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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第3幕 逆襲の紅き煌帝
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逆襲の紅き煌帝「鬼械兵団(1)」

 街に向かって走りながら、ジェスリーが口を開く。

「電波信号です。翻訳します――無条件降伏を要求する。今の攻撃はこちらの力を誇示するために行ったものであり、お前たちを傷つける意図は一切ない」

「なんだよいきなり話し出して?」

「私はお前たちの味方だ。私に力を貸せ、そして地上世界を我らのものに、人間たちを家畜とするのだ」

「だからなんの話だよ?」

 話についていけないアレン。

 街のど真ん中で立ち止まったジェスリーが空に向かって指差した。

 アレンは見た。空に浮かぶ何者かの姿を!

「隠形鬼!?」

 そうだ、そこには隠形鬼がいた。

 相手もアレンに気づいた。空に浮かんでいた隠形鬼が道路に降り立つ。どういう原理で空に浮いていたのかわからない。

「マサカ此処デ出会ウトハナ――あれん」

「ばーか、あんたとなんか会いたくなかったよ!」

 対峙するアレンと隠形鬼。

 間に入ったジェスリーがアレンに顔を向ける。

「お知り合いですか?」

「知り合いなんかじゃねーよ。あえていうなら、すっげぇムカつくやつ。敵だよ、敵」

「たしかに友好的な存在ではないようです」

 破壊された街。

 住宅が爆破され、ビルが傾いて今にも倒れそうだ。

 隠形鬼が一歩一歩とアレンに近づいてくる。

「何故助カル事ガ出来タノダ?」

「知るか。この街の向こうを流れる川岸で見つかったんだと」

「成る程、地下水脈ヲ通ッテ此ノ機械人ノころにーニ辿リ着イタト言ウ訳カ。偶然トハ面白イ、此ノ場所ガドノヨウナ場所カ、モウ知ッテイルカ?」

「知らねぇーよ」

 続けて口を開こうとした隠形鬼がジェスリーに顔を向けた。

 二人は無言で見つめあう。

 ジェスリーの表情がさまざまに変わる。まるで無言のまま会話をしているようだ。

 そして突然、ジェスリーが隠形鬼に殴りかかった。

 隠形鬼はジェスリーの拳を片手で受け止め、ひねり上げて投げ飛ばした。

「出力ハ人間以上ダガ、非戦闘たいぷデハ話ニナラン」

 地面に倒れたジェスリーの腕は、ひしゃげて中身の金属の骨組みを晒していた。表面的には人間だが、やはり中身は機械だった。

 すでにアレンも隠形鬼に殴りかかっていた。

 ――どこかで歯車の鳴る音が聴こえた。

 この拳も隠形鬼は片手で受け止めた。

「ヌッ!」

 だが、ジェスリーのようにはいかなかった。

 アレンは機械の拳で隠形鬼を押しながら地面を叩き割りながら走った。

 押された隠形鬼は背中で住宅の壁を突き破り、家具を破壊しながら、さらに反対側の壁も突き破って家の外に出たが、まだまだ勢いは死なない。

「出力ガ上ガッタノカ? コノ街ノ住人タチノ仕業ダナ!」

「くたばりやがれッ!」

 アレンは腕を大きく振り回して隠形鬼を殴り飛ばした。

 10メートル以上もの距離とぶっ飛ばされ、隠形鬼はビルにぶつかった。

 すでに傾いていたビルは、隠形鬼がぶつかった衝撃で、なんと倒壊してしまった!

 凄まじい轟音と砂煙。

 下のほうにある階層が潰れてしまい、残った上の階のほうは、隣のビルに寄りかかって止まっている。完全な倒壊は免れたが、いつまた崩壊するかわからない。

 ぞくぞくと集まって来たパトカーや消防車。

 倒壊したビルの中からレーザーが放たれ、1台のパトカーに切り口の鋭い大きな穴が開いた。

 隠形鬼はまだ生きている。

「此処デ破壊スルニハ惜シイ。興味ノ尽キナイ存在ダ」

 なんと隠形鬼は空を飛んでいるパトカーの屋根に乗っていた。いつの間にそこまで移動したのかまったくわからなかった。

「降りて来やがれ糞ったれ!」

 地上からアレンが叫んだ。

「仲間ニナレ。御前ニハ其ノ資格ガ半分アル」

「前にも言ったろ、なるわけないって!」

「真ニ選ブ権利ガ自分ニアルト思ッテイルノカ?」

「力尽くならかかって来いよ!」

「真ニ選ブノハ、私デモ御前デモナイ。人間ガ御前ヲドウ見ルカ、ソシテ、機械ガ御前ヲドウ見ルカ。戦イガ激化スレバ、人間ハ御前ヲ迫害スルカモシレナイゾ、機械トシテ」

「俺は人間だっつーの!」

 小石を拾い上げたアレンが隠形鬼に投げつけた。

 幻に当たったように、小石は隠形鬼の躰を擦り抜けてしまった。

 霞み消える。

 隠形鬼がこの場から消える。

「返事ハ緩リト待トウ」

 逃げられた。アレン側からすれば逃げられただが、用が済んだので帰ったに過ぎない。

 ジェスリーは破壊された腕を押さえながら、アレンの横まで歩いてきた。

「彼は言い残しました。残る2つのコロニーにも同様の内容を伝えに行くと。そして、返事は1週間後に聞かせて欲しいと。自分の仲間になるか、それともデリートされるか」

「2つ?」

「じつはここは第三メカトピアなのです。第一と第二が存在しています。地球に残っている機械人のコロニーはそれですべてです」

 ここ以外にもこのような街が存在しているということか?

 アレンはヤル気に燃えていた。

「なら第一か第二であの野郎を待ち伏せして叩きのめしてやる!」

「それは現実的ではないでしょう」

「なんでだよ?」

 すぐに水を差されてしまった。

「物理的な距離があるからです。我々のコロニーは3つの大陸に存在しています。さらに都市間の通信手段がないのです。以前まではあったのですが、衛星が落ちてしまってからというもの、連絡には大変な時間を要することになってしまいました」

「よくわかんなけどさ、あの野郎より早く行けばいいんだろ?」

「ですから、彼はどうやら空間転送を自在に操れるようなのです。監視カメラの映像からもそれはわかります」

「だからどういうこと?」

「空間転送には絶対的な出口が必要なのです。座標から座標への移動は、出口となる装置が設置されていることが絶対条件で、出口を決めずに空間転送を行った場合、事故が必ず起こると思ってください。彼はそれを無視することができるようなのです。つまり出口のない残る2つのコロニーにも、突然現れることができる可能性があるということです」

「よくわかんなけどわかった。じゃあさ、これからどうするわけ?」

 終わったわけではなく、これからはじまるのだ。

 隠形鬼は近いうちに2つのコロニーにも現れるだろう。

 そして、味方になるか、ならないか、迫るのだ。

 返事の期限は1週間後。それが過ぎたらなにが起こるのか?

「もはやここは平和ではなくなりました」

 ジェスリーが悲しげに囁いた。

 さらに続ける。

「今、緊急協議会が開かれ、これからのことについて話し合われています」

「俺はもう決めたから、あの野郎をぶん殴りに行くって。だから出口教えろよ」

「……この街を出ることは固く禁じられています。しかし、わたくしはあなたと共に旅立ちましょう。これは人類に関わる問題なのです」

 硬い表情をするジェスリーとは対照的には、アレンは息を吐いて顔を弛めていた。

「大げさだなぁ」

「しかし、彼の正体が……」

「正体?」

「いえ、今のは聞かなかったことにしてください。とにかく過去の過ちを繰り返してはならないのです」

「過去の過ちって?」

「それも機会があればお話します」

「……あっそ」

 それ以上の追求はしなかった。

 ジェスリーが口を閉ざす理由はなんなのか?

 彼の正体とは、つまり隠形鬼の正体と言うことか?

 仮面で素顔を隠す隠形鬼。

 いつだったか、隠形鬼はその顔をリリスに晒したことがあった。あのときのリリスの驚きようと言ったら……。果たして隠形鬼とはいったい何者なのか?


 ベッドで横たわるライザ。仮設病院に並べられた大量のベッドのひとつに、ライザは絶対安静の状態で寝かされていた。

 そこへ一輪の花を差したコップを持ってセレンが現れた。

「調子はどうですかライザさん?」

「病院なのに鎮痛剤もないってどういうことよ、最悪だわ」

「でもラッキーでしたね、革命軍の野営地の近くに出られて。もう絶対死ぬんだなぁって思いましたもん」

「そうね、奇跡だわ。一か八かの空間転送で、二人とも無傷で、しかも二人で同じ場所に、さらに不毛の大地のど真ん中ではなくて、野営地の近くに出られるなんて、アナタの神様もサービスしてくれたわね」

 近くと言ったが、実際は2人で1日荒野を彷徨った。

 溜め息を吐きながらライザはつぶやく。

「おなか空いたわ」

「わたしもペコペコです」

「なんでもいいからもらってきてちょうだい」

「無理ですよ、食糧も不足しているみたいですし」

「ならこれでパン1個と水に交換してきて」

 ライザはポケットから金貨を出してセレンの手に乗せた。

 古い金貨で鈍い光を放っている。

「これってロゼオン金貨じゃないですか! パン1個と水なんてとんでもない、1年分のパンと水になりますよ!」

「そんないらないわよ。今必要な分だけ水と食料が手に入ればいいわ。どうせ戦争が激化したら、価値が暴落するのだから、使えるうちに使ったほうがマシだわ」

「わたしが交換しに行くんですか? いやですよ、恐いひとたちに絶対金貨奪われます」

「仕方ないわねぇ」

 ライザはベッドから起き上がって、渡した金貨を奪って取り戻した。

 セレンは慌てる。

「だめですよ、安静にしてなきゃ!」

「アナタが頼りにならないからよ」

「そんな、だったらわたしがんばりますから!」

「もういいわ」

 つかつかとライザが歩いて行く。

「待ってくださいライザさ~ん!」

 待たなかった。振り向きもせずライザは進んでいく。

 仮設病院のテントを出て、食料保管庫を探す。

 病院内は重苦しい雰囲気が漂っていたが、外に出ると緊迫感が凄まじい。ここは戦地なのだ。

 兵士たちの話によると、現在交戦中の相手はシュラ帝國の残党。帝國から分離した勢力のひとつ、中でも厄介とされている軍事力を受け継いだ大臣派だった。

 食料庫の近くまで来ると、なにやら揉めている声が聞こえた。

 兵士に取り囲まれている男が地面にあぐらを掻いている。

「あーあー、悪かったよ。腹が空いたんで、ちょっとパンをくすねただけだろ」

 ライザが目を伏せた。

「なんだか嬉しくないわ」

 セレンも男がだれだかわかったようだ。

「トッシュさん!?」

 大声で叫んだために、周りの空気が一瞬にして変わった。

 トッシュに銃を向けていた兵士も驚いて笑っている。

「まさか……あのトッシュさんなんてことは、あはははは」

「こんな浮浪者みたいな奴が英雄トッシュのはずないだろう!」

 もうひとりの兵士は機関銃の銃口でトッシュを小突いた。

 すぐにセレンが庇いに入ってトッシュを抱きかかえた。

「やめてください、このひと本物のトッシュさんなんですから!」

「なんだこのシスター?」

 兵士はセレンにも銃口を向けた。

 刹那だった。

 立ち上がったトッシュが機関銃の銃身を握り上に向け、もう片手で愛銃〈レッドドラゴン〉を抜いて兵士の首に突きつけた。

「動くと撃つぞ」

 脅しではない低いトッシュの声が響いた。

 ライザも懐に手を突っ込んで〈ピナカ〉を抜く寸前であった。

「英雄なんて言われても、顔なんて知れ渡ってないものね。本人だと証明する術を本人がもってないなんて厄介だわ」

 事態は一触即発。周りにいる兵士たちの銃口はすべてトッシュに向けられている。人質になにかあれば、一斉射撃が開始されるだろう。

 騒ぎを聞きつけゴリラのような巨漢がこの場にやってきた。

 兵士のひとりが声をあげる。

「大佐!」

 筋骨隆々の大佐は周りを見渡した。

「なにごとだ!」

 と、言ってすぐに驚いた顔をした。

「まさか〝ライオンヘア〟!?」

 ライザと眼が合ったのだ。

 シュラ帝國の〝ライオンヘア〟と言えば、以前のトッシュよりも比べものにならない有名人だ。この場を震撼させるにはあまりある。

 トッシュもライザに顔を向けた。

「シスターだけじゃなく、なんでおまえいるんだ?」

 その声に反応して大佐はトッシュに顔を向け、再び驚いた顔をした。

「おおっ、トッシュじゃないか! 久しぶりだな!」

 トッシュは不思議そうな顔をして、少し黙り込んで考えたのち、パッと顔を明るくした。

「おおっ、〝キング〟か! 懐かしいな、何年ぶりだ?」

「英雄に〝キング〟なんて言われちゃこっ恥ずかしい。出世しやがったなトッシュ!」

 周りを置いてけぼりで、いつの間にかトッシュと大佐は抱擁を交わしていた。

 どうやら事態は収拾しそうだ。

 大佐とトッシュが肩を組んで歩いて行く。

「俺のテントで酒でも飲もう!」

「いいな、上等な酒なんだろうな?」

「なに言ってんだ、酒ならなんでもいいクセして」

 二人はうれしそうに顔を弾ませていた。

 きょとんと立ち尽くしているセレンにライザが声をかける。

「アタクシたちも行きましょう」

「はい、はい!」

 先を歩くライザの背中を慌ててセレンは追った。

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