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デイゴの赤い花

作者: よたか

カラオケに行くと必ず歌う『島唄』。歌詞の意味を調べて切なくなりました。

そして沖縄の歴史を見て行くと、今の日本と似た部分がかなりあり書かずにおられませんでした。

「あなたは〝デイゴの花〟を知ってますか?」

 夢の中の私は、白い着物を着て雲の上の立ってた。目の前にはハッキリしない誰かが私に問いかけた。私は〝神さま〟だと思った。

 だけど、私は霊能者でも預言者でもないからただの夢だろう。語り口から私が勝手に神さまだと思っただけにすぎない。いずれにせよただの夢だ。


「デイゴって、『島唄』に出てくるデイゴですか?」

 世界的に有名になった『島唄』の歌詞を思い出しながら聞き返した。

「そうそう。沖縄県の花〝デイゴ〟です。血のように真っ赤で綺麗な花ですよ」

 神さまがそう言うと、辺り一面赤い花で覆われた。白骨のような樹の枝に赤い花が咲いていた。どす黒い赤を想像していたけど、南国の青空に映える明るい赤い花が咲いていた。

「血のようにって、ちょっと怖い感じがしますよね。もっと明るく見えますよ」

「そうですね、でも〝血の色〟なんですけどね」

「どうしてですか?」

「沖縄では『デイゴが見事に咲くと災厄がある』といわれているらしいんです」

「災厄? 台風でしょうか?」

「そうですね、台風の通り道ですからなにか関係あるのかもしれませんね」

 神さまはひと呼吸おいて、話を続けた。

「あの年もデイゴの花は燃えるように赤く咲いていました」

 島唄の歌詞から、太平洋戦争の沖縄戦の事だと思っていたけど、神さまはもっと前の事だと言った。

「1609年です。薩摩軍が琉球に攻めて来た時ですよ」


 あぁ、なんとなく聞いた事がある。でもどうしてそんな話をするんだろう。

「その頃の琉球王国は明の属国でしたが、奄美から八重山まで広がる、貿易が主体の国でした」

「そこに薩摩が攻めて来たんですか? 酷いですよね」

「酷いかどうか別にして、薩摩が攻めたのは言いがかりでしょうね」

「やっぱり酷いじゃないですか」

「そうでしょうか?」

「違うんですか?」

 不思議だった。言いがかりをつけて攻込むのはズルいと思うし、そんな事で死ぬのは無意味だとも思った。

「戦国時代が終わったばかりですからね、そんな手段はあたり前だったんですよ」

「そうかもしれませんけど……」

「奄美大島の人々は戦わずに薩摩軍に協力していました」

「でも抵抗した人もいたんでしょ」

「100人ほどの犠牲を出した徳之島では、琉球の役人は山の中に逃げ込んでました」

「役人だけ逃げるなんて、それも酷いですね」

「鉄砲で攻撃した薩摩軍に、徳之島の人々は、熱い粥を掛けて、棍棒を振り回し、竹槍を持って突撃したんですよ」

「待って。鉄砲を持った相手にお粥を持って突っ込んでいったの? 何それ? 酷いよ」

「犠牲が100人で済んだのは、戦力に差がありすぎたからでしょうね」

 竹槍を立てて爆撃機に挑む姿がだぶってしまった。

「薩摩軍は沖縄本島に上陸して[[rb:今帰仁 > なきじん]][[rb:城 > ぐすく]]に兵を進めたけど、城を守る兵は誰もいなかったんです」

「琉球の兵は逃げちゃったの?」

「100年ほど争いのなかった琉球王国の兵は、薩摩軍に敵わないと思ったんでしょう」

「貿易が盛んな国なら、もっと軍備にお金をかけられなかったんですか?」

「回りの国の都合もあり、財政難だったんですよ」

 あれ? なんとなく既視感のある話だ。なんだろう。


 4月1日、那覇港に上陸した薩摩軍が首里に攻込んで和睦した。


「それで琉球は薩摩の領地になるんですか?」

「いえ。武装解除されて薩摩の属国になったんです」

「もし、他の国に攻められた時はどうするんですか?」

「薩摩が守るという安保条約が交わされました」

「それじゃまるで……」


 まるで今の日本と同じじゃない。


「どうしてそんなことになったんだろう」

「為政者の力不足でしょう。明や東南アジアの事がわかっていれば財政難になる事はなかったでしょう。日本の事を知っていれば民も領土も守れたでしょう。全ては為政者の力不足です」

「そうですか……」

 夢の中の私は天を仰いだ。樹の枝に咲き乱れる赤い花の隙間から、南国の空が見えている。青い空を見ながら泣いていた。

「どうして私にこんな夢を見せるんですか?」

「あなたが迷っているから」


 そこで私の夢は終わった。

 目をさました後も〝神さま〟の言葉が気になっていた。ただの夢なのに気になった。その時、枕元に置いていたスマホが鳴った。政党事務所からだ。また代表選出馬の意思確認の電話だろう。

「もしもし。おはようございます」

「おはようございます。出馬の件ですよね」

「はい。決断されましたか?」

「代表になれば総理も狙う事になるんですよね」

「当然そうなります」

「……」

「今日中に決めていただかないと」

「解りました。出馬します。手続きは事務所に任せてもいいでしょうか?」

「はい結構です。これで来年の選挙を戦えます。ありがとうございます」

 秘書に電話を入れて代表選出馬の意志を伝えて、もう一度ベッドに仰向けになった。

 スマホで「沖縄 4月1日」と検索してみると『アメリカ軍が沖縄本島に上陸』というページが上位に出て来た。


 1945年4月1日。米軍が沖縄本土に上陸した時も、デイゴの花は真っ赤に咲き乱れていたのだろうか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして、ロータスと申します。 沖縄問題はとりあえず本当に取り扱いが難しいです。 作者様、とっても頑張っています。 政党政治なんて何寝言言ってんの?と言うぐらい長期間でさまざまな思惑…
2018/03/21 23:31 退会済み
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