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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第1幕 黄砂に舞う羽根
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黄砂に舞う羽根「砂漠の都(7)」

 その坑道が発見されたのは偶然だった

 武器の運搬を秘密裏に行うために坑道を掘り進んでいたところ、その新たに掘り進めていた坑道と古い坑道が偶然にぶつかったのだ。

 古い坑道を見つけたトッシュは武器運搬計画を早々に取り止め、失われた科学技術の発掘に乗り出した。

 『失われし科学技術』の発掘は少人数で行われ、ダイナマイトなどは使用せずに、小型ドリルなどを使用し、地上に情報が漏れないように最大限の注意を払って行われていた。この場所は街の真下だった。そう、ここはクーロンと呼ばれる街の真下だったのだ。

 最大限の注意を払いながらも、秘密はどこからか漏れるもので、もっともトッシュが気を払っていたはずの相手に嗅ぎ付けられしまった。それがクーロンの南に広がる砂漠の中心に存在するシュラ帝國の若き王――皇帝ルオだった。

 街の外れのただの工事現場に偽装されていた空き地。そこに昨日から大量の人や、トラックに乗せた機材が運び込まれた。中でも一番目を引いたのは坑道掘削装置だった。

 坑道掘削装置とはトンネルを掘るための機材であり、動力は魔導炉から供給されるエネルギーである電気だ。その全長は一四・九メートル、全幅二・八メートル、全高一・八から三・五メートルで重量三〇トン。先端に取り付けられたドリルには棘のような物が並び、それで岩などを砕きながら、約一時間の間に三〇メートル掘削することができる代物だ。

 次々と運び込まれてくる機材を見ながらトッシュが頭を掻いた。

「ったくよー、俺様が街の奴らにバレねえようにしたのに、はぁ」

 ため息をつくトッシュの横で、『ライオンヘア』が前髪をかき上げながら掘削装置を眺めていた。

「アナタのやり方じゃ、全坑道を見つけ出して掘り起こすのに何ヶ月かかることかしら?」

「一ヶ月くらいじゃねえか?」

「アタクシたちは三日でやるわ」

「雑な仕事して街のあちこちが陥没しそうだけどな」

「何事にも多少のアクシデントや犠牲はあるわ」

「そーですかい」

 今のトッシュは帝國に牙を抜かれた狼だ。

 トッシュの傍には常に彼を監視し、命を狙うライザ直属の軍隊――獅子軍の精鋭が最低三名は付いている。それに加え、トッシュの腕にはブレスレット型発信機が付けられている。今のトッシュはトイレの中ですら気が休まらない。

 と、思いきや。トッシュは大あくびをしながら、眠そうに目を両手で擦っていた。

「俺様は旅から帰って来て疲れてる。寝かせてもらうがいいか?」

「駄目よ、アナタからは聞きたい話が山とあるわ。それに――」

 肉食獣のようなライザの金色の瞳がトッシュを放さない。

「アナタが街の外になにをしに行ったのか聞かせてもらいたいわ」

「女遊びをしに行っただけだが」

 明らかに嘘だとわかる言葉だったが、それを平然とトッシュは言ってのけた。

「どんな遊びだったか詳しく聞きたいわ」

 ライザは微笑みながらトッシュの頬に平手打ちを喰らわせた。

 避けられたものをトッシュは避けず、微動だにせず受けてたった

 紅く染まった頬を気にすることなく、トッシュは不敵に微笑を浮かべた。

「女をヒィヒィ言わせてた。だが、たまにはこうやって女に甚振られるのもいいもんだ」

 たとえ牙を抜かれても、狼の精神は変わらない。

「いいわ、話は少しずつ聞かせてもらうわ。まずは坑道の中に入りましょう」

 踵を返し、白いコートの裾を揺らすライザが坑道の入り口に向かって歩き、そのあとを背中に銃を突きつけられたトッシュが付いていった。

 坑道の入り口は高さ三メートルの幅が四メートル。中も同じくらいの広さで、急な下り坂になっている。

 オレンジ色のライトが点々と照らす坑道の中をしばらく歩き、先頭を歩いていたライザの足が止まった。彼女の視線の先には金属の扉があった。

「この扉なんだけど、魔導学と科学の権威であるアタクシにも開けることができないのよ。もちろん破壊も試みたけど傷も一切付かず」

「俺様もいろいろやったが無理だった」

 不気味な輝きを魅せる金属の扉。見た目はどうってことのない、まっ平らな板のような扉だった。それが開かない。

 扉の前で腕組みをするライザ。

「なら、扉を無視して別の場所に穴を開けて中に入ろうかしら?」

「俺様がすでにやった」

「知ってるわ」

 ライザがこの坑道にはじめて足を踏み入れたときにはすでに、この扉までの道が掘り進められ、ライザが言った方法をトッシュが試した痕跡もあり、金属の壁の前で止まっている穴がいくつもあった。

 う〜んと唸ったライザは金属の扉をブーツの踵で蹴り飛ばしたあと、振り返ってトッシュに話しかけた。

「で、アナタはどうやってこの扉を開ける気だったのかしら?」

「さあな、手詰まりって感じだ」

「……あ、そう」

 ライザの足が振り上げられ、扉を蹴飛ばしたのと同じ踵がトッシュの腹を抉った。

「うっ!」

 トッシュは微動だにはしなかったが、その口元からは空気の塊が吐き出された。

「次は股間にいくわよ」

 トッシュの股間の膨らみを見ながら妖艶と笑うライザの脚が再び動く。

 だが、トッシュがついに動いた。

 ライザの脚を軽く躱し、後ろにいる銃を構えた三人の男たちよりも早くトッシュは動いた。

 鋭い眼で狙いを定めたトッシュは銃を持っていた一人の男に襲い掛かり、腹を深く殴り、すぐにその男の後ろに廻り込んで、男を盾にしながら銃を奪い取った。

 盾になっている男は、それだけでも通常の銃弾を防ぐことのできる合金素材で織られた防護服を着用し、その上から多層構造の繊維素材で作られた防弾ベストを着ていた。文字通り、この男はトッシュの盾となっている。

 しかし、残った二人の男がトッシュを撃てない理由は他にもある。

 トッシュの持つライフルの銃口はライザのこめかみに向けられていたのだ。

 あっさりとしてやられたことにライザは頭を抱えた。

「ウチの精鋭が野犬に軽々とあしらわれるなんて、サイテーだわ」

 悔しそう眉をひそめるライザのこめかみには、今もトッシュが銃口を向けている。

「形勢逆転はしたが、これからどうしたものか?」

 敵の銃を奪い、人質も取った。がしかし、坑道の中は帝國軍の兵士たちで溢れ、そしてもう一つ。

「アナタの腕に付いているブレスレットのことをお忘れかしら?」

「いいや」

 そう、トッシュの腕には発信機が付いていた。しかも――。

「アナタに言い忘れていたことがあったわ」

 不敵に笑うライザを前にして、トッシュも少し嫌な表情をする。

「なんだ、言ってみろ?」

「そのブレスレットが爆発するわ」

「そいつは困ったな」

 さも困ってないように言ったトッシュは、銃の引き金から指をなるべく外さないようにして、ブレスレットをしていた右手から左手に銃を持ち替えた。

「俺様の右半身が吹っ飛んだら、残った左手でおまえの脳味噌を吹っ飛ばす」

 それは本気だった。この男なら必ずやるとライザも確信した。

「アナタならたとえ死ぬことになって、最後に敵に報いて死ぬでしょうね」

「俺様はただじゃなにもしない」

 そして、ライザはついに折れた。

「わかったわ、アタクシを人質にしてどこまで逃げられるかやってみなさい」

「最後まで逃げ切ってみせる」

 トッシュが笑う。それは自信の表れだった。

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