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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第3幕 逆襲の紅き煌帝
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逆襲の紅き煌帝「そして未来へ(5)」

 鬼械兵の軍勢を相手にしながらアレンは空を見上げた。

 急に曇りだして辺りが暗くなったのかと思ったが、それは天気のせいではないようだ。

 巨大な円盤が上空に浮かんでいた。

「新たな兵器かなんかか?」

 ジェスリーもその円盤を見た。

「今までまったく見たことのない型の物体です。いわゆる未確認飛行物体――UFOです」

 円盤型飛行物体からなにかが降下してくる。数え切れないほど多くのなにかだ。

 アレンはよく目を凝らした。

「もしかして鬼械兵か?」

「いえ、違います。LB1型アンドロイドです。設計図しか存在してないはずだったのですが不思議です」

 降下しながらLB1はビームライフルで次々と鬼械兵を仕留めていく。

 アダムにとってもそれは予期せぬ出来事だった。

「わたしの目にも留まらず、いったいあんな機械人がどこにいたというのだ?」

 地上に降り立ったLB1は人間を狙わず、鬼械兵のみを仕留めていく。完全に狙いははっきりしている。鬼械兵を殲滅することだ。

 さらに上空から翼を持った狼に乗って少女が戦場にやって来る。

 純白の法衣に身を包み、サファイア色に輝く4枚の翼を持った少女。その手には〈生命の実〉が取り付けられた錫杖[しゃくじょう]を持っていた。

「もう争いは終わりにしましょう」

 少女の声は不思議と戦場の片隅にまで届いた。

 人間の兵たちは空を見上げ、ある者はこう呟いた。

「天使様か?」

 視力のいいジェスリーにはわかった。

「セレンさんです!」

 マルコシアスから降りたセレンは上空に立ち、その場で錫杖を使って魔法陣を描いた。

 描かれた魔法陣はセレンの頭上から網のように広がり、クーロン全体を〈レヴィアタン〉ごとドーム状に包み込んだ。いったいなにをしようというのか?

 アダムは一瞬にしてマルコシアスと場所を入れ替えようとした。

「なぜだ……?」

 しかし、できなかったのだ。なにも起こらず、アダムはその場から1ミリも動いていない。

 もうひとつのことにアダムは気づいた。

「新たな兵が来ない」

 火星からの援軍が止まった。

 すぐにアダムは理解した。

「これはあのときと同質のものか」

 それは〈ベヒモス〉での出来事だ。ワーズワースがセレンたちを逃がすため、アダムを閉じ込めた方法。

「しかし、計画が遅れるだけに過ぎない。戦力ではまだ鬼械兵団が優っている」

 立っている人間は少なかった。

 すでにクローン周辺を取り囲んでいた軍勢は〈レヴィアタン〉によって一掃されていた。たとえ市内の戦況が変化して人間が勝利しようと、〈レヴィアタン〉一機で逆転されてしまうのだ。

 そして、またアダムは計画を1からやり直せばいい。時間なら飽きるほどある。

 アダムは空を見上げた。

「〈生命の実〉だけは必要不可欠だ」

 宙に浮いたアダムは高速で飛びセレンに近づいた。

 いち早くマルコシアスが接近してくるアダムに気づいた。

「貴様がアダムだなッ、レヴェナ様を愚弄する行い許さんぞッ!」

 翼から幾本もの炎の矢を放つ。

「犬がッ!」

 炎の矢はアダムが手を振り払っただけで消えてしまった。お返しに衝撃波を手から放ち、マルコシアスを遥か彼方へ吹き飛ばした。

 上空で静止したアダムとセレンが見つめ合った。

「〈生命の実〉を渡してもらおう」

「いやです。今すぐ鬼械兵団を止めてください」

「〈生命の実〉を渡し、人間が戦うことをやめれば止まる」

「あなた方が戦うことをやめてください」

「ならば力尽くだ」

 手を伸ばしながらアダムが迫ってくる。

 突き出された錫杖から見えない障壁が放たれた。

 それに衝突したアダムが弾き飛ばされ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 地上ではアレンが待ち構えていた。

 ――けたたましく鳴る歯車。

「喰らえッ!!」

 加速して落下してきたアダムを打ち上げるように殴り飛ばした。

 高く舞い上がったアダムは宙でピタッと静止した。

「無駄な攻撃だ」

 アダムは手にエネルギーを集め、光球にしてアレンに投げつけた。小さい魔導砲のようなものだ。魔導弾――魔弾だ。

 〈ピナカ〉で相殺を試みようとしたアレンの目の前にルオの背中が飛び込んできた。

 ルオは〈黒の剣〉の柄を握り締め、切っ先をアダムに向けながら矢のように宙を飛んだ。

「串刺しになるといい!」

 魔弾を呑み込んだ〈黒の剣〉はそのままアダムを突かんとする。

 紙一重でアダムは刃を躱し、指を組んだ手でルオの背中を殴り飛ばした。

 背骨を折られながらルオは地面に叩きつけられた。

 殺気を感じて振り返るアダム。頭上から降り注ぐ炎の矢。気づいたときには遅かった。

 アダムの身体が炎に包まれ落下する。

「まさか犬にしてやられるとは!」

 火の粉を散らしながらアダムは地面に叩きつけられ、一度バウンドしてうつ伏せに倒れた。

 すぐにアダムは湯気を立てながら起き上がった。

「いくら攻撃を加えようとわたしは倒せない」

 服が燃えたアダムは裸体だった。美しい曲線を描く女の肢体。頭部と右肩から手の先までを除いて、メタリックな色をしている。気づいた者がいるだろうか。左手の先から徐々に肌の色を取り戻している。

「やって見なきゃわかんねぇだろ!」

 アレンがアダムを殴り飛ばした。

 上半身のバランスは崩したが、アダムの下半身はまったくその場から動かない。

 ゆっくりと上体を戻してアダムはアレンを睨んだ。

「おまえの相手はあとでしてやろう」

 アダムの狙いは〈生命の実〉だ。

 再びアダムは空を飛び、再びマルコシアスが立ちはだかる。

 だが、今度の足止めはアレンだった。

 アダムの足首を片手で掴むアレンの姿。

「行かせるかっつーの!」

「しつこいぞ」

 アダムがアレンの顔面を踏ん蹴った。

「ぐっ」

 思わず手を離してしまったアレン。だが、地上には落ちない。風を操って空を飛んだのだ。

 セレンはずっと錫杖で魔法陣を描き続けていた。

「できた!」

 輝いて発動する魔法陣。

 大地が大きく蠢いた。

 焼け残っていた金属の柱が空へ上昇していく。それに続いて次々と金属が空へ昇って行くではないか。例外なく鬼械兵やLB1もだ。

 上昇率は重さを比例していた。重たければ重いたい金属であるほど、高く天へと昇っていくのだ。

 これによって地上から鬼械兵が消えた。今の今まで戦闘を繰り広げていた人間の兵士たちが安堵する。問題は戦車まで上昇してしまったことだ。

 新たな混乱を生むことになったが、戦乱は治まることになった。

 しかし、まだ戦いが終わったわけではない。

 もとより空を移動できる者は、魔法陣の束縛から逃れることができるのだ。

 アレンとアダムは腕を交差しながら互いに殴り合っていた。リーチが長かったのはアダムだ。吹き飛ばされるアレン。

 それを尻目にアダムはセレンから〈生命の実〉を奪おうと躍起だ。

「邪魔だッ!」

 声を張り上げたアダムは全身からホーミングミサイルのような光を放った。アダムに迫っていたルオとマルコシアスがその直撃を受けた。

 いつの間にかアダムの身体が肌の色を拡大させていた。両手足は完全に肌の色を取り戻している。胴体は肌色とメタリックがまだらになっていた。

「なぜわたしの邪魔をするのだ!」

 鬼気を纏ったアダムは一気にセレンの眼前まで迫った。

 錫杖の障壁が間に合わない。

 ついにアダムの手が錫杖の柄を掴んだ。

「渡せ!」

「渡しません!」

「おのれぇ!」

 アダムが伸ばした片手がセレンの首を絞めた。

「渡さないと窒息するぞ!」

「……ううっ……ぐ……」

「死にたいのか!」

「お……お母さん……」

 錫杖から手が離れた――アダムの。

 下からはアレンが猛スピードで迫っていた。

「もう容赦しねぇぞぉぉぉッ!」

 ――歯車は咆哮をあげた。

 その気配を感じたアダムは振り返り、なにを思ったのか両手を広げて凜した表情をした。

 アレンの拳がアダムの腹を抉る。

 突き破られた肉がメタリックの液体を飛び散らせた。

 瞳を見開いて息を呑むセレン。

 アダムの腹を腕が貫通していた。

 なぜかアレンは悲しい顔、アダムは聖母のような微笑みを浮かべた。

 そして、アダムはこう言ったのだ。

「あなたに辛い役回りをさせてしまって……ごめんなさい」

 アダムは自らアレンの腕を腹から引き抜いた。

 落ちていくアダム。

 地上までの途中でルオが〈黒の剣〉を構えていた。

「朕が止めを刺してくれる!」

「やめてーッ!」

 悲痛なセレンの叫びが木霊した。

 ルオとアダムの眼が合った瞬間、アダムが邪悪な笑みを浮かべたのだ。

 なんと、アダムの口からメタリックの液体が吐き出され、意思を持っているかのようにルオの口から体内に流れ込んだのだ。

「うぐっ……うっ……」

 眼を剥いたルオは顔を下に向けて吐き出そうとした。だが、その身体の中心から手足の先端に向かってメタリックに染まっていく。

 髪を振り乱しルオが顔をあげた。

「ふふふふふっ、何と言う力溢れる躰なのだ!」

 それがルオではないと、周りにいた者は瞬時に理解できた。ルオではないのなら――。

 レヴェナを抱きかかえていたリリスが叫ぶ。

「アダムに寄生さてれおるぞ!」

 魔獣と化した煌帝ルオの肉体を手に入れたアダム。その手には〈黒の剣〉が禍々しい鬼気を放っている。

「此こそ始皇帝に相応しい!」

 紅い瞳でアダムは自分の領土を見渡すように世界を眺めた。

 そして、〈黒の剣〉を掲げた。

 地獄の底から唸り声が聞こえてくるような風の音[ね]。

 宙に浮いていたものたちが地上にゆっくりと落ちていく。

 〈生命の実〉の支配力を〈黒の剣〉が少しずつ呑み込みはじめているのだ。

 アダムは大地に〈黒の剣〉を突き立てた。

「〈黒の剣〉の真価を見せてやろう!」

 大地が枯れていく。

 突き刺さった〈黒の剣〉を中心に、円を描いて大地が枯れていくのだ。

 それだけではない。もっとも近くで瀕死だった人間の兵士が、息を引き取り、髪が白くなりはじめている。さらに機械兵が風化していくではないか。

 リリスが叫ぶ。

「引け、全力でこの場を離れるのじゃ!」

 敵も味方も関係ない。〈黒の剣〉が喰らっているのだ。

 セレンは全速力で降下した。

「今すぐやめてください!」

 アダムに向かって錫杖を叩きつけるように振った。

 瞬時に〈黒の剣〉が抜かれ、刃で錫杖を受け止めた。いや、逆に錫杖が刃を受け止めたというべきか。〈生命の実〉のエネルギーに守られた錫杖は、〈黒の剣〉の刃に断ち切られることがなかったのだ。

 近くで死んでいる兵士の風化が止まった。

 〈黒の剣〉と〈生命の実〉が均衡した状態。

 クーロンを覆っていたドーム状の結界も消失していた。再び火星から鬼械兵が来てしまうのか。いや、来なかった。時間が過ぎたからではない。

 拡声器から響く男の声。

《聞こえるか、トッシュだ!》

 どこから話をしているのだろうか?

《馬鹿でかいヘビの戦艦のコックピットは乗っ取った》

《蛇ではなくて龍よ。戦艦の名前は〈レヴィアタン〉》

 横にいるらしくライザの声もスピーカーは拾った。

《コックピットは制圧したんだが、ドアの向こうに鬼械兵がうじゃうじゃいるんだ。応援頼む!》

 トッシュが叫んだ。

 コックピットだけを制圧して、立てこもってる状態なのだ。

 リリスはジェスリーに顔を向けた。

「〈レヴィアタン〉と通信可能かい?」

「直接ではなく、周辺全域にでしたら通信電波を飛ばせますが?」

「それでいい」

「少々お待ちを――どうぞ、お話しください」

 通信電波にリリスの声が乗る。

《トッシュの坊や聞こえるかい、聞こえたら返事をおし》

 それを3回繰り返し、再び『トッ』と言ったところで返事があった。

《リリス殿か?》

《そうじゃ、妾じゃ。アダムがルオの坊やに取り憑いた》

《なんですって!?》

 横からライザが口を挟んできた。

 ライザには構わずリリスは話し続ける。

《〈黒の剣〉が無差別にすべてのエネルギーを吸いはじめる危険性もある。ただちに全軍の退却を命じるのじゃ》

《おい、なにする気だ!》

《なにって、こうするのよっ!》

《やめろ!》

 会話の途中でなにやら向う側でアクシデントが起きたようだ。

 クーロン外周付近の大地から飛び出した巨大な龍の首。〈レヴィアタン〉は市壁を軽々とまたぐように越え、その長く巨大な身体で市内に侵入した。狙いはアダムだ!

 開かれた〈レヴィアタン〉の巨大な口の中が輝きはじめる。

 リリスが叫ぶ。

「アダムから離れるのじゃ!」

 気づいてセレンは急上昇した。

 アレンは猛スピードでリリスとジェスリーを抱きかかえてその場から離れた。

 魔導砲発射!

 アダムは〈黒の剣〉を構えてニヤリと笑った。

「餌が来たぞ我が魔性の剣よ」

 爆風で屍体や瓦礫が舞い上がる。

 大地が削れ、迫り来る魔導砲をアダムは受けて立った。

 目も眩むような輝き。

 正面から見た魔導砲は計り知れない大きさだ。

 その巨大な光に向かって〈黒の剣〉が振り下ろされた!

 地獄の風が唸るような音を立てて光が闇に呑み込まれる。

 竜巻のように渦巻きながら、その渦の先が〈黒の剣〉に瞬く間に吸いこまれていくのだ。

 アダムの紅いマントが狂風に靡く。

「ふふふっ……ははははっ、力を感じるぞ。剣に流れ込んで来るエネルギーを私の肉体にも伝わって来るぞ!」

 歓喜を越えた狂気の形相でアダムの笑い声が響き渡った。

 〈レヴィアタン〉が吼えた。

 なんと〈レヴィアタン〉がアダムに体当たりをしようと突進してくる。

 微かに漏れ聞こえてくる声。

《ザザザ……もうやめろ……ザザザザ……》

《うるさいわよ……ザザ……》

 もう止められなかった。

 〈レヴィアタン〉の龍を模した巨大な頭部はアダムの眼前まで迫っていた。

 禍々しい〈黒の剣〉が振り下ろされた。

 まさか、この巨大な〈レヴィアタン〉をも斬れるというのか!?

 嗚呼、真っ二つに裂かれていく。

 勢いのついた〈レヴィアタン〉の胴体が、真ん中から綺麗に2つに裂かれ、そのまま地面で何度もバウンドしながら、先にあった市壁をぶち破り、頭部で大地を滑り削り、やがて尾の先まで割られて止まった。

 大惨事だった。

 クーロン市内に残っていた兵士たちも多く巻き込まれた。

 残骸となった〈レヴィアタンに〉潰された者もいた。

 ライザの形振り構わない暴挙は多くの犠牲者を出した。

 にも関わらず、紅き瞳の始皇帝は〈黒の剣〉を構えたまま、その場を一歩たりとも動かず凜と立っていた。

「もはや〈生命の実〉は要らぬ。此の〈黒の剣〉に力を蓄え、我が悲願を達成するのだ!」

 天高く〈黒の剣〉が掲げられた。

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