでは実際に竜騎士の戦いを見てもらおう」


合図を見た兵士たちは、一斉に檻を解放した。血をたぎらせたワイバーンが解き放たれたのだった。


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