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仮面劇 MASQUE  作者: 射月アキラ
Scene.4 仮面の下
20/26

01

 クリスマス・イブ。


 今日の町は、いっそ不気味なほど異様だ。


 日が沈んでそれなりに時間が経っているはずなのに、周りは絶え間なく光るイルミネーションで照らされている。歩く人間も、店に呼び込む人間も、普段と比べものにならないほど多い。冬場特有の暗い色ではなく、赤や緑が多く見えるのも私の神経をざわつかせた。


 どうして、今日に限って外に出てしまったのだろう。


 しかも、上着のポケットに折り畳みナイフを入れて。


 独りで。


 目的もなく。


 詩織と会う予定だって、ない。


 ここのところずっと、どす黒い感情が力を増し続けていた。灰色の仮面は何度も剥がれかけ、やけに目が冴えて眠れない日もあった。


 オクルスからの依頼は、まだない。


 嫌悪や不快を感じていたはずなのに、私はオクルスからのコンタクトを待ちわびている。


 それとも、この縁はすでに終わってしまったのだろうか。


 だとすれば、今の私に必要なのは「きっかけ」だった。


 あと一歩。踏み込む要素が足りない。


 それさえあれば、私は……なにをするつもりなのだろう?


「────?」


 私にかけられたらしい言葉は、喧噪にまぎれて聞きとれなかった。


 となりには若い男がいて、私と歩調を合わせてなにか話している。私が足を止めれば同じように立ち止まって、さらに親しげに接近してきた。


 その顔に、見覚えはない。


 やけに明るい色を発していて、なにやら私をどこかに誘いたいらしい。


 ぼやけた頭が適当に相槌と返事をして、私は男に導かれるまま浮ついた町を歩く。


 しかし、男の向かう方は明らかに寂れていた。「穴場があるんだよ」という言い訳染みたせりふがわざとらしく、聞き取ろうとも思っていないのに耳に残る。


 男の持つ色は、徐々に黒へ近づいていた。


 私と同類か、あるいは。


 そう思ったところで、私は男に肩を掴まれた。


 そのまま背中を薄汚れた壁に押し付けられて、男と正面から向かいあう形になる。


「騒ぐな」


 そこで初めて、私は男から明瞭に言葉を聞きとった。


 男は、私に見せつけるように刃物を持っている。やけにきれいなナイフだった。汚れがない。この刃は、血に濡れたことがあるのだろうか。


 きっと、ないのだろう。


 かわいそうに。


「おい、なに笑ってんだ」


 苛ついた男の声で、私は灰色の仮面が剥がれていると自覚した。


 そうか。あなたが「きっかけ」だったのか。


「おとなしくしてろ、いいとこに連れてってや──あ?」


 肉を裂く感触が、両手に伝わってくる。

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