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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第2幕 黄昏の帝國
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黄昏の帝國「渦中(2)」

 アレンは〈キュクロプス〉に侵入していた。

 前回の侵入では、サーチライトに見つかってしまい、レーザーの一斉放射に見舞われたが、今回は無事に甲板まで辿り着いた。

 連絡手段を持っていなかったアレンは、トッシュたちと合流することもできず、次を見越してここに侵入した。

 〈スイシュ〉を手に入れ、次の目的は帝國のどこかにある〈ヴォータン〉だ。この飛空挺に身を潜めていれば、帝國に辿り着くことができるだろう。もっと強硬な手段を取るなら、この飛空挺を奪う選択肢もある。

「腹減ったなぁ」

 その選択肢をアレンは選んだ。

 これだけ巨大な飛空挺なら、大きな料理室がある筈だ。それに合わせて食料庫にも大量の食料が積まれているだろう。

 アレンは辺りの匂いを嗅いだ。

「ここじゃわかんねえな。中に入ればわかるか」

 艦内への入り口はすべて兵士によって守られている。甲板にも見張りが巡回に来る。アレンは急いで移動した。

 そして、動いた途端に機会の眼によってサーチされたのだ。

 鳴り響く警報。

「ヤバッ」

 もう食料どころではない。

 甲板に兵士たちが集まってくる。

 どこかで〈歯車〉の音がしたような気がした。

 天高くジャンプしたアレンは大砲の先に飛び乗った。

 超巨大飛空挺の大砲はまるで橋のようだ。

 アレンは大砲の上を駆けた。

 さらにそこから大ジャンプを見せた。

 船体から上に突き出た位置にある司令室まで飛び、そこにあった巨大な窓に強烈な拳を喰らわせた。

「イッ!」

 歯を食いしばったアレン。

 窓は対砲弾パネルだったため、アレンの一撃でもビクともしなかった。

 アレンは拳を放った瞬間、中にいる人物たちと目が合っていた。

 司令室にいたのはライザとルオだった。

 ルオはアレンと目が合った瞬間、この上ない笑みを返してきたのだ。

 窓への一撃が失敗したアレンは、何度も躰を打ち付けながら船体を転がり落ちた。

 アレンの躰は船体から突き出た床に打ち付けられ止まった。それは巨大なエンジン部分だった。

 〈キュクロプス〉には巨大な羽はない。エアバイクやリリスの車のように、重力に逆らって浮かぶことができるからだ。そのため、エンジンは飛行機のような、回転しながら空気を吸い込み吐き出す物ではない。代わりに鯨類の胸びれのような物がついており、それがエンジンの役割を果たしている。

 アレンは再び甲板に向かった。

 群がる兵士たちに向けて〈グングニール〉を放つ。

 稲妻は容赦なく兵士たちを一網打尽する。

 甲板を疾走するアレン。こうなれば強行突破だ!

 艦内への入り口は開いている。そこから兵士たちが次々と溢れてくる。

 再び放たれる〈グングニール〉の稲妻。

 〝雷獣〟の通り名は伊達ではない。遣りたい放題だ。

 しかし、敵は次から次へと湧いてくる。

 数の前にアレンは追い詰められた。

 アレンを取り囲んだ兵士たち。銃口は三六〇度からアレンを狙っている。

 誰も動かずに時間が過ぎる。

 アレンは視線だけを動かし活路を見いだそうとした。

 まっすぐ強行突破をすれば良い的になってしまう。上へジャンプすれば、方向転換ができずに的になる。蛇行しながら駆ければ、それだけ移動速度が落ちて弾丸は躱しづらくなる。

 浴びせられるであろう銃弾が多すぎて、回避確立が格段に落ちる。

 アレンはゆっくり相手を刺激しないように動き、膝を曲げて〈グングニール〉を床に置いた。

「俺の負け。抵抗しないから撃つなよ」

 兵士たちが輪を縮めてくる。

 その輪が急に左右に開け、艦内への出入り口まで道をつくった。それはアレンの出口ではない。皇帝ルオの道だった。

「久しいなアレン。前回は邪魔の入った決着を、ここでつけようじゃないか」

「俺もあんたとはきっちりケリをつけたかったんだ」

 威勢ではアレンは負けていない。

 しかし、前回の一騎打ちでは、敗北寸前までアレンは追い詰められている。

 〈黒の剣〉に〈グングニール〉は通用せず、右腕までも堕とされた。

 アレンに勝ち目はあるのか?

 〈黒の剣〉が宙に浮かびながら、ルオの周りを薙いだ。人払いだ。

「手出しは無用。これはシュラ帝國の誇りを賭けた一対一の決闘である!」

「なら俺はこれでも賭けようかな」

 アレンは懐から〈スイシュ〉を取り出して掲げた。

 その宝玉がなんであるか誰もわからないようだった。

 ライザがハッとした。

「まさか〈スイシュ〉!?」

 アレンが笑う。

「そーゆーこと」

 そうと聞いてルオはすべてを理解したようだ。

「ほう、あれが〈スイシュ〉か。我が帝國を滅ぼすという魔導具」

 想像していなかった言葉だった。それにアレンは首を傾げた。

「あんたの帝國を滅ぼす?」

「知らぬのか」

「これって水を生み出すためのオーパーツだろ?」

 それを聞いたライザは腹を抱えて笑った。

「あはははっ、可愛い坊や。まあいいわ、とにかくそれはこちらに渡してもらいましょう」

「やだ」

 アレンは短く断った。

 〈スイシュ〉とは水を生み出す装置の核ではなかったのか?

 そうであるという証拠はなかった。情報を鵜呑みにして、手に入れたに過ぎない。

 急にライザの顔つきが代わった。そして、近くにいた兵士に耳打ちをして、その兵士は急いでどこかに向かった。

 急を要する自体が起きた――とするならば、〈スイシュ〉と関係のあることだろうか?

 さらに声を潜めてライザはルオに耳打ちした。

「〈スイシュ〉がここにあるということは、〈ヴォータン〉も狙われているはずよ。一刻も早く〈スイシュ〉を帝國の手に」

「賭には勝つ。下がって見ているといいよ」

 ルオと共に〈黒の剣〉が前へ出る。

 戦いがはじまる。

 アレンは〈グングニール〉を懐にしまい両手を開けた。

「そっちから掛かって来いよ」

「言われずとも切り刻んでくれる!」

 〈黒の剣〉の初手は薙ぎだった。

 巨大な大剣はリーチも長く破壊力もあるが、長さの分、軸である柄から切っ先までが動くために一瞬のロスが生じる。

 アレンは〈黒の剣〉を切っ先で躱し、剣が振られたのとは逆方向に逃げていた。

 〈歯車〉が鳴り響いた。

「糞ったれ!!」

 一気に踏み込んだアレンの拳はルオの腹を抉り上げた。

 兵士たちが凍り付く。

 ライザはにわかに笑みを浮かべた。


 またこの場所に閉じ込められた。

 今回は前回よりも待遇が悪かった。

 牢屋の中にセレン溜息が響いた。

「神様、どうかわたしたちをお助けください」

 〈キュクロプス〉内にある監獄。

 床に寝かされているトッシュはまだ意識を取り戻さない。

 やることがないと、頭ばかりが使われ、余計なことを考えてしまう。セレンは不安で仕方なかった。

 トッシュはいつになったら目覚めるのか。リリスはどこへ消えたのか。アレンはどこにいるのか。そして、ワーズワースもトイレに行って帰ってこなかった。

 まずはトッシュが目覚めなくて話にならない。それからここを逃げ出す方法を考えてくては。

 セレンは独りではなにもできなかった。

 時間だけが過ぎていく。

 しばらくして。どこからか声が聞こえてきた。

「捕虜に食事を持ってきました」

「こんな時間にか?」

「ええっと、それは彼らはここ数日飲まず食わずだったそうで」

「そんな風には見えなかったがなぁ」

「それはきっとやせ我慢してるんですよ!」

「……おまえ、なんだか怪しくないか?」

「そんなことないですよ」

「今すぐIDを見せろ」

「え、いや……ちょっと……ああっ、わっ、やめてください!」

 ドン!

 という何か殴りつけるような鈍い音が聞こえた。

 そして、カートを押すような音が聞こえて、牢屋の前までその人物はやって来た。

「よかった、見張りが一人いなくて」

 ほっと一息ついて見せたのはワーズワースだった。

「助けに来てくれたんですか!」

「お姫様を助けるのは王子に役目ですから」

 と言われて、セレンは少し顔を赤くした。

 ワーズワースは牢屋の鍵を開けた。

「あっ、これで良かったみたいですね。今気絶させた見張りが持ってたんですよ」

 囚人に食事を運ぶ振りをして、見張りを倒し、牢屋の鍵まで手に入れたのだ。

 セレンの瞳にワーズワースは天使のように映った。

「本当にありがとうございました」

「いえいえ、でもここからが問題ですよ。どうやら僕の顔は敵にばれていなかったらしく、堂々と食事を運びながら、すれ違う人に挨拶してたら、楽々ここまで来れましたけど、セレンちゃんとこの意識のない人といっしょに逃げるのは……」

 困って黙り込む二人。

 ここは蟻の巣のようなものだ。そこら中に帝國の兵士がいて、とてもトッシュは運んで逃げることはできない。

 ワーズワースが耳を澄ませ、囁いた。

「だれか来ます」

 そんなことを言われても、ここに逃げ道はない。こんな状況を見られたら言い逃れもできない。

 曲がり角の向こうから声が聞こえた。

「見張りの時間だ……どういうこと?」

 大変だ、気づかれた。

 身構えるセレンとワーズワース。

 フルフェイスマスクをした一人の兵士が姿を見せた。

 もう駄目だと思ったとき、兵士がそのマスクを脱ぎ捨てて素顔を晒したのだ。

「警戒しないで、わたくしよセレン」

「あっ!?」

 セレンは驚いた。まさかこんなところで会うとは思わなかった。失踪していたフローラだった。

「生きてたんですね!」

 セレンは歓喜の声をあげた。トッシュは帝國の機密を手に入れた経由をだれにも話していなかったのだ。

 フローラを見たワーズワースは目を丸くした。

「……な、なんて可憐で花のように美しい人なんだ。僕の名前はワーズワース、貴女の名前は?」

「えっ……わたくしはフローラと申します」

 二人は間近で見つめ合いながら、ワーズワースのほうから固い握手をした。

 フローラは苦笑いを浮かべてワーズワースの胸を押した。

「あまり近付きすぎないでくださる。今はこんなことをしている時間はありませんわ。まずは、トッシュを診なくては……」

 意識のないトッシュの傍らに膝をついたフローラは、いつかアレンにしたように接吻をした。

 トッシュの躰が跳ね上がった。

「うっ……うう……フローラ!」

 間近にあったフローラの顔を見てトッシュは驚いた。

 他人の接吻を見てセレンは顔を赤くして、ちらりとワースワースを見た。そのワーズワースは、真剣な眼差しでフローラを見つめていた。少し胸がもやっとしたセレンだった。

 トッシュはフローラに耳打ちをする。

「メモリの中身を見た。ここにいる二人とアレンとリリスという魔導師に、機密情報なのに話しちまったんだが、本当にすまない」

「トッシュが選んだ仲間なら、べつに構わないわ」

 ここにいるワーズワースは完全に不可抗力だったため、トッシュは苦い顔をして心が痛んだ。そして、フローラの信用を失わないために、あまり多くは語らないことにした。

 フローラは通常の大きさの声で話しはじめる。

「じつはあのあと、いろいろ調べて見たのよ。渡した情報の中身についても断片的に解り、必要なオーパーツの一つ〈ヴァータン〉の在り処を特定したわ」

 トッシュは機密情報を思い出す。

「たしか帝國のどこかという曖昧な情報だったが……?」

 フローラは頷いた。

「ええ、たしかに帝國には違いないのだけれど、じつはこの〈キュクロプス〉の動力源が〈ヴォータン〉なのよ」

 まさかこんな近くにあるとは、トッシュは驚きを隠せなかった。

「ここは〈キュクロプス〉の中か。まさかそっちから来てくれるとは、幸運……というべきだろうな。だが逃げるだけでも骨だというのに、動力源を盗み出すとなるというのは」

 さらにフローラは過酷な要求を突き付けた。

「できれば、この船ごと制圧して盗めると良いわ。〈ヴォータン〉と〈スイシュ〉を手に入れたあとの目的地は、アスラ城なのだから」

 トッシュはさらに機密情報を思い出す。

「たしかそう書いてあったな。装置は帝國の地下にあると……でもなんで帝國の地下なんだ?」

「古代遺跡があった場所の上に、帝國は意図的に立てられたのよ。〝失われし科学技術〟の恩恵を預かるために」

 そうフローラは答えた。

 次の目的は決まった。

 超巨大飛空挺〈キュクロプス〉の動力源である〈ヴォータン〉を奪う!

 だが、セレンには気がかりなことがあった。

「アレンさんとリリスさんはどうしますか?」

 この場に二人がいないことにはトッシュも気づいている。

「二人はどうした?」

「アレンさんはまったくわかりません。リリスはさんは怖ろしい仮面の人に……消されてしまいました」

 その瞬間を思い出してセレンはゾッとした。

 消された――という意味をトッシュは理解できなかった。

「まさかリリス殿が殺されたのか?」

 すぐにセレンが首を何度も横に振った。

「違います。目の前でパッと消えてしまったんです」

 二人の話にワーズワースも割り込んでくる。

「じつは僕も物陰から見てたんですけど、あっという間に姿が消えてしまって、生きているのか死んでいるのか、何が起きたのかもわかんないんえすよね。それからセレンちゃんとトッシュさんが連れ去られて、ついに僕の大冒険が幕を開けたのです!」

 ここからが話の面白いところだと言わんばかりのワーズワース。

 ――を無視して、トッシュは歩き出した。

「早く行くぞ、ここに敵が来たら袋の鼠だ」

 フローラも先を急ぐ。

 慌ててセレンもついていった。

 独り残されたワーズワースは肩を落とした。

「おもしろい冒険活劇なのに……とくに料理長VS僕の死闘とか」

 仕方がなくワーズワースも三人のあとを追った。

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