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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第1幕 黄砂に舞う羽根
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黄砂に舞う羽根「砂漠の都(4)」

 料理店の裏路地に集まった数人の人影は身を潜め、盗聴器によって厚い壁の向こうで交わされる会話の一部始終を聴いていた。

《仕事に頭は必要ない。ただ向かって来る敵を倒せばいい》

《ふ〜ん、ボディガードってことかよ?》

《目的はある物を手に入れることだ。それを手に入れるために、おまえは俺に手を貸す。簡単な仕事だろ?》

《簡単とは思えないけどね》

 壁の向こうは店の個室で、そこにいるのは二人だけらしいことが確認されている。ここに集まっている者たちの標的は、そのうちのひとり――トッシュと呼ばれる男だ。

《その条件を飲もう》

 と盗聴器から聴こえた刹那、女の声が裏路地に響き渡った。

「突入!」

 硝煙と爆音とともに分厚い壁が破壊され、店に中に一人の女と銃を構えた男たちが流れ込んだ。

 アレンとトッシュは先の見えない煙の中を逃げようとしたが、席から立ち上がってのみで足を止めて、両手を高く上げた。

 煙が晴れてくると、ハンディバズーカを持つ女が現れ、その後ろに従える男たちは小型マシンバルカンの銃口をアレンとトッシュに向けていた。

 女は白衣のようなロングコートの裾を揺らしながら、ミニスカートから覗く脚を見せ付けるように歩き、ブーツの踵を鳴らしてトッシュに詰め寄った。そして、雄ライオンのような金髪ヘアをかき上げながら濡れた唇を舐めた。

「お久しぶりねトッシュ」

 妖艶な声音だった。

 この女の名前はライザ。『ライオンヘア』と異名される帝王ルオの側近だ。

 トッシュは両手を挙げながら口にくわえていた煙草を床に吐き捨てた。

「そんなでもないだろう。前に遭ったのは一週間前だったか?」

 ライザと話しながらもトッシュの目は他のところを観察していた。

 目の前にいるライザの持つハンディバズーカは、ライザが社長を務めるライザ社の最新型モデルで、発射する炸薬弾は感度が高く、威力も非常に大きい。しかも、どうやら正規の物ではなく、ライザ専用に改造が施されているようだ。

 ライザの後ろにいる男たちの持つ銃は最新式の小型マシンバルカンで、優れた連射性と集弾性を備えている。

 この部屋の出口は元からあった出入り口の扉とライザが壁に開けた穴。壁にできた穴まで行くには小型マシンバルカンを構えた男たちの中を通ることになり、逃げるとすれば出入り口の扉か?

 だが、敵は連射性を備えた小型マシンバルカンを装備している。バルカンを乱射されたら逃げ切るのは困難と言える。

 トッシュは横で手を上げているアレンに目を向けた。

「どうにかできるかアレン?」

「いいや。まだあんたから金もらってないからどーもならん」

 それは金さえもらえば、この状況を打破できるということか?

 『ライオンヘア』は獲物でも物色する眼つきで、アレンを下から上に舐めるように見た。

「可愛らしい坊やね。トッシュといるからにはただの子供じゃないだろうけど……」

 自分を見て舌舐めずりしたライザを見てアレンは悪寒を覚えた。

「俺はこんな男と一切関係ない。ちょっと飯をおごってもらっただけ」

 もちろんアレンの言う『こんな男』とは他でもないトッシュのこと。まだ雇い主でない男に懸ける命は持ち合わせていないのだ。

 一切の自分との関係を絶とうとするアレンの言葉に、トッシュは呆れたように言葉を吐いた。

「……おいおい、そりゃないだろ」

「だってまだ金もらってないもん」

「飯おごってやっただろ」

「あんたの命助けたからチャラだね」

「砂漠から運んでやっただろ!」

 アレンとトッシュはこのまま喧嘩でもはじめそうな勢いだった。それを止めたのはハンディバズーカを二人に向けたライザだった。

「アナタたち、自分の置かれている状況を理解しているのかしら?」

 自分の置かれている状況を忘れているトッシュが、鋭い眼つきでライザに振り向いて怒鳴り散らした。

「わかってる!」

 とんだとばっちりを受けたライザは、唇を尖らせて不満顔をする

「アナタたちはアタクシたちにいつ殺されても可笑しくない状況なのよ。わかったら口を謹んで、手を首の後ろに回して膝を付きなさい!」

 トッシュはすぐにライザの言うとおりにしたが、アレンは手を天井に向けて上げたままで従うようすを見せなかった。

「だから俺はこんな男と関係ないから解放して欲しんだけど?」

 とアレンが言っても無駄なようで、怒っている『ライオンヘア』はハンディバズーカの銃口をアレンの顔面に向けた。

「さっさとアタクシの言うとおりになさい。そうすれば命は取らないわ」

「はいはい」

 抵抗をあきらめたアレンはため息混じりの声を漏らして床に膝を付いた。

 ライザはアレンとトッシュをすぐに殺す気はないらしい。それに疑問を覚えたのはトッシュだった。

「どうしてすぐに俺様を殺さん? いつもなら容赦なく銃撃されるが、拷問にかけてジワジワと殺す気か?」

「拷問もいいけど、今のアタクシにアナタを権限はないわ。今日は商談に来たのよ」

 商談に来たにしては物騒な格好だ。それに、この状況では一方的な取引しかできそうにない。だからこそトッシュは取引に応じるしかない。

「それでどんな商談だ?」

「『アレ』を手に入れるために力を貸して欲しいのよ」

 ライザの言う『アレ』と聞いてアレンはすぐにピンと来た。トッシュはアレンを雇おうとした際に目的を『ある物を手に入れることだ』と言った。そして、『ただ向かって来る敵を倒せばいい』とも言っていた。さしずめ『敵』とは今目の前にいる輩のことだったのだろう。

 少しの間、沈黙して考え深げに俯いていたトッシュが顔を上げた。

「俺様に拒否権はないらしいが、報酬くらいはあるんだろう?」

 この状況において報酬を要求するトッシュにライザは妖艶と微笑んだ。

「さすがは『暗黒街の一匹狼』さんだこと、肝が据わっているわね報酬はアナタの命でどうかしら? 今後一切、帝國はアナタの命を狙わない。アナタが帝國に危害を加えなければの話だけど」

「俺様の命か……魅力的な提案だが、金も欲しい」

「ふふ、一〇〇万でどうかしら?」

「その条件で飲もう」

 商談が成立したところで、アレンがこの場に適さない間延びした声を発した。

「あのさぁ、俺の処分はどうなるわけぇ?」

 妖しい眼つきでアレンを見たライザは、上唇を舐めて熱い吐息を漏らした。

「坊やはアタクシが可愛がってあげるわよ」

 アレンはゾクゾクと身を震わせて、わざと嘔吐するような仕草をした。

「オェー、そりゃ勘弁だ」

「アタクシはアナタみたいに性格の曲がった子が好きなのよ」

「俺はあんたの期待に添えないと思うけどな」

「あら、そんなことないわよ。それに『一匹狼』が雇った子だし、興味がそそられるわ」

「まだ雇われてない」

「なら、アタクシが代わりに雇って差し上げるわ」

「それはお断り」

 アレンは小型マシンバルカンを構える男たちに一瞥した。男たちの緊張の糸は全く途切れるようすはない。つまり、少しでも可笑しな動作を見せれば撃たれる。

 どこかで歯車が激しく回転する音が聴こえた。その音にライザが気づいた時には、アレンが右足で床を激しく蹴り上げたところだった。そして、蹴られた床は四方に砕け、アレンは扉までの五メートルという距離を軽く跳躍した。

 銃口から火を噴く小型マシンガンから弾丸が連射され、アレンに当たった三発の弾が高い金属音をあげて地面に落ち、最後に当たった一発がアレンの左肩の肉を貫いた。

「くっ!」

 歯を食いしばるアレン。

 アレンは銃弾を躱しながら、右手で拳を作って眼前の扉を激しく粉砕し、個室から飛び出すことに成功した。

 鮮血が吹き出る左肩を右手で押さえながら、アレンは賑わう店内を跳躍した

 店内で飯を食っていた客たちは、自分たちの座るテーブルを足場にして料理を滅茶苦茶にし、一〇メートル以上もの距離を跳躍する少年を見て目を白黒させた。

 この店の個室は完全防音であり、店の賑わいもあったのも相俟って、個室の壁がハンディバズーカによって破壊されたことに気づいていなかった。客たちはアレンが扉を破壊したときにはじめて騒ぎに気づいたのだ。

 店を飛び交うアレンにマシンガンの銃口を向けられるが、それをライザが静止させた。

「もういいわ、騒ぎを大きくする必要もないわよ。それにあの子まだ詳しくは知らないんでしょ?」

 ライザに顔を向けられたトッシュは大きく頷いた。

「どうせ盗聴してたんだろう。この店の中で話したことで全部だ」

「なら放置しても問題ないわね。でも、可愛い子を逃がしたのは残念だわ」

 そう言ってライザは自分の人差し指を濡れた唇で軽く噛んだ。

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