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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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ダイアレンズでも見つけられなくて

短いですが、夜にも投稿しますのでご勘弁を。

「才人から叩き込まれた儀典プロトコルもばっちり、古来種の布をつかった礼服もティエの知り合いの仕立て屋が一晩でやってくれました。そしてディータ姫の姿絵。……くっくっくっ。準備万端だな」

 王宮へ参じる3日前の夜。

 オレは薄暗い自室のソファでゆったり座り、小さいキャンパスに描かれたディータ姫の姿を眺め、これぞ悪役という態度で微笑む。

 美しい少女の絵を見て笑うオレ。

 控えめに言ってキモイぞ、オレ。


 緩やかな波をうつ長い髪。目鼻立ちがしっかり整いながらも、見る者に畏れを抱かせる王家らしい美貌。

 白黒ながら陰影と高い技術で、色が付いていると錯覚を起こす絵だ。

 ヨーヨーの知るディータ姫は、2年前の10歳時の姿である。世間から隠れて3年経ち、全身に紋様が浮かんでいる状態だ。

 2年前、ランズマへ療養に訪れたディータ姫は、歳の近いヨーヨーに世話の補助をさせた。近習以外の手を借りた理由は、地元の療養施設に慣れた貴族の手を必要としたからだろう。

 そんなヨーヨーがディータ姫の全身図を、全裸で描こうとしたので慌てて止めた。

 下手をすれば不許可の姿絵でも不敬とされるかもしれないのに、全裸図はアウトだ、完全アウト。

 たぶんアイツはディータ姫の全裸図を持っているだろうが――。

 超法規的措置。

 オレは何も知らない事にしよう。


 こうしてできたのがディータ姫の似顔絵と、略した人体図の裏表に、どんな魔法紋様が浮き出ていたかを描いた図の3枚である。


 ディータ姫の顔確認と紋様の調査。

 ヨーヨーの特技は素晴らしい。

 紋様の正確な魔法陣が読み取れる。姫の身体が高次元化する直前で、一部黒く変色し読み取れないほど潰れているが、それでも貴重な資料だ。

 これを解読してみれば、ディータ姫を助けられるかもしれない。


 ヨーヨーの魔法才能は、この完全記憶に起因している。これほどなら他人の書いた魔法陣を丸写しできる。

 複雑な計算を行って魔法陣を描く方が早いし、魔法の威力も上がるが、これはこれで才能だ。魔胞体陣と魔法陣を見れば、弱いながらも完全コピーできるわけだから。

 すげー才能だぜ、ヨーヨー。

 

 感心しながらディータ姫の紋様を解読していると、壁に吊るされた礼服が、もそもそと動く。


「はぁ……まったく」

 ため息と共に呆れた視線を向けると、礼服の中からタルピーが顔を出した。


『きゃーっ! この服、迷路みたい!』

 タルピーが、オレの礼服をアスレチック代わりにしてやがった。


『ねえねえ、ザルガラさまー。なんでわざわざこんな古い布で、綺麗なお服を作るの?』

「古くても魔法付与のおかげで、簡単には汚れないから綺麗なんだけどな。……わざわざ昔のデザインで作られた服を解きほぐして、その布をつかってまで、王様に会う礼服を作るにはちゃんと意味があるんだよ」

『ほうほう。王様相手は特別なんだね』

「そう、特別な。オレたち魔法使いは、武器や防具、服に宝石から日用品までいろいろな物品に魔法を付与できる。おおざっぱにいえば図形さえ描ければ、新式魔法の付与対象だ」

『へえ、そういう器用な事は、精霊にはできないんだよねぇ』

 腕を拱き、悔しそうに唸るタルピー。


「そうなのか? そういえば精霊が宿った武器ってのは聞くが、精霊が作ったとかそういう由来の武器防具って聞かないな。……それから、この魔法付与は書き換えも限定的にはできるが条件があるが、その説明は後として」

 何事にも例外がある。それが古来種の作った物品だ。


「古来種の作った武器防具に、現代の魔法使いが後から魔法を付与する事はできない。物品を破壊して作り直せばその限りではないが、そうなると古来種の付与した魔法も破壊されちまう」

 新たに魔法を付与できず、書き換えもできないということは、本来の用途にしか使えない。


「例えば、すげぇ炎の剣なら、炎の剣のまま。後から火を飛ばすように改造したり、氷の剣にするなどできないってことだ」


 古来種の布で作られたこの礼服もそうだ。

 快適な着心地と清潔さが保たれ、皺もつかないし丈夫だ。そういう魔法が古来種によってかけられている。

 答えを先に言うならば、「悪意を持った魔法を後から付与できない」という事だ。

 この礼服を着ていくという事は、相手に攻撃の意図がない。攻撃を防御する構えもないという証だ。


「王様にとっちゃ、服から魔法が飛び出たりする心配がないんだよ。古来種の布から作った礼服なら」

『なるほど、なるほど。武器も魔法陣も隠してないよー、って証明なんだね』

「そういう事。さすが上位種だけあって理解力は高いな」

 算数は苦手らしいが。


『ねえねえ、アタイはこの服になら【入れる】よ』

「あ、そうか。上位種を封印できるのは、古来種の作った物品だけ。って、ことはこの布にも――」

 こいつが封印されていたのは古来種が作った武器だ。書き換えが出来ないので鋳潰されるところだったけど。

 

「つか布だから燃えるんじゃねーか?」

『古来種の作ったのがそんなに弱い?』

「そういえば【不燃の衣】って魔法が付与がされてるか。って、オマエは封印されたいのかよ?」

 封印される事に抵抗があるのかと思ったが、自ら入れる主張をしてくるとはどういうつもりだ?


『アタイも王宮に行きたーい!』

「そういう理由かよ!」

『いきたい、いきたい! いきたいのーっ!』

 いきたいダンスを踊りながら、オレの周囲を鬱陶しく回る。

  

「待てよ……。封印されている状態なら、オレのように古来種状態化した目でもないとわからん。【精霊の目(ダイアレンズ)】でも見抜けない……。つまり……」

 タルピーを伏兵にできるってことか。

 すごいアドバンテージだな!


『でも王宮以外で、服の中に入るのは嫌』

「ほんと、オマエはワガママだなっ! 窮屈な白手袋に封印してやるぞ!」

『うん、それでもいいよ!』

 

 ――そういうことになった。


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