表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面劇 MASQUE  作者: 射月アキラ
Scene.3 薄れゆく仮面
18/26

02

 首をかしげながら黙って遠くを見る詩織の顔は、いつもの喋りつづける彼女とは別人のようだった。


 新たな一面、と言っていいものかどうか、少し迷う。


 それを引き出してしまったのは、間違いなく私のどす黒い本性のせいだからだ。


 灰色の仮面で本性を覆い隠すのがへたになっているのを、私自身も感じている。


 ずっと封じ続けていた願望が、表に出てきてしまったからか。それとも、


「……あ」


 ぽつりと、詩織が声をこぼした。


「もしかして……私がさっきの映画でちょっと悲しくなったのと、関係あるのかも?」


 そう言って笑みを浮かべる詩織は、いつも通りの雰囲気を取り戻しつつあった。


 しかし、その理由はよく分からない。私の頭には、当然映画の内容などほとんど入っていないからだ。


「あぁ……まさか遥香も『恋』をしてしまうなんて……」


「…………は?」


「友人と恋人、どちらを優先するのか。悩む主人公に同情して思いをはせていたからこそ、私の感想を聞いている場合じゃなかった……とかだったら許してあげてもいいよぉー?」


 そういう話だったのか、と口に出すのはやめておいた。


「あー、じゃあ、それでいいよ」


「ちょっと、なにそれぇー? ないの? 遥香からの貴重な恋バナはないの?」


「ない」


 露骨に大きくため息をつきながら、詩織はテーブルに突っ伏した。


「んん……恋バナないのか……残念……。でもー、遥香が知らない男に取られちゃうのも嫌だし……」


 呟く詩織をよそに、私はようやく目の前に置かれたカフェオレを手に取った。


 頭の隅で、詩織の言葉がやけに引っかかっていた。



     *



 学習塾へ向かう詩織と別れ、私は帰路についた。


 クリスマスまで一週間をきった町の空気は、ますます浮ついている。イルミネーションの数こそ横ばいだが、駅前通りを埋め尽くす人は確実に増加していた。


 その誰もが、ふわふわとした足取りで、軽やかに歩いている。


 出かける前、バッグの奥底に押し込んだ折り畳みナイフを思い浮かべた。


 凶器が取り出しにくい場所にあるのは、どす黒い本性に対して十分な抑止効果を発揮した。そうでなければ、キラキラとした町の楽しげな人々を、殺してまわってしまいそうな気がする。


 彼らから目を逸らすためには、自分の中の思考に集中する必要があった。


 先月までなら「どのように殺すか」をシミュレートし続けるだけでよかったが、実行に移してからはそうもいかない。


 さて、どうするか──と考えて、初めに思い浮かんだのは詩織の言葉だ。


 知らない男。


 そう聞いて、真っ先に思い浮かんだのはもちろんオクルスだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ