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誰も知らないくせに  作者: 青井在子
03, 追いつけない親友 高瀬遥
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 三年生の先輩たちが卒業して、あたしたちは二年生になった。あと一カ月も経てばまた体験入部として新一年生たちが入ってくる。

カオルは相変わらず試合には出られないけれど、先輩からも同期からも好かれていたし、入部当時と比較にならないぐらい体力も技術も身に付いていた。


二年生になって、クラスは離れた。カオルは新しいクラスメイトともすぐに馴染み、さらに友だちも増えたようだ。部活のことで話があって二人で廊下にいても、通りがかる誰かがあの子に手を振る。それに笑顔で手を振り返すカオルを見ていたらなんだか無性に傷つけてやりたくなって、あたしは翌日からシカトを始めた。


毎朝待ち合わせをして一緒に登校していたけれど、会わないように早めに家を出た。一時間目が終わると、カオルがあたしを尋ねて教室にやってきた。


「今日、どうしたの? 待ってても来ないから、ハルカのお母さんに電話しちゃった。そしたらもう出たって言うから……」


わざわざ母にまで連絡されたことに辟易し、家に帰ったら余計な弁明をしなくてはいけないことに苛立つ。


「ちょっといろいろあって」


目を合わせることも無く答える。


「大丈夫?」


その心配そうな声が、能天気な発想が何故だかあたしの壊したくなる欲求を焚き付ける。


「うん。あ、明日からも一人で行くから」

「え?」


それだけ言って窓際を離れた。余所の教室には入れないから、カオルはあたしを追いかけて来れない。そんなどうでもいいルールを律儀に守る、あたしの幼馴染。

部活でも一切口を利かないでいると、敏感に異変を感じ取った何人かの友だちが声を掛けてくる。


「カオルとなんかあったの?」


こうしてわざわざあたしに尋ねてくる子たちは、万が一あたしとカオルが対立したときにはまずあたしの側に付きたいと思っている。中学生の女子たちには小さな仲間割れでも嗅ぎつける鋭い嗅覚が備わっているのだ。それが無かったり鈍かったりすれば、すぐに底辺に追いやられるのだから。


体育館の隅で女子六人で集まって、他の子たちには聞かれないように小さな声でカオルの悪口を言う。あたしが一言、「最近カオル、うざいんだよね」と言うだけでそれぞれが思い思いにあの子を貶し始める。昨日まで仲良くしていたくせに。誰が言い出したわけでもないのに、あたしを含めた六人がカオルをシカトし始めた。

カオルはシュートの練習をしながら、先輩や状況を知らないのか、鈍感な嗅覚しか持ち合わせられなかったタメの子たちと話している。


下校のときも、わざとカオルを置いていくために他の子たちと速足で体育館を出た。追いつけない所まで皆で走って、立ち止まると揃って大声で笑った。楽しいのか、楽しくないのかもわからないのに。

部活外でも自分やカオルのクラスの子に、それとなくあの子の悪口を言ってみて乗ってくる子はあたしの味方に付けた。戦いをするわけでもないのに、カオルよりあたしのほうが優れているはずなのに、それでもあの子と対立しようと思うとたくさんの味方が必要に思えた。廊下でカオルとすれ違うときには目も合わせず、通り過ぎたあとで大きな声で笑ったり、悪口を言ってみたりする。


そんな日々を繰り返した。カオル以外の同期でカラオケに行ったりもした。一カ月が過ぎるころには、学年中がカオルがハブられていることに気が付いていた。

いじめの対象になる子とは、その子のことが嫌いじゃなくても関わらないのが得策だ。余計な火の粉を浴びないためにも。その辺りのことは、人類で一番中学生が聡い。カオルの周りに集まる人は激減した。いつも誰かに囲まれていたあの子が一人で行動している姿をよく見かけるようになった。地味だったころのように自分の席に座って静かに本を読んでいることもあった。


カオルが音を上げるところを見てみたかった。あたしに縋ってくる姿を見る必要があった。あの子に優劣を認識させなくちゃいけなかった。


 だけどいつまで経ってもカオルは平然としていた。学校も部活も休むことはなかった。涼しい顔をして毎日を過ごしていた。廊下を歩く姿は、昔とは大違いだった。真っ直ぐ前を見て胸を張って歩く。

そんなあの子を見て、次第に勇気を出してまた声を掛ける子が増えてきた。予想以上に長く続く緊張状態に疲れた子たちがいたのだ。大抵教室の端で固まってぼそぼそとこちらに聞こえない声で会話をしている目立たない子たちだったけれど、カオルはいつもと同じように笑いかけた。同情に感謝するわけでもなく、ただただ自然に。何かしらの計画を抱いていたらしい地味な子たちは驚いた様子だったけれど、その驚きさえカオルの笑顔の熱に溶かされた。


その姿を見て、途端に恐ろしくなった。あの子は本当は何を考えているのだろう。どうして学年中のほぼ全員からシカトされたり悪口を言われたりしても平気なのだろう。とっておきの復讐でも用意してあるのだろうか。


あたしの攻撃じゃ、カオルを一ミリも傷つけることができない。

それがわかると急に戦意が失せて、どっと疲れを感じた。騒ぎ立てる心臓を宥めて、なんでもないふうを装って数カ月ぶりにカオルに話しかける。


カオルはあたしに対しても混じり気の無い笑顔を向けるのだった。


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