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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第4章 エルフとドワーフ

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暗躍(空振り)


 葡萄噴水広場の近くで、明るく賑わう酒場があった。

 テーブルごとに数人の男たちが座り、飲んで食って語らい、その合間を給仕の女性が数人、忙しくあちこち走り回っている。

 1人で飲みにくる客は珍しく、カウンターにいる人物は少ない。

 

 葡萄噴水広場は中心とした区画は、立地に恵まれている。

 北には鉄音通りという鍛冶屋街。西は旅人を出迎える宿街。東には商業区があり、それらを繋ぎ挟まれる形で恩恵にあずかっている。

 南には未開発地域が広がっているが、それでも商売に良い環境である。


 この酒場のマスターは、テーブル席の客から飛んでくる注文を見事に捌ききった。やがて繁盛時間は過ぎ、給仕の女性も1人を残して帰宅する。

 あとはのんびり飲みに来る客か、深酒してぐだぐだしている客くらいしかこない。

 一先ず落ち着いたそんな店内で、マスターはちらりと横目でカウンター席を見た。

 カウンター席の中でも、特に薄暗い隅の席。そこに絶えず店の入り口を注視する小男が座っていた。

 そこそこ高い酒をちびりちびり飲むので、追い出すつもりはない。これが安酒だったら迷惑だった。なにしろ、ここしばらく連日のようにこの小男はやってくる。

 そして店でも比較的上等な酒を飲み、閉店近くまで席に座って店の入り口を監視している。

 誰かを待っているのだろう。

 よくあることなので、マスターは特に気にせずにいた。


 しかし、今日は違った。


「マスター。ちっと聞きたい」

 小男が注文以外で喋った。マスターはそれに驚きながらも、彼がアポロニアギャスケット共和国の出身であることに気が付く。それくらいの冷静さが、海千山千のマスターにはある。


「なんですか? お客さん」

 仕事の手を止めず、マスターは返事をした。


「ここには……白柄組の者たちが出入りしてると聞いたのだが」

「ああ、来てたね」

 士族子弟の無頼組の名を出し、小男は落ち着かない目でマスターを睨んだ。


「来ていた? しばらく来てる様子がないのだが?」

「ええ、来ていた……ですね。このところいらっしゃらないようで、すっかり店が静かですよ」

 彼らのせいで一時、売り上げも下がった。そして白柄組が来ないと知られ、一般の客がぼちぼち戻り始めた。ここ一か月は大繁盛といっていい。

 マスターは白柄組に悪感情を持っていた。彼らが我が物顔で、店を占拠することもあった。暴れたこともあった。その度に泣き寝入りだった。

 そんな彼らの事を、小男は訊ねる。


「いつ来る?」

「さあ、なんとも。彼らの気分でしょうから、わたしには分かりかねますね」

「……白柄組にことづけを頼みたいのだが」

 小男の声から、どこか諦めのような様子が見て取れた。


「なんでしょうか?」

「いい話がある。興味があったら、ラバンの宿にいるエウンを訊ねてくれと言ってくれ」

「……わかりました。ラバンの宿のエウンさんですね」

 マスターの反応を見て、小男はカウンター席から降りた。軽やかに降りたが、その足元が少しふらついている。酒のせいかもしれないが、座り過ぎもあるのだろう。


「では頼んだぞ」

 と、言い残して小男は退店していった。

 その姿を見送ったマスターに、給仕の女が小声で問いかける。


「いいんですか? マスター?」

「なにが?」

「白の人たちが来たら伝えるの? こんな怪しいことを?」

「言わんさ」

 マスターは言葉短く言って仕事に戻った。

 しばらく納得できない様子で、マスターの顔を眺めていた給仕も、やがて「ならいいけど」と仕事に戻った。

 仕事に戻った給仕の背をちらりと伺い、マスターは誰にも聞かれないように呟いた。


「せっかく更生してるって話だし、邪魔をしちゃ悪かろう」

 独り言を吐き出し、かつての悪客を応援するように小さな笑みを浮かべた。そして足元で光る小さな真新しい金庫を眺めた。

 そこには少しづつだが、白柄組メンバーの詫び金が貯まり始めていた。白柄組の各々が、店の被害額に当ててくれと言って、気持ち程度に持ってきた金だ。

 はっきりいって、被害金額にはまだ足りない。具体的に、まだ半分にもみたない。

 

「悪い気はしないし、な」

 彼らは悪い客だったが、あからさまな犯罪や悪行をしたというわけではない。許してやるのも大人の務めだ、とマスターは自分に言い聞かせて仕事に戻った。



   *   *   *


 怪しい小男が、酒場を訪れなくなってから数日後――。

 日が照り付けるお昼時の川港に、1人の小男が姿を現した。

 食事の時間直前なので、忙しそうに荷卸しする作業員がそこかしこにいる。積み重ねられた荷と行き交う男たちが、何かを探す小男の視線を遮る。

 邪魔そうにされながらも、小男は身軽な動きで川湾の船着き場をウロウロとしていた。


「おい、そこのにーちゃん。ここに、なんの用だい!」

 3人の男衆を従え、初老の大男が小男に声をかけた。初老の大男は、川港の労働者を取りまとめる年寄衆の1人で、若い労働者たちからは親方と呼ばれている。

 川港に「親方」という役職も立場もないのだが、雰囲気とノリと親しみから、彼は「親方」なのである。

 

「……」

 親方に声をかけられ、小男は警戒している様子だった。


「なぁんだぁ? おい、口がきけねぇってなら紙とペンでも用意させるか? あん?」

 デカい親方が、小男にデカい声を叩き付ける。見ようによっては、強い者に声をかけられて、弱い者が萎縮してる姿に見えた。

 しかし人物観察に長けた親方は気が付いていた。この小男が、並の人物でないということを。

 混雑して忙しい時間の川港で、うろちょろどころか、のらりくらりと人を躱しながら、何かを探す姿。

 それはただの迷い人ではない。確実に、身体を動かすことに慣れた人物のソレである、と。


 互いに警戒しつつ、探りつつ……周囲に緊張が走る。

 この緊張を解いたのは、小男の方だった。 


「すまない、ここに白柄組の者たちがいると訊いてきた。彼らに話があると取り次いで……」

「ああんっ!? 白柄組ぃ~? あ、知らねぇなぁ~っ!。用がそれだけなら、仕事の邪魔だっ! おい、おめぇら。こん人を出口に案内してやれ!」

 取り付く島もないとは、このことだろう。

 親方の指示1つで、周囲の男たちが集まる。筋肉がはちきればかりの、肉体労働者たちだ。

 こんな男たちに囲まれても、小男は怯える様子がない。仕方ないという態度で、小男は川港労働者に連れられて去っていった。


「妙に大人しかったな。もう少しゴネるとおもったんだが……」

 川港から小男が、丁重に追い出される姿を確認してから、親方は不満げに呟いた。

 控えていた部下が、畏れながらと親方に訊ねる。


「親方。白のあいつらぁは倉庫の整理に行ってるはずですが?」

「いぃんだよ。ばぁろー! あんな怪しいヤツの話なんて繋ぐ必要はねぇっ! 他の連中にもそう言っとけ! あとあの男は2度とここに入れるな! もしもあの男を見かけたら、あのガキどもをすぐに船倉か倉庫の仕事に回せ!」

「へい」

 部下たちは親方の指示を受け、すぐさま各所へ連絡するため走った。


「ふんっ!」

 親方は1人になると、白柄組の連中が働く倉庫を見て、鼻息ともため息ともつかない半端な息を出した。


「酒場のマスターから話を聞いちゃいたが……。こりゃ夜店の親分さんとも相談しておくか」


   *   *   *


「あなた、何をしてるのかしら?」

 王都のどこか。薄暗い地下室――。

 マルチ・プルートの姿をしたモノイドは、際どいミニスカートを捲り上げさせつつ、足を高く振り上げた。そして黒い何かに向かって、一気に振り降ろす。

 

 ゲシッ!


 肉にかかとがめり込む音だ。


「あふんっ! ありがとうございます! あ、違った! 申し訳ございません! モノイド様!」 

 踏みつけられた小男が、お礼なのかお詫びなのか分からないことを言った。

 マルチ=モノイドの足が小男の腰に食い込む。どうみてもお仕置きなのに「ご褒美だ」という顔で、小男は身悶える。


「し、白柄組が捕まらないのです! あひぃっ! あいつら、無頼の癖にあちこちで仕事、あ、そこはっ! 街の連中が非協力的……おふぅ~……、というか、なぜかあいつらに好意的で……本当に士族六派の無頼集団なの? って感じなのですぅおふおふおほぉ~~っ!」

 ぐりぐりと踏まれながら、言い訳と嬌声を上げる小男。


「まったくっ! あなたったらっ! 仕事もっ! できないっ! 癖にっ! これがっ! いいのっ! かしらっ!? まったくっ! ほんとっ! 気持ちっ! 悪いわねっ!」

 靴裏で小男を蹴りつけ 踏みにじり、言葉で激しく責めるマルチ=モノイド。 

 気持ち悪いと言いながらも、彼女の頬は紅潮していた。


「そう! じゃあ、白柄組を炊きつけて、葡萄孤児院の子供たちをどうこうしようって計画は無しね!」

「……はい」

 解放された小男は、息も絶え絶えすぐさま平伏する。

 

「あの孤児院……2人も代入オペランド適格者がいるのに、あのエルフのせいで手を出せない……。あれほどの逸材ならば、古来種カルテジアンの方々の【多重定義者オーバーロード】の素体になるかもしれないのに」

「いかがいたしますか?」

 真顔に戻った小男に対し、未だマルチ=モノイドの息は荒く頬は紅潮している。


「騎士団も動いてるというし……。彼らに罪を擦り付ける方向でやってみようかしら?」 

 悪意に満ちたマルチ=モノイドの顔は、悪事を思い描き酷く高揚していた。

 その姿に、マルチ・プルートの意志を見出す事はできない――。 

 

   *   *   *


 もういくつ寝ると~、運動会ぃ。

 ……あ、いけね。運動大会だ。

 たまーに、アザナのヤツが運動会とか言うから、オレまで間違えるぜ。

 3回寝ると運動大会だから――あと3日、か。


 う~ん、実年齢21歳とはいえ、なんかこう……ワクワクするね。

 10歳から15歳の子供たちが躍動する場所で、ワクワクする21歳ってどうよって気もするが、不純な気持ちは一切ないし、見た目と身体は11歳なんだから、圧倒的セーフだ。


「では解散! 気を付けて帰れよっ!」

 右組団長ワイルデューが、運動大会の練習終了を大声で告げた。髭面樽腹という見た目と相まって、本当に先生みたいだ。


 そのワイルデューが孤児院出身と聞いて調べてみたところ、未だに月末は孤児院へ帰るらしい。


「あのワイルデュー先輩の出身孤児院に、ゴーレム製作の手伝いを依頼するか……。内職受け付けてくれるような状況か、それを先に調べてみるのもいいだろう」

「なるほど! アザナくんのやり方をパクるんだね?」

 オレの計画に、もともこうもないツッコミをいれるペランドー。


「いや、確かにそうなんだが……。ああ、まあなんだ。魔胞体陣の中の魔法陣を、いろいろパクってる俺が言うのもなんだが、もっとこう……言いようが……」

 しかしパクリだ。

 身もふたもないが、オレはアザナのやり口を真似る。

 

「ワイルデュー先輩が研究に参加してくれれば、それこそ百人力だよ。だってドワーフだもん」

 もっともだ。

 確かにその通り。

 ペランドーの言うことはもっともだ。

 優秀なドワーフが味方に付けば、アザナのゴーレム製作に対抗できるだろう。いくらアイツが天才とはいえ、人の範疇。ものつくりに関して、人より優れたドワーフと比べたら物足りない。

 もっとも、アザナの凄いところは製作ではなく、開発のアイデアなのだが――。


「あ、ザルガラくん。見て見て!」

 解散し、生徒たちがまばらに下校する中、ペランドーが何かを見つけて指差した。

 その方向を見ると、白で統一された集団が露店の準備をしていた。

 白柄組の連中だ。

 トレードマークの白コートではなく、白の労働服姿である。

 白い労働服という非効率極まりない恰好だが、夜店露店の食品を扱う店員と考えると、とても清潔感があってよい。

 

 運動大会はお祭り騒ぎだ。一般人の入場は制限されるが、生徒の父兄と関係者が多く集まる。それを狙った食べ物の露店が、いくつも出店するのだが、その何軒かが白柄組の連中なのだろう。

 ほんと、更生してるな、アイツら。

 他の六派無頼と違い、白柄組はそれほどひどい噂は聞かなかったが、それでもこのあたりでは素行不良で有名だった。

 そんなヤツらが、ああして更生している姿は心打たれるものがある。

 

 なんというか許すことによる優越感というか……。ああ、許すって言っても、別にアイツらに迷惑被った記憶ねーや、オレ。

 アイツらのせいで痛い目にあった者や、悔しい目をあった者もいるだろう。

 それをどう解決するか知らんが、オレのような無関係な人間がどうこう言う必要もない。


「ザルガラくん! あれはワナナチョコの看板だよ! 楽しみだね」

「なんだ? ワナナチョコって?」

 ペランドーは露店の食べ物に、思いを馳せているようだった。

 ワナナってなんだ?

 チョコは分かるがワナナは分からん。


「たしかアザナくんが広めたって聞いたけど、ワナナチョコっていうのは、果物をチョコで包む食べ物だよ」

「へえ、アイツ、そんなモンも作ってるのか」

 なんで金がないんだろう、アイツ。実家がそんなに大変なのか?


「アザナくんは、いろいろなお菓子を作って、エッジファセット公を介して販売してるんだって」

「ふーん。多才だな」

 正直、そっちで張り合うつもりはないので聞き流……そうとオレは思ったが、そんだけ商売に関わってて、ほんとになんでアイツは金ないんだ? と疑問を深める。


 オレがそんなくだらないことで首を捻っていると、女子生徒のグループが、白柄組の露店に興味を引かれて近寄っていく。


「わぁ、おいしそう」

「おう、なんでも旨いぜ!」

「大会が楽しみねぇ」

「おう、ガキども。買いに来てくれよな」

「うん、任せ!」

「おいおい、食べすぎんなよ」

「いいのよ! お母さんがとってもいい痩せ薬を――」


 和気あいあいと女子生徒と会話する白柄組の連中は、もれなく爽やかな笑顔をしてやがる。もう無頼の顔をしていない。


「アイツら、すっかり更生してんなぁ」

 もう市井で立派に生きていけるだろ、アイツら


ドラマや時代劇とかでよくありそうなパターンを回避していくスタイル。


ワナナはバナナです。

ワナナバニ園というのが、この世界にはあるかもしれません。


登場人物紹介などを、近日中に公開できると思います。期待して…あんまり期待しすぎないで、お待ちください。

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[一言] ワナナバニ園www予測変換で出てきたから検索かけたらその名前のバンドがあって草不可避
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