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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第3幕 逆襲の紅き煌帝
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逆襲の紅き煌帝「鬼械兵団(4)」

 エアカーの助手席からワーズワースは空を指差した。その指先がだんだんと地面に向けられる。

「落ちましたよ、あの飛空挺」

 それがトッシュたちの乗った〈インドラ〉とは知る由[よし]もない。

 一路エアカーは飛空挺の墜落現場に向かった。

 弾道のように抉られた大地。地面との衝突後、船体を引きずりながら〈インドラ〉が止まったようすが見て取れる。砂煙はすでに治まって、辺りは異様なまでに静かだった。

 砂を被っている船体だが、煙などは出ていない。防御フィールドが展開され、墜落と同時に大爆発を起こすようなことは免れたようだ。

 エアカーを降りた3人は飛空挺を調べた。

 中でも熱心なのはワーズワーズだ。

「いったいどこの飛空挺ですかねぇ。いきなり中からワッと敵国の兵が出てきたりして」

 ワーズワースは合金の船体を調べるように叩いて歩いた。

 船体は横を向いて倒れていた。

 アレンは人間離れした跳躍で船体の上に乗った。

「こっちに入り口があるぞ!」

 本来はその入り口からタラップを下ろして出入りをする。今は天を向いてしまっている。

 ワースワースは首を曲げて上向いた。

「僕はそんなところまで登れないんですけど?」

 と、言ってから横のジェスリーに顔を向けて続ける。

「なにかいい方法ありません?」

「エアカーで浮上しましょう」

 二人はエアカーで船体の上に向かうことにした。

 アレンは二人を待たずに、ドアをこじ開けて船内に入った。

 細い通路は明かりが点いたままだ。墜落しても動力が生きているためである。

 船首に向かって歩いた。今は途中の閉まっているドアの部屋は無視して進んだ。

 気配がない。船内は静かだ。

 やがてアレンは広い操縦室まで来た。

 船首のほうの壁に折り重なって倒れている人影。その中のひとりにトッシュを見つけた。

「オッサンじゃねえか。どういう状況だよ?」

 とりあえず、人山の中からトッシュを引きずり出し、床に仰向けに寝かせて頬を叩いた。

「起きろよオッサン、飯だぞ」

 もう一度アレンが叩こうとしたとき、トッシュが起きて目の前の手首を掴んで止めた。

「飯なんかで起きるか!」

「起きたじゃねえか」

「おまえが叩いたからだ」

 足下をふらつかせながらトッシュは立ち上がり、兵士やヴァリバルトを見つけて起こそうとした。

「おまえも手を貸せ」

「はいはい」

 めんどくそうに返事をしてアレンも手伝った。

 一人ずつ床に寝かせて息を確かめる。

 アレンは首を横に振った。

「こいつ死んでる」

 兵士のひとりだった。

 トッシュはヴィリバルト肩を揺さぶった。

「起きろ〝キング〟!」

「……うう……うっ……」

 朦朧とした眼をしてヴィリバルトが意識を取り戻した。

 ちょうどそこへワーズワースたちもやって来た。

「おおっ、英雄トッシュさんじゃありませんか!」

「詩人の兄ちゃんまでいっしょか。後ろのはだれだ?」

「ジェスリーと申します」

 丁寧に頭を下げてジェスリーは挨拶をした。

 残っていた2名の兵士も意識を取り戻し、死亡したのは1名だけだった。衝突のときに頭を強打して頸椎を損傷したしまったようだ。

 ワーズワースはいつの間にか操縦席についていた。

「動力は生きていますね。エネルギー漏れもないようです。多少の損傷はありますが、まだ飛べますよコレ」

 操縦席の小型モニターを見ながら言った。

 少しトッシュは驚いたようだ。

「おまえ操縦できるのか?」

「飛空挺なんて生まれてこの方操縦したことありませんよ。ちょっとした機器くらいならいじれますけど、旅が長いので」

 落胆の空気が漂った。船体が生きていても、操縦できなくては意味がない。

「わたくしが操縦しましょうか?」

 と、言った者に全員の視線が向けられた。ジェスリーだった。

 さっそくジェスリーが操縦席について、エンジンを再始動させた。

 大きく傾く船内。横になっていた船体がゆっくりと立て直され、滑り台のようになった床をアレンたちが滑り落ちる。急激に傾いたのではないので、だれにも怪我はなかった。

 ヴィリバルトは息を落とした。

「どういう知り合いなんだ?」

 と、トッシュに顔を向ける。

「話せば長くなるんだが、とりあえず戦場に戻りながら話そう」

 〈インドラ〉は再び戦場へ向かって飛行をはじめた。

 お互いなにがあったのか、アレンやトッシュが掻い摘んで話していると、すぐに戦場まで着いた。

 しかし、そこはすでに戦場ではなくなっていた。

 泥と水に覆われた世界に鬱蒼と茂る森。マングローブが形成され、兵士たちは堆肥と化していた。そこに鬼械兵の姿は跡形もない。

「まだ生きている兵がいるかもしれん!」

 叫んだのはヴィリバルトだ。

 操縦桿を握っているジェスリーが高度を下げる。

「地上に近づきます」

 〈インドラ〉がマングローブすれすれを飛行する。起こした風が木々を揺らし、水面に波紋を描く。

 操縦席の小型モニターを確認しているジェスリー。

「生体反応はありません」

「着陸しろ!」

 怒鳴り散らすようにヴィリバルトが操縦席に詰め寄った。

「繰り返しますが、生体反応はありません」

「降りて自分で探す! 早く着陸させろ」

「この森の中には着陸できません。それにもう一度繰り返しますが、生体反応はありません。残念ながらこの艦に備わったレーザーは超高性能です。人間程度の動物であれば、その生体反応をキャッチすることができます……ん?」

 急にモニター見ていたジェスリーが鼻から声を漏らした。

 すぐにヴィリバルトもモニターを見る。

「生存者か!?」

「いえ、動物ではありません。動力源が生きている機械です」

 巨大モニターに地上の拡大映像が映し出された。

 その場所には草木が一本も生えていなかった。あるのは円を描いている無数の機械の残骸。何百という鬼械兵が壊され、その中心にぽかんと空いた空間ができていたのだ。

 鬼械兵が何者かにやられた。

 トッシュは墜落前の出来事を思い出した。

「そうだ、シュラ帝國の餓鬼皇帝がいきなり現れたんだ、姿はだいぶ変わってたが、あの顔はそうだ絶対に。それで巨大な機械の兵器を一撃で倒して……あとのことは知らん」

 アレンがニヤリとした。

「あいつも生きてたのか、しぶてぇ野郎だなぁ」

 モニターを見つめながらワーズワースは神妙な顔をしていた。

「ならこれもルオの仕業ですかね……というより、〈黒の剣〉の成した業でしょうか」

「〈黒の剣〉が現存しているのですか!」

 驚いたように声をあげたのはジェスリーだった。

 アレンが尋ねる。

「〈黒の剣〉がどうしたんだよ?」

「いえ、とくにはなにもありません。危険なロストテクノロジー兵器だと聞いたことがあったもので……」

 少し歯切れが悪かった。

 その後、何回もマングローブ上空を旋回して生存者を捜したが、ただのひとりも確認できなかった。

 肩を落としてヴィリバルトがあきらめたところで、〈インドラ〉はこの場を離れ革命軍の駐屯地に向かった。

 しかし、そこで一行を待ち受けていたものは、絶望の焼け跡だった。

 まだ小さな火の手が燃え揺れ、煙があちこちから昇っている。

 駐屯地が全焼していた。

 ただの火事ではない。灰を化している跡形もない駐屯地は、高熱で一気に焼き払われたようだった。もはや溶かされたというほうが正しいかもしれない。

「生体反応はありません」

 この場所でジェスリーの言葉は同じだった。

 トッシュがツバを飛ばす。

「冗談じゃないぞ、ここにはシスターの嬢ちゃんもいたんだ!」

 すぐさまトッシュの胸ぐらにアレンが掴みかかる。

「おいっ、それってセレンのことか!?」

「そうだ!」

「どうして残して行ったんだよ」

「戦場のほうが危険だからに決まってるだろう! それにシスターに戦場は血なまぐさい場所だ。本人が行くのを嫌がったんだ!」

 お互いを睨み、アレンはトッシュの躰を突き放した。

 すぐにアレンは操縦席に駆け寄った。

「下ろせ、今すぐだ!」

「それは懸命な判断とは言えません」

「いいから早く下ろせよ!」

「10体の鬼械兵と1人の人間らしき反応を地上に確認しています」

 巨大モニターに映し出された女の姿。

 女はまるでこちらを見るように――いや、見ているのだろう。天に顔を向けて艶笑を浮かべていた。

 機械の片眼を輝かせる火鬼が鬼械兵団を引き連れ地上にいたのだ。

 アレンの大きく口を開ける。

「あの糞アマッ、ぶん殴ってやる!」

 トッシュも銃を構えていた。

「俺様もやるぜ」

 二人を見てジェスリーは人間のように溜め息を吐いた。

「仕方がありません。お二人がどうしても戦うというのなら、魔導砲の充填ができています。空中から敵を一掃しましょう」

「いいや、俺は直接あいつをぶん殴ってやりたいんだよ!」

「それは危険行為です」

「知るかっ、下ろしてくれないなら自分で降りてやる!」

 アレンは操縦室を駆け出していってしまった。

 もう一人も頭に昇っていたが、アレンほど無鉄砲ではなかった。

「よし、魔導砲をぶち込ましてやれ!」

 トッシュはジェスリーにゴーサインを出した。

 しかし、それは中断せざるをえなかった。

 小型モニターに船尾付近の船体下につけられた、貨物用のハッチが開いたと表示が出たのだ。

「機体反応です。おそらくエアカーでしょう」

 積み荷としてジェスリーのエアカーを乗せていたのだ。

 すぐに状況は理解できた。アレンが勝手にハッチを開けて、さらに勝手にエアカーで地上に向かったのだ。

「アレンさんも巻き込むことになりますが、魔導砲はどうしますか?」

 ジェスリーに尋ねられて、トッシュは頭を掻きながら溜め息を落とした。

「糞餓鬼が、中止だ中止に決まってるだろ。どうなっても知らんぞ」

 もう天空からアレンを見守るしかなかった。

 エアカーを停車させ、アレンが大地に足を着け降り立った。

 鬼械兵団に向かって歩いて行く。

「あんたがやったのか?」

「そうでありんす」

 どこかで叫ぶ歯車の音。

 火鬼に殴りかかったアレン。

 しかし、先に攻撃を仕掛けていたのは火鬼だった。

 扇を構え舞い踊る火鬼が業火の渦を繰り出した。呑まれればひとたまりもない。

 アレンは上空に高くジャンプした。

 鬼械兵が同じように高く飛び上がり、一斉に団子となってアレンに飛びかかった。

 空中で蟻の群れに襲われたようにアレンの姿がまったく見えない。

 火鬼は構わず炎を放とうとした。鬼械兵ごと燃やし溶かしてしまう気だ。

 空中の鬼械兵が四散した。

 残骸が火鬼の足下にまで落ちてきて攻撃を中止せざるをえない。

「ちっ……」

 舌打ちした火鬼の瞳が見る見るうちに剥かれていく。

「な、なんだ!?」

 口調も思わず素に戻る。

 このときアレンはなぜか地面に立っていた。

「あれ……なんで俺ここにいんの?」

 アレンすらそれを理解していなかった。

 空から降ってくる物体。

 岩の塊だ。ただの岩ではない。そこには顔がついていた。不気味なのに、ゾッとするほど妖艶なだった。

 火鬼は理解した。

「キェエエエエーッ! リリスーーーッ!!」

 奇声を発して火鬼が般若の形相に変わった。

 次の瞬間、為す術もなく岩の直撃を受けて地面に沈んだ。

 岩に鬼械兵が襲い掛かる。

 だが、なんとその岩から石が数珠つなぎになったような触手が伸びたのだ。

 石触手が鬼械兵の躰を串刺しにする。

 次々と破壊されていく鬼械兵と謎の岩を目の前にアレンは唖然とした。

「なんだよ……アレ?」

 岩が持ち上がれた。

 両手で岩を持ち上げて立ち上がった火鬼は血みどろだった。花魁衣装はぼろぼろに破け、片脚の肉がえぐれてしまっている。それだけではない、全身から電気を帯びた火花が散っている。

 人間とは思えない怪力で火鬼は岩を投げ捨てた。

「怨み晴らさでおくべきか……わちきに殺されに舞い戻ったようでありんすな、リリスッ!」

 業火を繰り出そうとした瞬間、アレンが頬を抉って殴り飛ばした。

 血反吐を飛ばしながら遥か後方へ飛ばされた火鬼。そのまま地面に叩きつけられ、何度も転がったかと思うと、まったく動かなくなった。

 アレンはもう火鬼のことよりも、目の前に現れた岩に興味を注がれ驚きを隠せない。

「姐ちゃん、なんだよこの格好?」

「こら触るでない。触ると脊髄反射的に此奴に攻撃されるぞ」

「はぁ?」

 それは岩だった。そこに妖女リリスの顔がある。埋もれているというのだろうか。そして、これがただの岩ではないのは、先ほどの鬼械兵を破壊した攻撃を見ればわかる。

「異次元の寄生生命体じゃ。この世でいう生命の定義からは外れておるじゃろうがな」

「ぜんぜん意味わかんねーよ」

「ところでここは何時じゃ?」

「は?」

「おぬしに話しても埒が明かんの。とにかく妾を別の場所に運んでくれんか?」

「自分で動けよ」

「見ればわかるじゃろう、妾は岩じゃ。ここを一歩も動けぬ。そうじゃな、丁寧に相手を刺激せぬように、ロープでも引っかけて運べば良いじゃろう」

 なにがなんだかわからなかったが、これがリリスだということはわかった。

 しかし、いったいなぜこんなことに?

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