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仮面劇 MASQUE  作者: 射月アキラ
閉幕 カーテンコールは素顔で
25/26

01

 では、血濡れた仮面劇の幕を下ろそう。



     *



 モニターの中で、アナウンサーがなにかを話している。


 語る表情は真剣そのものだが、音声を切られたモニターからはなにも聞こえてこない。ぼやけた頭でテロップを読むと、連続殺人の文字が見える。


 画面が切り替わり、テープを張られた昼の裏路地が映し出されて、私はモニターから目を逸らした。


 モニターをつけた柱の向こうには、壁一面の大きな窓。


 外には広く灰色の地面が広がっていて、旅客機が列を作っている。


 モニターと窓を眺められるように置かれたベンチの一つに、私は座っていた。


 周囲には案内を待つ人々が、私と同じように時間を潰している。


 十二月二十五日、クリスマス。


 真っ赤に染まったあの夜から、まだ半日しか経っていないなんて、容易には信じられない。私は思っていたよりも穏やかな気持ちで、人々の中にまぎれている。


 汚れてしまった服と鞄は、オクルスが用意したものに取り換えた。彼自身の衣装とは裏腹に、どこにでも馴染めそうなシンプルなコーディネートで、今だって誰も私を気にとめたりしない。


 昨夜から荷物は増えていない。文字通り鞄一つで、私は空港に足をつけた。


 たった一つ減った荷物は、刃先の折れてしまったナイフだ。長い間手元に置いていたものをなくしてしまったのは、思っていたよりも心を落ち着かせない。忘れ物をしてしまったときの感覚が、ずっと続いているようだった。


「松ヶ谷遥香さまですね?」


 声をかけられ、私はそちらへ目を向けた。


 傍らに立っていたのは、見覚えのない青年だ。落ち着いた色合いの、どこにあってもおかしくないスーツ姿だが、オクルスと同じ雰囲気を放っている。


 人間のように見えるが、人間ではない。その違和感がどこから来るのか、気付くまでに少し時間がかかった。


「……はい」


 青年のとがった耳を視認できたのは、彼の問いに答えてからだった。


 周囲の人間も、気にとめる様子がない。青年が許して、私はようやくその異質さを認識できたのだろうか。


「オクルスさまがお待ちです。こちらへ」


 片手で行く先を示しながら、とがった耳の青年は坦々と私を促す。


 立ち上がって鞄を持ちなおす。その中で、スマートフォンが振動しているのを感じた。


 取り出すと、メッセージの受信を伝えるいくつかの通知。内容の一部と共に表示されている名前は、家族と友人のものだ。

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