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魔導装甲アレン  作者: 秋月瑛
第1幕 黄砂に舞う羽根
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黄砂に舞う羽根「夢見(3)」

 ――ルオも見た。この場に現れた輝ける天使の姿を。

 果たして天使がもたらすものは愛か平和か、それとも破壊か?

 月明かり照らすこの場所で、輝ける天使とも言うべき『少女』はセレンとともに現れた。

 巨大な翼から落ちる煌く粉が、風に揺れて消えていく。

 『少女』は無邪気な笑みを浮かべながら口を開いた。

「私と……同じ……」

 その言葉はアレンだけに向けられたものだった。

 自分の胸を鷲掴みにしているアレンの表情は苦悶に満ち、額から大量の汗が零れ落ちていた。

 歯車が廻る。

 苦しい。

 けれど、それはアレンには制御できないことだった。

 床に膝をついて崩れ落ちたアレンに、すぐさまセレンが駆け寄った。

「大丈夫ですかアレンさん!?」

「ぜんぜんへーき。つーか、助けに来なくても平気だったじゃんか、損した」

「もしかしてわたしのこと助けに来てくれたんですか?」

 アレンはなにも答えず立ち上がると、ルオに視線を向けた。

「ついでにその子ももらってく」

「朕を倒せたらね」

 ルオの手はしっかりと『少女』の腕を掴んでいた。

「下がってろ」

 アレンはそう言うと、セレンの身体を自分の後ろに押し退けた。

「アレンさん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねえよ、ばーか」

「莫迦って、酷くありませんか!?」

「ギャーギャー喚くな。今の俺マジだから」

「…………」

 まだなにか言いたそうなセレンを黙らせて、アレンは一歩前へ出た。

 『少女』を捕らえているルオも一歩前へ出る。

 二人の戦いが今またはじまろうとしていた。

 が、女性の声が二人の間に割って入った。

「タイムよタイムよ。少しお時間をいただけないかしら?」

 白い影がブーツの踵を鳴らすのを見て、ルオが低く呟いた。

「ライザか……神聖な戦いに水を注しに来たのかい?」

「いいえ、貴方が戦いたいと言うのなら、アタクシはお止めしませんわ。ただ、その前に準備を」

 ライザとともに出入り口から流れ出して来た兵士がルオと『少女』を取り囲んだ。二人を取り囲んだ兵士は一・五メートルほどの筒状の物体を持っていた。

 なにかを合図するようにライザが手を上げた。

「ルオ様、『少女』を放し、お下がりください」

 『少女』から離れ、素早くルオが後退すると、筒を持っていた兵士機械的な動作で『少女』を取り囲み、筒を床に設置した。

 筒は『少女』を囲み、その効果を発揮する。

 ライザが指を鳴らすと同時に、天に向けられた筒の先端から煙と光が放出された。それは煙幕のように『少女』の周りを覆い、やがてきょとんする『少女』の前に壁ができた。それは半透明の壁。筒が結界を作り出し、『少女』を結界の中に封じたのだ。

 自分を取り囲む壁に子供が興味を抱くように、好奇心の塊と化した『少女』が軽く触れた。壁に波紋が生じ、すぐに消えた。薄い羊膜のようなのに、決して破れることはない。それがこの結界の力だった。

 結界の効果を確認したライザがルオに視線を向けた。

「あとは貴方のお気の召すまま」

「これで思う存分戦えるよ、ありがとうライザ」

 〈黒の剣〉を一振りしたルオがアレンの顔を凝視した。

「手出しは無用。手を出した者は、あとでミンチにして家畜の餌だ」

 この言葉でアレンとセレンに向けられていた銃口が床に向けられた。

 帽子の上から頭を掻いたアレンが少年のように無邪気に笑う。

「大した自身だな、俺にマジで勝つ気でやんの」

「朕は絶対に負けない」

「勝手に言ってろ。すぐに痛い目見せてやんから。お尻ぺんぺんしてやるぜ!」

「朕が負けるわけがないだろう、神が下郎に」

「神なんざいねえよ!」

 攻撃するは魔導銃〈グングニール〉。

 迎え撃つは魔剣〈黒の剣〉

 だが、〈グングニール〉の雷撃は、〈黒の剣〉によってすべて無効とされている。

 いかにして戦うアレン?

 アレンの手から雷撃が放たれた。それと同時にアレンがルオとの距離を詰めた。接近戦に持ち込む気だ。

 稲妻は刹那のうちに〈黒の剣〉に呑まれてしまった。やはり、ルオを前に〈グングニール〉の雷撃は太刀打ちできないのか。だが、アレンはルオの懐に飛び込んでいた。

 歯車が鳴る。それはルオの予想を超えたスピードだった。アレンの左フックがルオの顔面に炸裂した。

「ルオ様!」

 頬を抉られて後方に吹っ飛んだルオの姿を見て、ライザが叫び声をあげた。

 地面に片手を付き、口から血を吐き捨てるルオの姿を見て、アレンがガッツポーズを決めた。

「よっしゃ、1ポイント先取!」

「朕を殴ったな!」

 口を拳で拭い、ゆっくりと立ち上がったルオの肩は震えていた。

「くくく……母君にも父君にも手を上げられたことのない、この朕を殴ったね……あははははっ!」

 アレンはルオを殴った最初の者となった。それがどのような意味を持つか、ルオを知るものならば震え上がり泣き叫ぶだろう。だが、アレンはアレンだ。

「殴られて笑うなんて、頭イッてんな、あんた」

 悪態を吐くアレンを睨みつけたライザは、ルオの元に駆け寄ろうとしたが、それをルオが切っ先を持って静止した。

「手出しは無用と言ったはずだが?」

「わかりましたわ」

 首に剣の切っ先を突きつけられたライザは、それ以上はなにも言わず、後退りをしてルオから離れた。

 ルオは〈黒の剣〉を構え直すと、踵を弾ませて微笑んだ。

「あはは、今日はとっても楽しいよ君のこと、子供だと思って甘く見たのが間違えだった。だから、次は本気で行くよ」

 子供とは思えぬ邪悪な笑みを浮かべたルオと共鳴するように、〈黒の剣〉が意思を持つように低く唸った。

 アレンが〈グングニール〉を懐にしまい、右手をフリーにした。今度は『右手』で殴ってやるつもりなのだ。

「俺も本気で行くぜ。謝るなら今のうち。それとも一対一は止めにして、そこにいる兵士たちに助けてぇって頼めよ」

「一対一は朕の美学。美のなんたるかを知らぬ者に口出しされたくない」

「なにが美学だよ。喧嘩なんつーものは、勝ちゃいーんだよ、勝てば。卑怯な手を使ってもな!」

 歯車がフル回転で廻り、アレンが床を蹴り上げた。

 目にも止まらぬ速さとは、まさにこのことだろう。

 アレンの残像だけがその場に残り、瞬き一つした間にアレンは忽然とルオの前に現れた。このアレンの一瞬の動きを眼で追えたのは――ただひとり。

 まさかの出来事にアレンが眼を剥いた。

 剣戟の響き。

 ルオも眼を剥いて驚いた。彼の一撃は確実にアレンを捕らえたはずだったからだ。しかし、アレンは受けた。

「たかが掌で朕の一刀を受けようとは」

「たかがじゃねーよ、特別製」

 大剣を受け止めているのはアレンの右手だった。そう、人ならぬアレンの右手がルオの一撃を受け止めたのだ。

 どちらも動かぬ状況だった。アレンもルオも動かない。だが、四肢は振るえ、全身の力はただ一点に注がれていた。気を抜いた方が負けだ。

 柄を握るルオの両手に力がこもる。

 例えルオが超一流の剣技を持っていようとも、その腕力には限界がある。その点、アレンの右手が持つ力は計り知れない。だが、二人の力比べは五分と五分。

 〈黒の剣〉が激しく唸った。

 それはアレンにとって予期せぬ出来事であった。

 四本の指が親指を残し、硬い床に落ちて音を立てた。

 そして、次の瞬間には、アレンの右腕が斬り飛ばされ、宙を回転しながら飛んでいたのだ。

 言葉も出ないアレン。

 すべてを見ていたセレンが両手で顔を覆った。

 不敵に嗤うルオに握られた〈黒の剣〉が再び低く唸る。

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