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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第3幕 逆襲の紅き煌帝
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逆襲の紅き煌帝「鬼械兵団(5)」

 〈インドラ〉の操縦室まで運ばれた岩。

 その姿を見たトッシュも驚きを隠せなかった。

「リリス殿……なぜこんなことに?」

 ほかの者たちも驚いている。岩に埋め込まれた人間など見たことがない。それも絶世の美女の顔だ。

 ジェスリーはほかの者とは違う驚きをしていた。

「リリス・イブール博士ではありませんか?」

「ほう、その名で妾を呼ぶとは……おぬし」

 気づいたようだ。相手は知った顔ではない。別のことに――。

「機械人じゃな?」

 刹那、トッシュとヴァリバルトが銃を構えた。

 アレンがゆっくりと割ってはいる。

「悪い奴じゃねえよ。武器なんか向けんな」

 すぐに武器が収められた。

 哀しげな表情をジェスリーはした。

「そうです、わたくしは機械です。アンドロイドという存在です。みなさんを騙すつもりはなかったのですが、わたくしが機械と知られれば、今のような反応をさせることはわかっていましたから」

 ヴィリバルトは目の前の存在が機械だと信じられないようだ。

「まるで人間だ。どうして人間の格好をしている? なにが目的だ?」

「人間の姿形を模しているのは、人間の眼を騙し社会に溶け込み、危害を加えるためでありません。人間の形をしたお人形のような物と思ってください。わたくしは人間の友となるために、ある3人の科学者につくられたのです。今お話しできることはそれだけです」

 不満そうな顔をしているトッシュ。

「得体の知れない人間もどきって聞いちゃあ、それだけですじゃ納得できないだろう」

「それだけしかお話しできないのは、あなた方が本当に信頼できる〝人間〟であるか判断材料がまだ少ないからです。手の内を明かさないで都合のいい話ですが、わたくしを信じていただきたいのです。最終的な目的はこの世界の平和、そのために隠形鬼をどうにかしなければならない、それはみなさんもいっしょのはずです」

 またアレンが割ってはいる。

「はいはいはいはい、隠形鬼をぶっ飛ばすって目的がいっしょならいいだろ。んなことよりさ、姐ちゃんがこんな格好になってるほうが気になるんだけど?」

「妾の話をする前に、おぬしらの話を聞きたい。妾が消えてからなにがあったのか」

 リリスの要望に応じて、これまでのことを話すことになった。

 アララトの遺跡でリリスが隠形鬼によって消され、水没により帝國が滅び、世界の覇権を巡って人間たちが争いを起こしていたところに、鬼械兵団が現れたこと。隠形鬼たちがなにをしたか、セレンとライザから聞いていたクーロンでの出来事、そして革命軍と大事軍との戦いまで、細かく話して聞かせたが、ジェスリーのことやメカトピアでの出来事は話されなかった。

 岩に埋もれた顔を動かすことはできないが、リリスは眼で頷いて見せた。

「ふむ、隠形鬼と鬼械兵団。妾がこの世界にいない間に厄介なことになっておるようじゃの」

 この世界にいなかった?

 リリスはこの世界でなにが起きていたのか知らなかった。だから説明させたのだ。

 隠形鬼に消されたあと、リリスにいったいなにがあったのか?

「妾の感覚では、まだ数刻も経っておらぬ。隠形鬼に違う次元に飛ばされた妾は、そこでこの寄生岩と融合してしまってのお、口を利くことと思考すること以外の自由を奪われてしもうた。この生物はどうやら宿り主の思考を喰らって生きているらしいのじゃが、これまで喰らった存在の智識を蓄えているらしく、妾はそれを読み解くことに成功したのじゃ。妾の迷い込んだ空間は、あらゆる空間から存在が迷い込んでくる空間らしいことがわかっての。つまりこの岩は蜘蛛、巣に掛かった獲物を喰らうというわけじゃな」

 まで説明は終わっていなかったが、アレンは耐えられなくなった。

「あーあーあー、ぜんぜん意味わかんねーよ。もういいよ、説明しなくて。とにかく岩と合体して困ってるってことだろ。で、とにかくこっちの世界に戻って来れたならいいじゃん。でもさ、なんで俺が戦ってる中に現れたわけ?」

「引力じゃな」

「はっ? 引力?」

「多くの者はそれを偶然と呼ぶじゃろうが、運命の引力じゃ。事象は互いを引き合う。おぬしと妾は運命を共にしておるというわけじゃ。恋愛と似ておる」

「なにそれキモイ」

 本気でアレンは嫌そうな顔をした。

 話が一段落したところで、ジェスリーが口を開く。

「リリス博士に二人でお話したいことがあります」

「ほかの者は下がってくれんか? アレンはここに残れ」

「俺残んの?」

 リリスに言われアレンはここに残ることになった。ジェスリーもそれを認めた。

 残るメンバーはどうするのか?

 ヴィリバルトは、

「俺たちはこの艦を降りて革命軍の本隊と合流することにした。この艦はおまえたちが使え。では武運を祈る」

 数名の兵士たちを引き連れヴィリバルトは去った。積んでいたジープに乗って、飛空挺から離れていく。

 ワーズワースは、

「僕はちょっと散歩に行って来ます」

 トッシュは、

「疲れたから少し部屋で休む」

 そして、3人だけが操縦室に残された。

 静まり返った。リリスとジェスリーが口を開こうとしなかったからだ。

「おい、話があるならしろよ。てか、なんで俺まで居残りなわけ?」

 話があると言ったのはジェスリーだ。けれど、促されても口を開かなかった。ジェスリーはアレンの瞳を見つめて、ただ見つめた。

 嫌そうな顔をしてアレンが目を背ける。

「なんだよ俺の顔を見て」

 そして、やっとジェスリーが口を開いた。

「アレンさんをなぜ残したのですか? 残したことについては、リリス博士のお考えに反対するつもりはありませんが、その理由は聞かせていただきたいのです」

「アレン自身も覚えていないことじゃ、今は言えぬな」

「俺が覚えてないってなんの話だよ?」

「刻が来ればわかる」

 リリスはそれ以上言わない雰囲気だった。それを察してアレンは問い質さなかったが、非常に不満そうな顔をして頬を膨らませている。

 ジェスリーもそれで納得するしかなかった。

「わかりました。では、わたくしのお話をしましょう。リリス博士は当然、メカトピアについてご存じでしたか?」

「まだ存在しておるのか?」

「はい、今のところは第3コロニーまですべて。しかし先日、隠形鬼の襲撃に遭いました。彼の目的は我々が彼の味方につくこと。そうでなければデリートすると」

 あれから3日経っていた。返事の期限は迫っている。あと4日だ。

「リリス博士は隠形鬼の正体をご存じですか?」

「わかるようで、わからぬ」

「わたくしはすぐにわかりました。正体が彼ならば、目的は決まっています」

 ジェスリーはリリスに耳打ちをしてなにかを囁いた。

 難しい顔をリリスはした。

「その可能性は妾も考えた」

「まさかリリス博士は違うとおっしゃるのですか?」

「だからまだわからぬのじゃ」

 ここに残されたにもかかわらず、アレンを抜いた会話だ。ちょっとアレンはイラッとした。

「なんだよ、内緒話かよ」

 リリスはジェスリーに目で合図を送って制した。

「妾が説明しよう。隠形鬼の正体は機械人じゃよ、太古の昔につくられたな。かつても同じように人間に反旗を翻した。そして停止させらた……と思っておったのじゃが」

 なぜかジェスリーはなにか言いたげな瞳でリリスを見つめていた。その眼は不満だ。

 しかし、ジェスリーは語らなかった。別のことで口を開いた。

「わたくしがお話したかったのは、隠形鬼の正体についてだけです。もうお話はありません」

 リリスはアレンに目を向ける。

「アレン、おぬしが行くべき場所は決まっておる。ある者から伝言があってな、そこに行けと言っておった」

「そこになにがあんだよ?」

「妾も知らぬ。しかし、おそらくこの戦いに関することじゃろう。どうやらおぬしは重要な役割を託されておるらしい」

「なんだよそれ、めんどくさい。で、どこだよそこ?」

 リリスは口ではなく、視線でそこを示した。天井だ。おそらくもっと先、空の上だ。

 どこがどこだかジェスリーは気づいたようだ。

「もしやエデン計画では!?」

「そうじゃ、目的地はエデンの園――つまり月面じゃ」

「はぁ~~~っ!?」

 声を揺らしながらアレンが叫んだ。

 さらにアレンはこう続けた。

「あれって空に浮かんでるちっこい石ころだろ?」

 ジェスリーはリリスと顔を見合わせて笑った。

 この時代に月に行くなど夢のまた夢。教養のない者は、それが衛星だということも知らない。中にはこの星が月と同じように丸いことすら知らない者もいるだろう。今はそんな時代だった。

「月はこの星の約4分の1ほどの大きさがあります。決して石ころなどではありません」

 ジェスリーに説明されて、アレンは別のことで驚いた。

「昔のひとってすげえな。そんなデカイもん空に打ち上げるなんて」

 魔導かなにかの力で浮いているのだとアレンは思ったらしい。

 リリスは大きく息を吐いた。

「もう話はおしまいじゃ、ほかの者を呼んでおいで」

「俺が残された意味あったわけ?」

「おぬしと妾は運命を共にしておると言ったじゃろう?」

「それキモイ」

 アレンは逃げるように部屋を出て行った。

 残された二人。

 ジェスリーの表情は神妙だった。

「なぜ話さなかったのですか?」

「なにをじゃ?」

「アダムに智慧を与えたのは、あなただということです」

 いったいそれは誰の名か?

 その者に智慧を与えたとはどういうことか?

 リリスが囁く。

「知っておったか……」

「ええ。まだ名乗っていませんでしたが、わたくしの名前は、ジャン・ジャック・ジョンソン。わたくしをつくった科学者の名前をもらいました。そして、ジャンは……そう、あなたのお姉さんの婚約者の名前です」

 姉の名は――レヴァナ。


 黒い燃えかすの山を歩くワーズワースの前にトッシュが現れた。

「奇遇ですねトッシュさん」

 訝しげな顔をするトッシュ。

「なにしてるんだ?」

「そっちこそなにしてる?」

「ちょっと探しものを……でも、たぶんここにはないような気がするんですよねぇ」

「俺様もそう思う」

 そう、二人は同じものを探していた。

 火鬼によって焼き払われた革命軍の駐屯地跡。

 ほとんど原形を留めていない。人間の屍体すらも――。

 トッシュはワーズワースの目頭が光っているのを見てしまった。

「泣いてるのか?」

「えっ?」

 言われてワーズワースは驚いたようだ。指で目を拭って自分が泣いていることに気づいた。

「本当ですね、なんででしょう涙なんて……」

「なあ聞いていいか?」

「なんですか?」

「シスターに惚れてるのか?」

 ワーズワースは笑った。

「ははは、まさっか~。そういうのじゃないですよ。トッシュさんこそ、セレンちゃんのことどう思ってます?」

「それって恋人にしたいかって意味か? 俺様とはちょっと年の差だろ」

「恋愛に歳なんて関係ありませんよ。僕が昔好きだったひとは、100歳以上歳が離れてましたよ?」

「は?」

「冗談ですよ、あはは。で、セレンちゃんのことどうなんです?」

「妹みたいな存在だ」

「僕も似たようなものです」

 愁いを帯びた顔をワーズワースはしていた。そこから感じられるセレンへの想い。彼はいったいどんな想いをセレンに抱いているのだろうか?

 ワーズワースは腰を伸ばして、汚れた手をパンパンと合わせながら叩いた。

「重大発表しちゃってもいいですか?」

「なんだ?」

「じつはですね……フローラさんっているじゃないですか?」

「…………」

 急にトッシュは黙り込んだ。

 その反応を見取ってワーズワースは、

「やっぱりやめましょう」

「言え」

 鋭く脅すような口調だった。

「言います言います。でもかる~く流してくださいね」

「早く言え」

「じつは元カノなんですよねぇ~、あはは」

「…………」

 トッシュが無言で〈レッドドラゴン〉を抜いていた。

 冷や汗を流すワーズワース。

「い、1ヶ月も保たずに別れたんですよ。なんていうか、どうして付き合ったのかわからない感じの自然消滅で」

 トッシュは銃をしまった。そして、真剣な眼で、相手を射貫くような鋭い眼でワーズワースを見つめた。

「ひとつ聞いていいか?」

「なんですか?」

「もしかして、フローラが隠形鬼の仲間だって知ってたんじゃないだろうな?」

「あはは、まっさか~。帝國の飛空挺で会ったときはビックリしちゃいましたよ、久しぶりに会ったんで。偶然ってホント恐いですよねぇ」

 おどけたように言いながら、ワーズワースを地面でなにか光るものを見つけた。

 煤の中から拾い上げたそれは、十字架のペンダントだった。

 ワーズワースの顔が見る見るうちに凍りつく。

「セレンちゃんのです」

「まさか……そんなネックレスしてたか?」

「普段は服の中に入れてるんですよ。たしかにこれはセレンちゃんのです」

 煤を丁寧に指先で拭き取る。すると、そこに刻まれた文字が浮かび上がってきた。

 刻まれていた文字は――?

 ワーズワースはペンダントを大事にしまった。

「トッシュさん……」

「なんだ?」

「なにがあっても、とりあえず僕のこと信じてくれませんか?」

「どういうことだ?」

「……飛空挺に戻ります」

 影を背負いながらワーズワースは立ち去った。

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