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仮面劇 MASQUE  作者: 射月アキラ
Scene.2 仮面と仮面
13/26

06

 聞いて初めて思いついた、というような調子で、オクルスは言う。


 彼はひげに手をやり、私から顔ごと視線を逸らした。どこでもない場所を見つめ、思想するような素振り。


「なるほど、それも悪くない。いや、口封じは必要ないが、殺せばレディの全てが私のものになると考えると」


「本気?」


「だが、私は生きているレディを愛したい」


 なぜオクルスに対して殺意を抱けないのだろうか。


 いや、抱くには抱くのだが、普段人間に対して感じているそれとは明らかに違う。あまりにも弱い、という意味で。


「ところで」


 オクルスはのろけた口調を捨て、口元に真剣さを戻した。


「レディが他人の死に心を痛めているかどうか、私は至極真面目に問うたつもりなのだが」


「ふぅん」


「……ちょっと素っ気なさすぎないかね?」


 気持ちの悪い真面目さを崩して、オクルスは不満げに言った。


 私はいくぶん冷めてしまった紅茶を口に運び、喉をうるおす。


「人を殺すのが苦しいなんて感じたことはない」


「ほう」


「むしろ、もうやめられなくなっている、と思う」


 私の告白を、オクルスは黙ったまま、笑みを浮かべて聞いている。


「あなたを選んで、これからも殺しを続けられるなら──」


 わずかなためらいが、私の中にあった。


 明るすぎる友人の顔が浮かぶ。周囲の色を吹き飛ばす光。


 しかし、それよりも強く、色彩豊かな人間たちが私を脅かしていた。


「──あなたを、選ぶかもしれない」


 言葉を紡いだ喉の奥が苦い。


「迷いがあるね、レディ」


 私の胸の内を探るように、オクルスが言う。


 彼の言葉と視線が、無遠慮に私を暴こうとしていた。


「その理由について、私が教える義理はないけど」


「かまわないよ。それは君自身が解決するべき問題だろう。代わりに」


 オクルスはそこで言葉を切り、深くソファに座り直した。


「殺しの理由について、聞いてみたいね」


「今更?」


「重要だろう。迷うほど大事なものがあるのにやめられないなら、レディには殺しに大きなこだわりがある。私はそれを知りたい」


「……殺しを指示する人間として?」


 意地悪く言うと、オクルスは困ったような笑みを浮かべて肩をすくめた。


「冷たいね、レディは。まぁ、そんなところが素敵なのだが……」


「なんで殺したいのか、私にもよく分からないんだけど」


 オクルスを遮って、私は他人について初めて「殺し」について口を開いた。

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