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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第2幕 黄昏の帝國
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黄昏の帝國「残された伝言(4)」

 部下に命令はしたが、無駄だとわかっているライザは、ノートパソコンに向かって自分の研究を進めていた。

 ノートパソコンのディスプレに映し出されているのは、体重や身長などの身体測定のデータ。背の高さや体重から考えて、おそらく子供のものと思われる。

 作業をしていると、すぐ近くで対大型昆虫用のバズーカが扉に向かって放たれた。

 坑道に響く轟音。

 少し天井が崩れてきた。

 ライザはピタッと手を止めた。

「うるさいわよ、もっと静かにやりなさい!」

 ライザの怒号に兵士たちは背筋を伸ばした。

 フルフェイスで隠れている兵士たちの顔だが、その下ではさぞかし嫌な顔をしているだろう。どんな手段を使ってでも扉を壊せと命令したのはライザだ。

 どんな手も使えなくなった兵士たちは、打つ手がなくなり静かになった。

 アレンたちはいつになったら出てくるのか?

 持久戦が開始された。

 それも数分と持たなかった。すぐにライザが痺れを切らせたのだ。

「帰るわ。彼らが出てきたらすぐに捕らえて連絡なさい」

 帰ると歩き出したライザとは逆の方向から人影がやって来る。

 不気味な仮面の主――隠形鬼。

 ライザは眉をひそめた。

「なぜアナタがここにいるのかしら?」

「私ノ力ガ借リタイト呼バレテ参上イタシマシタ」

「アタクシは呼んでないけれど?」

 兵士の中から火鬼が割って出てきた。

「わちきが呼んだでありんす」

 さきほどは土鬼が暴れ回って出番がなかったが、じつはこの場に火鬼もすでにいたのだ。

 ライザは首を傾げる。

「なぜ?」

「隠形鬼のお頭様は、この手の物に精通しているのでありんす」

 それを聞いてライザは喜びもせず、あからさまに嫌な顔をした。

 ――自分に開けられなかった扉をこいつが開けるのか?

 鼻で笑ったライザ。

「どうぞ、できるものなら開けていただけるかしら?」

「御意」

 そう短く返事をして隠形鬼は扉に向かって歩き出した。

 扉の前に立った隠形鬼は首を縦に動かし観察しているようだった。

「フム、ゴク最近造ラレタ扉ノヨウデ……失ワレテイル筈ナノニ、珍妙ナ」

 仮面の奥から低い笑い声が響いた。

 ここは“失われし科学技術”の遺跡だ。新しい物がある筈がない――というのが当然だ。この扉を造り直したのはリリスだった。

 しかし、なぜ“最近”とわかったのか?

 隠形鬼は扉に触れた。ただそれだけだった。

《認証完了しました》

 扉が開く。

 ライザは驚きのあまり目を丸くしてしままま声も出なかった。

「……ッ!?」

 衝撃と共に悔しさが込み上げてくる。

 自分が開けられなった扉を開けた。それも何か大がかりなことをしたわけでもない。時間を掛けたわけでもないのだ。

 どうやって開けたのか聞くことすら、ライザのプライドが許さなかった。

 ライザはヒールを鳴らして遺跡の中に入った。

「行くわよ」

 その声には怒りがこもっていた。

 なにもない部屋。その部屋にはなにもなかった。アレンたちの姿すら――。

 さらにライザの怒りは増した。

「どういうこと?」

 空の箱と化している部屋。

 一見してなにもない部屋だが、ライザは仕掛けがあることを知っている。前にリリスが目の前で、エネルギープラントを目覚めさせたのを見ている。

 ライザは床や壁を調べはじめた。出口に繋がる仕掛けもあると考えたのだ。

 しかし、見つからない。

「触れるだけでは駄目なのね。呪文を唱えているようには見えなかったから、生体認証[バイオメトリクス]かしら」

 ライザはちらりと隠形鬼を見た。

「ここのギミックを動作させることはできて?」

 挑戦を突き付けた。

「ハテ、私ニハ不可能ナヨウデ」

「……そう」

 ライザは嫌な顔をした。

 隠形鬼の言葉が嘘か真かわからない。なにも調べもせず、不可能だといきなり言ったのだ。扉をいとも簡単に開けた者の言葉なのか?

 兵士が慌てて部屋に飛び込んできた。

「連絡します! 不審な乗り物を目撃したとの情報があり、調べさせたところ、すでにトッシュ一味は町を出た模様です」

 報告を受けたライザは床を調べるのをやめて立ち上がった。

「やはり抜け道が……まあその件はあとでじっくりと調べましょう。まずは彼らの捜索を第一に、全員生け捕りにするのよ。鬼兵団にもちゃんと仕事をして欲しいものだわ、前回は彼らを前にしてなぜか引き上げたらしいけれど?」

 火鬼が持っている壺を指差して訴える。

「それはこの莫迦が命令を聞かずに!」

「私ノ命令デ御座イマス。土鬼ガ無礼ヲ働イタ為、日ヲ改メル事ニ致シマシタ」

 隠形鬼の話を聞いて、ライザは睨みを利かせた。

「騎士道か何かのつもりかしら、そんなの求めてないわ。こちらがが望んでいる仕事をしてくださらない?」

「わちきはちゃ~んと自分のお勤めはしたでありんす」

「それはアナタ方内部の役割分担の話で、こちらは鬼兵団という組織に依頼をしているのよ。果たせなければ連帯責任よ」

「私達ハ自由意志デ集マッタ寄セ集メ、連帯責任ナド誰モ取リタガリマセン」

「ならトップであるアナタが責任を取りなさい」

 ライザはそう言って微笑んだ。完全に隠形鬼を目の敵にしていた。

「ソレハ分カッテオリマス」

 依頼内容をライザは再度確認する。はじめの依頼から、ここまでの間に追加された内容もある。

「まずトッシュ一味を生け捕りにすること。そして、ジードの残党を見つけ出して始末、リーダーも早く見つけ出してルオ様の前に突き出してくれないかしら?」

「ソノ件デ御座イマスガ、じーどノりーだーハ既ニ死亡シテイル模様」

「なら新しいリーダーかその候補、サブリーダーとかいるでしょう。気が利かないのね、まったく。とにかくリーダーの代わりになる奴を捕らえなさい」

「御意」

 隠形鬼は頭を下げて出口へ歩き出した。

「行イクゾ火鬼」

「あいよ」

 鬼兵団がこの場から去ったあと、ライザはつぶやく。

「隠形鬼……信用できない奴ね。いつかあの仮面を剥がしてやりたいわ」

 ライザは艶やかに笑った。


 砂漠を走るタイヤのない自動車。

 楕円形のその車は、少し地面から浮きながら走行している。

 運転席のリリスが横の助手席にいるトッシュに尋ねる。

「どこか行く当てはあるのかい?」

「ない。近くの町も村も帝國の追っ手が現れるだろうな」

 鬼兵団だけではなく帝國まで絡んできた事実を彼らは知った。坑道で土鬼とライザがいっしょにいたのが証拠だ。

 後部座席からアレンが前の席に身を乗り出してきた。

「なあなあ、そんなことより取り出した情報見ようぜ」

「お前らには見せん」

 きっぱりとトッシュが言った。

 さらにアレンが身を乗り出してきた。

「え~っ、なんでだよ~!」

 フローラがトッシュに託した帝國の機密情報。シュラ帝國の機密となれば、世界を揺るがすだけの価値はある。そんなものを易々と広めるわけにはいかない。

「わしはもう見たが?」

 リリスが妖しく微笑みながら言った。

 それに関しては、トッシュも許容しているようだ。

「あなたに頼んだ時点でそれは承知だ。リリス殿は世俗にあまり関心がないようなので、むやみやたらと他言することもないだろうし、なんでも自分の力でできるあなたに帝國の情報なんて価値もないだろう」

「さて、それは時と場合によるがね」

 含みのあるリリスの言い方だ。リリスはいったいどんな情報を見たのか?

 情報の入ったノートパソコンはトッシュの膝の上に置かれている。

「お前らもむやみやたらと他言するような奴らじゃないことは、短い付き合いだがわかっている。この中身が知りたいなら、その情報を使って俺様がやることに協力しろ。それが条件だ」

 アレンは身を乗り出していた躰を引いて、座席に深く腰掛けた。

「俺パス。めんどくさいことに巻き込まれたくないし」

 セレンも首を横に振った。

「わたしもこれ以上は……」

 これ以上は付き合いたくないが、トッシュたちと分かれれば、独りで帝國に追われるハメになる。

 トッシュと共に行動して、より深みにはまっていくのか。

 アレンと放浪の旅をして、帝國の影に怯えて逃げ続けるのか。

 リリスと共にという選択肢はないのだろうか?

 申し訳なさそうにセレンはリリスに声をかける。

「あのぉ、リリスさん?」

「なんじゃな?」

「リリスさんのところでわたしを匿ってもらうわけには~……家事とかならなんでもできますから!」

「わしは自分の世話くらい自分でできるよ」

 やんわりと断られたのだろうか。

 リリスは話を続けた。けれど、それは今の続きではなかった。

「おぬしら本当に情報を聞かなくていいのかい? たとえおぬしら、いや、すべての人々に関わるような重要なことでもかい?」

 中身を知っているリリスの揺さぶりだ。

 しかし、その程度の揺さぶりではアレンは落ちない。

「勝手にすべての人々に入れられてたまるかよ。俺は自由だから、そーゆー枠組みに囚われないで生きてるしカンケーないね」

 一方セレンは悩んでいた。

「すべての人々……ここで聞かなくても、巻き込まれるってことですか?」

 リリスが答える。

「巻き込まれるって言い方は正しくないね。もしそれが実現したら、人々も恩恵に預かれるってことさ」

 小出しにされるヒント。

 ここでトッシュが止めに入った。

「あまり中身について言わないでもらいたいんだが。言ってもいいのは、こいつらが協力すると誓ってからだ。俺様の中身を見てないから、どういう協力になるかはわからんが」

 アレンは窓の外を眺めている。セレンはまだ迷っているようだ。

 少し無言の時間が流れた。

「あっ!」

 急にアレンが声をあげた。

 横にいたセレンが驚く。

「どうしたんですか!?」

 アレンは窓の外を指差した。

「あれってこっちに向かって手振ってんのか?」

 窓の外に見たモノは人影だった。

 セレンが前の席へ身を乗り出した。

「トッシュさん止めてください!」

「放っておけ」

「そんなことできません、早く止めてください!」

「ったく、シスターはお人好しだなぁ」

 トッシュはハンドルを切ってその人影に向かって走り出した。

 どんどんとその人影がはっきりと見えてくると、セレンは驚いた顔をした。

「あの人!?」

 横のアレンが尋ねる。

「知り合いかよ?」

「はい……まあ、そのようなものです」

 そして、車は人影の前で止まった。

 手を振っていたのは青年だった。

 空色の髪をした無邪気な笑みを浮かべる青年だ。

「よかったぁ。やっぱり車だったんだ、変な形だから心配だったんですよ」

 セレンが見覚えのある人物――ワーズワースだった。

 ワーズワースはドアを叩いた。

「ちょっと乗せてもらえません? クェックに乗って旅をしていたら、なんと盗賊に襲われてしまって、命はこのとおり助かったんですけど、クェックはどっか行っちゃうし、食料もお金も全部落としてしまって。あの、聞こえてますこっちの声?」

 それが砂漠の真ん中でぽつんといた理由らしい。

 トッシュがつぶやく。

「これ四人乗りだぞ?」

「詰めれば後ろにもうひとり座れます!」

 人助けになると強気なセレンだ。

 アレンは無言で詰めて座った。

 それに気づいたセレンはちょっぴり笑顔になった。

 トッシュは頭を掻いて溜息を漏らした。

「ったく、シスターの知り合いじゃ仕方ない……か。ツイてる旅人だな」

 後部座席のドアが開かれた。

 乗り込んできたワーズワースは驚いた顔をした。

「あっ、セレンちゃん。奇遇だね、運命だね、神のお導きだねぇ~」

 嬉しそうな顔をしてワーズワースはセレンの横に座った。狭いせいなのか、かなり密着してくる。

 リリスがつぶやく。

「旅は道連れ世は情け……古き良き時代の懐かしい昔の言葉だね」

 こうして思わぬ人物を加え、旅人は五人となった。

 車は何もない砂漠を再び走り出した。

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