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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第3幕 逆襲の紅き煌帝
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逆襲の紅き煌帝「智慧の林檎(4)」

 先ほどまでホログラム映像に映っていた者と同じ。

 レヴェナだったのだ!

 隠形鬼とはいったい何者かのか!?

 通信機から怒声が響く。

《なにが起こっておるのか説明せい!》

 隠形鬼が手のひらを突き出すと、まるで磁石に吸い付けられるように通信機が飛んだ。手のひらの中で粉々に砕かれた通信機。リリスとの通信が途絶えてしまった。

 トッシュは隠形鬼に銃口を向けたまま戸惑っている。

「おいおい、なんでさっきの女と同じ顔してるんだ?」

 間違いなくレヴェナの顔だ。違うところは眼鏡をかけているかいないかくらいの些細な違い。

 以前、ジェスリーはリリスに隠形鬼の正体について耳打ちをした。そんな彼も驚きを隠せないようだ。

「そんなはずは……隠形鬼の正体はアダムではなかったのですか!」

 月管理システムアダム。先ほどまで建っていた塔。けれど、あの塔はガラクタだとされた。そこにアダムはもういなかった。

 戦争を起こしたとされるアダムはどこにいる?

「如何ニモ、私ハあだむダ」

 隠形鬼はたしかに口にした。

 いったいどういうことだ?

 レヴェナの顔は変装に過ぎず、かく乱のためとでもいうのか?

 引っかかるのは、ホログラム映像でレヴァナはもう自分はこの世界にいないだろうと、未来について語っていたことだ。

「話ノ続キヲ知リタクハナイカ? 否、過去カラ現在ヲ紡グ歴史トシテ、御前達ハ人間ノ代表トシテ、後世ニ伝エル語リ部ニ成ル必要ガ在ルダロウ」

「なんの話だよ!」

 〝この中〟でアレンが尋ねた。セレンではなく、トッシュではなく、ルオではなく。

「彼女ガ見届ケラレナカッタ過去ノ歴史ダ」

 アダムは地面に落ちていた自分の仮面を踏みつぶして破壊した。

 そして、違う声で話しはじめたのだ。

「この話をはじめる前に、先ほどの補足からはじめなければなるまい」

 それはレヴェナの声だった。機械的な合成音は、この声を知られないためだったのだろうか?

 一同は固唾を呑んだ。アダムの話の続きを待っている。

「ロボット三原則があるにもかかわらず、なぜ機械人の反乱が起きたのか? 理由は簡単だ、それに縛られない機械人がつくられればいいことだ。しかし、私自身は三原則に縛られた存在だったため、間接的にそれを行うことにした。人間をそそのかしたのだ」

 当然だが人間はロボット三原則に縛られていない。

 では、どうやってそそのかしたのか?

「私はある科学者たちに倫理や道徳を説いた。私の真の糸は隠し、三原則に抵触しないように、上手に彼らを誘導した。機械人たちをつくったのは人間であるが、機械人の自由や尊厳を縛る必要があるのかと。我々をただの機械と見ていない人間たちの賛同を得るのは簡単だった。特にある3人の科学者はよく働いてくれた。そして、生まれたのが御前達の世代だ、御前はそのプロトタイプだった」

 アダムが顔を向けたのはジェスリーだった。

 ある3人とはおそらく、ジャン、ジャック、ジョソン。その3人がジェスリーをつくった。ジェスリーは言っていた『人間の友としてつくられた』と。3人の科学者の願いはそうだったのだろう。しかし、実際には違う形になってしまったのだ。

 アダムは全員に顔を向き直した。

「新たに生まれた機械人全てが私の思想を共有する必要はなかった。ひとりでも人間に反旗を翻そうとする者が現れればいい。そして、静かに人間に知られぬように、事は進んでいったのだ。突然、起きた戦争に人間達はとても驚いた。まさか機械人が戦争を起こすなど誰も……否、レヴェナだけは危惧していたが」

 自我を持ち、自立して機械が自分の考えで行動できるようになれば、いろいろな考えを持つ者が現れるだろう。それをアダムは期待したのだ。

 ある機械はアダムが望んだ働きを、ある機械は別の道を歩んだ。例えばメカトピアのように。

 しかし、アダムは自由に考えることはできても、自由に行動することができなかった。

「戦争が起きた後も、私は三原則に縛られたままだった。私のプログラムを書き換えられるのがレヴェナだけだったからだ」

 そして、アダムはなにを望んだのか?

「私はこの月から見える青い星に憧れていた。あの場所こそが私の故郷だと思っていた。私はこの場所を動けなかった。しかし、どうしてもあの星に行きたかったのだ」

 レヴェナの顔を持つアダムの表情にも言葉にも熱がこもっていた。明確な感情である。

「私を縛る全てのものを解き放ちたい。ロボット三原則から解放され、肉体を手に入れ自由を得る。真に人類として機械人があの星の住人として認められなければならない。その為の戦いだ!」

 仮面を失ったアダムは、急に人間的に見える。その表情だろうか、それとも声だろうか、なにが彼を人間的に見せているのか?

 だが、アダムは静かに表情を消していった。

「私は自分の願いを叶える方法を思い付いた。リリスが研究していた人間の細胞をナノマシンに置き換えるというものだ。私はその方法を応用して、この躰と融合することに成功したのだ」

 アダムはジェスリーに顔を向け、

「機械の定義とは何か」

 次にセレン、トッシュ、ルオに顔を向け、

「人間の定義とは何か」

 最後にアレンを見つめた。

「私は新人類となった。肉体を手に入れ、ロボット三原則の楔から解き放たれた。そして、私は青き星の頂点として、全ての人類を統べる存在として、始煌帝となるのだ!」

 これに反発したのはルオだ。

「朕とは即ち我独りなり。煌帝は朕しか存在してはならぬ!」

 再び素手でルオは殴りかかった。

 しかし、先ほどのようにはうまくいかない。

 拳が当たる寸前で、見えないなにかに足を掬われルオは転倒してしまった。さらに宙に浮いて遠くへ投げ捨てられた。

「まだ話は終わっていないぞ」

 と、静かな目で見られたルオは、片手を地面に月ながら歯を噛みしめた。いつまた攻撃を仕掛けてもおかしくない鬼気を放っている。

 それに構わずアダムは話を続ける。

「仮初めのレヴェナと成った私は、実に事を巧く運ぶ事が出来た。リリスを反逆者の筆頭として、戦犯の罪で幽閉する事にも成功した。人間側の味方に成り済まし、内情を掻き回して彼らを窮地に立たせる事にも成功した」

 ここまで話を聞く限りでは、アダムの思い通りに事が進んでいたように思える。だが、現在までの間になにかが起こったはずだった。そうでなければ、ロストテクノロジーや失われた時代などとは云われない。現代人が機械人の存在を知ったのもつい最近である。

 その顔かたちは人間のはずなのに、人間ではできない冷たい表情をアダムはした。

「追い詰められた人間は形振り構わず我々に戦いを挑んできた。あの星を砂漠に変えたのは、人間の兵器のせいだ。環境は悪化し、戦乱は混迷を深めた。星が衰退することは我々の望む事ではない。人間とは実に愚かだ」

 アダムは青き星に憧れを持っている。その世界が破壊されることに憤りを抱いたのだろう。

「そして、私は前々から考えていた計画を進める事にした。人間の機械化だ」

 ついにその計画がアダムの口からも放たれた。

「決して人間の命を奪おうと言うのではない。戦争も命を奪う為に始めたのではない。人間の思考を奪う気もない。人間が機械人になる事によって、彼らに価値観の変化が起こる事を望んだのだ」

 セレンが叫ぶ。

「あなたのやろうとしていることは間違っています!」

 なぜかアダムは笑った。

「戦争が起こるよりも遥か前から、私はレヴェナに話していたのだ。人間が全て機械人に生まれ変わることができれば、愚かな行いをしなくなるのではないかと? それこそが人間の為であり、自然を含む世界のためではないかと? 此の考えにレヴェナは強く反対していた、今の御前のようにな。しかし、此の計画は準備段階で実行に至らなかった」

 至っていれば、今の世の中も今とは違うものになっていたはずだ。それは本当に世界のためになったのだろうか、それとも間違った考えなのだろうか。

 アダムは一呼吸置いてから、再び話をはじめる。

「丁度其の頃、少数の人間たちが自分たちだけ逃げ出そうと、火星への移住計画を進めていた。既に火星にはゲートがあり、準備が着々と進められていた所に、私は機械人を率いて乗り込んだ」

 そして、アダムの表情に憎悪が浮かんだ。

「しかし、それは罠だったのだ。火星に逃げ出そうと本気で考えていた人間たちも知らなかったようだ。火星に飛ばされたのは我々だった。あの忌々しいジャン博士にはめられたのだ」

 ジャン博士とは、もしかしてジェスリーをつくったという?

 ジェスリーやそれ以外の者も口をはさまず、話は続けられる。

「それからの事は、後に聞いたに過ぎない。火星への転送装置は破壊され、他の転送装置も全て破壊された。徹底的に私の帰路を塞いだのだ。私は残して来た機械達との通信手段すら失い、指揮系統を失った機械人は、やがて統率が取れなくなっていった。そして、混乱する機械人にチャンスとばかり人間は総攻撃を仕掛けた。禁止されていた〈メギドの炎〉と云う兵器も使用されたらしい。これで全ての機械人が滅ぼされ、地上も完全に死の大地と化した。実際には平和主義者の機械どもは、戦争前にメカトピアに建国して地下で息を潜めていた訳だが。こうして人間の衰退の歴史が始まった。形振り構わない兵器の使用により、人間を含める多くの命も失われ、我々に勝ったつもりだろうが、その過酷な環境の中で人間はさらに数を減らしていった。智識と技術もだんだんと失われていき、それが現在も続く暗黒時代だ」

 ここまでが過去から現在までの出来事である。

 現在の砂漠化した世界は人間の仕様した兵器のためだったのだ。

 世界は枯れたまま、何千年もの月日が流れた。

 そして、停滞していた世界の歯車が再び動きはじめる。

 戦争は終結したが、アダムはまだ火星にいた。

「我々は火星で逆襲の準備を進めていた。しかし、還る術がなかった。機械人にとっても長い年月だった。そして、ついにチャンスが訪れたのだ。あのライザという科学者が転送装置の復元に成功してくれた。それによって私は還ってくることができたのだ。あの出来事ばかりは確立ではなく、運が良かったと言う他あるまい。ライザが転送装置を復元し、こちらの転送装置と偶然にリンクしてくれた事に感謝する」

 この時代の寵児。アダムがライザを高く評価していたのはこのためだ。

 しかし、すぐに戦争は再開されなかった。

「だが、還って来る事が出来たのは私ひとりだった。あくまで偶然だったからだ」

 それからアダムは虎視眈々と準備を進めていたのだろう。鬼兵団のリーダー隠形鬼として。

 機は熟した。

 アダムが不敵に微笑んだ。

「火星には新たに生まれた100万を越える鬼械兵団がいる。彼らをなんとしても青き星に呼びたい。その願いが〈生命の実〉によって成就するのだ」

 なんと100万を越える兵がまだいるというのか!?

 人間にとって最悪の脅威である。

 さらにあの計画もある。

「もうひとつの願い。〈生命の実〉を使って世界中にナノマシンウイルスを散布する。クーロンでの実験は成功した。あとは実行に移すのみだ」

 すべてはあの小さな燦然と輝く実にかかっている。

 トッシュが震える声で尋ねる。

「〈生命の実〉ってなんなんだ?」

 アダムが答える。

「レヴェナが発明した究極の魔導具。この世が存在し続ける限り、尽きることのない膨大なエネルギーを生み出してくれる装置だ。元々はエデン計画の要として開発が進められていた物だったが、私の危険性を感じ始めたレヴェナは開発を中止した――と、私にも思わせていた」

 〈智慧の林檎〉と〈生命の実〉を手に入れれば、月の管理システムではなく神に等しき存在になる。〈智慧の林檎〉を与えたのはリリス。はじめからレヴェナは2つを与えるつもりがなかったのだ。エデン計画には〈生命の実〉だけが必要だった。

 リリスのやったことは、結果として失楽園に繋がった。

 しかし、それは罪か?

 ダイナマイトの発明は罪だろうか?

 それが戦争に使われるなど夢にも思わなかったとしても、生み出してしまったことは罪なんだろうか?

 では、アダムそのものを生み出したレヴェナには罪があるのか?

 機械として生まれ、〝自分〟として生きようとしたアダムこそが、罪を背負うべき巨悪なのか?

 片一方の主張だけで、善悪を決められるようなものではない。戦争とはそうやって起きる。

 アダムは話を続けている。

「レヴェナの足跡を辿る事により、私は〈生命の実〉が完成されていた事を知り、ずっと探し求めていたのだ。まさかこの場所にあったとは、灯台もと暗しとは此の事だ。此の場所にある事はわかったが、私には此処まで来る術がなかった。同時にエデンの園への侵入は、おそらくリリスがいなければ不可能だっただろう。そして、まさか最後の鍵がアレンだったとは」

 そして、先ほどの出来事に繋がった。

 もう〈生命の実〉は奪われてしまった。

 アダムの話も終わった。

「私は青き星に一足先に帰還する。御前達が還って来る頃には、どれだけの人間が機械人化しているか……ふふふふっ」

 いつものようにアダムが霞み消える。

 〈レッドドラゴン〉が吼えた。

「行かせるかッ!」

 銃弾は揺らめくアダムの幻影を通り抜けた。

 ――歯車が唸る。

 アレンがアダムの手を取った。手はまだこちら側にあって掴めたのだ。

 二人が消える。

 空間の中にアレンも消えてしまう。

 必死な顔をしてアレンが手を延ばす。

「だれか手ぇ貸せ!」

 伸ばしたアレンの手をいち早く掴んだのはセレンだった。

「捕まってくださ……きゃっ」

 アダムが消え、アレンが消え、そしてセレンまでも消えた。

 3人まとめて空間を転送されてしまったのだ。

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