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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第4章 エルフとドワーフ

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ドワーフのワイルデュー

「じゃ、スロウプ先輩。自分はここで失礼しますね」

「おい、グッスタ。お前が呼ばれてるんだよ」

「違いますよ、自分は内勤ですから火急の件なんてありませんよ」

「いいや、違うね。お前の職場放棄が問題視されたんだよ」

「いえ、これはやはり局長のウイスキーを先輩が……」

「お前の書類処理が……」

 簡素ながら重々しい巡回局局長室前で、隊長格であるスロウプとグッドスタインの2人が醜い姿を晒していた。ここまで来て覚悟が決まらないとは、男として情けないに尽きると言える。


「とっとと入って来んかいっ!」

 局長室の中からモルガン局長が叫び、戸外に立つ2人の身体が、ビクリと跳ね上がって直立した。

 

「申し訳ありませんッ! 失礼いたしますッ!」

 先ほどまで醜態を晒していた2人はどこかに消え去り、訓練された2人の軍人が局長室に入室した。

 室内には2人の男性がいた。1人はこの局長室の主たるモルガン局長。

 そしてもう1人、ソファに座る初老の小太りな男性。巡察官ハンマー・チェンバーである。

 十人隊長のスロウプと、部下を持つ隊長格とはいえ係長程度のグッドスタインは、2人の官僚を前にして背筋が凍る思いだった。 

 

 スロウプとグッドスタインは、同時に局長の頭頂部を確認した。

 モルガン局長は入室前に怒鳴っていたが、その頭頂部に問題はない。局長が本当に怒ると、つるりとした頭に血管が浮きでる。それが無いということは、怒っていないということだ。

 スロウプとグッドスタインは胸を撫で下ろした。

 

 しかしのんびりソファに座るハンマー・チェンバー巡察官が不気味だった。軍中央から派遣されている巡察官の存在は、スロウプたちを不安にさせる。

 巡察官は必要であれば、有力貴族と接見する権限を持つ。

 貴族が巡察官に接見するのではない。巡察官の方から、貴族に接見できるのである。つまり公として貴族は巡察官より地位が上だが、王国の官としては巡察官の方が立場が上だ。

 通行するだけだが貴族領の往来権があり、彼は王国内ならどこでも自由にいける。

 王の免状があれば、軍事行動を他領で行えるし、貴族の身辺調査までできる。

 軍の外部組織ながら、軍官僚のトップに入る人物だ。


 チェンバー巡察官を前に、グッドスタインは敬礼しつつ名乗りを上げるが、その手が震えた。

 一方、スロウプは敬礼しながらも、どこか力が抜けている。もうどうにでもしてくれ、という諦めにも見えた。


「まあ、まあ。そんな堅くならないで」

 強大な権力を持つチェンバーは、そんなことを億面にも出さず、温和に笑って2人に声をかけた。


「別に懇意にしてる女性のところへ、頻繁に出入りしてるからってそれをどうこうって事じゃないから」

 バレてる!

 グッドスタインが文字通り縮み上がる。

 スロウプはまだ余裕があったのか、「あ~年貢の納め時か」とシニカルな表情を浮かべた。


「わたしもなんだかんだと、あちこちと仲良くしてたもんだ。むしろ現場はそうしておくベきだと」

 官僚でありながら、癒着を緩く勧めてきた。これには2人も困惑する。

 チェンバーの関わる癒着は、金や地位などが関係する癒着であり、スロウプたちのそれとは違う。

 現場の癒着は、人と人とのくっつきである。人間味があり過ぎて、チェンバーが想定している物とは違う。


「チェンバー巡察官。あまりウチのモンに変な事を吹き込まんでいただけますかな」

「いやいや、失礼。綺麗なお嬢さん相手なら、男心も分からないわけでもないので、つい」

「ついじゃありませんよ。巡察官」

 局長に釘を刺され、チェンバーは首を竦めてみせた。

 手を組み直し、肘を机について局長はスロウプ、グッドスタインの2名を睨め付けた。


「さて。君たちを呼んだのは、そのアマセイの管理する葡萄孤児院の事について、だ」

 吐き出すような局長の言葉に、斜に構えたスロウプですら身を引き締める。


「先日のデ・ルデシュ侯爵並びにハル伯爵暗殺事件の関係し、保護された子供たちを調査していたところ、国内の孤児院でも妙な動きが確認された」

「保護された子供たちは、アポロニアの子供たちを伺っておりますが?」

「スロウプの言う通り、デ・ルデシュ候の買っていた子供は外国からの流入だ。これを機会に、王都騎士団が王都内も調べた。まあ念のため、というヤツだ」

 局長は手元の資料を叩き、唸り声と共に言う。


「そうしたら、だ。デ・ルデシュ侯の件とは関係なく、孤児が国内各地の孤児院をたらい回しにされている事例が出てきた。数人だけならば、問題児が環境に合わせた孤児院に島流しにあったのだろうと思うが、この中から数十人の行方不明児がでてきている」

 グッドスタインは青ざめる。スロウプは後輩のそんな横顔に気が付き、目で落ち着けと合図した。

 局長は2人のやりとりを、見ないふりで説明を続けた。


「孤児が逃げ出す、にしては数が多すぎる。足取りもつかめんし、もちろん関係者が見えてこない。だが金の動きはある。行方不明になった孤児が、たらい回しにされた孤児院の数件には少なくない金が流入していた形跡があった。いくつかは目くらましだろう。足取りを掴ませないため、ダミーの動きもあるだろう。だが、いなくなった孤児は確実にいる。王都騎士団は、これの調査を開始した」


「ま、まさか局長は、アマセイさんを疑っているのですか!」

 青ざめたグッドスタインが、弾けるように問いかけた。隣りのスロウプがグッドスタインを抑える。


「慌てない、慌てない。逆だよ、グッドスタインくん」

 冷静さを失いかけたグッドスタインを、やんわりと宥めたのはチェンバー巡察官だった。

 手を翳し、落ち着いた様子でチェンバーは語る。


「知っての通り、アマセイの管理する葡萄孤児院は軍管轄だね。今回は王都騎士団が調査にくるわけだが、葡萄孤児院から、孤児が他の孤児院に行った例がないわけだし……。まあ、つまりなんだ。王都騎士団が調査しにくるまえに、こっちで資料を整えて潔白だと言う事を証明したいんだよ」

 アマセイが疑われているわけではないと知り、スロウプは安心した。しかしグッドスタインは、まだ納得しかねている。


「ですが……、王都騎士団が介入すれば」

「おちつけ! グッドスタイン!」

 余りに食い下がるので、局長はグッドスタインを戒めた。


「それをさせないために、我々が先に確固たる証拠で潔白を証明するのだよ。いくら私個人が、ラ・カヴァリエールと懇意にしているとはいえ、それはそれ。騎士団は騎士団。軍は軍だ。痛くない腹を探られるのは、耐えられん。スロウプは孤児院周辺の洗い出し。グッドスタインは孤児院に関わる書類と金の動きの精査だ」

 騎士団は厳密には軍属ではない。

 局長たちの説明と命令を聞いて、スロウプが敬礼をした。


「分かりました! わたしが現地での聞き取りと裏付け。グッドスタインが書類の精査と報告書のまとめですね!」

「報告書は2人とも書きたまえ」

「はいっ! 直ちに調査を開始します!」

 スロウプとグッドスタインは、チェンバー巡察官から各書類を受け取り、局長室から退出する。


「ふぃ~……。いろんな意味で良かったぜ」

 局長室のドアを閉め、スロウプは体の力を抜いて楽な姿勢を取った。


「まあ、悪いがこれからしばらく俺は孤児院に出ずっぱりだ。グッスタ。お前は書類と一緒に局内で缶詰だな」

「あ、ああ……」

 グッドスタインの顔色が悪い。皮肉を言ったスロウプは困惑した。


「お、おい。大丈夫か?」

「いや、ちょっと驚いたというか、心配しすぎて……」

「お、おう。そうか。ま、アマセイさんは疑うところないし、安心だろ」

「そうだな」

 グッドスタインは晴れない顔のまま、事務室へと歩きだす。スロウプはその背をしばらく見送ったが、ふうとため息1つつき、孤児院へと足を向けた。

 事務室へ向かう廊下を1人歩き、グッドスタインは1枚の書類を取り出して――。


「大丈夫……。自分が助け出しますよ、アマセイさん」

 握りつぶした。



   *   *   *


 雨の降る午後。

 オレとペランドー(とタルピーにディータ姫)は、体育館に向かって渡り廊下を歩いていた。

 これから運動大会の練習だ。とはいえ今日は雨なので、仕方なく体育館で行うことになった。

 うーん、右組だけの練習とはいえ、スペース的に平気なんだろうか?

 全員で練習はできないだろう。


「しかし、珍しいな。長期休業前にこんなに雨降るなんて……。運動大会大丈夫か?」

 これからしばらくすると雨ばかり降る季節だが、今の時期に弱い雨とはいえこんなに降るなんて珍しい。

 鬱陶しい雨雲を見上げて呟く。タルピーはわざわざ渡り廊下の外にで、雨に当たりながら踊っている。


「ねえ、ザルガラくん」

「ん~、なんだ?」

「アザナくんの誘い、断って良かったの?」

 急に話かけてきたと思ったら、そんなことか。


「いいんだよ。もともとアイツとオレは争う仲だ。ゴーレムの秘密を探るのは魅力的だが、わざわざ問題事に一緒に巻き込まれる必要はねぇ」

「そうなの? せっかくの共同研究だったのに……」

 そりゃ少しは惜しい。

 孤児院にアザナが関わらないとか、ゴーレム製作を手伝ってもらわないってなら話は変わるが……。 


「なーに。ゴーレムの研究なら、オマエとやればいいしな。オマエん家は鍛冶屋だし、いろいろ手伝ってくれるだろ?」

「もちろん!」

 ペランドーは快諾した。

 よし、いいだろう。これでいろいろ道具は借りられる。

 それにペランドーは手先がなかなか器用だ。ゴーレムの基部と仕上げを任せられる。オレは調整と改良に力を入れればいい。


 ゴーレム研究の件は後回しにし、オレとペランドーは体育館へと急ぐ。

 体育館の中がざわついている。どうやら、もう右組の生徒が集まっているらしい。


「こんちゃー」

「遅れましたー」

 オレとペランドーは軽く挨拶しながら、体育館のドアを開く。すると――、


「遅いぞ、クォラァッ!」

 怒声がオレたちを出迎えた。


 声の主は生徒たちの中心にいる髭面の小さいヤツだった。

 ふさふさたっぷりの髭に、ずんぐりむっくりの体形。身長はオレと同じくらいで、掘りの深い顔がやたらとデカイ爺さん。

 しかし爺さんのようだが、コイツはれっきとした学園の4回生である。教師ではない、生徒だ。

 彼はドワーフ。名はワイルデュー。


 ドワーフという種族の男性は、ずんぐりむっくりの髭面オヤジと決まっている。

 魔法――特に攻撃的な魔法が苦手なので、この魔法学園に入学するなど珍しい。しかし、彼らの鍛冶能力や道具製作技術は人間より優れている。

 遺跡の大部分は、古来種カルテジアンとドワーフの合作といってもいいくらいだ。

 彼は若くして高い魔具製作技術持ち、その腕を買われて学園へ招かれた。奨学金も多いらしい。

 オレたち特待クラスや普通科とは、実技などの内容が違う【魔具製作科】――略して魔作科まっさかに所属している。

 魔作科が、なぜ「まさくか」ではなく、「まっさか」である理由は誰も知らない。誰に聞いても知らない。たぶん、どこかで訛ったんだろうな。


「あの小娘が率いる左組に、そんな事では勝てないぞ!」

 ドワーフのワイルデューは、左組の団長であるエルフの生徒会長テューキと仲が悪い。

 要約するとドワーフとエルフは仲が悪い。ワイルデューとテューキが仲が悪いのではなく、ドワーフとエルフが、だ。

 そんな種族的な問題を、運動大会に持ち込まれてイラっとした。


「あん? うるせぇな。その小娘に勝ちたいなら1人でケンカしにいけよ」

「……う」

 オレの悪態に4回生のワイルデューがたじろぐ。見た目だけに、子供にビビる爺さんの様相だ。


「ちょ……ちょっと、ザルガラくん」

「ん?」

 ペランドーに袖を引かれた。どうしたのかと振り返ると、ペランドーが周囲を見ろと目配せした。

 促されて周囲を見渡すと、体育館に集まっていた生徒たちが、一様に警戒と恐れの表し硬くなっていた。


 ……あー、いかん。つい、孤児院のアマセイにイライラしてたから、悪態をついちまった。


「ああ、すまん。ワイルデュー先輩。遅れたのに生意気な事を言って」

 オレはすぐに頭を下げた。……ちょっと視線と体勢が斜めってるが。


「わ、わかればいいんじゃい。よし! 屋内で出来る練習を始めるぞ! やるからには勝とうな! みんな!」

 虚勢だろうが、ワイルデューは事を収めてくれた。良かったよ、どう考えてもオレが悪いのに、アンタが大人な対応してくれて。


「じゃあ、ぼくはパーン食い競争の準備手伝ってくるね」

 オレを注意してくれたペランドーが、片手を上げて去っていく。

 パーン食い競争とは、近距離を走って途中にあるパーンという木の実を剥いて食べて、食べ終えたら再び走ってゴールに向かう、という競技だ。

 パーンという木の実は、柔らかい渋皮が実に剥きにくい性質を持っている。座って落ち着いて剥けば、綺麗に剥ける代物だが、競争となるとそうはいかない。

 渋皮を剥き終えず食べれば、その渋さに吐き出すほどだ。しかしそこは競技。吐き出せば失格だ。

 渋いからと丁寧に剥けば競争に負け、急いで剥いて渋皮を残して食べると、競技者は悶絶する羽目になる。観客はそれを見て楽しむわけだ。

 ペランドーは手先が器用だし、この競技に向いている。渋皮を食べてしまっても、愛嬌があって観客に受けるだろう。 


「よーし! みんなで頑張るぞーっ!」

 ワイルデューが仕切りながら激励する。

 アイツはやるからには勝とう、などと言っているが、テューキに勝ちたいという気持ちは隠せていない。その辺は大人らしくない。

 というか、エルフとドワーフは大人だろうとその辺は変わらない。

 そんな様子を見て、オレは呟く。


「まったく、【エルフとドワーフ】だな」

『なにそれ? 見たままじゃないの、それ?』

 タルピーが反応してきた。確かに見たままだな、この使い方じゃ。


『……わたしも気になる』

 ディータ姫もタルピーの疑問に乗っかった。


「エルフとドワーフは仲が悪いように見えて、実は似た者同士で気が合うっていう慣用句だよ」

 オレが簡単に説明すると、なるほどとタルピーが肯く。


『ああ、つまり例としてザルガラさまとアザナを見て、【エルフとドワーフ】って表現する感じだね』

「ぜんぜん、似た者同士じゃねーよ」

『……違いますわ、タルピー。お2人は、似てない上に仲悪そうだけど、とても仲良しです』

『おおーっ! もっと親密?』

「ちっ」

 言ってろ。どうせ、他のヤツラには聞こえん。好きなだけ見当違いなことを言ってろ。

 オレは精霊とお姫様のおしゃべりを無視して、二人三脚のパートナーを探す。

 ――お、いたいた。

 集団の中で小さくなって、隠れているちょっと大きな女の子を見つけた。11歳女子にしては大柄なこの子が、二人三脚でのオレのパートナーだ。


「遅れて悪かったな」

「ひっ!」

 そのパートナーは、オレに声をかけられると、失礼なことに小さな悲鳴をあげやがった。

 二人三脚のパートナーは同じクラスの女子だが、名前は良く知らん。たまたまその女子の背が高く、オレと体格が合っていたから選ばれたせいもある。

 名前憶えないとなぁ……。でも、いまさら聞き難い。


「よ、よろしくです」

 怯えながら女子は応えた。

 しかし災難だったな、この子も。オレが二人三脚に出ると決まったら、クラス全員が生贄探しのような雰囲気になってしまった。

 結局、大人しくて身長の近いこの子が選ばれたわけだ。

 もしオレの評価が前のままだったら、この子は卒倒してしまったかもしれん。

 ――なぜだろう、涙出そう。

 

「ところで紐はどこだ?」

 パートナーのカノジョも持ってないし、首を巡らし探すが、紐らしきモノは近くにない。


「おい、オレんところに紐がないぞ。本番でこんなことあったら、即失格だ」

「あ、足りませんか?」

 備品を配っていたヨーヨーが、オレたちの様子に気が付いて不足を確認してきた。パートナーの子は運動着なのに、ヨーヨーは制服のままだ。コイツは実行委員会なので、備品管理などを優先しているのだろう。まあオレも制服のままなんで、どっちかというとコッチが準備不足なんだが。


「なんだ、ヨーヨー。オマエ、右組だったのか? たく、幸先が不安だぜ」

「そう言わないでください。すぐに紐を、ん……。今、ほどいて用意しますね……く……」

 ヨーヨーはそう言って、自分のスカートの中に両手をいれ、ごそごそとし始めた。

 

「幸先がもう来たよ。もう不安しかねーよ。て、おい、ちょっと待て。どこに紐あるんだよ! それ何に使ってるんだよ!」

「ん、と……今日はいつもより強く結びすぎてしまいました……と、解けました!」

「いつも縛ってるんかい」

「さあっ!」

 ヨーヨーはスカートの中から取り出した荒縄を、興奮した面持ちで差し出してくる。

 パートナーの子が、また悲鳴を上げる。


「さあっ! じゃねーよ! いらねーよ!」

「そんな! せっかく解いたのに! では、また縛る手伝ってくださ」

「よし! 【見当違いの聖者の苦行】」

「あ、そうではなく……」

 ヨーヨーは処分したのはいいが、紐は解決していない。荒縄が落ちているが、これは使いたくない。 


「おっと、そうか。オレが魔法で作ればいいんだ」

 オレは立体陣を投影し、【極彩色の織姫】を使用して紐を作り出した。これで魔力が切れるまで、紐を使える。オレの魔力だと数日残るな、この紐。


「す、すごいですね。ザ、ザルガラくん」

「あん? ぜんぜんすごくねーよ。オマエだって来年くらいには出来るようになる」

 パートナーの子が称賛してくれたが、正直こんなのは学園の生徒ならおいおい出来る。程度が知れるぞ、オマエ。


「おい、それを本番にやったら失格だからな!」

 オレたちの様子を見ていたのか、ワイルデューが注意してきた。


「へーい」

 オレは軽く返事をした。


「まったく、目ざといヤツだぜ。目ぇつけられたか?」

「い、いえ、ポリヘドラさん。ワイルデュー先輩は出自が出自なので、いつもみんなの様子に注意を払っているんです」

 パートナーの子が、ワイルデューをフォローするような事をいった。


「先輩の出自? なんか知ってるのか?」

 そういえばワイルデューの事を、オレは全く知らない。


「え、ええ。悪い意味ではないのですが……」

 彼女は口ごもるが、言えと目で命令する。


「ひゃっ、ひゃい! 先輩はその……元は孤児だったそうで、ドワーフでありながら人間の孤児たちをよく取りまとめたそうなんです」

 大柄なパートナーの身体が跳ね、涙目で答えた。

 なるほどね。まあドワーフという人間から見たら老けた姿に、あの豪快な性格だ。孤児たちのリーダー格には最適だろう。


「へえ……アイツ、孤児だったんだ」

 エンディアンネス魔法学園は相手が孤児であっても、才能があれば奨学金を付けて引っ張ってくる。無能な貴族子息子女への当てつけ……と、よく言われている。

 しかし才能も地位もあるのに、ろくに魔法の技術を磨かず勉学を疎かにする貴族がいるのも事実だ。

 そんなヤツラに発破をかけるため、ワイルデューのような存在は必要なんだろう。孤児救済にもなってるし、人材育成にもなってる。悪くない学園の運営方針だ。

 

 ――――ん?


 オレの脳裏に、生徒会副会長であり、左組団長であるエルフのテューキーという女子生徒の姿が浮かぶ。

 エルフのわりに背が低く、まだ幼く見えるテューキー副会長。


「そういえば……テューキー先輩も……孤児だったような?」

 ぼんやりと記憶だが、そうだったような?

 なんだか、ここんところ孤児に関係があるな、オレ。

 偶然――か?

 



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