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誰も知らないくせに  作者: 青井在子
04, 溺れる 森理香子
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大学生活は想像以上に大変そうだった。高校時代よりも早く家を出て、帰宅するのは七時前。毎日の課題や定期的に提出するレポート類もたくさんあるようだった。世の中の大学生たちには遊んでばかりいるイメージがあったから、私もノボルも驚いた。


そのうえさらにカオルは入学してすぐにカフェでアルバイトを始めた。ただでさえ忙しい学生生活のどこにそんな余地があるのだろうと思ったけれど、遊ぶお金だけでも自分で稼いでくれれば金銭的には助かるから強く止めることもできなかった。


カオルが家にいる時間はどんどん減っていった。だけどそれは不良の道に走ったとかそういうわけではなくて、大学とアルバイトと友だちと遊んでいるなかで、単に家に居る時間が取れなくなったというように見えた。実際に連絡もなく帰宅が極端に遅くなったり、帰って来なかったりということは無かった。


 助手席でカオルの頭がこくりと落ちた。外は雨で駅へと向かう道は、同じように子どもや夫を送る車で混雑している。


「カオル?」


軽く声をかけるとすぐに目を覚ます。


「全然進まないね」

「うん。時間は大丈夫? 間に合いそう?」

「平気だけど……」


大きな欠伸をしていた。昨夜もアルバイトを終えて帰宅して、そこから課題をやっていたらしく寝るのが遅くなったようだ。


「疲れてそうだけど、大丈夫なの?」

「今週提出しなきゃいけないレポートが被ったからさ……」

「シフト減らしてもらえば良かったのに」

「そこまで大変なわけじゃないよ。あ、今日友だちとご飯食べてくる」

「今日は早く帰って寝たほうが良いんじゃないの?」

「大丈夫だってば」


そう言って視線は窓の外へと流れて行く。


「誰と行くの?」

「……エリカとミサだよ」


答えさせておいて、またやってしまったと後悔した。

車はのろのろと進んで、ようやく駅前のロータリーへと辿り着く。あまり長く停車するとすぐに新たな渋滞になるから慌ただしくカオルが出て行く

「また帰りの時間分かったら、ラインして!」

「わかった。行ってきます」


サイドミラーで後ろ姿を見守って、車を発進させる。反対車線が渋滞しているのを尻目に、すいすいと進んでいく。


カオルの帰りは何時頃になるだろう。普段は駅まで自転車で通っているあの子を、こうして雨の日や帰りが遅くなる日は送り迎えをしていた。それも誰と出かけるのかを尋ねるのももう私の癖になってしまっていた。いくら娘とは言えあの子はもうすぐ十九だし、いい加減子離れをしなくてはいけないことはわかっているけれど、口が勝手に聞いている。それにすらあの子は煩いの一言さえ言わず、毎回教えてくれている。


相変わらず多くを語ろうとはしないからよく分からない部分も多いけれど、私より賢くて良い子であることは間違いなかった。


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