黄砂に舞う羽根「帝國の影(10)」
瞼の上に光を感じ、頬に落ちる熱い雫を感じたアレンは、ゆっくりと目を開けた。
「わたし見ました……」
そう言いながらセレンは大粒の涙を流して泣いていた。
「あっそ」
相手が驚くほど素っ気ない返事をアレンはした。
果たしてアレンは自分が〈蜃の夢〉に囚われたことを知っているのだろうか?
きっと、知っている。だから、そんな返事をした。
運転席にはトッシュがいた。その背中はなぜか暗く重い。顔は見なくて、どんな表情をしているか察しはつく。
セレンが観たということは、残りの二人も観ていたに違いない。それでもアレンの態度は素っ気なかった。
「胸糞悪ぃ夢見ちまった……オエェ」
わざとらしく嗚咽したアレンは状態を起し、ふと助手席にいたリリスに目をやった。
「あんたが俺のこと助けたんだろ?」
「そうじゃ。地中で眠っておった蜃を一瞬だけ叩き起こしてやった」
「ところで俺とあんた今日が初対面だよな?」
「はて、最近歳のせいか物忘れが激しくてのお」
「俺も昔のことはよく覚えてない」
そこでアレンは口をつぐんだ。
セレンはまだ泣いていた。でも、なにも言わなかった。なにも言えなかった。ただ、アレンのことを見ているだけだった。
見られている方のアレンは、わざとらしくはにかんで見せて、
「俺のこと潤んだ目で見つめんなよ。抱きしめて押し倒したくなるだろぉ」
なんて冗談で言ったのだが、セレンが急に抱きついてきて、さすがのアレンも眼を剥いて驚いた。
セレンの手がアレンの背中に廻され、服をギュッと掴む。
自分の胸で泣きじゃくる女に、アレンは途方に暮れた顔つきをしていた。その表情もわざとらしい。
なにも言わずジープが走り出す。
タイヤが巻き上げた砂埃の中で、セレンはずっと肩を上下に揺らし、鼻を啜っていた。